愉快な式神達
「部長~、アイテム作成の報告書です」
「飯食ってる時くらいゆっくりさせてくれ」
目の前の人形みたいに小さく、粘土で山を作って手を付け足したような白い物体―――式神から報告書を受け取り不備がないか確認して判子を押す。それを天使に渡すように言いつけて、食事を再開する。ラーメンの麺のつるつるとした感触とまろやかなスープがちょうどいい。が、もう一ヶ月は食べているのだ、そろそろ飽きてきた。というか、何で俺はこうなったんだろうと、軽い現実逃避をする。
◇■◇■◇
「そこで貴方が此処に来た理由になるんだけど、天使ちゃん。ちゃんと説明しなさい」
「ちっ、あーはい。分かりました」
小さく舌打ちした天使に軽くイラつきを憶えながら、耐える。此処で起こると小さく見られるからな。うん。
「貴方は選ばれました。神に、いえ人に」
「いや、どういうことだよ」
「それを説明するんです。黙ってろ、ってなさい」
口悪っ。後、敬語下手っ。
「貴方はあの世界で英雄になり、人々から認められました。そして貴方は願われた。人の身でありながら人に。つまり、貴方は現人神になりましたので、此方に呼ばれました」
「現人神?何だそれ。というか俺は願いを叶えるって聞いたぞ」
「いいから聞け。聞きなさい」
「俺なんかした?お前になんかした?」
何か敵意は向けられて無いけど、悪意はたっぷりなんだけど。
「いいのよ、気にしなくて。その子元々そうだから」
いやニコニコしながら言わないでください。ちゃんと教育してください。
「現人神とは人のみで神になった者のことです。歴史上の人間が崇め奉られたことがあるでしょう。あれです、あれ」
「つまり、有名になりすぎてこの世界に来たんだな」
「そうです。ですが、何の理由も無く呼ぶことは出来ないので、理由として願いを叶えることにしました」
何か微妙だな。何でも叶うのにラーメン食べたいだけって。もっと欲望に走っても良かったな。
「そして此処からが本命です。心して聞きなさい」
「いや、待て待て。その前に1つ良いか?」
「ちっ、......何ですか」
「何で俺はあの世界に居たんだ?」
「さあ?」
は?いやいや、結構真剣な雰囲気だしたよな?え?それをさあ?で済ませるか普通?
「...........何するんですか。結構痛いんですが、体罰ですか、ん?PTAに訴えますよ」
「教育的指導と言え」
つい頭を叩いた俺は間違ってないはず。というか顔が無表情だから全然痛がってそうに見えない。
「それで?何で知らないんだよ。あの声もお前だろ?」
「いえ、普通に知りません。マジマジ。天使ちゃんは嘘つかない」
「それは一応本当よ~。私たちはあの世界しか見てないもの」
天使の口ぶりが軽く腹立つが、女神が言うなら本当なのだろう。というか天使には人をイラつかせる天才なんだろうか。まあ、あの声の件は保留にしておこう。
「で、俺はこの世界で何をすればいい」
◇■◇■◇
「部長~、天使様が呼んでますよ~」
「もう少し待ってろ、って言っとけ!」
現実逃避すら儘なら無いとか。本当に忙しすぎる。これでも最初よりはマシだったりする。天使は仕事しない、社チョーはオタク方面に走り出すし、式神は話を聞かない。地獄だった。
此処での仕事はダンジョン系ファンタジー世界の管理。つまりモンスターを定期的にポップさせたり、ドロップアイテムの作成、確率の調整、バグが生まれないように調節、世界バランスを崩さないために常に見張っておかないといけないから24時間体制だ。
現人神になって人間としての常識が通用しないからといって休み4時間とかマジでふざけてる。本来ならもっと休みを貰えるのだが、上司2人が全く役に立たない為、働くしか無いこの状況。式神が居ることが唯一の救いだった。
式神―――ファンタジー風に言うなら使い魔という奴だ。式とは用いる、つまり従えるという意味であり、神が従える者という意味だ。正確に言うなら天子が仕事をより楽にしようと作り出したのだが、元があの天使なだけに性格が色々と可笑しくなったりしたが、役には立っている。特に―――
「おい、セクハラ何してる」
「やだな~部長、ちょっとマッサージしているだけですよ。ふへへ」
「さっさと仕事しろ」
通称セクハラ、命名部長。老若男女性別姿形現実幻想人物、全てに対してセクハラを仕掛ける式神。仕事をホッポリ出すので容赦なく蹴りを叩き込んで自分の仕事場に戻す。だが、天使はセクハラのことが苦手なので、仕事をしないときはセクハラを押しかける。外道と呼ばれようが仕事をさせる。
現に今も他の式神にセクハラしていたので蹴り飛ばしておいた。
「部長!イケメン美女探してきます!探さないでください!」
「アホな事言ってないで仕事しろモテナイ」
「グハァ!」
通称モテナイ、命名天使。イケメン美女大好きな式神。雑誌を何処からか取り出して、仕事中に読んでいるのでゲンコツを叩き込んで仕事をさせている。天使が、まるでモテナイ奴だな、ペッ。と言ったせいで、モテナイと呼ばれると吐血をする。
トチ狂ったことを言っていたので、足蹴にして放置する。
他にもアレな奴等は居るが特に変なのはこの2人だ。一度まともな式神を見せてもらったから分かるが、一体どんな突然変異だ。あと食堂でご飯を作るのは通称コックの式神だ。あいつも普段はまともだが、たまに変な料理を作る。前に社チョーが倒れたからな、オタクだが神様である女神が、である。何時かラーメンでやられそうで怖い。
歩みを進めると書類が積み重なった机と正反対に綺麗に整った机が見える。後者は勿論俺ので、前者は天使のだ。しかし、何処を見ても天使の姿が見えない。逃げやがった。
「セクハラ」
「はい、此処に」
名を呼ぶだけで目の前に現れるセクハラに心の中で引きながら、命令と褒美を言い渡す。命令は天使を連れ戻すこと。褒美は天使にセクハラしていいこと。
「3分で連れ戻せ」
「御意に」
数秒後、セクハラの嬌声と何かが叩きつけられた音がした。
目の前には天使の姿。目を逸らしたりしないあたり、いい根性してると思う。
「お花を摘みに行ってただけですが」
「嘘付け、俺が飯食いに行ってる時から居なかったじゃねえか」
「証拠、証拠はあるんですか?」
マジでいい根性してやがる。だが、証拠は―――ある!
「セクハラ、コイツは何時から此処に居なかった」
「匂いからすると部長が食事に行った時からです!」
セクハラが匂いで判断したと言った時の天使の顔は無表情だがゴミを見る目だった。俺もそうだ。
「一応言っとくがお前が作り出したんだぞ」
「認めません。断じて認めません」
「セクハラ、帰ってよし!」
「お、お触りは?」
「帰れ」
セクハラは天使が容赦なく蹴り飛ばしたせいで飛んでいった。まあ、同情はしない。
「さあ、仕事してもらうぞ」
「私上司、貴方部下」
「仕事しないやつは誰であろう倍は働かせる主義なんだ、俺」
「......手伝って、ください」
「1人でやれ」
「お昼おごる」
「食う暇が無い」
「「............」」
ジロリと天使を見下す、天使は流石に分が悪いと思って目を逸らしている。もう少しで折れそうな所で、何にもわかってなさそうな社チョーが入って来る。
「あ、この書類終わったわ~」
「社長、手伝ってください」
「嫌よ」
「.........」
流石に社チョーも頑張ったらしくあの量を終わらしていた。その上天使の手伝いなどしたくは無いだろう。だが、甘い。
「社チョー、次の書類です」
「え?でも、もう終わったし......」
「昨日のです。これは今日の分です」
「「.........」」
2人とも目が死んでいるが、関係ない。仕事はしてもらう。
まあ、少しくらいなら手伝っていいかもしれない。そう思った俺は此方に馴染んできたのだろう。悪くは無いと思う。




