女神社長と天使取締り役員
扉を開けた彼の目に映ったのは、芸術品のように綺麗だとしか言いようのない女性。部屋は先程と違い、豪華な装飾の付いた家具などが部屋を彩り、心から美しいと言えるような部屋だ。彼が見惚れていると、部屋で優雅に佇んでいた女性が声を掛ける。
「ようこそ、私が貴方の雇い主です。よろしくね」
うふふ、と彼に笑いかける女性。それを呆然と見ていた彼は気付く。
「雇い主、ですか?」
「あ、あらら?話は聞いてないの?」
「いえ、全く」
「ああ~なるほどね。天使ちゃ~ん、貴方また忘れたわね?」
天使ちゃんと呼ばれた少女は、はて、何のことだろうと言わんばかりに首を傾げる。その様子に女性はため息を一度付き、少女の頭を軽く叩いた。少女は頭を抱え悶絶する。それだけでなく、如何にも高級そうなカーペットの上をゴロゴロと転がる。その様子に女性が慌て始める。あああ、ごめんね!と言いながら少女を抱き起こす。彼がちらりと見えた少女の顔は二ヤリと悪魔ばりのあくどい笑みだった。何となくこの少女の本性が分かった気がする。いや、分かった。
「そいつ笑ってますけど」
「あ、また騙したのね!天使ちゃん酷い!さいてー!」
「言いがかりはヤメテクダサイ」
「おい片言になってんぞ」
先程の少女ではないが頭が痛くなってくる。というか此処何処だよ。
「もう話進めていいですか?」
「ええ、ごめんなさいね。この娘めんどくさがりやでね~」
ええ、知ってます。口に出そうとして少女に睨まれたのでやめとく。というよりも早く説明が欲しい。
「まあ、座って。お茶でも飲みながら説明するわ。天使ちゃんが忘れちゃったからね」
「うぐっ」
少女がダメージを受けているが自業自得だ。無視する。椅子に座って改めて目の前の2人を見る。どちらも見た目と違いあり得ない力を持っている。魔王と同じくらい、否それ以上だ。一体何者なんだ。
「おほん。まずは自己紹介するわね。私はしがない女神よ。そしてこの娘が―――」
「女神専属階級天使です」
「ふざけてんのか」
「待って待って!本当なの!」
「冗談です」
殴られた。少女―――天使がゲラゲラ笑っているのが腹立つ。
◇■◇■◇
「あ~、勇者です」
名前を言おうとしたが、色々とあるので諦めた。元の世界の名前とかもう覚えてないし。あと女神とか天使とか言われても魔王と戦った時点で慣れてるし。
「勇者さんね。ようこそ、神々の世界へ。歓迎するわ」
「はあ、どうも?それで何で俺は此処に呼ばれたんですかね」
それに若返ってるし。記憶はそのままで。
「まあ、順に説明するわ。まず私達のことについて。貴方は神様を信じてるかしら?」
「いや、別に」
無宗教派だったからな。まあ、神頼みはしたことあるけど。
「まあ、貴方の時代の人は皆そんな反応するわよね。でもね、神様はちゃんと居るのよ。例えば、神様助けて~とか、神様お願いします!って思ったことない?」
「偶にならありますね」
受験前とか、宝くじとか。
「そうでしょ。そうすると願われた神はこの世界に生まれるの。八百万の神って聞いたことある?八百万なのにそんなに居ないって思ったりするでしょ?つまりそういうことなの。人が願えば神は生まれる。それこそ制限無しでね」
「でも、それは一時的なものですよね?それからずっと信仰されるわけじゃないのに」
「名前も無い、意味なんか無い、それでも神様は存在するの。私もその中の1人なのよ。1人の人間に願われて生まれた来たから名前も無いの。そして私たちは願いを叶えたら役目を終え、そのまま何もすることがないってことになったの。だから私達神は世界―――それも人の想像から生まれた世界を新しく創ることにしたの」
「せ、世界を創った?」
「神様なんだからその位簡単に出来ちゃうわ。この天使ちゃんも私が作り出したのよ」
「第1号です」
だからドヤ顔するな。まだ出番じゃないぞ。
「此処までは分かったかしら?」
「ええ、一応理解しました。それでその世界をどうしたんですか?」
納得は出来てないけどな。
「人を入れたの」
「......はい?」
「人を入れたの」
「いやそうじゃなくて......」
その分からないみたいな顔やめろ。ダメだ、住んでいる世界が違う。
「いや、神様なんだから人を作ればいいんじゃ......」
「あ、ああ~そういうことね!説明するわ。神は人の生死に干渉できないの」
「神様なのにですか?」
「ううん、神様だからよ。神は人の願いによって生まれたけど、人は神が生み出したわけじゃないの。だから私達神は人の生死に関してだけは干渉出来ないの」
「でも、死を司る神とか神話で居ませんか?」
「確かに居るわ。でもね、そう呼ばれているだけなのよ。本来人とは生を望む生き物。それ故に願いを叶える神様はその願いを反故にすることは出来ないの。だから元の世界から人をテイッ!って送り込んで、そこから文明を築くまで待ってるのよ」
もう何も突っ込まねえ。
「そろそろいい具合だから、管理をしようと思ってね」
「はあ、それで何をするんですか」
「まあ、そこまで難しいものじゃないわ。その世界はね、貴方が転生した世界みたいにゲームチックなの」
確かにあの世界は妙にゲームみたいだった。ステータスとかドロップとかあったからな。
「迷宮ダンジョンとか分かるかしら?あそこのドロップの確立やモンスターのポップとかとにかく大変でね?」
ゲームを作ってる感じか。というかすっごく嫌な予感するんだが、主に管理という言葉に。
「そこで貴方が此処に来た理由になるんだけど―――」
◇■◇■◇
「ああ、面倒くせえ。あ、そこのドロップ率は3%な」
アイアイさーなんてふざけた返しをしてくる相手にデコピンを叩き込んで仕事をさせる。隣でセクハラしてくる奴に蹴りを叩き込んで、仕事場に戻す。イケメン美女の雑誌を読む奴にゲンコツを叩きこむ。その合間に自分の書類を片付ける。隣で書類を押し付けるサボリ魔に肘撃ちを叩き込む。
「社チョー、この書類に判子お願いします」
そういって、漫画にゲームにその他諸々の娯楽品に囲まれたオタク美女に書類を渡しつつ、娯楽品を回収する。
「ああ~今いいところだったのに~」
「仕事してください」
オタク美女―――女神社長をあっさり切り捨てて書類を渡す。
「天使ちゃんに渡してよ~」
「あいつは昨日のノルマが終わって無いので」
「あら~大変ねぇ~」
「社長もです。ちゃんとやってくださいよ?」
「............はい」
大量の書類に燃え尽きてる社長をほっといて、食堂へ向かう。
「おーい、いつもの頼む!」
「分っかりましたー!しっかし好きですねー、ラーメン」
此処の食堂で頼むのは何時もラーメンだから、そう思われても仕方ないのだろう。確かにラーメンは好きだが、毎日毎日食べるほど好きなのではない。なら何故食べるのかと言われれば、
「まあ、そのために此処に居るみたいなものだからな」
今日も、元勇者は株式会社メイキューのために働いています。