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面接?いえ、採用です。

 大昔、魔王と呼ばれる者が存在した。魔王は強大な力と万を超えるモンスターを引き連れて、暴虐の限りを尽くし、人間に絶望を与えた。そして遂には、世界を自分の物にしようとした。

 人々はそれを知り、世界を魔王のものにさせまいと、人間の中でも魔王に対抗出来るような力を持った者を探し出した。選ばれた者は勇者と呼ばれ、魔王の侵略を食い止めてきた。そして、長い長い戦いの末、魔王を封印したのだ。


 そして時は流れ、数百年。魔王が封印を破り、再び世界へその凶悪な牙をむけたのだ。人々はもう一度勇者を探し出した。今度こそ魔王を倒しうる存在を。

 そして、見つかった。それは世界の果て近辺の村に住む少年だった。




 というのが90年くらい前。



 ただの少年が魔王を倒すのに、それこそ長編の本が何冊も読むのと同じほど長い物語があるのだが、簡単にまとめると色々あった。

 初めてスライムを倒した時はこれ以上無いほど喜び、仲間との絆を高めたり、時には喧嘩もした。戦いことが嫌になり逃げ出したくもなった。モンスターの群れから村を救ったり、凶暴なドラゴンと戦ったりした。一国の姫と恋に落ちたり、色々あった。

 そして魔王を倒した。世界を救った彼は英雄となった。




 というのも大体70年前。



 英雄になった彼はそのまま一国の姫と結婚し、子供ができた。そのまま国の騎士団長、しかも王族直属の騎士として働いた。地位的には王と部下からの中間管理職で板ばさみのストレスもあったが、幸せだった。更に数十年後、孫も生まれ、そして―――



 今日、この日、英雄と呼ばれた男のその命が尽きようとしていた。ベッドに力無く横たわり、その命が尽きるのをただ待っていた。周りには子供達や、孫達の姿。彼らを見るたび、彼はああ、幸せだったと思う。

 あと少しで命が燃え尽きるといったところで、走馬灯のように頭によぎるのは勇者になる前の頃。彼がこの世界で辿ってきた軌跡。



◇■◇■◇



 彼はただの村人ではなかった。彼には現代社会の記憶がある。俗に言う転生者というやつだ。もっと細かく言うのなら、彼は死んでから転生したのではない。ある声が聞こえたのだ。


 ただのサラリーマンであった彼は中間管理職という板ばさみにストレスを感じていた。家に帰ったら速攻で布団に飛び込もうと帰路につきながら考えていると、ふと声が聞こえた。


『貴方は選ばれた』


「......は?」


 一応弁明しておくが、別に彼はストレスのせいで幻聴が聞こえているわけではないし、やばい何かに手を出しているわけでもない。周りには誰もいないし、物音すらない。

 言葉の意味を考える間もなく、彼の視界は変わった。コンクリで出来た世界が土と草、全く人の手が入ってない世界へと変わったのだ。ただの一般人である彼の思考は完全に停止した。それに拍車をかけるように時は進む。


「貴方が勇者様、なのですね......」


「......え?」


 この世界に来た時点で、何故かこの世界としての知識が頭の中にあるし、勇者という存在がどんな存在かも知っている。だかこそ、


「俺が勇者......?」


 これが知らぬ物などいない英雄の始まりである。本人は自分が英雄になるなど微塵も思っていなかったが。

 そもそも、ただのサラリーマンだった彼に剣を持たせた所でどうにかなる問題ではなく、初めての戦闘で最弱と呼ばれるスライムに辛勝したのだ。ボロボロになりながらも手にした勝利に歓喜の涙すら浮かべたほどだ。そこから何らかの補正が掛かったように強くなっていき、遂には魔王を倒しまでに至った。



◇■◇■◇



 そうだ、自分はこうやってこの世界を生きてきたのだと思うと少し笑えてくる。その様子に皆が怪訝そうな顔で見てくる。この事は自分の立場を自覚したときに墓場まで持っていこうと決めたのだ。後もう少しで達成出来そうだというのは笑えないが。


 遺言も残したし、この世界には心残りは無い。ただ―――


(ただ、最後に元の世界でラーメン食べたかった)


 元の世界に残してきた心残り。死ぬ前にもう一度食べてみたかったと思った。おそらく中世ヨーロッパの時代にそんなものは無く、決して叶うはずのない願いだったのだが、


『その願い。叶えましょう』


(......は?)


 そうして彼はこの世去った。何処かで聞いたような声に導かれて。



◇■◇■◇



 次に彼が目覚めたのは何処かで聞いたような声をする少女の目の前だった。


「おはようございます」


「......は?」


 此処まで彼が驚愕したのは転生したときと急に勇者と呼ばれたとき以来である。


「......あんた誰?」


「いきなりですが、貴方にはある部署の新たな部長になってもらいます」


「いやだから、あんた―――」


「では、着いて来てください」


「お願い話聞いて」


 少女は驚愕で固まっている彼をおいて、勝手に進んでいく。しかし彼も伊達に勇者と呼ばれていたわけでなく、すぐさま自分を持ち直した。彼と少女が居た場所は一面白で塗りつぶされた部屋。しかも少女は服は白のワンピース、白髪、白い肌とぼんやり見ると背景と同化して見える。そして、最も見るべきは彼女の背中と頭上。純白の羽と光を放ち頭上に一定の間隔で浮いている輪。そして何より―――


(何だこの威圧感)


 彼はその昔ドラゴンと向い合った時に感じた力と同じレベルの力を目の前の少女は持っているのを感じた。纏っている雰囲気そのものが強者だという証拠。この少女が転生した原因だろうし、普通だとは思っていないがその見た目で此処までの力を持っているとなると異常だ。警戒を高める彼に対し少女は何かをする素振りは見えない。何の動きも見せない少女に警戒を薄めてもいいのじゃないかと思い始めた時、少女が口を開いた。


「これから会う御方には粗相の無いように」


「いや、だから一体どういうことなのか説明してくれよ......」


「此処です」


「いや、聞けよ」


 少女は彼の言う事を気にも留めず、急に立ち止まり虚空をノックする。すると目の前に扉が現れる。彼は声には出さず驚いたが、昔に似たようなトラップを思い出して納得する。ちなみにそのトラップは大量の扉の中に1つだけ先に進める扉があるもので、本物は進んできた扉の横に幻影で隠されていたものだった。


「入ってよろしいようです」


 そうして彼は扉を開けた。

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