次期女帝 Ⅰ 目指せアイドル
ある国の街で少女が歌っていた。
けれも歌を誰もきかない。
ただ一人、黒の王子がそれをきく。
少女の歌はやがて知れ渡り、王子たちは少女に求婚した。
妬む貴族の娘、少女に無実の罪をきせる。
歌の国をおわれた少女、貴族の娘はこう叫ぶ。
黒の王子は私のものだ!
けれどなぜ、彼の姿はみえやしない。
町の男はこういった。
黒の王子は少女を追いかけ、歌の国を捨てたのさ。
貴族の娘は悪魔のような白の王子と結婚した。
やがて歌の国は歌わずの帝国と歌う王国になったのさ。
■■
太古の昔から歌で魔力が作られて来た。
人々は魔力を吸って生きている。
そして数1000年に一人の逸材・伝説と呼ばれる歌姫がいた。
彼女の名はスカーレッド=ベリエ。15年前に引退した現在はヴァーチェ帝国の女帝をやっている。
そんな顔も知らない雲の上のような人が私の母親らしいことを最近知った。
兄マゼンドールと、父親違いの兄ノアールと私は母であり女帝であるスカーレッドの葬儀の為に集まった。
「ピンキー、肖像画見たか?」
初めて顔を合わせたノアールに問われる。彼の話では父親がスカーレッドと恋仲で両親の反対から別れたらしい。
その後に私達が生まれたけど、女帝の子だと知られれば暗殺されてしまう事を危惧して田舎で知人に預けたという。
「とてもきれいな人だった」
あんな絵に描いたような美女が自分を生んだ人だとは思えない。
ただ唯一、桃色の髪は母と父由来のものなんだろうと感じた。
「あの歌姫ヴラウが鎮魂の儀式をするらしい」
「おおっ一番弟子に弔われれば陛下も喜ばれる!」
ヴラウといえば第2のスカーレッドと呼ばれる最大人気の歌姫だ。
各地のオペラハウスで公演し、すごく忙しい筈だ。
だが一国帝王の葬儀ともなれば、彼女がやるのは当然といってもいい。
「おい見ろよ、ヴラウだ」
参列者のヒソヒソ声がする。
歌姫は地方生まれで、ありふれたような茶の髪をしているが、そこらの田舎娘とは違う威厳が彼女にはある。
「陛下の早年たる崩御に遅れ馳せながら、安らかなる眠りを――」
歌姫の声に合わせ、棺が城外へ運び出された。
「さて移動するか」
ほどなくして、私達は城から出ようとした。
「きゃああああ」
悲鳴があがり、何事かと思えば真白な衣服の男が貴族の中年女性を人質にとっていた。
「歌姫ヴラウ、お前がスカーレッドの娘だな」
「きゃああああたすけてえええ」
「え?」
男がヴラウに何かを話しているようだが悲鳴がうるさくて聞こえない。
「だまってろ!!そこの小娘、代わりに人質になれ」
私は中年女性の代わりに人質となる。
「わ、わかりました」
「おいピンキー!」
こわいけどあの悲鳴を何度も聞くのは耐えられない。
「この!よくも妻を!」
中年女性の夫が男に重そうな椅子を投げつける。しかしそれはあっさり交わされ、私はその場に投げられた。
「危ない!」
ヴラウの声がする。ガンという音、痛みはなくて私は助かった。
「ヴラウ!」
ヴラウに駆け寄るオレンジ髪の男、彼は良く私につっかかる令嬢パンプルムースの兄だ。
「ちっ……失敗だ」
白の服、おそらくアクノーツ王国の男は退散した。
「うう……」
「お母様……」
パンプルムースが先ほどの中年女性にかけよっていた。
「ヴラウ……目を覚ましてくれ!!」
彼女は私をかばい病院に運ばれた。
彼女になにかあったら、たくさんのファンが悲しむというのに、なぜ会ったこともない私を助けてくれたのだろう。
「大変でしたわね」
「パンプルムースが元気なく話しかけてくるなんて珍しいね」
「ま、失礼ね!ライバルに元気がなく張り合いがないから励ましてあげてさしあげたのよ!」
一言余計だから彼女には貴族同士すら仲の良い友達ができないのだろう。
「ピンキー!」
「ソーダ……」
私は親友の抱擁に安心して涙が流れた。
「みつけたぞピンキーだな!」
パンプルムースの兄オーレンディンズが私を睨み付けた。
「ヴラウはお前をかばったせいで……!」
「お兄様!ヴラウは自分から彼女をかばったのよ!」
パンプルムースが必死になだめようとする。
「ヴラウが言ったならわかるがな」
「ましてや彼女の恋人でもない貴様には関係ないだろ」
ノアールとマゼンドールがオーレンディンズを止める。
「ヴラウが話せないから代わりに……」
「アンタは目の前に困ったやつがいたら誰だろうと助けるようなヴラウが、そんな真似をして喜ぶと思うのかよ」
マゼンドールの言葉に理解していてもオーレンディンズは苛立ちを抑えられないようだ。
「貴方は謝罪がほしいんですか?」
「違う……」
時間を巻き戻すことはできないし、彼女の代わりに死ねと外野に言われるのは納得がいかない。
「ヴラウさんに庇われた事を甘んじるつもりはありません。彼女に受けた恩義は何らかで返します」
「……勝手にしろ」
オーレンディンズは一人で出ていく。パンプルムースは後を追った。
「甘んじる。なんて難しい言葉知ってたんだな、驚いたぜ」
マゼンドールが馬鹿にする。
「さすが未来の女帝よね」
「へ?」
ソーダは私をスカーレッドの娘だといつ知ったか、それよりも未来の女帝って!?
「それはさておき、兄さんがケーキを焼いたの!食べましょ」
ソーダが手を引いて、何故かマゼンドールとノアールまでケーキを食べにいく事になった。