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ジェラシー1話


近所には変わり者の発明家がいるという。

性別や年齢不明、滅多に姿を表さないらしい。

いつの間にか家が建っていたそうだ。

そんな不思議な人が何故、平凡な街へやってきたのだろう。


「ごめんください」


そして私は今、噂の発明家宅を訪ねている。

一週間ほど前の夜、たまたま道でぶつかった人が発明家の元いた仕事場の上司だったから。

その上司は外国人で、荷物を渡すように頼まれた。


「……一週間前から私はここにいましたが、貴方が外出をした形跡はないので中に確実に居ますよね?」


ストーカーチックな発言をすれば出てくるに違いないと思った。


「はあ」


よく考えてみたら相手は変わり者の発明家。

ストーカーされて怯えるどころか、むしろ喜んでいるかもしれない。

がっくり肩を落としていると、玄関付近からバタっと人が倒れる音がした。


「やっぱりいたんですね」


返事はなく、気絶しているのだろう。


「失礼します!」


発明家の庭の敷地は雷親父とは違う意味で怖い。トラップとか仕掛けられていそうだ。

ダッシュで玄関を開けて、入ってみると白衣の男が倒れていた。


「大丈夫ですか!?」


この男が発明家と考えていいだろう。

なぜ倒れているのか、取り合えず息はある。


「電話……」


私は最新の電化製品、特にAI搭載系を触ると具合が悪くなるので携帯は持っていない。


「うーん……」


発明家は目を開けて、私を見ている。睫毛が長く、意外にも綺麗な顔立ちだ。


「あーよかった。気がつきましたか?」


発明家は眼鏡をかけて起き上がる。


「ああ、君はどうしてここに……」


トラップが怖くてダッシュで入ったなんて言えない。


「私が塀の前で立っていると音がして、入ってみたら貴方が倒れていました」

「トラップを回避するなんて……いや、発明が失敗したのか」


私は荷物を置いたし帰ろう。


「それでは、さようなら」


ペコリと頭を下げて、玄関から出る。

その後に宅配の青年がすれ違い発明家の庭に入ると、ロープのような侵入者捕縛用装置が発動した。


「そんなシンプルで回避不可なトラップなんて……」


私が入ったときは何もなかったのに、なぜ今更になって――


「きゃあああ通り魔よ!」


近所のおばさんが叫ぶと、私に向かって刃物を持った男が走ってくる。

逃げなくちゃいけないのに足が鉛のように重くて動けない。


「……危ない!」


気がつくと私は助けられていた。


「発明家さん!?」


彼は私の手を引いて通り魔の刃から避けさせたようだ。


「トラップを回避したかと思えば通り魔に襲われ、君は運が良いのか悪いのか……」


通り魔は偶々通りかかったラグビー部の男子に取り押さえられた後に警察に連行された。


「あ、ありがとうございます!」


刃物を持った通り魔からかばうなんて、親切なんてレベルじゃない。

変な発明家とか思ったりして申し訳なくなった。


「ちょっとアンタ!」


突然、黒いマントの少女が現れた。


「……余計なことしてんじゃないわよ!」


発明家を睨み付けてオノを向ける。


「なんだ君は」


彼は少女に恐れるでも苛立つでも無く、ただ意味がわからなそうだ。


「私は死神、そこの小娘を狩りに来た」


少女は私を指差して、オノを地面にガンと叩きつけた。


「あの、発明家さん」

「ヴェール・ヴォーだ。君はなんという?」

「レミリム・レビルです」


名前を教えられ、私は咄嗟に名乗る。

そんな事してる場合じゃないというのにだ。


「死神とやら、非科学的な発言は卒業する年ではないか?」

「非科学的とかいうなら見た目は普通の少女の私がオノを持ち上げていることはどう説明するのよ」


――ついていけない会話だ。


「あの、私帰ってもいいですか?」

「アンタを殺に来たんだからダメに決まってるでしょ!?」


死神はなぜか私を殺そうと必死だ。

じゃあ漫才をしてないで今すぐにオノを振りかざせばいいのでは?


「さようなら。殺すと言われて待つ馬鹿はいません」

「残念ながらアンタは後一時間で死ぬ運命なのよ!」


死神の女はオノを抱えて飛んでいった。


「オノを持ったまま空を飛んだだと!?」


発明家は科学で解明できない事象にショックを受けている。


「……君はこれからどうするんだ」

「いや、どうもしないです」


一時間後に何が起きるかなんてわからない。

死神の言うことが本当なら家にいても外にいても変わらない。


「おーい!」

「レミリム~」


友人のナーリアとアクトだ。二人と会うのは中学卒業以来になる。


「誰?」

「発明家さん」

「へー」


二人はこれからクラスメイトとカラオケらしい。


「君はいかないのか」

「はい、二人の学校のクラスメイトがくるから私がいくのは違うかなって」


発明家はそれ以上は聞かなかった。


「いつまでもここにいては、貴重な一時間を無駄にするぞ」

「……家にいたくないので」


私の幼い頃に両親が他界、親戚の家に住んでいた。

従姉は優しくて意地悪をされることなく義務教育まで面倒を見てもらった。

ある日、従姉のクラスメイトが家に尋ねて来る。

しかしその日、従姉が失踪した。


「それ以来、気まずくて……」

「だから一時間後に死んでも別に構わないと?」


発明家の問いに反論する言葉は出なかった。


「……?」


いま発明家の後ろからキラキラ光るものがあった。


「あの後ろの木のあたりに誰かがいたんですが」

「君を狙うスナイパーか?」


そんなわけがないと笑い飛ばしていると、手を何かが掠めた。


「チッ……」

「貴方は誰?」


さっきの彼女と同じような衣服、まさかあの死神の仲間?


「オレは死神、名をトエル・トーン。先ほどのイエール・イビルを捕まえに来た」

「つまり貴方は私を殺そうとした死神を捕まえにきた死神?」


死神トエルは怪訝そうに私の顔を眺める。


「どうやらお前は殺戮対象ではないらしい。既に人の魂が無い」


残念そうに目を閉じて私に手を合わせた。


「え、私が既に死んでる?」

「なるほど、だからトラップを回避したのか」


発明家は納得したように手をポンと叩いた。


「いやいや、納得しないでください」


私はちゃんと足もあるのに変なこと言わないでほしい。


「一先ずやつを見つけないとあの世に帰還できない」

「なぜだ?」


発明家はまた現実を見ない変な奴だと言いたげに半信半疑でたずねている。


「我々は新人のため、二人一組で狩りをする。帰還には狩った魂が二人分居るんだ」


それは面倒だが確実に仕事させるシステム。


「というわけでしばらく家に住まわせろ眼鏡」

「なにがというわけでなんだ?」


発明家は真顔でキレている。


「若い女の家にオレが住めるわけないだろう?」

「それはそうだが、野宿をするという選択肢はないのか」


言っていることは間違っていない。


「貴様どうせ独り身暮らしだろ。異世界の住人が居候するには丁度いい物件じゃないか、今なら少年漫画の主人公になれるぞ」


トエルはコンビニの袋から漫画雑誌を取り出した。


「経歴からすると私は主人公に倒されるラスボスなんだが……」


雑誌を読みながら発明家はボソりと呟いた。


「あの、死神の子が私はもうすぐ死ぬって言ってたんですが」

「そろそろ一時間経ったんじゃないか?」


発明家が時計を眺めてそう言った。


「そうなんですか?」


――と言われてもいつから数えて一時間なのかわからない。


「それより先程撃たれていたが怪我はないのか?」

「はい、腕を掠めただけなので」


傷口を見ても浅いのか血は出ていない。

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