第二話
ウラニアとガヌメデスは、村の中を颯爽と駆け抜けた。道行く人が皆、何事かと顔をしかめているが、ガヌメデスは気にしていないようだった。中心部を抜けて住宅街の裏路地をすり抜け、もう少しで村から出る、というそのとき、オモルフィに見つかってしまった。
久しぶりに見た彼女は、やはり妖艶な魅力を振りまいていた。オモルフィは一瞬で、馬に乗るのがガヌメデスとウラニアだとわかったようだ。オモルフィの瞳が恐ろしい光を放っていたように見えたが、馬に乗った二人は彼女と会話を交わす間もなく、オモルフィの前を過ぎ去った。もっとも、そこにいたのがオモルフィであろうとなかろうと、ガヌメデスには村人を気に掛けるような余裕はなかった。
そうして、ハイマットをあっという間に駆け抜けても速度を緩めることなく、二人は進んでいった。馬に揺られながらウラニアは何度も、この突然の旅の理由を聞こうと試みた。しかし、ガヌメデスの表情はいつになく固い。それに、抱えられるように馬に乗せられているからには、無駄に動いて迷惑をかけるわけにもいかなかった。
そのまま丸一日走り続けて、いくつも街や村を通り過ぎ、漸く馬を休ませられるほど大きな街まで来た。厩に馬をつないで休ませて、二人はつかの間の休息をとるため、一際大きな宿を選んで門を潜った。
「部屋はあるか」
ぶっきらぼうに、ガヌメデスは騎士の紋章を宿屋に見せた。ムーサ王国では、騎士は紋章を見せることにより身分を証明できる。公務であれば、紋章があるだけで、あらゆる費用が公費として落とされるのだ。ここでガヌメデスが紋章を見せたということは、ウラニアが連れていかれるのは仕事のためだ、ということになる。勿論個人的な旅ではないとわかってはいたが、何故か残念がる自分にウラニアは呆れた。
(家族には、国王の勅命だと言っていたらしいし……まさか、国王に会うなんてことはないだろうけど)
「ウラニア……―――――……は、嫌だろう?」
悶々と考えすぎて、傍で話すガヌメデスの話はウラニアに届いていない。こんな状況なのに、もしかすると、ガヌメデスが自分に想いを寄せてくれていたのかも…と考えてしまうウラニアは、自分の愚かさに嫌気がさす。ウラニアは、邪念を振り払うように頭を左右に大きく振った。
「―――――ウラニアが構わないと言うなら、いいだろう」
「え?」
漸く、ウラニアの耳にガヌメデスの言葉が入ってきた時には、もう遅かった。
宿屋の奥の階段へ向かうガヌメデスの後をついていくと、少し狭い部屋に案内される。狭い部屋にしては広いベッドがひとつ。ソファはなく、小さな一人掛け用の椅子があるだけだが、どうやら風呂はついているらしい。
やっと休めると思うと、ウラニアは気が抜けた。その背後で、扉が閉まる音がする。ガヌメデスは出て行ったのだろう。ウラニアは先ほど聞いていなかった話を聞かなければと、ガヌメデスを呼び止めるために振り向いた。
しかしそこには、ガヌメデスがいた。ウラニアが案内された部屋に、彼は留まっていたのだ。
「あれ?」
「ん、どうした?」
不思議そうなウラニアに、もっと不思議そうにガヌメデスが応える。しばらく見つめ合って、ウラニアの頭は、一つの結論を導き出した。もっとも、多少…いや、かなりの願望が練りこまれていたのかもしれないが。
「同じ部屋…ですか?」
真ん丸な目を開いて、ウラニアは首を傾げた。ガヌメデスは、もうため息をついていた。
「先ほど、確認しただろう。一部屋しか空きがないが、私と同じ部屋ではウラニアは嫌だろう、と」
妄想が現実になってしまうとは、誰が想像できただろう。困ったようにガヌメデスは頭を抱える。
「嫌か、と聞いたら、首を横に振ったから………構わないものだとばかり……」
それは違う。だが、そう思われても仕方ないし、間違った解釈ではないのは事実だ。ウラニアは、夢が幻にならないうちに、慌てて話を続けた。
「構いませんっ! 私は全く、構わないんですけど!」
思わず、ウラニアはガヌメデスの袖を握っていた。まるで行かないで、とでも言っているようだ。恥ずかしいが、今のウラニアは少々必死だ。
「ガヌメデス様は、ご迷惑ではないですか」
上目遣いのウラニアに、ガヌメデスは少したじろいだ。だが、彼にウラニアをどうこうしようという気はない。少なくとも、今は。ガヌメデスはいつものように微笑むと、ウラニアの頭を撫でた。ウラニアが握っている腕のほうは、そのままにした。
「今更、迷惑などということはないよ。私こそ、理由も言わず攫うように連れてきてしまったから、きちんと説明させてほしいんだ。先に湯を浴びてきなさい。それから話そう」
ほっとしたウラニアは、慌てて手を放すと、飛び込むように風呂場へと姿を消した。攫ってくれたらどんんなに嬉しいか、なんて、口には出せないけれど。
風呂場へ走りこむ少女の姿を見送って、ガヌメデスは椅子に深く腰掛けた。
(大丈夫、あと数日………これは、任務だ、俺は今仕事中だ……)
言い聞かせるガヌメデスは、なんと自分が情けないかと落ち込んだ。あんな少女に、こんな恋心を抱いてしまうなんて。絶対に知られるわけにはいかない。ましてや、今は国王からの勅命を遂行中だ。私情を挟むなど、もってのほかである―――――はず。なのに、一部屋しか開いていないと聞いたとき、ウラニアが話を聞いていないと気づいて、わざと小さな声で囁いてしまった。ウラニアが首を振ったのは驚いたが、そこで顔が綻ぶのは我慢できたはずだ。
(いつの間にか………こんなに夢中になってしまうとは)
幼いウラニア。何年もかかって、漸く近づいた少女は、可憐な聖女のように成長した。こんなに歳が離れているのに、彼女の魅力はガヌメデスを煽って仕方ない。ガヌメデスは、ほうっと大きく息を吐いた。邪な想いも一緒に吐き出して、彼は思い切り伸びをした。おもむろに立ち上がると、北の空へ向いて膝をついた。両手を組み合わせ、瞼を閉じて俯く。
「神よ、信心深き聖女ウラニアを守り給え。神に身を捧げる聖女ウラニアの行く先に幸いあれ」
何年も前から毎日の日課になってしまった祈りを終え、実にゆっくりと目を開けた。『どうせなら彼女の心を我が手に、という祈りも加えよう』という誘惑との闘いに勝利するのも、日課になってしまったようだ。
ウラニアの後に湯浴みをしたガヌメデスは、ウラニアにベッドへ腰掛けるように促した。自分と同じ匂いをさせて、湯浴みのほてりに顔を赤らめるガヌメデスに逆らえず、ウラニアはおとなしく従った。ガヌメデスが椅子に座ると、狭い部屋だから、膝と膝の距離が近い。ほんの少し手を伸ばせば触れてしまいそうで、直視できない。視線を彷徨わせるウラニアを知ってか知らずか、ガヌメデスは話を始めた。
「今回ウラニアを連れてきたのは、国王の勅命だからだ」
彼の膝に、組まれた両手がそっと置かれている。繊細なのにごつごつした指が、ウラニアの膝に触れそうで触れない。宿についてから、ウラニアはガヌメデスのことばかり考えてしまう。こんなに長い時間一緒にいたことはなかったからだろうか。免疫がまだできていないのだと思いながら、ガヌメデスの話に耳を傾ける努力に集中した。
「今朝、国王専用の伝書鳩で、報せが来た。国王には、亡き王妃との間に一人、王女がいるのは知っているだろう」
「はい。エラト姫様のことですよね。ご病気で外に出られず、お城の方ですら、一度もお姿を見たことはないと聞いています」
「そうだ。私も騎士の訓練中は王都にいたが、王女様にお会いしたことはない」
そう言って、ガヌメデスはくしゃくしゃになった紙を差し出してきた。何も言わず受け取ると、そこには乱雑な字で『王女危篤、至急、少女と共に戻れ』とだけ書かれていた。
「これは……」
ウラニアには、よくわからなかった。王女が危篤ですぐ戻れ、というのは理解できても、何故少女と共に、なのか。それに少女というだけで、どうしてウラニアが連れていかれることになったのだろう。村にいる少女なら、誰でもよかったのだろうか。
自分が生贄に選ばれてしまった気がして、急に背筋が凍る。そもそも、王女が危篤だから呼び戻されるということは、ガヌメデスは王女と深い関わりがあるのだろうか。複雑な思いが巡って、頭痛がしてきた。
「私が騎士になって、初めて配属されたのがハイマットだ。だがハイマットへ向けて旅立つ前に、公務とは別に、国王から勅命を戴いた。それが、ウラニア、君を守ることだった」
「え……私を…?」
怪訝そうに、ウラニアはガヌメデスを覗き込む。彼は視線を逸らさず、真っ直ぐウラニアを見据えている。
「そうだ。国王は多くを教えてはくださらない。しかし、ウラニアはムーサ王国にとって重要な人物だと言っていた。私はハイマット配属の騎士としてだけでなく、密命でウラニアの護衛も仕事としていた」
何故ウラニアなのか、それはわからないとガヌメデスは続けた。王女が危篤だとウラニアが必要になる理由など、詳しいことは国王しか知らないのだと言う。
本当に生贄である可能性が高い気もする。でも何よりウラニアの心を抉ったのは、ガヌメデスがウラニアを気にかけてくれていたのは、仕事のためだった、ということだ。仲良くしてくれていたのはすべて、ウラニアを守りやすくなるようにしていただけなのだろう。それが何よりも辛くて、泣きそうだった。馬で駆けていたときは雲一つない青空だったのに、今は窓を打ち付ける雨の音が、やけに耳に障る。
「ウラニア」
俯いて何も言わないウラニアに、ガヌメデスは声をかけた。その声が優しく甘く響いて、ウラニアは余計に顔を上げられなくなった。大丈夫、涙は出ていない。しかし、自分の顔が耳まで赤くなるのがわかる。ガヌメデスの優しさは、ウラニア個人にではなく、仕事上の警護対象者に対するものだとわかったはずなのに、胸が高鳴るのを抑えられない。自分がここまで愚かだったのかと、ウラニアは自分を心で罵った。
「ウラニア……聞いてほしい」
少し切羽詰まったような声のガヌメデスに、漸くウラニアは顔を上げた。そこには思ったより近い距離で、ガヌメデスの顔があった。アッシュグレーの瞳に、ウラニアだけを映している。そのまま彼はウラニアの両手を握りしめ、額と額をくっつけた。突然の出来事に、ウラニアは抵抗も疑問もない。ただ彼の熱い吐息がかかる度に、自分の熱も上がっていくのを感じる。
「国王は、君にひどいことはしないはずだ。万が一、何かあったとしても、必ず私が君を守る。だから恐れず、信じてほしい」
「……………はい」
小さく呟くのが、ウラニアには精いっぱいだった。そんなことを言われて、嬉しくないはずがない。それがたとえ、仕事だから守る、という意味だったとしても。
窓を打ち付ける雨の音が遠ざかっても、ガヌメデスはウラニアから離れなかった。それはウラニアには随分長い時間に感じられたが、本当は短かったのかもしれない。時間の感覚を失うほど、ウラニアはガヌメデス以外のことを考えられなくなっていた。仕事だから仕方なく、ウラニアと一緒にいてくれるのだとしても、こうしてガヌメデスを独り占めできているのは幸せだった。生贄だと思い込んで怖くなったが、今は幸せな気持ちのほうが圧倒的に勝っている。
漸くガヌメデスの額が離れ、その吐息を感じられない程度に距離ができた。ふと見れば、ガヌメデスの瞳がウラニアを捕らえて離さない。熱を帯びた瞳に閉じ込められ、身動きができない。だが次に握られていた手を離され、ガヌメデスが瞳を伏せたことで、ウラニアは長い長い拘束から解かれた。
「すまなかった、もう休もう。ウラニアはベッドを使いなさい」
ガヌメデスは立ち上がると、椅子を壁際に置きなおした。ウラニアは、慌てて立ち上がる。
「だ、駄目です! ガヌメデス様がベッドをお使いください!」
「私は騎士だ。ベッドで寝ないことには慣れているよ」
「でも……それじゃあ、一緒にベッドを使いましょう?」
ウラニアの提案に、ガヌメデスは動きを止めた。この無垢な少女は、ガヌメデスの苦労に気付かないらしい。手を握り、額をつけてしまって、それ以上動かないように自制するのが、どれだけ心苦しかったことか。彼女から体を離すのが、どれだけ身を裂かれる思いだったか。
「ウラニア、それは………良くない」
漸く絞り出せた否定の言葉に、ガヌメデスは自分で自分を褒めた。しかし、ウラニアは諦めない。
「私は構いません。ベッドは少し広いし、私は身体が小さいから、平気です。それともガヌメデス様は、私と同じベッドでは眠れませんか」
眠れるわけがない……そう思ったが、この少女は全く譲る気はないらしい。ガヌメデスは自分の理性を信じて、ため息をひとつ吐いた。
二人は、背中合わせでベッドに横になった。ウラニアは背中が熱く感じて、眠れないのではないかと心配したが、疲れていたのだろう、すぐに意識を手放した。一方でガヌメデスは、眠ることが一番、自分の理性にとって手助けになるとわかっていたが、なかなか眠れずにいた。だが、背後から聞こえる小さな寝息に、なんだか脱力してしまった。純粋に自分を心配して、疑うことを知らない少女は、王都へ連れていく理由を話したら小刻みに震えていたというのに、今はすっかり夢の中のようだ。
馬に乗るのも初めてだっただろうに、丸一日走っても文句も言わず、ガヌメデスに体を預けていた。緊張が解けて眠れたのならよかったと、ガヌメデスはホッとした。明日はまた長く走り続けなければいけない。まだ十八になったばかりの少女には酷な旅だが、国王の勅命に背くこともできない。
本音を言えば、王都へ連れていきたくなどないのだ。国王が何を考えているかはわからないが、それはおそらく、ウラニアにとって幸せなことではないだろう。危篤という王女だって、城の中で誰も見たことがないというのは怪しい。もちろん、世話をする者は目にしているはずだが、生まれてからずっと臥せっているのだ、その存在自体が怪しまれても不思議ではない。
「俺が………守る」
ぼそりと呟いた声は、暗い部屋の中で消えていく。国王が相手であろうと、絶対に守りぬくと誓い、ガヌメデスも夢の中へと意識を手放した。
まだ日が昇りきる前に、二人は宿を出た。雲は空を覆っているが、雲の切れ目から青空も覗いている。ガヌメデスの話では、次の街まで少し距離があるようだった。急がないと野宿になるという。だが、昨晩の雨で地面がぬかるみ、馬も思うように走れないようだった。何度も立ち止まり、馬を引いて歩くこともあった。そんな時でもウラニアは愚痴をこぼさず、なんとかガヌメデスの力になろうと必死だった。
それでも、はるか遠くに街の明かりが見えてきたころには、もうすっかり暗闇に包まれてしまっていた。このまま進むのは危険だと判断したガヌメデスは、旅人用の小さな小屋を見つけ、そこで一晩を明かすことを提案した。もちろん、ウラニアは嫌とは言わなかった。
小屋にはベッドのようなものはなく、幾つかの椅子とベンチが乱雑に置かれているだけだった。誰かが暖をとったのか、小屋の中心には焚き火の跡が残っている。外で薪になりそうな枝を適当に拾い集め、ガヌメデスは慣れた手つきで火を付けた。火が付くと少し、ウラニアはホッとしてため息をついた。それを見て、ガヌメデスは申し訳なさそうに声をかけた。
「すまない、こんな所で」
「いいえ、私は何処でも大丈夫です。ガヌメデス様こそ、お疲れではないですか?」
優しく微笑むウラニアを、ベンチに腰掛けるように促して、ガヌメデスは自分の頬も緩めた。
「私は慣れている。ウラニアはこんな旅なんて初めてだろう?無理をしないで、疲れたらそう言ってくれ」
確かに、ウラニアはハイマットから外に出るのは初めてだった。しかし、外の景色や空気を楽しむ余裕はまだなく、馬から落ちないよう、ガヌメデスに迷惑をかけないよう、しがみつくのに必死だった。今思えば、もう少し楽しんでおけばよかったとも思う。ガヌメデスにそう伝えると、彼は驚いたように目を見開いた後、大きな声で笑った。
「ウラニア、君は………強いな」
ひとしきり笑った後で、優しい声でガヌメデスは言った。褒められたのが嬉しくて、ウラニアは満面の笑みを浮かべた。
「ガヌメデス様が一緒にいてくれるから、私は強くいられるんです。勅命を受けたのが、ガヌメデス様で本当によかった」
「そうか? そもそも勅命などなければ、こんなところまで来なくて済んだだろうに」
少し頬を染めながら、不思議そうに首を傾げる騎士の青年に、ウラニアは困ったように笑う。
「私、ずっと特別な存在になりたかったんです。普通の女の子じゃなく、特別な……何かに。だから、そんなに困ってません。今だって、ガヌメデス様を独り占めできて、嬉しいくらいです。不謹慎ですよね」
ガヌメデスは一気に顔を赤らめ、口元を手で覆った。こんな締まりのない顔を見られるわけにはいかない。まったくこの少女は、こんな時にとんだ爆弾を投下してくれる。にやける口に力を込めて、ガヌメデスはウラニアの頭を撫でた。
「ウラニアが無事に家に帰れるまで、私がずっと傍で守ってやる。だからもう寝なさい」
今度はウラニアが、顔を赤らめる番だった。
隣のベンチで体を丸めて眠る少女を、ガヌメデスはぼんやり眺めていた。彼女は、ガヌメデスのことをどう思っているのか、そればかり考えてしまう。ハイマットにいるときは、大勢の騎士の中の一人としてしか見られていないものだと思っていた。ガヌメデスも、最初は警護対象の少女としてしか見ていなかったのだ。
しかし彼女の、ほかの人には見せない繊細さや儚さに気づいたとき、もっと知りたいと思ってしまった。いなくなったウラニアを探して、見つけられたときは嬉しくなった。一緒にお茶をして、普段とは違う笑顔でたくさん話をしてくれるときも、自分だけが知る彼女の一面に優越感があった。
「独り占め……か」
ウラニアの言葉を、繰り返して呟いてみた。独り占めできて嬉しいと、彼女が思ってくれているということは、少なくとも好意を抱いてくれているということだろう。それが尊敬からくる好意なのか、一人の男としてなのか、そこまではわからない。恋をしてくれていると自惚れるには、あまりにも歳が離れすぎている。
考えても答えが出ないことだと諦めて、ガヌメデスはベンチに座りなおした。ふと見ると、寒そうにウラニアが体を竦める。ガヌメデスは自分の羽織っていたマントを少女に掛けると、そっと頬を撫でた。柔らかい肌に触れ、喜びがこみ上げる。理性が勝っている間に離れると、自分も眠りにつく。窓の外からは、満天の星空が、二人を見守っていた。