香る花と蛙と蛇
お眠りくださいませ
苦しいことは全部忘れて
お眠りくださいませ
悲しいことは全部忘れて
暖かな太陽のしたでつつまれるように
目を閉じてゆっくりと ゆっくりと
「讃美歌?」
教会の前でぽつりと呟く
「あぁ、それモノコちゃんですよ」
ふわりと花のように笑う彼女は丁寧に綺麗な色とりどりの花をつつむ。
蝶夜のお気に入りの花屋さん。
『Sweet flower』
実家の近くにある花屋で枯れにくい
いつでも美しい花を保つことで有名
明るく穏やかな店長のお陰でいまではすっかり常連だ
「モノコちゃん?」
この花屋にくる前に通った教会で不思議な歌を聞いたので
年も近く親しみやすい彼女 店長の香花にそれを話すとすぐに 教えてくれた
「教会のシスターですよ。眠れぬ子羊に安らかな夢を というフレーズで本の読みきかせをしてるんです」
「へぇ、素敵ね」
蝶夜は モノコの歌を目を閉じて思い出す
「蝶夜さんもお疲れのときは是非
うちの店にもよく来るので会えるといいですね。とてもかわいらしいこですよ」
香花の言葉に 蝶夜は そうねと答えようとしたとき店の奥から香花を呼ぶ声がした
奥からひょっこり現れたのは蛙のフードを被ったジャージ姿の少女
「シャーリィしんね?」
緑色のジャージにアップリケがいくつかついていて 花屋に似合わない
チャラそうな娘だ
「シャーリィくん?シャーリィくんなら…」
「ここ…」
「ひっ!」
蝶夜は思わず悲鳴をあげた
なぜなら 蝶夜が見ていた植木鉢の隙間から
銀色に輝く髪とスニーカーが飛び出してきたからである
「む・・・・香花さん・・・出口は塞がないでくれると助かります」
「あぁ!ごめんね!シャーリィくん」
いそいそと香花が植木鉢をどかすとさらさらの銀色の髪がなびく細くてしなやか一瞬女かと疑うぐらい綺麗な顔立ちをした少年だった
しかし女でさえ嫉妬しそうな顔には少し儚げな表情が見え左頬にある奇妙な痣がそれを物語っている
「びっくりー。シャーリィ、マジ顔泥だらけじゃん!」
緑色のジャージの娘が笑いながらシャーリィを指差すが
蝶夜がびっくりしているのはそこじゃない
彼の格好だ
美形に似合わないジャージなところじゃない
寝そべっている彼の足が■■■な方向に■■■になってて
■■☆なことになっているのだ
蝶夜は何も言えないでいた
彼の格好はおかしい
人間としてはありえない方向に曲がっている
でもだれも突っ込まないのだ
蝶夜の視線に気づいたのかシャーリィは手を使わずに立ち上がり慣れてるのか少し冷たい目で
「体がかなり柔らかいのです・・・・」
そうつぶやいた
その言葉と同時にピンと空気が張り詰めた感じがした
シャーリィとジャージ姿の娘の周りに 誰も寄せ付けない
そんな冷たい空気が少しだけ感じた
普通の人なら感じ取れないだろう
蝶夜が警察で彼女の能力からもしかしたらという疑問が浮かんだ
「あ、あのっ」
「hello!nice to meet you! 」
蝶夜が感じた疑問を聞こうとしたとき
スっと目の前に緑色の手が差し出された
訂正 緑色の手袋をした手
その手の主は緑色のジャージ姿の娘で、さっき張り詰めていた空気が一瞬で消え娘はニコーっと上手に笑っていた
「whats your nime?」
娘に名前を聞かれたが蝶夜は答えなかった
というより困惑したように固まってしまった
「why?」
ジャージ娘がそう聞き返すが
蝶夜は泣きそうな顔をして香花の後ろに隠れた
「なななな何語!?宇宙人?!」
「あれ?蝶夜さん英語話せませんでしたか?」
必死に香花を揺さぶりながら問う蝶夜に香花はきょとんっとした表情で可愛らしく首をかしげた
「アメリカから留学生のエルルちゃんとシャーリィくんです。お二人はダンサーなのですよ」
にっこりと香花が説明してくれて蝶夜はとりあえず地球人なことを確認してホッと安堵をもらした。
ジャージ娘 エルルは蝶夜が英語をはなせないことをおもしろがって下賎な英語を並べる。それをきいていた香花がしかめっ面をしたのでシャーリィがエルルの口に手をつっこんだ。
「エルル・・・・だめ・・・香花のお客さん・・・大事」
シャーリィの手を口に突っ込まれておとなしくなったエルルは口に突っ込まれたままポケンっとした顔をしている
「こうしたらおとなしくなる・・・最近気づいた・・・・」
シャーリィは真顔でエルルの口に手を突っ込む
おとなしくなるっていうか吃驚しすぎてフリーズしているんじゃないだろうか。
とにかくかなりカオスな状況だ
「蝶夜さん、お花できましたよ」
ぼーっとふたりの状況をみていたら横からスっと綺麗なお花たちの花束ができあがっていた。
「わあ綺麗。いつもありがとう」
「いーえ ご両親によろしくお願いします」
蝶夜は香花から綺麗な花束をうけとって花屋をあとにした。
「香花・・・気をつけなよ・・・あの人、第六課のひとじゃん」
シャーリィの手が抜かれ少しむせながらエルルはつぶやく
カエルの形をしたフードを引っ張り深くかぶった。
シャーリィも浮かない顔をしている
しかし香花はいつものように脳天気にお花の世話をしている
「大丈夫だよ・・・きっと・・・」
香花が枯れかけの花に触れた