カンヘル族4
6
「なるほど……のう」
アルゴンはマサユキの話を聞き終え神妙な顔で頷いた。この話が事実であれば、いや嘘をつく必要などないのだから事実であろうが、2人目の勇者によって腕を斬り落とされた自分に謝罪する気持ちも理解できる。
魔王がいないことで魔種の被害は加速度的に増したのだから、責任が自分にあると言うのも無理からぬことだろう。
顔を伏せるマサユキであったが、アルゴンは彼を責めるつもりなどなかった。
騙される方が悪いという考え方をする者もいるだろうが、あくまでも彼は被害者なのだ。力がありながらも故郷に帰るためには従う他に道はなかっただろう。脅して送還用の魔法陣を用意させようとしたところで、どちらにしろ滅亡しか待たない人種は従わなかっただろう。
むしろ弱者でありながら、力ある者を利用しようとする人種に怒りばかりが募った。
「しかし、マサユキ殿はなぜ人間界を滅ぼさなかったのだ?」
「いやぁ……あの時は完全に滅ぼすつもりだったんだけど、いきなり別の世界に召喚されちゃってね……」
「は?」
「だから、別の世界に召喚されたの」
「それは……なんとも……いや、待て。ではなぜまたこの世界にいるのだ?」
「この世界に戻ってくるまで都合7回別の世界に召喚されたんだよね」
「……ありえるのか?」
「この世界に戻る時に言われたのは、普通はありえないってさ」
「言われた?」
今まで2人の会話に黙っていたアルマだが、気にかかる言葉をマサユキが発したので突然話に割り込んだ。
「あぁ。この世界に戻る直前にね、神様ってやつに会ったんだよ」
「神……だと!?」
「それは真か?」
「だと思うよ。本人が言ってただけだけどね。んで、軽く世間話してからこの世界に戻ってきたわけ」
「なぜ元の世界に帰らなかったんだ?」
「いや、元の世界に戻ろうにも俺が初めて異世界に召喚されたの600年前だよ? 普通の人族みたいな種族しか暮らしてない世界だったから、誰も知り合いなんて生きてないし、文明も完全に別ものだったからさ」
それならば、自分の知る当時とあまり変わっていないこの世界へ。と、マサユキはそう考えたのだ。タイミングよくこの世界で異世界召喚の魔法陣が起動していたことも理由の1つではある。
「待て。お前だって600年生きているのだろう。ならば、元の世界のお前の周りの人間だって生きているのではないのか?」
人族の寿命は50歳前後、マサユキの言葉が真実だとすれば彼は600年以上生きていることになる。それが人族に近い別の世界の種族であるからという理由であれば、元の世界で彼の周囲の人間も生きているだろう。
「俺は特別。7つ目の世界でちょっと不老になっちゃってね。特別な道具で攻撃されれば死ぬって以外じゃあ不死でもあるから、病気とかもほとんど掛かんなくなったんだわ」
「なんと……人族でありながら不死であるとは……」
「不死については限定条件があるけどね。で、この世界に来るときに神様からもう別の世界に召喚されないようにしてもらったから、この世界で生きて行こうって決めたわけ」
「だから、自分の住みやすい街を造る。というわけか」
アルゴンは納得したように頷いた。
荒唐無稽な話が続いて感覚が麻痺してしまったようだ。しかし、マサユキの力が本物であることに間違いはない。加えて、魔王に敵対する意思がないのであれば、アルゴンも彼と敵対する理由はなかった。
「委細承知した。儂もお主に協力しよう」
「ホントっ!?」
長であるアルゴンが協力してくれるのであれば、この集落での勧誘はかなり楽になるだろう。少なくとも話を全く聞いてもらえずに門前払いされる心配はなくなったと言っていい。
「うむ。全員が移住するとは言わぬだろうし、儂の跡を継げる者がおらぬので、儂はここに残ることになるであろうが、ここに残って協力できることに助力は惜しまぬよ」
「ありがとう」
「アルマ、お前はマサユキ殿についていくのだろう?」
「あぁ。父上の分も文化とやらの良さを学んで来よう」
「くっくっく、言いおるわ。マサユキ殿、娘を頼みましたぞ」
「あぁ。アルマも、これからよろしくな」
「うむ」
マサユキとアルゴンは堅く握手を交わすが、問題がすべて解決したわけではなかった。
だが、ようやく2人の協力者を得ることが出来たのは、マサユキにとって喜ばしいことこの上ない。
自分の意見に賛同し、協力してくれる人間が現れたのだ。もう後戻りはできない。マサユキは決意を新たに固め直すとアルマ、アルゴンの2人と共に今後のことを話し合うのだった。