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カンヘル族5

 話し合いを終え、とりあえずマサユキがカンヘル族の説得をする前にアルゴンから簡単にでも説明した方が賛同者も現れやすいだろうとの結論に達した3人はさっそく集落の人間を集めた。

 先ほどマサユキお取り囲んだ総勢59人のカンヘル族がこの集落の全人口であり、全員がマサユキという珍客の動向を気にしていたため、マサユキたちが思っていたより集まるのは早かった。


「アルゴン様、本気ですか!?」

「人族に従うなどと……」

「魔種としての誇りを捨てたのですか!」


 アルゴンから説明を受けた反応は3人が予想していた通り否定的なモノばかりだったが、最終的に出てくる声が「弱そうな人間」「貧相な男」「もやし」などと単純にマサユキを罵倒するような言葉ばかりになって、予想通りとはいえマサユキの精神的なダメージは思いのほか大きくなっていた。

 それでも堂々としていなくてはいけない。

 へりくだれば余計に舐められる。そうすれば、真剣に話を聞いてくれる人間もその分減ってしまう。

 マサユキは、なんとかグロッキー状態の心を悟らせぬようにアルゴンの後ろですまし顔で立ち続けている。


「まぁ、待て。落ち着け」


 アルゴンがなだめ続け、ようやく落ち着いたというところでマサユキが前に出る。


「皆さんの気持ちもわかります」


 一旦は静かになったもののマサユキのその言葉で再びざわめきが大きくなる。

 マサユキに向けられる視線は敵意のこもったものか、侮蔑のこもったものかのいずれかばかりで、マサユキの言葉を真剣に聞こうとする者は誰一人としていないのは明白だった。


「人族だから弱い、弱い者には従いたくないという皆さんの気持ちはよくわかります」

「この男は人族だが、ただの人族ではない。それを証明すればいいのだろう?」


 アルマがマサユキの言葉を続け、アルマの言葉が終わったところでマサユキは右足を高く跳ね上げた。

 踏み下ろされる足、響き渡る轟音。マサユキの足元を中心に蜘蛛の巣状のヒビが走り、半径だけで100メートルを超える巨大なクレーターが1つ出来上がっていた。

 クレーターは集まるカンヘル族たちの足元まで広がり、あまりに突然のことに集まっていた者は皆一様にバランスを崩し、ほとんどのものが無様に転んでいる。

 クレーターが出来上がってもマサユキの動きは止まらない。

 足を踏み下ろすのと同時に無詠唱で山のように巨大な岩を作り出すと、ただの掌底1つでそれを粉々にして見せた。

 呆然とする集まったカンヘル族の者たち。まさか人族がこれだけの力を持っているとは思わなかったのだろう。

 魔法を用いていようと、用いていまいと関係がない。

 魔法を使っていないとすれば、どれだけ鍛えたところで石を砕くのが精いっぱいの人族が持ち得る力としては言うに及ばず、魔法を使っているとしても、瞬時に2つの魔法を無詠唱で行使し、これだけの芸当ができる魔王軍の幹部クラスのものだろう。少なくとも、この集落にいるカンヘル族で鼻歌まじりほどの気軽さで同じマネができる者はいない。


「どうだ? これでも彼の力を疑うか?」


 マサユキではなくアルマが胸を張って言った。

 3人で話し合った結果とはいえマサユキはこれに消極的だったので何かを言うこともない。

 力で言うことを聞かせたくはないと考えるマサユキではあったが、なめられないためにも最低限力を示す必要はあると説得され、折衷案として直接闘うことで力を示すのではなく、およそ普通とは思えないだけの力を示すことに決まったのだ。

 案の定、誰も文句を言う者はいなくなり、静寂が広場を満たす。


「えぇ……では、話を聞いてください。とりあえず言いたいのは、俺が強いから従うのではなく、俺の話に共感出来たら俺の計画に参加してほしいってことです」


 マサユキは最初にそう注意してから自分の考えを集まっているカンヘル族たちに伝えた。アルマに話したことで多少はまとまった内容になったが、やはり伝えたいことのすべてが伝えられるほどではない。

 それでもマサユキの真剣な表情と言葉は次第に聞いている者の胸を打ち始める。


「これが俺の考えです。もしも俺と一緒に来たいと思った人は是非、一緒に来てください」

「出発は明日の朝だ。よく考えて、自分の意志で決めろ」


 アルマがそう締めくくり、その場は解散となった。

 明日どうなってるかは今のマサユキにはわからない。

 翌朝、集落の30人もの人間がマサユキと共に行くことになることなどこのときのマサユキは露とも知らなかったのだ。


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