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温暖化が地球に与える影響についての一考察  作者: ひとりぼっちの桜
[事件番号#1.割れた花瓶と割れなかった壺]
5/18

<解答パート>

閲覧ありがとうございますm(__)m


現実が嫌で始めた小説ですが、楽しんでもらえれば嬉しいです(/ω\*)



「はぁ、は、はぁ、ぜぇぜぇ。 ゲホッォ」


「大丈夫? ホームズさん?」

「運動不足すぎだよ。」


 家頭さんのラマーズ法的効果音をBGMに渡り廊下の先、新校舎のドアの横に視線をやる。


「あれか」


 新校舎の真新しいドアの横にほうきを持っている中年女性。

 その丸みを帯びたディテールに孫一さんの青い眼光が光る。


「あのダルマ野郎が田所」


 いいすぎだよ~孫一さん。

 少なくとも女性なんだから野郎ではないでしょ。


「す、すでに、はぁはぁ、か、かたずけて、ゲホッォ」

「はいはい。 俺と孫一さん、野水先輩が行くから家頭さんはそこで休んでなさいよ」


「わたしも行かない。 やつと会うぐらいならダルマと会う」

「ダルマと会うってどんな日本語? まぁ、しゃあないか。 じゃあ野水先輩行きましょうか。」

「すいません僕も行きたくありません。 ちょっと今朝のことを言われるともう…立ち直れないので」


「…俺1人で行けと? 俺のことじゃないのに!? え、何でみんな黙ってんの!?」

 

 こいつら信じられない。

 俺、え~~~!?うそ~~!?




「お仕事中すいません」

「あらっ、ナンパかい? うれしいけど私はそんなに軽い女じゃないよ♪ アハッハハ」


 むかつく。

 これは予想以上にくるな。

 うう、孫一さんの気持ちが痛いほど分かる。


「あの僕たち…っていうか僕のみかな? 朝の花瓶が割れたことを調べているんですけど、今かたずけているそれって朝のやつですか?」

「あらっ、調べてるの? 探偵みたいだね、ハッハッハ」


 何がそんなに面白いんだ? ババア?


「そうだよ♪ 高いもんらしいけどこうなっちゃ~跡形もないね♪ 見るかい?」

「はい、お願いします」


 割れた破片は無残にそして見事なまでに割れていた。


「へ~割と、なんていうか、見事な割れようですね」

「そうだろ~こんなに大きな破片ばかりだとボンドとかでくっつけたら案外ばれないかもしれないね。 ほらここ、こことここがくっつくわけさ♪」


 そう言うと用務員のおばちゃん、田所さんはうれしそうに目を¥マークにして二つの破片を合体して見せた。


「本当ですね。 まぁそれだけすごいヒビだとすぐバレはしますけど、パズルの難易度は低そうですね」

「本当、くっつけて売っちゃおうかね。 新品として」


 バレるよすぐに。


「はい、終了♪ 今からこれを不燃物の置き場にもって行くけどついてくるかい?」


 いや~ついていってもな~

 俺の不快度数が上がるだけでしょぉ?


「ん?これで終わり? おばちゃん、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「おばちゃんなんて他人行儀な言い方水臭いね、陽子ちゃんでいいよ」


 俺とあんたの関係は他人以外の何者でもないよ!


「えと、よ…」


 うわっ、自分自信との葛藤ってこういうことをいうのか


「よ、よう、こちゃん。 これって大きな破片ばっかりだけど、小さい破片はもう花とかと一緒にかたずけたの?」 

「小さな破片? そんなもんなかったわよ、花は朝すぐに燃えるゴミに出したけど不燃物の回収は夕方だからね。 それまで脇にズラしてたんだから今無いなら無いってことなんじゃない?」

「いやいやいやいや、おかしいでしょ! 陶器が割れたんですよ! 大きな破片ばかりだと変じゃないですか!?」

「変って言われてもね~」


 頭使えやババア!!!!


「本当に最初から無かったんですか? バレないように燃えるゴミとしてかたずけたりしてません?」

「失礼な子だね、そんなことしないわよ。 粉々になった破片ね~……なかったね~」


 マジかよ。


「もういいかい? これ、捨てに行かないといけないんだよ」

「え!?あ…え~と、僕やっときますよ」

「え?」

「いや~おば、陽子ちゃん腰痛いでしょ? やっときますよ」

「あんた…本当に私に惚れてるのかい?」


 じゃかーしいわ!!



「首尾はどうでした?」


 今さらきてかよ

 陽子ちゃんこと用務員の田所さんが完全に見えなくなったら現れた3人。

 裏切りトリオは俺の手に握られたちりとりを覗き込んできた。


「大破損壊だ。」

「うぅぅ、嫌な思い出が…」

「ふむ」


「家頭さん、気づいたことある?」

「大きいな破片ばかりですね」


 気づくの早っ!

 俺は気づくのに時間がかかったのに瞬殺って…


「田所用務員がかたずけたんですか?」

「いいや、陽子ちゃ…用務員さんはかたずけていないそうだよ。 それに元から小さな破片は無かったって」

「その質問を投げかけたということはあなたも気づいていたんですね」

「ああ、見た瞬間に気づいたよ」

「さすがと言っておきましょう」

「フッ」


 大丈夫、バレないうそは事実と一緒♪


「しかし家頭さん、これを見て、犯人がいると思ったとして、それを証明できるものかね?」

「難しいですね、指紋は残っているでしょうが…」


 そう言って無造作に手にとって隅々まで見回す。

 黒く縁取られた瞳が大きく見開く。

「見事に白い大きな破片、ホームズさん、熱を与えよう。」

 

 おっ、いい案だね孫一さん。

 たぶん絵柄が出るのを見たいだけなんだろうがね。

 家頭さんも同意見なんだろう、少しして持っていた破片を後ろ手で手渡した。


「ふむ、ワトソン君、火は持っているかね?」


 普通の高校生が持っているわけないでしょ?


「もち!」


 もってるのか!?


「すばらしい。 それではその残骸に火をともしなさい」


「そこで何をしてるんだ!!!」




 夕日越しに現れたのは小麦色に日焼けをした男。

 どちらさん?

 その心の声に答えるように俺と家頭さんに耳打ちする孫一さん。


「この人が堺先生」


 この人が堺先生か

 思ったより若いな

 歳の頃は20代後半、いっても30代前半ってとこか。


 堺先生は切らした息を整えるようにその大粒の汗をTシャツの袖で拭った。

 青春の汗が髪をつたって地面に落ちる。


「君は…」

「朝は本当にすいませんでした。 2年C組の野水です」

「あ、ああ。そう、君か」


 ん? 今この先生視線を下げた?


「私たちは野水2年生の依頼で動いている、ボランティア部です」


 自分たちを大形に見せている割に、ボランティア部という名で親しみやすさが感じられるな。


「ボ、ボランティア部? そんな部うちにあったっけ?」

「今年できました」

「そ、そうなのか。 そのボランティア部が何をしているんだ?」

「ですから先ほども言いました。 今朝、野水2年生が割ってしまった花瓶、それについて調べていると」


「そんな探偵ごっこなんてしてないで早く帰りなさー」

「調べられては困るんですか?」

「いや、そういう意味では無くて、あの、部活動でもないのに放課後に残るのは」

「ですからそれは先ほども言いました。 私とそこにいる彼女は部の活動をしている。この学校の校則はご存知でしょう? 全生徒は何かしらの部活動に準じていないといけない。それでも私たちがここで調べ物をしているのに何か不満でもあるというのですか?」


 同じ台詞の連呼に不機嫌そうな家頭さん。

 なぜ学生の君のほうが偉そうなんだい?家頭さん?

 あなた本当はピカピカの高校1年生じゃないでしょ?

 階級で言うなら50年生、ヘビー級だよ。

 

 いかん!!

 何、のうのうと見ているんだ俺!!

 さすがに先生なら生徒会のメンバーの顔ぐらい知っている!!


 俺の両の足はとっさに曲がる

 そして身を小さく、サクッと家頭さんの影にダイブ!

 そう、これが俺の持ちうる3つの秘儀の1つ

 存在隠しの空気椅子!!


 僕は空気ですよ~

 みんなには見えない存在ですよ~


「え~と君も、そのボランティア部?」

「いえ、この人は生徒会」


 やばい!!

 秘儀がきかんとは!?


「家頭さん!!!!!」


「は、はい、なんですか?」

「ここは僕に任せてもらえないだろうか?」

「は? 何をですか?」

「いいから~いいから~」


 このまま君たちに話の主導権が渡ったままだと俺の正体がバレちゃうんだよ。

 そうなったら、居たたまれない空気になっちゃうんだぞ。


「堺先生少しお話があるんですがいいですか?」


 喋りながら考えろ。俺

 堺先生はビクッと体を硬直させた。


「な、なにかな?」


 この状況化だといつ俺が生徒会の人間じゃないとバレてもおかしくない。

 話題を劇的に変える

 しかしこの状況では劇的に変えれる話題は1つ。


「まず先生はなぜここにいるんですか?」

「そ、それは、部の活動が終わって、それで」


 追い詰めきれるか?


「こちらは職員室に戻る道ではないですよ」 

「こっちが近道なんだ」


 さっきこの先生は野水先輩を見たとき視線をズラした。

 これはただの勘だけど、ズラした視線は教師という立場でありながら生徒に自分の罪を擦り付けてしまったから…つまり


「そうですか、確かにこの渡り廊下のドアから入ったら近そうですよね」

「ああそうなんだよ」


 こいつが犯人だ。 


「昨日って、日曜日で休みでしたけど、先生って昨日何してました?」

「え!?昨日!?」


 問題はどうやって追い詰めるかだ

 手元にあるアイテムは割れた花瓶だけ。

 おそらく先生の指紋はあるだろうが、それは当然、彼が手に持っていたから。

 さっき先生が大声を上げて熱を与えるのを止めたのはおそらく何か証拠を残している、もしくは残している可能性があるかもしれないと恐れたから。


「昨日は昼、職員室で会議があって…その後、宿直で、1日この学校にいたな」 


 調べれば何か出るかも…

 もしくは家頭さんなら何か見つけるかも…

 しかし残念ながら今の俺にそんな悠長な時間は無い。 

 なんにしても証拠が無い今の段階では俺の武器はハッタリしかない

 しかしただのハッタリではダメだ。


「そうですか。宿直ってことは泊まったと」


 これだけの複雑な犯行を自分1人で考える人間だ、相手は相当頭がキレる。

 今は動揺しているだけと考えるべきだろう。

 家頭謳歌よりも上の頭を持っていると考え、言葉を選んでいこう。


「ああそうだよ、それが何、かな?」


 つまりは考え方を変え、追い詰めるんじゃなくて自白していただく。

 良心に訴える。

 さっきから見ている限りこの人は良心の呵責ってやつに苛まれてる。


「いえ、別に大したことじゃないですよ」


 大事なことは全てをこちらが知っていると思わせること。

 そのためには今までの出来事の断片を繋ぎ合わせる、可能な限り精密にしかしうそがばれないように分からないところはぼかす。



「先生。 僕たちは朝の花瓶を割ったのは野水先輩と大野先輩じゃ無いって思ってるんですよ」


 堺先生はパクパクと鯉のような口をして、体全体の動きを止めた。

 唾を飲み込む「ゴクリ」という音がここまで届く。


「そ、そんなことないだろ。だって朝わ、わ、私が落とし、いや、見ていた」


 小さくなる体に、こすり合わせる手。

 見れば見るほど演技の下手な人だ。

 頭はキレるが小心者なのか?

 ここは家頭さんのように強気にいってみるか?


 いや!やはり慎重にいこう、こちらには証拠が無いのだから。


「そうなんですよ!そこが分からない点なんです! 考えれば考えるほど先生という存在で矛盾が生まれて推理が止まる。 まるで」


 俺はしっかりと先生の焦点の合っていない黒目を見つめる。


「誰かが嘘をついている…みたいにですよね」


「え!?いや、お、俺じゃ」


 俺はニカッと笑い先生の発言を途中で遮る。


「もし、もしもですよ。 犯人がいるのだとしたら花瓶が割れたのはもっと前じゃないかと思うですよ、たとえば…昨日」

「昨日!?」


 酸欠状態なような口に、開く瞳孔。

 一瞬だけどものすごい驚きようだな。

 ビンゴか?


 一瞬だけの表情の変化

 こちらを騙す演技なら一瞬じゃなく、その驚いた演技を続けるはず。

 演技は相手に見せてナンボだ。

 ということはこの先生が花瓶を割ったのは昨日か…


「ええ、犯人は昨日校長室に行ったんですよ。 それもおそらく夜」


 昼なら校長室の横、職員室で会議をしていた。

 もしその時割ったならその音でバレるはずだからな。


「散らばった破片、花、そして水をかたずけた犯人は急いで職員室横にある2階へ上る階段途中にある壺に水と花を入れる。」


 どうやってかたずけたか

 どこで割ったのかは知らんがね

 その辺は突っ込まんよ♪


「なぜ、花なんて?」

「それはもちろん本物と入れ替える為にですよ。 割れたのが夜だとバレると犯人が特定されますからね」


 日直で学校に泊まっていたあなたという人物にね


「校長室に偽物を置いた犯人は朝になって他の教員に、割れていない花瓶を見せる。」

「さすがに花瓶と壺を見間違えないんじゃないかな?」


 またまた~、分かってるくせに~

 俺は頭と手をこれでもかというぐらい大きく振る。


「いやいや、熱を与えなかったら素人目には判別がつかないぐらい似てるんですよ。 花を挿した日にゃあ~、もう無理でしょうね。 他の教員に見せた後、昨夜壊してしまった壺を回収、破片は散らばらないように風呂敷にでも包めばいい。 そして、いつも朝に渡り廊下でフットサルをしていた人間の元に行って落とす。大きな割れた音は専用のアプリでも入れればいい、こんな風に」


 俺はポケットに入っているスマートフォンを取り出して堺先生に画面を向けて指を弾いた。


 すると流れる”ガシャーン!”という音。

 同時に先生の体はビクッと脈打つ。


「これは僕がダウンロードしたストレス解消の皿を割るアプリですが、どうです?それっぽい音鳴るでしょう?」

「き、君は、それをやったのが僕だとー」

「まぁ犯人にとってはフットサルでも何でもよかったんですよ。 要は落とした時に責任を分割できればね。 風呂敷に包んだ花と破片、一緒に落としてしまえば今運んできた花瓶を割ってしまったと錯覚させれます。風呂敷はすぐにポケットの中に…」

「じゃ、じゃあ僕がその風呂敷を持っているということだね」


 この言い方、こいつ捨てたな。

 しかもこの自信のある感じ、探しても絶対見つからない…


 考えろ


 探しても見つからない、、、探すことすら出来ない場所、そんな場所がそうそうあるとは… 

 ということは探せない状態に”ある”、もしくは”した”だ。


「いえいえ、犯人は風呂敷を焼却炉に捨てましたのでもう持ってませんよ。 先生、他の生徒から聞いたんですけど、あの時”何を”燃やしていたんですか?」

「え!? いや、あの、それは」


 ビンゴ

 さぁ~あの時っていつのことかな~?


「それは?」

「そ、それは、それは、それはそれはそれは」


 先生の定まらない視点は左右にギョロギョロと舵を切る。

 過呼吸のように荒くなる呼吸は酸素を欲していた。


 決まりだ。


「後は犯人なんですよね、誰なんでしょう?」

「え?」


 わざと黙る。

 証拠が無い以上、解決には自白しかない。

 主導権を握りつつプライドは出来る限り傷つけない。



「先生、僕たちは何も先生を咎めたいんじゃないんです。」


 だって証拠ないもん。


「ただ、1つだけ考えて欲しいんです、無実の生徒が罪を擦り付けられた気持ちを。 彼がなぜフットサルを無許可でしていたのか知っていますか?」


 堺先生はチラッと野水先輩を見て、イヤ知らないと言った。

 俺は眠りに落ちるようにゆっくりとまぶたを下ろす。


「先生に憧れていたからですよ」


「「え!?」」


 全員が度胆を抜かれた。

 野水先輩はアゴが外れかけた。


「先生、学生時代に大きな大会出ましたよね?」

「え? …まさか、高校の時に出たサッカーの県大会か?」

「そう!それです!! 野水先輩はその時の先生を見てサッカーに見惚れたんです!」

「しかし、あれは8年前だぞ?」


 17-8=


「その通り! 当時9歳の野水先輩は無垢な瞳で見ていたんです」


「俺が通ってたのは九州の学校だぞ?」


 きゅ!?九州だと!?


「そう、です! 彼は九州出身ですからね。」


 先輩の顔を見ると「え~!? 僕の地元はここ兵庫県ですよ!?」って顔してた。

 やっぱりか、都合よく九州出身とまではならんか


「なら最初っから、テニス部じゃなくてサッカー部に入ればいいじゃないですか」


 背後の家頭さん

 俺はそのつぶやきを咳払いでかき消す。



「テニス部に在籍しながらもやっていた野水先輩に大野先輩、そんな憧れていた先生に裏切られた気持ちがあなたにわかるのかぁぁ」

「そ、そうだったのか、野水」

「え!? あ、はぁ、まぁ」


 俺は唇をわざとぷるぷると震わせる。

 すると声も自然とリンクするように震えた。


「だからぁ、堺…先生には…先生として!いてほしい。 だから、これは、このちりとりに入った花瓶の破片は、あえて捨てます!」


 さっきまで笑ってたくせに

 その悲しそうな台詞に表情はどこから出てくるんだ?

 家頭さんは胡乱な目をする。

 孫一さんは状況を飲み込めないのかオロオロしていた。



「後は先生にお任せします。 さぁ、みんな帰ろう」

「え? 帰るの?」

「ばかやろう!孫一さん!! 先生を信用するんだ!!」

「え?あ、ごめんです」


「ちょっと! 待ちなさい! き、君は…」


 俺はその問いに後姿のまま答えた。


「名乗るほどの者じゃなぁいぅす。」



               ×          ×



「その嘘泣きはいつまで続くんですか?」


 旧校舎の建物に入ると今まで口を閉ざしていた家頭さんが訊ねてきた。

 その声はチャチな嘘泣きの効果を疑うように


「うるさい、まだ堺先生がガラス越しに見てるかもしれんだろ」 

「もう見てませんよ、うな垂れて新校舎の中に入っていきましたから」


 その家頭さんの一言で、俺は猫背をシャキッと伸ばす。


「よし♪」


 よし♪…って!?


「まさかと思いますが、そのちりとりに入った破片、全て捨てるんですか?」

「まさか♪ 捨てないよ~。 あいつがこの後、本当のことを校長に言うとも限らないじゃない? 念のために持っておく、そしてもし言わなかったら…証拠が出たと言えばいい♪ なんなら、調べといてよ家頭さん」

「脅しなんて最低ですね」

「自分の罪を人に擦り付けるほうが最低だろ? これは報いだよ~ホームズ君♪」


「あっ!」


 えらいことを忘れていた。


「野水先輩、かばんって教室ですよね?」

「そうですよ」

「じゃあ今日はここで解散としましょう!」

「なぜあなたが仕切るんですか」

「まぁまぁ」


「野水先輩たぶんですけど、明日には濡れ衣は晴れてると思いますよ」

「ほ、本当ですか!?」

「また、そんな適当なことを」

「人の心ももうちょっと勉強しなよホームズ君。 じゃぁ~ね~~♪」



 さぁ~明日が楽しみだ♪

 靴は軽快なステップを踏み、職員室に向かうのだった。




 次の日


 野水先輩と大野先輩の濡れ衣は太陽が昇った頃には綺麗さっぱり取り払われていた。

 俺が来る前にこの部室にやってきてお礼を言いに来たそうだ。

 生徒会の俺にもよろしくと


 後輩の僕たちにも低姿勢を崩さず律儀な野水先輩はサッカー部に入部、今頃サッカーボールを蹴っているだろう。

 よかったね、野水先輩。これからは心置きなくマルセイユルーレットの練習が朝から晩まで出来るよ。



「よかったね。 じゃないですよ」

「いちいち家頭さんは俺の心を読んでくるね、でも野水先輩の濡れ衣が晴れてよかったじゃない。 あの後、堺先生、校長先生に謝りに行ったんでしょ?」

「らしいですね。しかし濡れ衣はサッカー部への入部を代償にですよね?」

「代償? 家頭さん、表現は正確に述べて欲しい。 彼は自分からサッカー部へ入った。ただそれだけだよ」

「今朝、堺教諭が野水2年生のところに謝りに来た後、入部しろと言ったのに?」


「いやなら断ればいいじゃない?」

「先生に憧れていた。そんな既成事実をでっち上げられたんですよ、彼が断れると思っていますか? あれは生徒会の人が、証拠の無いあなたを騙す為に作ったうそで、僕は別にあなたに憧れてませんと? 言えるわけがない」



 回想開始☆


 あの後、俺が別件で職員室を訪れると校長室から堺先生と思われる叫びが聞こえた。


「すいません!!僕が、僕がぁ、やったんでずぅぅ!!」


「はい、先生これ」

「え!?あ、おう。 やっとお前も部活を決めたのか」


 職員室にいる先生は全員、訝しそうに校長室の方をチラ見する。

 俺の担任もその例に漏れず、心ここにあらずで俺の対応をしている感じだった。


「先生は堺先生と仲がいいんですか?」

「ん? 岩神くんは堺を知ってるのか?あいつは1年生の授業は受け持っていないはずだけど」


「本~~~当~~~~にぃぃぃぃ! すいませぇぇん!!!」


「…ええ、ちょっと」

「そうか。 1年、後輩になるんだが…あいつ何したんだ?」

「さぁ~? 大したことじゃないと思いますよ。 じゃあ僕は帰ります」


「すいません!! ちゃんと謝った後、あいつと一緒に全国を目指したいんです!! 停職は許して下さい!!!」


 あいつ?

 全国?

 これは俺のあずかり知らぬ所で何かが動こうとしているのか?

 ま、いっか。


 回想終了☆




 すまん野水先輩。

 若干の罪悪感と謎を解いた高揚感で俺は背をグーと伸ばす


「さて、どうしたものか…」


 そう、俺は今日この部活に入ろうと思ってやってきたのだ…が。

 う~ん。

 入部を打診した時点で今までの嘘はバレる。

 いや、それはいいんだが

 バレたら入部を許されない。

 いや、それも問題ないんだが

 だって、もう先生に入部届け出しちゃったし(笑)


「残念です。あなたは生徒会にしておくにはもったいない人材です。 もし生徒会に属していなければ我が部に勧誘していました」


 別れを悲しんでいるのか、家頭さんはおなじみの社長椅子に肘を立てプイッと後ろを向いてしまった。


「あの…、これ。 最後に、紅茶入れた。」


 孫一さんは寂しそうに紅茶を差し出してきた。 


 いかんな、これを飲んだら帰る。

 いや、帰れの道筋だ。


 言うなら今かな?

 考えるの疲れてきたし、言っちゃおう♪

 後はいつもの出たとこ勝負だ。


「あーー、それなら大丈夫、あれ、全部嘘だから♪ お言葉に甘えてこれからお世話になりまーす。孫一さんこれ紅茶?もらうね~」


「「は?」」


 美少女たちは各々、停止ボタンを押されたように思考がフリーズした。


 自分用の緑茶を入れる手を停止させ目を丸くなる孫一さん。

 その手にお湯が


 偉そうに立てた頬杖が勢い良くこちらに振り返る家頭さん。

 熱々の紅茶が遠心力で宙を舞う


「「熱っ!!」」


 2人とも熱そうだね。


「ちなみに入部届けはもう提出してあるから。 あっ、部長のサイン?大丈夫、大丈夫、家頭さんのサインを偽造して書いといたから」


「は?え?ど?ど?」

「助けてどらえもーん?」

「違う! 何が嘘? 何が?」

「落ち着いて孫一さん。 何がと聞かれると…う~ん、俺の設定、ほぼ全部」


 指はボーゼンと俺を指す。


「生徒会?」

「ノン生徒会!」

「はぅ!?」


「な、ぜ、そんな、意味の無いことを?」

「なぜって、そりゃ~君に」


 君に俺の全てを見透かされたのが悔しかったから…

 それを言うつもりだったが、違うと思った。

 だって、途中から君との討論が楽しかったから

 この時間がずっと続けばいいのにって思ったから…


「家頭さんと孫一さんがかわいいから、少しでも振り向いて欲しくて、僕…嘘ついちゃった♪ 許してねっ」


 真っ赤になる孫一さんに俯き顔を隠す家頭さん。



「そういえば、謳歌さん。 最初に俺が来たときの”なぜ俺がここに来たのか”の推理のくだり、完全に当たってたよ」


 いつも冷静だと思った家頭さん、ムゥ~と膨らました頬でスネた子供のように口を開く。


「この…うそつきめ」


 少し

 ほんの少しだけど、

 そのかわいい表情に見とれてしまった。


 俺は


「騙させるほうが悪いんだよ、ホームズ君♪」


 と言った。



閲覧ありがとうございました(*'▽'*)♪

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