<推理パート(下)>
閲覧ありがとうございますm(__)m
昨日でGWも終わってしまった。
今日からまた始まるのか…(/ω\)
30分ぐらいだろうか、無言が支配する教室にワトソン君こと助手の孫一さんが帰ってきた。
その青い瞳は青空のように晴れやかだ。
実に仕事が速い助手。
そして走ってきたからだろう、甘酸っぱい汗の匂いが教室に漂う。
溜まらんぜよ。
「ミッションコンプリート!」
難しい顔をした2人に囲まれた野水先輩はグッジョブサインの孫一さんに「ああ、はい」と困惑しながらも返答していた。
「首尾は?」
「もちろんオールクリアです、ホームズさん!」
「そうですか。 では準備はいいですか?生徒会の方」
タイムって言っても聞き入れてくれる気なんか無いくせに。
「いつでもいいよ、俺を簡単に論破できるかは分からんがね。」
すると孫一さんは分厚い手帳を豊満な胸ポケットから取り出した。
スマートフォンの画面が青白く光る。
「職員室に行くとまずわたしとホームズさんの担任に話した」
「あら、孫一さんじゃない。 どうかしたの?」
「部活活動中」
「確か家頭さんと一緒にボランティア部作ったのよね」
「コクリ」
「え?今朝のことを教えて欲しいって? ボランティア部…だったわよね?」
「コクリコクリ」
「今日は朝から暖かかったわ。コーヒーもいつものホットじゃなくてアイスを飲んだからよく覚えてるわ。 ちょうどコーヒーが喉を潤していたとき、用務員のおばちゃんがいつも通り職員室のドアを開けて入ってきたのよ。 昨日も痛そうだったけど今日は昨日よりも腰を痛そうにしてね、堺先生が見かねて校長室に入ろうとしているおばちゃんに声をかけて花瓶の水の交換を申し出たのよ」
いつもはおばちゃんが花瓶の水の交換をしていたのか。
「さすが男の先生ね、"軽々と抱えるように花瓶を持って外に出て行った"わ。 それから少ししてからかしら、2年生の大野君が真っ青な顔をして職員室にやってきたわ」
「これが先生の証言」
「私たちの担任が嘘をついいるとは考えずらい、なぜなら嘘をつく理由がないから。では勘違い?それもない、なぜなら彼女はいつもと違う行動をとってアイスコーヒーを飲んだ、その時の記憶は鮮明だと考えられます。」
つまり彼女の言った証言は全て信用しろということか、まぁ俺もそれは異論なしだ。
家頭さんは続ける
「つまり、その時までは花瓶は無事だった」
「それは賛成しかねるね、君たちの先生が花瓶鑑定士の資格でも持っているなら異論は無いが、現状分かっているのは堺先生が高価な花瓶と似ている何かを持っていた。それだけだよ」
「ふふふ、さすが簡単にはいかない。 ワトソン君」
「はい、次は職員室のごみを回収していた用務員の田所に話を聞いた」
呼び捨てですかワトソン君!?
「あらあら、綺麗な外人さんだこと」
「外人、違う。 日系3世だから」
「あら、そうなの~。 で、何か用かい? 今朝のことね~、あんまり知らないわね(笑)だって私が行った時にはもう先生が集まっていてからね~」
「堺先生に代わってもらったって聞いた」
「そうなのよ~! 聞いてくれるかい!!」
「そのために来たわけだが…」
「堺先生は優しいわ~、さすがいい大学出た人は違うわね」
「学歴の高さと優しさの高さは比例しない」
ごもっとも
「私が職員室を通って校長室に行こうとしてると”腰大丈夫ですか? 今日は僕が花瓶の水を交換しますよ、重いですからね”だってさ! 私惚れちゃいそうだったわよ!」
「知らんがな」
「あら、冷たい外人さんだこと。 そんなに朝のことが知りたいなら、もうちょっとしたら脇に除けておいた割れた花瓶の破片を集めてゴミの業者さんに受け渡すけど見にくるかい?」
「結構です。外人違うから」
「あらあら、そうだったわね! 綺麗な青い目と金髪だったからおばちゃん忘れてたわ!」
「使えないババアだった」
ワトソン君、そんなに外人よばわりされたことに腹が立ったのかい?
「堺先生、見当たらなかったのでグラウンドに行ってみると、のんきにサッカーの指導をしていた。」
サッカー部の監督がサッカーの指導をしているのは普通だと思うが。
「まったく容疑者の分際で何を考えているのだか、だから指導中の堺先生にタイムをかけて話を聞いた」
鬼か!
って言うかまだ田所さんの件を引きずってたよね!?
「えっ?あの日なぜ渡り廊下に行ったのかだって?」
「コクリ。 用務員さん、いつも2階の美術室で入れ替えるって言ってた」
「お恥ずかしながらいつもどこで花瓶の水を入れ替えていたのか知らなくてね、渡り廊下に出て水飲み場でやれば簡単だと思ったんだ。 でもそのせいで彼らには悪いことをしたね、せっかく"毎日練習してた"のに…」
「堺先生が、わざわざ渡り廊下に出たのって気になるな」
「そうですか?彼はサッカー部の監督です、美術室よりグラウンドの水飲み場を選んだとしてもそれほどの疑問はありませんが」
「まぁまぁ、そんなに結論を急ぎなさんな」
急がれると頭が追いつきません
「ワトソン君、大野2年生はどうでした?」
「もう帰宅したって聞いたから、職員室で自宅の番号を聞いて電話かけました」
そこまでします!?
「はい、もしもし。 え?今朝のことですか…言いたくありません。」
「言え」
「え!? いや、あの」
「言え」
怖いよ~ワトソン君。
電話越しでその単語言葉はやめようね。
「え~と、僕は野水の対角線上にいたから大きな音がして後ろを振り返ったらもう残骸の海って感じでした。」
「それだけ?」
「ええ、まぁ、はい」
「ガチャ!」
「使えないから切ってやりました。」
ひどい
「そんなことより壺や花瓶はどうでした?」
そんなことより!?
下手したらあんたの助手は脅迫罪だよ
「これ写真です」
長机にポツリと置かれたスマホの中に6分割に散りばめられた写真。
慣れた手つきでスクロールする家頭さん。
「6枚ありますね」
「家頭さん指きれいだね~細っそいし、白いなぁ~」
「6枚ありますね」
「この爪の黒いマニキュア、ソォォォォCOOL!!」
「…」
「…」
「6ま」
「はいはい!ありますねっ! 壊れてませんね!!」
「私たちの担任は何かしらの陶器を持っていたと証言した。それはあなたも認めた。 ということは堺教諭が持っていたのは本物の市瀬川総介の作品か、他の似た何か。 しかし新校舎に6つある階段、全てに1つずつある花瓶、壺は両方存命。画像を見る限り壊れているようにも見えない」
そう、つまりはここで分かったことは堺先生は本物の花瓶を持って渡り廊下に出た可能性が高いということ。
でもそれを認めると俺負けちゃうんだよね。
ここはいちゃもんでもつける所だな。
「壺か花瓶をどこかから買ってきたんじゃない? 学校の階段に置く程度の物だよ、どっか探せばすぐ見つかると思うよ」
家頭さんは「それはおかしいですよ」と鼻を鳴らす。
「ありえませんね。 先ほど野水2年生が言ってましたよ、壊れた後その場に堺先生といたと。 みんなが集まって確認する、つまり落とした段階において本物でないとつじつまが合わなくなってしまうんですよ。」
やばっ!しくった!!
そうだった~、こいつらの担任の証言を是とすべきではなかった。
でもあの証言を非とするだけの理由も無かったしな~。
にしても、この女は俺の言ったことに0タイムで返してきやがる。
俺の心でも先読みしてたのかよ?
どこまでも気に入らない女だ。
俺は家頭さんからスマホを略奪して透視できるぐらい見た。
しかしどの壺も花瓶もただ白く面白みもないとしか表現できないものだった。
「そろそろ降参してはいかがですか?」
じゃかーしいわ!!
見てろよ!
勝ってお前の処女を舐めるように犯してやる。
(今から無理やり女にされる気分はどうだい?ヒーヒッヒッヒ♪ 泣き喚くがいいわ~♪)
そんな想像しても、このままだと妄想として終わるのは時間の問題だ。
このスマホは大したヒントを俺にくれないしな。
閃け!動け!俺の脳細胞!!
頭を数回コツコツと叩く。
………。
この壺と花瓶、本当に似てるな。
活けてある花が無けりゃ本当にこの6つ、俺の目にはまるで同じに見える。
6つにとても良く似た形・色をした、花瓶が割れた。
そして割れた花瓶は熱を与えると絵柄が浮かび上がる。
どう考えたって何かありそうな気がする
でも悔しいかな勘なんだよね。
「もちろん割れた花瓶は本物と確認したんだよね? 熱を与えないと分からないんじゃ」
「それは素人目にはです。 所有者である校長が確認すれば熱など与えずとも本物かの判別は可能に決まっています」
「はい、ホームズさんの言った通りです。 割れてすごい音が鳴ったあと皆が集まった時には校長も学校に着いて割れた破片を見ています」
ノォォォォ。
そうかぁぁ、確認しちゃったかぁぁ
のんきに茶でも飲んでたらよかったのに
「あの~、孫一さん。 何か他に気づいたこと…ない?」
「気づいたこと?」
はい!もうあなたを犯すためには、あなたに頼るしかないんです!
「なんでもいいから! たとえば用務員の田所さんがムカついたとか、そんな小さなことでもいいから!」
「田所はムカついた」
「いやいや、他にだよ。 田所さんのムカついた話を聞いたって俺には何も出来ないでしょ?」
「闇討ち」
「出来るか!!」
う~ん、と唸る孫一さん。
2、3秒ごとに首を捻り返していると、そういえばと口にした。
「そういえば1階の職員室横から2階に上がる階段にあった壺、触ってみたら"濡れてた"」
「濡れてた?」
それを聞いて家頭さんも視線を細める。
「それは壺の外が?」
「違う。割れてないか確かめた時に壺の中に手を入れた、その時に気づいた」
花瓶ではなく壺の中身が濡れていた?
「下に水が溜まってた?」
「水は少しだけ溜まってた、でも本当に少量。 壺の中身が全体的に濡れてた、だから袖が濡れた、不快」
「へぇ、そうなんだ」
なんでだ?
誰かが洗ったのか?
全体的に濡れてたって事は乾かし不足によるもの…いや、それなら他の1階~から2階に登る階段の壺全部の中も同様に濡れてないとおかしい。
その1個だけを洗うなんて馬鹿げてる。
そもそも洗う理由がわからん。
じゃあ水を入れたから?
なんで!?
風水か!!
そんなわけあるか!!
あ~なんか頭がこんがらがってきた。
俺は考えをまとめる為にとりあえず今思っていることを口にすることにした。
後は出たとこ勝負だ!!
「壺は本来鑑賞用だ、水は必要ない。しかし職員室の脇にある階段の壺は中が濡れていた。これは水が入っていたということ、なぜ水を入れたのか? それは必要だったから、なぜ? 水を入れる容器の代用として…いや、違う。 壺に入る水の総量なんてたかがしれてる、俺なら他の容器を探す、ここは学校だ壺よりも水が入りそうなものなんていくらでも見つかる。 この壺でないといけない理由…、この学校には形状が似ている花瓶が多数ある、ということは花を入れるため、花を枯らさない為にー」
家頭さんは大きく椅子をたてて立ち上がった。
「ちょっと待って! それはいささか早計ではないでしょうか!」
「へ?」
なぜだ?
なぜそんなにも焦るんだ?家頭謳歌。
壺の内側が濡れている事、それがそんなに重要なことなのか?
俺にはそんなに重要だとも思えないが
開いた瞳孔に涼しい顔に似つかわしくない冷や汗。
少なくともこの女は重要だと思ってるんだ。
だから俺の発言を止めにかかった。
「花を枯らしてはいけない理由、それは他の人が見たとき花瓶と錯覚させたいから。うん、それ以外の理由が見つからない。 じゃあここで言う他の人とは誰だ? 今回の事件と関連付けさせるなら割れた時間が早朝だったことから生徒ではない、いたのは朝練をしていたやつぐらいだから。確実に校舎内に来ていたのは先生達、なら壺を花瓶と錯覚させたかった人物は先生…?」
「朝練といえども全てが運動系とは限らない、文学系なら校舎内にいます! それに今回の事件と関連付けるだけの証拠が無い! 錯覚させるために水を入れたのは先月かもしれないし、去年かもしれない!」
先月や去年の水がちょっと手を入れただけの内側側面に残っているわけないだろ。
いちいちうるさいやつだな。
大きな独り言だからほっといてほしい。
そんなに構ってほしいのか?
ここが重要なポイントなんだ
……きっと
たぶん
いや、今はそうだったと信じ込もう。
そうしないと思考が口と共に止まる、もう二度と動かなくなる気がする。
「壺を偽装した人間は、先生連中に壺を花瓶と勘違いして欲しかった。 なら先生たちがどこかで見ているわけか、現段階で可能性が一番高いのは校長室から出てくる堺先生が持っていた花瓶。 少なくとも孫一さんと家頭さんの担任、それに用務員のおばちゃんは見ている。 もしそれが本当は階段にあった壺なのだとしたら、その時点で本物の花瓶は無かった仮定ずけられる、なぜ無いのか、つまりは”割れていた”ことになる。」
「なりません! なるわけがない! そんなわけがないんです!!」
「ならなぜ、渡り廊下に本物の花瓶の破片が有ったのか? それは交換したから。 いつ? 職員室に出るときまでは偽物、ならその後しかない。 場所は? 先生たちに偽物を見せてから野水先輩がキラーパスを蹴るまでの時間が正確にはわからないけど、俺なら割れた花瓶なんて持っているところを人に見られたくない。 幸い職員室から渡り廊下までの50mは人通りが少ない、その間隔内にある教室いずれかなら交換もたやすい。 以上の点からこの状況下で犯人の可能性が一番高いのは偽物の壺に水と花を入れ偽装した人間、堺先生。」
かな?
と!いう感じにとりあえず、ここまで行き当たりばったりな推理を展開してきたわけですが。
案外的いている気がしてきたぞ。
まぁ、そう思えるのも家頭謳歌の表情あっての自信ですけど。
「も、妄想です。」
高圧的な目が傷を負ったように弱る。
自信の無さが伝染したのか、家頭謳歌の口はぷるぷると震えていた。
「これはもはや推理ではなく、妄想です」
違うね。
お前は分かってただろ?
俺がこの結論に行き着くずっと前。
孫一さんから壺の中身についての話を聞いたときにはこの結論に行き着いてしまった。
だから止めようとした。
「家頭さんは本当にそう思っているの?」
「……どういう意味ですか」
「それを俺に言わせるほど君は落ちぶれるのか?家頭謳歌」
夕日色に染められる旧音楽室に1つゆっくりと吐かれる息。
「妄想……とは思えません。 ええ、あなたの勝ちです。」
「まだでしょ?」
「えっ?」
「妄想は取り下げてもらわないと俺も困るけど、俺が勝ちかどうかはまだ分からないじゃない? 調べよう、一緒に」
呆気にとられた表情は噴出す吐息で崩れていった。
「ふふ、あなたは真性のサディストのようですね。 蛇の生殺しが好みとは」
「じゃあ止める? まぁ、そのほうが俺も簡単に君の処女をいただけるので楽だがね」
「それは困りますね、それだと私が自分の体が安売りしているようですから。 ええ、いいでしょう。共に調べつくして真理を導き出しましょう。 あ~、あと私が処女だといついいました?」
「え!?違うの!?」
「ふふっ、どうでしょう? 勝って自分で確かめてはいかがですか?」
その後俺たちは互いの推理をすり合わせを始めた。
「さっそくだけど、家頭さんもおおむね俺の推理と同意見だと考えていいんだよね?」
床に座りながら見上げ聞く。
音楽室特有のフワフワのじゅうたんは思いのほか落ち着く。
旧校舎だからホコリが大量にあることは目を瞑ろう。
「そうですね。いくつか小さな点が違ったり、疑問に思う所はありますが」
「疑問点?」
「ええ、まずは風呂敷です」
「風呂敷?何それ、おいしいの?」
「……」
いや、そんなに睨まなくても。
「もちろん覚えてるとも、え~~とあれでしょ。うん」
「ジーーー」
「…すいません。 忘れました、風呂敷って何ですか?」
「まったく、あなたは証言内容を一字一句覚えることすら出来ないのですか」
僕のこれまでの16年の人生を振り返って断言しよう。
出来るか!!
「野水2年生が最初に言ってたではないですか。風呂敷に包まれた花瓶が落ちるのを見たと」
「あ~~、言ってたような言ってないような~」
「言ってましたよ」
「それ重要? 覚えてないことをこの広い音楽室の真ん中で断罪されるほどの重大性を秘めてるとはとてもとても思えませんがな」
「重要ですよ、あなたの脳細胞の欠落すら危ぶまれるほどに…ね」
「そこまで!? ほぅ~そこまで言うならその理由を聞かせてもらおうか」
「あなたは本当に私たちの担任の証言を軽んじますね。 彼女は言ったでしょ? "彼は両手で抱えるように"花瓶を持っていたと」
「……あ~なるほど。」
「分かってないですね」
「う、うるさいな。 ちょっと待って! え~と、彼は両手で抱えるように持っていた。両手で? あ!そういうことか! もし風呂敷なんかに包んで持っていたならそれを先生が言うってことね」
「その通りです。 あれだけ証言の前に今朝の記憶は鮮明だと豪語したんです、風呂敷なんかに包んでいたら嫌でも目に付く。 つまり堺は偽物を他の教諭に見せた後、風呂敷に包んだすでに割れた花瓶を交換、偽物から花だけを取り出す、そして野水2年生がボールを蹴った時に飛び出せばー」
「ちょっと待って」
「なんですか?」
「それはちょっと都合がよすぎやしませんか? 野水先輩がボールのコントロールをヘマする、そして大野先輩がそれを取れない。 こんなのを計算に入れて扉の後ろで待っていることなんか普通出来ないでしょ? いつ後ろから他の先生が来るか分からないのに」
「別に彼にとってボールが飛んでくる必要なんてなかったんですよ」
「え? どういうこと?」
「ことサッカーをする際に素人が後ろへ逸らすことは、ままある。しかしそんな偶然を計算には入れれない、これは私も意見は同じです。 なら考えを逆転させればいい、割れた花瓶を落とすに十分な理由は何か」
「無許可でやっていたフットサル。 急に飛び出してビックリしたふりをして落とす?」
「ええ、その通り。 おそらく堺教諭はこう考えた。”ボールがこっちに来なかったら、急に扉を開けてあの2人の近くに落とそう”と。 そうなった場合、責任の有無は堺にも及びますが、無許可でフットサルをしていた2人の生徒のほうが責任ははるかに重い。元々は自分1人で背負い込むはずだった罪を別けられるだけ堺にとってははるかに得」
「というとこはボールが飛んで来たのは堺先生にとって幸運だったね」
「ええ、飛んで来た瞬間に落とせばいいだけですからね」
「しかしそこでミス、とまで言えないまでも1つの誤算が生じた。 先輩は大きな音がした時に落ちる”何かを”見ている。」
「その何かとは”すでに割れた花瓶”ですね」
「ああ、その通りだよ家頭さん。 すでに割れた花瓶の破片、それなら地面に落ちた時の音はそう大きくない」
「だから野水2年生の記憶には残らなかったと?」
「だと思うけど、その場しのぎの推理だから自信はないな。どこか間違ってる?」
「いえ、可能性は高い。 というか、そうなんじゃないかと私も思っています」
「「へ~なるほど」」
すでに完全に蚊帳の外状態の孫一さんと野水先輩。
さっき入れたのだろう、湯気がゴーゴーと昇る紅茶かな?
それを飲みながら2人で他人事のように頷いている。
「野水2年生」
「え!?なんですか?」
「落ちてたのは花瓶の破片と花、後風呂敷で間違いないんですよね?」
「そう~ですね。はい、他には落ちてなかったです。」
「そうでうか」
これ以上はヒントはもらえないと思った家頭さん。
再び難しい顔をしながら眉間を中指で押さえていた。
「本当に2人に相談してよかったです!なんか、うかばれた気分です。ここに来るまでは死にたいぐらいだったのに」
それは思いつめすぎでしょ。
俺はおいおい、と手をひらめかせる。
「いやいや、俺は大したことはしてないですよ。 それにまだ確信はもてないですし」
今はほとんど家頭さんが解いているし。
「いや~バラバラになった破片と花を落としたのか~、それで音がズレているように聞こえたんですね。 そういえば水もこぼれてなかったですしね」
「「!?!?」」
俺と家頭さんは野水先輩のその言葉で一時停止を余儀なくされた。
そして互いの目を見る。
頷く
「「それをもっとはやく言ってください!!」」
「生徒会のあなたも気づきましたか」
「ああ、これはおかしい。 今までは不確定疑惑、でも今は確信的疑惑だよ」
「まったく! この事を最初に聞いていれば私は負けなかったというのに」
「どゆこと、ホームズさん?」
急に怒鳴られて目を丸くする野水先輩の横で孫一さんはぼんやりと首を傾げた。
「ワトソン君、花瓶には何を入れますか?」
「花?」
「と?」
「水?」
その通りだよと俺は孫一さんの顔に人差し指をビシッと向ける。
「花瓶に水が入っていないなんてどう考えてもおかしい、それでなくても境教師は水を変えに陸上部たちが使う水飲み場に向かっていたんですよ」
「話に割り込んで申し訳ないんですけど、他の場所で捨てたんじゃないですか?」
「野水2年生、ならあなたに聞きます。 そもそも職員室から渡り廊下までは直線距離でおよそ目算50m、そこまでに水を捨てれるような場所は無い。つまり花瓶を落とした時花と破片が散乱して水が一切無いというということは…」
僕が言おうか?
そのように伝えるように俺は家頭謳歌を流し見た。
だが彼女はフルフルと首で否定した。
「割れた日は違う日だったと断定できます。 そして今まで私たちが推理で導き出した仮説は真実の可能性が非常に高い」
「そう、そして犯人は」
犯人の名前を言おうとしたその時、俺はハッと気づいた。
もし、犯人が俺と家頭さんの言う通り堺先生ならなぜ孫一さんが話を聞きに行った時、のうのうとサッカーの指導をしていたのか?
もちろん監督という立場があるというのもあるだろうが、俺なら今朝の自分の関わった証拠を消すので躍起になる。
理由はそれをしなくてよくなったから?
なぜ?
完全に証拠を隠滅したから
起こったのは今朝だぞ、何か見落としがあるかもしれない
気になるはず
それが無いということは
誰かがやってくれる?
誰が?
………!?
「家頭さんヤバイ! 証拠が無くなる」
その一言で家頭さんも今からかたずけをすると言っていた用務員さんの田所さんを関連付けさせたんだろう、流し見る視線と共に即座に孫一さんに指示を出す。
「ワトソン君、今すぐ田所用務員のところに行きなさい。 割れた花瓶の破片を回収するのです」
「いやいや、家頭さんも行こうよ。 自分の目で見たほうが情報は確かでしょうに」
「お断りします」
「なぜに?」
「私は頭脳労働派なんですよ。 そういった雑務は!? え!? ちょ、ちょっと!? 放しなさい!!」
俺は家頭さんの細い手首を握って教室のドアをガラ!っと開けた。
「ほらっ! 孫一さんも野水先輩も行きますよ」
軽い気持ちで騙したつもりだったが、こりゃ~面白くなってきた!
こんなにワクワクしたのは久しぶりだ。
何かが変わる気がした、自分の人生観を変わる、そんな気がしたんだ。
浮き足立つような高揚感は履きつぶした靴をいっそう加速させた。
閲覧ありがとうございました。
少しでも皆様に楽しんでもらえれば、本望ですo(^▽^)o