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温暖化が地球に与える影響についての一考察  作者: ひとりぼっちの桜
[事件番号#1.割れた花瓶と割れなかった壺]
3/18

<推理パート(上)>

閲覧ありがとうございますm(__)m


この稚拙な文章がわかりやすくなればと挿絵を入れました、下手な絵ですいませんm( __ __ )m

少しでも皆様の時間潰しになれば…それで満足です。

[事件番号#1.割れた花瓶と割れなかった壺]



「やれやれ、今日はお客さんの多い日だ。 落ち着いて本も読めやしない」


 そう言った家頭はどこから取り出したか分からない文庫サイズの本を片手に広げ、ワトソン君こと孫一さんに応対するように手振りした。

 俺は帰ってよかですか?

 しかしながらガラガラという音は俺の要望を無視するように孫一さんによって開けられていくのでした。


「すいません。ここが不思議な出来事の相談に乗ってもらえる、ボランティア部ですか?」


 日本語おかしくね!?

 不思議な出来事に乗ってもらえるボランティア部っておかしくね!?

 おかしな部活に現れたのは男子学生だった。


 男子学生は目の前にいるナイスボディーの金髪美女、孫一和戸さんをいやらしい目で舐め回すというある意味、男子の礼儀とも言える行事を無視してその意気消沈した目を向ける。

 声は教室の奥まで届かず消えていった。


「はいそうです! ここが謎に答えるボランティア部です」


 そうだったんだ~。


「えっと~どうぞ真ん中のパイプ椅子に座ってください」

「はい、ありがとうございます」

「じゃあ俺は帰りますんで」

「えっと、そちらの方は」

「あっ、部外者ですよ。気にしないでください、帰りますんで」


「そちらは生徒会の方」


 ワトソーーーン!!!!


「そりゃ都合がいい。是非あなたにも聞いてもらいたいんです」


 いや、大丈夫です。


「いや~僕ぁ~まだ1年生なんで」


「そんなことを言わないで相談にのってくださいよ! 聞いてくれるだけでもいいんです! とても不思議なことが起こったんです!!」


 いやいや、あなたが俺に相談を持ちかけているこの状況こそが1番不思議ですよ。


「いや、でも~家頭さんも俺がいたら邪魔ですよね」


 そうだよな、謳歌!?

 そうと言ってくれ!!


「ええ、もちろんでー」

「そんなことないですよね、ホームズさん!? 生徒会の方にわたしたちがどんな活動をしているか見てもらいましょう。 ささ!2人ともこちらにどうぞ」


 なんてこった~、引かれたパイプ椅子が俺を呼んでやがる。

 もう、戻れないのな~。

 俺の肩は重力に負け、足は迷宮の脱出口から離れていくのであった。




「僕は野水仁、2年生です」


 あっ先輩か。

 タメ口はまずかったかな?

 生徒会委員ならいいのかな?

 でも俺、そもそも生徒会じゃないしな~?


「野水先輩…ですか」


 文庫本を手にした謳歌さんは伏した目でポツリとつぶやく。


「やはり知ってますか。 今日1日で有名になっちゃいましたからね。」


 そう言って野水先輩は俺を見てきた。

 その目は言っていた「生徒会方ですし、知っていますよね」と


 お恥ずかしながらまったく知りません。

 おたく誰?

 とは言えないよね。


「ええ、なんとなくは生徒会の先輩から聞いてます」


 やっぱりか、と数回頷き下を向く先輩。

 ごめん、先輩、俺、知らない

 だからとりあえず上向こう、音楽室に敷かれたカーペットに目を向けないで。

 

「あなたの身に起こった不思議な出来事を喋るか、落ち込みこれからの人生地面を見ながら生きるか、どちらかにしてください。 こちらもそうは暇ではないのです」


 なんて事を言うんだ、理由は分からんが落ち込んでいる先輩に。

 お前なんて本読んで、紅茶飲んでるだけじゃねーか!


「あっ!すいません、忙しそうなのに!」


 この女を見てどこが忙しそうに見えるんですか!?

 あなたが客ならクレームものの対応ですよ。

 卑屈で低姿勢な先輩、野水先輩は俺たちの顔色を伺うように言葉を選びながら話し始めた。 紅茶の匂いはその話をゆっくりと理解するように部屋に充満していった。


「災難が起こったのは今朝のことです。 いつも通りフットサルをしてました、廊下で」


 何しとんねん!!


「あっ!廊下といっても、渡り廊下ですよ」


 なんのフォローやねん!!


「フットサルをしていたのは同じ2年の大野順平、僕らは同じテニス部に所属しています」


 フットサル関係ないやん!


「テニス部なのに…フットサルですか」

「はい。 最近流行ってるんです」


 薄っぺらい理由だな。


「その日も朝練をサボって新校舎の1階、この旧校舎と新校舎を繋ぐ渡り廊下で一生懸命練習してました」


 渡り廊下、さっき桃風さんと通ったあれか。

 てかこの人サラッと朝練サボってることをカミングアウトしたな。


「練習も佳境に差し掛かった時でした。僕が大野君にキラーパスしたんです、ボールが逸れてしまって、そこに急に花瓶を持った先生が現れたんです。 そして間も運悪く…」


 当たってしまったと、キラーパスなだけにね(笑)


 でも別に不思議でも何でもないじゃないか、ただこの人たちの不注意だとしかいえない。

 単純明快で至極端的な事柄。

 家頭さんもそう思ったんだろう、何も発言しなかった。


「僕から質問してもいいですか?」

「はい、もちろん」

「それが起こった時間は?」

「時間ですか、時間は、確かマルセイユルーレットをしていた頃だから、授業が始まる1時間ぐらい前かな」


 マルセイユルーレットしていた頃ってなんぞ、その時間の確かめ方!?

 っていうか、この人たち1時間以上前から早起きしてフットサルしてんのかよ、ハマリすぎだろ。もうフットサル部でも作ればいいのに。


「あれ?生徒会の方は知りませんか? マルセイユルーレット、ジダンの」

「いや、そこは疑問に思ってませんけど。」 

「あー、じゃあ疑問なのはジダンの方ですか!」

「フランスの有名選手になんの疑問を抱けというんですか!?」


「ワールドカップでの頭突き騒動の真相」

「あれはたかが人種差別発言でしょ」

「たかがだって? 2年生として1年生の君にこれだけは言っておくよ。 人種差別発言をバカにしてると…頭突かれるよ」

「誰に!?」

「ジダン」

「ジダン!?」


「2人とも、話が進みません。」


「「すいません」」


 なぜ俺が謝らねばならんのだ?


「僕が言いたいのはえらく早く早起きですねってことですよ、7時ぐらいには始めてたんですか?」

「いえ、その日練習を始めたのは6時ですよ」


 部活の子たちよりだいぶ熱心!?


「ま、毎日されてるんですか?」

「この2ヶ月ぐらいは、毎日、かな?」


 もうテニス部を退部してフットサル部作りなよ。


「ふーん。2ヶ月間か。」

「なにか問題でもありました?」

「いえいえ、別に大したことじゃないですよ。それで結局、先輩の思った不思議なことってなんなんですか?」

「えーと、あの、なんであんな所に境先生が来たのかな~って」


「え? それだけ?」

「ええ、まぁ。 あの時境先生が来なかったらボール当たらなかったな~って」


 そりゃあ~ただの逆恨みだよ野水先輩。


「それにー」

「もう結構。 今までの話を聞いて核心にたりました、あなたの勘違いないし嘘です」

「いや、嘘はついてー」

「では勘違いです。 聞いた限り不思議な点が1つとて見当たらない、ただの事故です」


 家頭さんの病的な瞳に畏縮する野水先輩。

 どっちが年上だが分からん。

 かわいそうにも思えるが、そんなことよりも俺は思った。


 ”なぜ?”と


 俺は座ったパイプ椅子の背もたれに体を預けると、そのまま首を上に、目を閉じた。

 この人が本当に家頭さんとやらの言う通り嘘ついている、もしくは勘違いならはたしてここに来るだろうか?

 出来事があったのは今朝、もう先生、教頭、校長に怒られた後。

 ならここで話を蒸し返すようなことをするだろうか?

 俺ならしない、ただ時がたつのを待つ。それが利口な判断だ。


 じゃあ勘違い?

 いや、今はこのブラックシャーベットみたいな女に畏縮して気づいた全てを発言できないだけの可能性が高い。

 さっきだって何か言いかけてた。

 そもそも何かしらの確信が無いのにこんなとこまで来るだろうか?


 言っては何だが、こんな胡散臭い部活だぞ。

 しかも今年できた部活。

 そこを頼りにする、いや、頼りにするしかなかった。

 この人にはここしかなかったんだ。

 何かあるんだ、きっとこの人が疑問に思うだけの何かが


「ねぇ家頭さん。 本当にこの先輩の勘違いかな?」


 目を閉じ、上を向いたままそうつぶやいた俺に家頭は「まだいたのか」としぶしぶ椅子を回転させ、その黒く塗りたぐられた唇を動かす。

 リップグロスが艶やかに光沢を放つ


「あなたは部外者です。これ以上発言しないでください。 不快です」

「それは君自身、今の俺の問い掛けで自分の推理に疑問を持ったからじゃないのかな」


 教室内の空気が冷たく凍りつき、いつ切れてもおかしくない一本の細い線で繋がった状態になった。

 彼女の眉間はイラっと音をたててシワになった。


「いいでしょう。 ならば1つ賭けをしましょう。」

「賭け?」

「この事柄があなたの言う通り事件か、私の言う通り気のせいなのか。 私が勝ったらあなたは生徒会に帰ってこう言う”ボランティア部にはしっかり部員が5人いた”と」


 その申し出に俺はまるで勝ちを確証したかのような口ぶりをする。


「かまわないよ」


 俺が言ったところで何がどう変わるのかは知らんがね。


「余裕ですね。 今の野水2年生が話した内容でそこまで確信がもてるとは私には思えませんが」

「ふっふっふ」


 笑うしかない。

 だって俺、生徒会じゃないんだもん。


「俺が勝ったらどうするんだ?」

「なんでも1つ言うことを聞きましょう」

「何でもだって? フハハハ、笑わせてくれる。 へそでその紅茶が沸かせるぜ、女の言うなんでもなんて男の優しさにあぐらをかいた上での”なんでも”だろ?」


「いいでしょう。 極論あなたが私たち2人を抱きたいと言うのならそれを飲みましょう」

「のった。」

「えぇぇぇぇぇぇぇ!? ホームズさーーん!?」


 あごが外れるほどの衝撃を受けている孫一さんをスルーして、俺は野水先輩の手を両の手でガシッと握り締める。

 鏡が無いから正確には描写できないが、その時俺の目は少年漫画の主人公のようにメラメラと燃えていたはずだ!!


「安心してください、野水先輩。 僕があなたの身に降りかかった厄災を解き明かしてみせましょう。」

「あ、ありがとう」

「ではさっそく花瓶が割れた日のことをもう一度最初から、そして今度は細かく正確に教えてください。気づいたことは何でも言ってください」

「わかりました。 あの日は、朝から暖かかったんですけど」



「家を出たのが5時30分、着いたのが5時50分でした。 暖かかったから半袖で出て、それを学校で大野君になじられたので時間は間違いなく合ってます」


 大野先輩は野水先輩よりも速く着いてたのか。


「ちょっと喋って、ボールを用意していつも通り6時には始めました。 まずは軽いパスを30分ぐらい、体が温まったぐらいで"生徒や他の先生たちの車が"学校に来ました」


「おーい、野水、話があるんだけど」

「そんなに改まってなんだい?」

「お前はマルセイユルーレットを知っているか?」

「ま、マルセイユルーレットだって!? じ、ジダンの?」

「ああ、ジダンのだ!!やってみねーか?」


 注(今、野水先輩は1人2役でやってくれています)

 言わずもがな、俺、家頭さん、孫一さんの3人はポカーンとしてるよ。


「でも…やり方が、わ、分からないよ」

「ばかやろう、この雑誌を見ろ。」

「それは!?まさか!!」


「すいません先輩、そのへんの会話ははっしょっていただいてもいいですか」

「え?そう。こっからが盛り上がるんだけど…」


 盛り上げてどうするつもりなんだ?


「僕たちはそこから"雑誌を見ながら"、あーでもない、こーでもないと練習をしました。それで気がついたらいつもより練習が長引いていることに気づいて、僕たちはまたパス練習に戻ってすぐのことでした、僕のキラーパスが急に出てきた境先生に当たって、"花瓶の破片と花が一面に散乱して"…その後はすぐに人が集まってきて、って感じです」


 ふーん、割れた花瓶と花が渡り廊下に散乱か、そりゃ絶景だったろうな。 聞いてる分にはでけどね。

 そして聞いてる限りはやはり変な点は見当たらない。

 まぁあえて擁護するなら不幸な事故かな


「で、先輩はどこが不思議に思ったんですか? さっき何か言いかけてましたよね」


 先輩はばつが悪そうに表情を歪ませる。


「笑わないで聞いてくれる?」

「笑いませんよ。とは約束できませんけど、聞かないと話しは進まない、そうでしょう?」

「うん、そうだね。君の言う通りだ。 実は、あのボールなんだけど当たって…ないと思うんだよね」

「…それは希望的観測ですか? それとも実際見て?」


 重要なのはこの人が想像や勘違いで記憶を改ざんしていないかだ。

 見極めないと


「見てはいないんだよ。だってボールが飛んでいったら急にドアが開いたから、でも、"音がズレてた"」

「音がズレてた?」


「はい。なんか、ボールが飛んでいったら”ガシャーン!!”って音が聞こえたんです、だから僕たちは2人ともそちらを見た、でもその時に"風呂敷に包まれてた花瓶"が地面に落ちる瞬間を見てる気がするんだ」

「それは割ってしまった罪悪感からくる記憶の改ざんでは?」

「家頭さんは黙っていてくれ!」


 後ろを振り返って家頭さんを見るまでもない、彼女は俺をにらんでいる。

 しかし、そんなことより今はこの疑問のほうが大事だ。

 音がしたから見た、それなら落ちる瞬間を見れるわけがない。

 それじゃあまるで


「まるで逆だとでも言いたげですね」


 この女はいちいち俺の心を読んできやがるな


「でも、それこそ気のせいである可能性が高い。」


 ああ、そうだよ!

 人の心ってのは都合の悪い出来事や、ショックな出来事があったとき無意識に防衛機制がかかることがある。

 ここで言うならそれはショックの大きさに依存する。


「確かめてあげましょうか?生徒会君」


 そう言うと家頭さんは立ち上がった。

 細身とも華奢きゃしゃとも思える線の細い体から、足が前へとくりだされる。


「あなたが割った…いえ、割った可能性がある花瓶ですが、高いものなんですか?」

「値段ですか? 値段は…ちょっと正確には分からないですけど、市瀬川なんとかっていう人の作品らしいんです。 正直ぜんぜん高そうには見えないですよ(笑)」


 かっこ笑じゃないからあなたはここに来たのでは?


「見た目には階段にある壺と同じだし」

「階段にある壺? あ~新校舎、全ての上り階段の中間にあるあれですね」


 あ~あれね。

 教室移動中に見たな。 

 確かに面白みも無い、白い壺だった。 壺!?


「あれ? あれって…花瓶じゃなかったっけ? なんか花が刺してあったような」

「全部じゃありませんよ。 "1階から2階に上がる階段にあるのは壺"、"2階から3階に上がる階段にあるのが花瓶"です」

「花瓶と壺の差ってあるのかね、家頭さん」

「大まかに述べると用途の違いですよ。壺は鑑賞用、花瓶はその名の通り花を生けるため、要は壺を見るか、花を見るか、ですから外見には同じように見えるでしょうね」

「じゃあ壺に花を生けると花瓶かね?」

「いえ、その場合は花をいけられた壺です」

「そこ頑なだね」

「まぁ素人目には差が分かりづらいかもしれませんね」


 あなたも素人ですよね?


 そこまで話すと孫一さんも思い出したんだろう。

 俺と違い露骨に顔に思い出したと書いていた。


「あれか!100金に売ってそうです!!」

「…いや、さすがに100金には売って無いでしょ」

「売ってませんよ」

「はぅぅぅ」


「話を戻すと市瀬川ということはおそらく”市瀬川総介”でしょう。江戸末期に活躍した陶芸家です。 市瀬川の作品の特徴は陶器に熱が篭ると絵柄が浮き出るとか」

「市瀬川総介、聞いたことぐらいしかないな。」

「わたしも聞いたことぐらいあります、1億ぐらいはしますよね!」

「いや、さすがに1億はしないでしょ」

「しませんよ。 それにそんな高価な物を学校に持ち込むアホはいません」

「はぅぅぅ」


「市瀬川総介、別名”芸術量産機”。 彼はとかく他の芸術家と違って作品数が多い、これは生前、市瀬川が金銭に困ったからだとも言われていますが、大量生産、大量出荷の結果現在値がそう高くないですよ。それでもだいたい数十万はしますが」

「ええ、たぶんそれぐらいだと思います。」

「弁償とかはないんですよね?」

「はい、でも代わりに一生分を軽く上回る量、怒られました」

「そうですか」


 数十万か…

 弁償は免れても、数十万は学生の身には重いな。

 自己防衛から記憶の改ざんが起こっても不思議じゃない。


 あっ、家頭さんと目が合った。


「そういうことです」


 俺の心と会話すんのいい加減やめろよ!

 でも気のせいと断言する家頭さん、音がズレてた気がすると言う野水先輩。

 客観的に考えると家頭さんの論述のほうが信用性が高い。


「野水先輩。さっき音がしてから見てみると花瓶が落ちる瞬間を見たと言ってましたけど、音はどうでした?」

「音…ですか」

「はいそうです。もし本当に先輩の言う通り音がズレていたなら大きな割れる音が2回したはずなんです」


 問い掛けに腕を組み、眉を狭める先輩。


「した…気がするような、でもそんなに"大きな音でもなかった"ような~」


 ここはあいまいなのか。

 でもやっぱり俺にはこの先輩が嘘をついているわけではないと思う。

 だって本当に嘘をつくつもりでここに来たならここで大きな音が2回鳴ったといったほうがいいってことは分かるはずなのだから。


「野水先輩、花瓶が落ちる瞬間を見たと言いましたけど、それは本当に花瓶でしたか?」


 クエスチョンマークを頭の上に点滅させる孫一さんと野水先輩。

 一方、なるほど面白いと口にする家頭さん。


「生徒会の方はなんだと思っているんですか?」


 論破するつもりの家頭さん、口元が三日月の形に変わる。


「おそらく、他の安い花瓶で代用した。幸いこの学校には見た目が似ている物が数点ある」

「では今回の事柄は犯人がいて、その犯人は堺教諭だと?」

「可能性は大いにあると思うけど?」

「ふふ、どうですかね? 野水2年生、先ほど花瓶が割れてからすぐに人が集まってきたとおっしゃっていましたが、それは割れてすぐに人が集まって来たということですか?」


「いえ、割れた音はすごかったんですけど運動部の子たちは離れたグラウンドにいたから、他の先生たちを呼びに行ったのは大野君です。 僕と境先生は2人でその場に」

「では、他の陶器製品とすでに割れた花瓶を交換する時間は?」

「無かったと思います」


 そういうことは先に言ってよ先輩!


「じ、じゃあ落としたときにはすでに割れていた、これなら交換する必要はないよ」

「ではあなたが言う最初に鳴った大きな音はなんだったのですか?」

「ボイスレコーダーにでも録音した音と考えればつじつまが合う」

「それをどう証明しますか?」


 証明だと!?

 んなもん、この場にいて出来るわけがない。

 分かっていて言ってるな、このアマー。


「おかしなことを言うね、俺がこの場で証明するのはこの先輩が嘘をついている、もしくは勘違いをしているという君の主張を否定すること。 ゆえに証明するのは君だよ、家頭謳歌さん」


 半分本当、半分嘘の話のすり替えだ。

 高速回転する脳細胞を休ませるように俺は口を開く。

 問題はこの女に通じるかどうか


「私に話のすり替えが通じるとお思いですか? 私は最初に言いました、あなたの言う通り事件かどうか、と」


 やはりこの女に話のすり替えの類は通じない。


「しかしこうも言いました、私の勘違いや嘘ではないかとも。 ええ、いいでしょう。 ワトソン君」

「は、はい!」

「今から新校舎の職員室に行って教諭たちに朝の出来事について聞いてきなさい。 そして新校舎の1~2階にある3つの階段、2~3階にある3つの階段に1つずつある合計6つの壺と花瓶を調べた後、写真に撮ってきなさい。 ついでに大野2年生の話を聞いてくることも忘れないように」

「イェサー!ボス!!」


 勢い良くドアを開ける孫一さん。

 その長い髪が夕日の反射でキラキラと黄金に輝く。


 なぜボス?

 キャラの方向性がぶれ過ぎだろ


「名もなき生徒会員、これからあなたの考えを打ち壊して心を折って差し上げましょう」


 こんな僕ですが名はあるんだよ、家頭さん。

 まぁいいや、今は休もう

 脳細胞が休息を欲してる。

 あ~~~疲れた。




 目を閉じる俺と正反対に目を伏せ、考えを巡らす家頭謳歌。


 家頭謳歌は考える。

 この男よりも1歩でも先を。

 巡らすのはこの男の心内。

 どんよりした瞳は生徒会と名乗った男を舐め回すように見ていた。


 互いにドスンと音をたてる2つの椅子。

 しかしその音は緊張感と安心感、別々の音を奏でていた。



挿絵(By みてみん)

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