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温暖化が地球に与える影響についての一考察  作者: ひとりぼっちの桜
[事件番号#1.割れた花瓶と割れなかった壺]
2/18

<雑談パート>

お忙しい中、閲覧ありがとうございますm(__)m


今回はキャラクターふたりの挿絵もあります(*^^*)

楽しんで頂ければ嬉しいです。

 なんやかんやで2週間が過ぎた。


 住めば都とはよく言ったものです、もう俺迷いません。

 友達もできました。

 調子のいいやつだが、心根もいいやつだ。

 前の席から発せられた「今日は悪霊は降りてきそうか?」にはマジで殴り倒してやろうかと思ったものだが…。


「すまん!落ち着け!!まず話を聞け!!」

「なんだ?その話は俺のこぶしを止めるだけの内容か?」

「オフコーーース!!」


 よし、殴ろう


「ちょっ!!ちょっと!! ちょっとちょっと♪」


 殴ろう


 って感じで仲良くなりました。


 今日も昼の飯時に話をする俺たち。

 友達以上、親友未満の石田なる人物はその箸を止めた。


「岩神、大事な話があるんだ」


 その目はいつものニヤついたものからキリッとしたものへと変わっていた。


「なんだよ、改まって」

「彼女いたことあるか?」


 なんだと!?

 このプライバシーの重要性が叫ばれている昨今、そんなデリケートな質問をぶつけてくるとは、

 こいつ正気か!?


「な、なな、なな何をいっているんだ、だよ。 まぁ、いいい、答えてやらんでもない。まぁ、そ、それっぽいのはいたかな?」

「嘘だな」

「……」


「嘘なんだな」


 俺は黙ったまま頷いた。


「泣くな! 岩神、俺もいたことはない!!」

「え!? う、嘘だぁ。 本当はいたことがあ、あるんだぁ」

「嘘じゃなーーーーい!!」

「石田ーーー!!」


 2人は抱き合った。

 もう友情の前に言葉はいらない。



「それで本題は?」


 思った以上に男同士のハグは吐き気がしたので友情は3秒で終止符をうった。


「そろそろ入学から2週間、体験入部の期間もそろそろ終わる。 岩神は入る部活は決めたのか?」

「いや、帰宅部にしようと思っておる」

「…そうか、帰宅部に。 ときに昨日のホームルーム聞いてたか?」

「いえ、寝てました」

「また先生に殴られてたな」

「はい、もうそろそろPTAを召喚できるだけのMPが溜まりそうです」


「それは岩神くん、君が悪いのでは?」

「異議あり! 言葉で語らずに暴力に訴える、新米2年目先生こと担任の真島の指導力の無さ加減が諸悪の根源だと僕は見ています」

「諸悪はお前が寝ることだと思うが、これ以上不毛な議論はやめよう。 俺たちには昼休みという名の限られた時間しかないのだからな。 結論から言うが、君が帰宅部なるものに入部することは不可能だ」


「帰宅部って実在する部活なのか? 部活に入らないという選択をしたものがすべからく行う行動が帰宅部では」

「だからこの学校で”部活に入らないという選択”が出来ないんだよ」


 は? どうゆう意味だ?


「それでは何か? 貴様はこの学校では部活には強制参加だとでも言うのか?」

「そうだ。 そして未だ入部する部活を決めていないのは」


 まさか!?その先はなんとなく予想できるぞ。

 それが真実ならやめろ石田!!言うな!!


「このクラスでは俺とお前だけだ」

「よかった~~~」

「何が!?」

「俺だけかと思った~。 俺が寝ている間にすべてが決まっている、とんだ眠り姫もいたもんだなっつって(笑)」

「つって(笑)じゃねーよ!! 危機感を持てよ。」


「赤信号、石田君と渡れば怖くない」

「怖い怖い怖い」


 しかし困った、高校では部活で汗を流すのではなく、彼女を作り2人で汗をかこうと思っていたのに。

 おや?おや~? あの食べるのが遅い子が食べているホットドッグ、エロ~~い♪


「おい、聞いてるか? 岩神は中学時代なんか部活やってなかったのか?」


 まったく石田のやろ~俺の思考の中で行われる至高な楽しみを


「いや。やってないよ」

「なんだよ、ずっと帰宅部かよ」

「そういうお前はどうなんよ?」

「野球部」


「え、普通にすごいな。 じゃあお前、き、キャッチボールとかできんの?」

「出来るけど」

「すげぇーな、野球部!!」

「お前馬鹿にしてんだろ!?」


 え?俺は出来ないんだが…


「じゃあ高校でも野球部に入ればいいだろ。」

「野球部はモテると思ってるのか?」

「ああ」


 キャッキャッ言われる、そんなむかつく負のイメージしかない。


「そんなもん幻想だ!!モテるのは一部のエースと4番だけだ、後は汗と泥にまみれる、それが野球部だ! 俺はもう野球はいやだ。 汗は野球部とかくもんじゃない!女とかくもんだ」


 信じられーぜ、俺と同じ高貴なる思考を持っている同士がいるとは、石田。

 いや、マイブラザー。


「マイブラザー、いや間違えた。それで石田はどこの部活に入るか決めたのか?」

「どんな間違え方!? まぁ1つめぼしいやつをチェックしている」

「そのめぼしいやつとやらは…」

「もちろんモテる」


 ブラザー


「それは女子研だ」


 ん?それどっかで聞いたことあるよ。


「それってもしかして、今年出来たやつ?」

「おう、部長は俺たちと同じ1年だ」


 やはりか…


「正式名称は」

「女子の体と心、研究部」

「知っていたのか!?」

「ブラザーやめとけ!それはクジでいうとはずれだ」


「何を言う、彼女が欲しくないのか!?」

「欲しいけど、そこに入ったって絶対モテねーよ」

「分かんないだろ!!」

「分かるよ!!っていうか分かれよ!!」

「それに言って無かったがな、この学校だと部活は強制参加、もし決めなかったら内申にひびくなんてもんじゃない、就職やら進学に影響がでるんだぞ」


「あ~、じゃあそこは俺は問題ないわ。 言ってなかったけど家、酒蔵だもん。 進学も就職も俺には関係無い」

「は?酒蔵」

「ああ。俺が最近この辺りに越してきたことは言ったろ? 父親が母方の家業の酒蔵を継ぐためなんだよ」

「この辺りに岩神なんて家の酒蔵ないよ。 あるのは千谷っていう大地主がやってる酒蔵だけ」


「うちの母さんの旧姓が千谷だが」

「…うそだろ?」

「いや、マジだけど。 そんないうほど土地持ってないと思うよ」

「なんてこった。 そういえばちょっと前に千谷の家に跡取りが出来たと親が言っていたが、それがお前の父親、ということはお前そんないいとこの子だったのか」

「いやいや、そんなおおげさな、たぶん人違いだ。 だってうち土地持って無いって」


「はぁ!? あの一帯お前の土地だろうが!」

「違うよ、だって周りにいっぱいある家あるし」

「全部お前ん家だよ」

「家に出てる表札の苗字が違うぞ!?」

「従業員の家だよ! みんなお前に対して優しいだろうが!」

「そういえば、みんな俺のことを社さんと”さん”づけだったが。 それはここの風習だとばかり思っていた」

「そんな風習あるか!!」


 ラッキー。

 父さん、聞いてるか?

 お互いこんなド田舎に来てよかったな。


「じゃあ俺は次の準備でもするか♪ ちなみに部活っていつまでに決めたらいいんだ?」

「え!? 今月中だけど。 女子研は…」


「入らないよ♪ じゃあ俺は適当に決めるからお前は…がんばれよ(笑) 俺は今宝くじが当たった、そんな高揚感に満ちてすべてがどうでもよいのだよ。 一般ピープルの石田ブラザー」

「お前なんてブラザーじゃねーよ」





 それから俺は残された1週間ちょっとを使って、入る部活を探すことにした。

 強制参加なら仕方ないが、いかんせん乗り気にはなれない。

 おれ自身、もう頑張ったりするのは嫌なんだ。

 時期が時期なのか、他のクラスの生徒も気持ちは一緒。

 俺と同じようにいやいや探しているんだろう、この時期に体験入部をしている俺たちの目からはやる気という動機は感じられなかった。



「しかしこの学校の部活数は多いな、今年できたのだけで16個って」


 そうこうしているとあっと過ぎている時間、そして…。


「それじゃあ、みんな今日はここまで。 各自部活に行くように」


 まずい

 非常にまずい

 由々しき事態だ

 なぜならどこの部活も興味が持てなかったからだ。


 いや、正確に述べると1つはあった、しかしそれをここで述べるのは俺のプライドが許さないのでまたの機会にしておこう。だって女子のから…やっぱりやめとこう。



「岩神くんって結局どこの部活入ったの?」


 真島先生が出て行き、各自が各々のメンバーと教室から出て行く中そう言って話しかけてきたのはお馴染み隣の住人こと、目が丸く愛嬌たっぷりのショートヘアーからセミロングにしようと思っていると相談を受けても返答に困るで有名、桃風楓さんだ。

 桃風さんは少し伸びた髪を左右に傾けながら覗き込んでくる。


「そういう桃風さんはどこの部活に入ったの?」

「私はもちろん”占い研究部”」


 もちろんって言われても…

 俺は君が占い好きなのかもしらんわけだが


「そうなんだ~、へ~、ところでそんな部活あった?」

「あるよ~、でも創部に必要な5人しかいないマイナー部だからこの本館じゃなくて別館にあるんだけどね」


 別館か。

 半分ぐらいしか見回れなかったからな。

 なにせこの学校の部活の数が多すぎる、どんな部活でもいいから入れという創始者の意図が重く感じられるよ。


「それで岩神くんは?」

「それがまだ決めてないんだ」

「えー今日、4月ラストの日だよ」


 知ってるよ。

 だからあの”部活”に入るしか無いかと今腹をくくっている最中なのさ


 もし、もしもだけど、俺がとんでもない部活に入っても嫌わないでね桃風さん。

 そして出来れば付き合ってください。

 無理ならおっぱいだけでもいいから見せてくれ、下半身も…できればぁぁ。


 俺は重力に押しつぶされそうな体を持ち上げる。


「しかたねい、行くか」


 この言葉の重みは今の俺にしか分かるまい。

 そしてこれ以上ここで喋っていても仕方いくまい。


「え、どこに? 部活決めてないんでしょ?」

「今…決めたよ」

「いま!?」


 ああ。そして今この場にいないブラザーと共に3年間を過ごそう。



 

 いつも俺たちが授業を行っている、まだ真新しい塗装が施されている本館から裏手に出る。 すると雨をしのぐために気持ち作られたプレハブ屋根が上空にある渡り廊下が俺を迎えた。

 奥に薄っすらと見える古い木製のドア。

 昭和への入り口を感じさせる。


「ねぇねぇ、なんの部活に入ることにしたの?」


 言う覚悟が出来たらいうよ


「それはそうと桃風さんは何でこの学校を選んだの?」

「話がえらく飛んだね」

「出来ることならアラスカぐらいまで飛びたいよ」

「ハハ、岩神君はやっぱり面白いね」


 そうですか?

 俺はただ、今の心理状態を述べたにすぎないのだが…


「私はここの学校に入ったのは、制服がかわいいからだよ」


 なんて安易でそれでいてかわいい答えなのだ。

 本当に惚れてしまいそうだよ桃風さん。


「紺色の2つボタンのブレザーとグレーのスカートの組み合わせがかわいいの」

「どれどれぇ~? 本当だ~かわいい~ね」


 本当に制服っていうのは、年頃の女の子をおいしそうにみせる効果に秀でてやがる。

 けしからん。ムフフ。


「なんか、息荒くない?」

「き、気のせい、だよ。 その朱色のリボンもかわいいね、ちょっとかがんでみて」

「え、かがむの? こう?」


 YES!!


「スカートの柄もいいよね」


「柄? 薄いチェック模様のほとんど無地じゃない」


 そんなことはどうでもいい!

 生足、生足、生足、生足、生足。


「でも、薄く見えるチェック、そこがいいってことだね。 さすが岩神君分かってるね」


 桃風さんはそういうと俺に見せつけるようにくるりとその場で回った。

 膝上に装備されたスカートの裾が風に揺られてふわりと舞う。


 見えぬ!!

 もう少しなのに、見えぬ!!

 太ももよ!今は貴様の出番ではないのだ!!


「どう?」

「惜しかった!」

「え?何が!?」

「現実逃避かな」

「どうゆうこと!?」


 その後、俺たちは別れた。

 占い研究部なる怪しげな1階の教室に入っていく桃風さん。

 教室から出迎えた女性は黒いローブを被っていた。

 怪しい、怪しすぎるよ桃風さん。


「それでも女性の体と心研究部よりはマシか。今から俺が入る部活を考えたら人様の部活を怪しいとは口が裂けても言えぬ。怪しさといかがわしさでは他の追随を許さないからな」


 クソ野郎共の根城こと通称「女子研」はキィキィと軋む階段を上り上った3階に鎮座、もとい追いやられているように見えた。


 やべぇ

 行きたくねぇ

 生きたくないぐらい行きたくねぇ。

 くたびれた木製の引き戸は鋼鉄の鉄格子と錯覚するぐらい重かった。


 うじうじと扉の前でノックする手が停止する俺、すると戸の中から楽しそうな声が聞こえてきた。


「おい早く見せろよ」

「まぁまぁ、ゆっくりとゆっくりと、そのほうが楽しめる」


 何を!?


「俺、見たことない」


 え!? 何ををぉぉ!?


「いっつもモザイクかかってるから」


 あれか!!

 あれのことを言ってるのか!!石田ぁぁ!!


 た、楽しそうな部活かもしれん。うん

 俺の心と息子はいきり立って止まんねぇぜぇ。

 両の目を優しく閉じた俺

 今までの苦悩が嘘のように表情がやわらかくなった。


 もういいじゃないのか?岩神社よ

 え?誰だい!?

 神じゃ 

 神!?なぜ神が!?

 そんなことはどうでもいい、見たいんじゃろ?

 見たいです!

 したいんじゃろ?

 したいです!

 では行け!!


 入ろう

 欲望のままに。

 いざ尋常に!!


「だれかいるのか?」


 !?


「だれもいない」


 開かれたドアから顔だけを出した男がキョロキョロと廊下を見通す。

 あれは石田ではない、誰だ? いや、誰でもいい。

 直にブラザーと呼び合う仲になるのだからな、フーハッハッハッハ!!


「気のせいか」


 しかし困ったことに俺はつい隠れてしまった。

 背後に女子トイレの存在を感じながら俺は息を切らす。

 こうなってしまうと、すぐには行きずらいな。

 少し時間を空けるか



 その後俺は1つ下の階へ。

 なぜ隠れてしまったんだ?その答えを2階の掲示板横にあった自動販売機に抱きつくように全体重を預け問いかけたが、もちろんというか当たり前ながら無機質な彼は何も答えてはくれなかった。


「1回退いたのはまずかった。 またあのドアを開ける為に必要ない羞恥心がじわじわとよみがえってきた」 


 どうしよう小1時間3階に上がりたくない症候群になってしまった。 

 仕方ないから俺は目の前にあった錆びれた長いすに壊れないようにそっと腰を落とした。


「あ~あ、今は…3時か。 部活は5時ぐらいまでだったから、まだ時間はあるな~。 そこから職員室に行って、ん?」


 なぜ俺はこの時、見上げてしまったんだろう?

 昼下がりの太陽に光が建物の隙間をすり抜けるように入ってきて掲示板を黄金色に照らしたからか…

 たったこれだけの行動がその後の俺の人生を劇的に変える、忘れられない3年間を決定ずけるとは当然ならがそのときの俺は知るよしもなかった。


 力なく張られた紙、くたびれたそれらがひと昔前の掲示板から見下ろしていた。

 ほとんどがいつ張られたかわからないものたちの中で異彩を放つ真新しい1枚。

 視線を上げた目を細める



[ボランティア部(新設)] 旧校舎2階東棟1番端の音楽室

・なぞ募集!どんななぞも、たちどころに解決いたします。

(注)ただし、当方の所長が興味を持つなぞに限ります。


「ボランティア…部? なのか?」


 なぞって何ですか?


 悩み事を表す隠語かなにか…か?

 いやいやいや、ここで隠語にする意味も価値もない。

 しかも、当方の所長が興味を持たないとダメって、ボランティアなのにダメって、ダメって言われた人はどうしたらいいんだ。

 っていうか所長って何!?


「気になる」


 知的好奇心からなのか、俺は何かに突き動かされるように2階の奥にある旧音楽室に足が向いていた。

 この意欲的行動、初めてパのソコンで”無修正、マンコ、画像”と生唾を飲みながら打ち込んだ時と似てやがる。

 へっ、それほどのもんか俺が直々に確かめてやんぜ。

 

 程なくして着いた。

 ま、徒歩1分の道のりでしたがね。

 今も昔も変わらず、音楽室ってのは無駄に全長が長いな。

 この長さが生かされることはあるのだろうか?…ま、どうでもいいか。

 音楽室と書かれた札から視線を落とすとそこには適当なプリントの裏にマジックで書かれたとおもわれる、ボランティア部の文字。



「あの~すいませーん」


 ちょっとした情景描写もそこそこに手の甲はドアにツーノックしていた。

 不思議だ、あのゲス部にノックするときは自身の存在価値について考えさせられたが、普通?の部活へのファーストコンタクトはこんなに気楽なものなのか…


「ハイ」



挿絵(By みてみん)



 みずみずしい声と共にドアから出てきたのは白く滑らかな指先。

 そして目の前に立っていたのは1人の日本人離れした金髪少女。 

 少女は俺を見るなりブルーダイヤを連想させる青い瞳を怯えさせた


「あ、あの、ご依頼なぁいゃうは?」


 噛んだ、そしてかわいい。

 ムチムチのボディーがたまらん。

 桃風さんの少し気崩した着こなしもよかったが、この制服(特に胸部分)が窮屈そうな着こなし?も、これまた、グヘヘ。


 俺は「いかんいかん」とあふれ出てくるよだれという欲望を押さえ込み質問した。


「ここって、ボランティア部…ですよね? 見学したいんですけど」

「は?」


 は?と言った少女はサイズが合っていないと強調する胸を制服で押さえ込み、疑問符を浮かべるとくるりと180度ターンを決め、身を翻した。

 黄金に輝く長髪が円を描く。


「あの~ホームズさん」


 助けを求めた少女は教室の奥に問いかける。


 教室はカーテンに光を半分ほど遮られていることにより半分暗闇、半分日中という感じだった。

 教室のど真ん中にポツーンと置かれた机

 パイプ椅子とセット販売されてそうな長机。さらに奥に目をやる、隅には古びた大木で作られたのかと思うほどの大きな机が置かれている。


 金髪少女の問いに窓の外を向いたまま、大木机とはまったく合ってない黒い社長椅子は淡々と答えた。 


「私はボランティアなんてものに興味も関心もありません。 そして部員はもうそろっています。お引取り願いなさいワトソン君」


 ホームズと呼ばれた主は見るからに高級そうな本皮椅子の肘たてに手を置き、こちらへ顔を向けた。

 手に持ったティーカップの湯気がゆっくりと揺れる。



挿絵(By みてみん)



「あなたは1年生ですか?」

「あ、はい」


 優雅に椅子に座る少女は俺の顔をチラッと見ると、再び窓の外に進行方向を変えて手に持った紅茶を飲み込むように、静かにそしてきわめて冷静に俺の答えに頷く。



 ワトソンと呼ばれた金髪爆乳少女とはコンセプトから違う少女。

 髪は日本人形を思わせる漆黒の髪が現代風にウェーブがかかり、その清楚な顔には不釣合いなアイシャドーほどとも思える、くっきりと色づく目の下のクマは死ぬほど似合っていた。


唇に塗られたカラス色のリップグロスが怪しく、つやつやと光沢を放つ。

 しかしそこから発せられる言葉は、黒から連想させられる誘惑性やミステリアス性は一切無く、ただただ感情の無い機械のようだった。


「1年生なのにこの時期まで部活を決めていないことを考えると、あなたは特にどこに入りたいという希望を持っているわけではない。」


 ウェーブのかかったショートヘアーは肩の上で主同様、涼しげに俺を見聞するように語りかけてきた。


「するとここにきた理由は、ボランティア部なのになぜ謎などと書いてあったのか?突発的に広告を見て気になったからという理由が一番有力です。 なぜならあなたが広告を見ていなかったらボランティアなどというものに前向きに参加する人間には見えない、そんな人間ならこの4月の最終日にもなって”見学させてくれ”など悠長な発言は言わない。」


 こいつ、見てきたようなことを。

 しかし恐ろしいことにほぼ当たってやがる。

 グゥの音も出ませんよ。


「つまりあなたはこの旧校舎に理由無くやってきた、いえおそらく理由はあったのでしょうが、何かしらの理由でそれは達成できなかった。 そして1階~3階、いずれかの掲示板を見た、そこで面白そうだった、もしくは興味を引かれたから暇つぶしの延長線上としてこの部室にやってきた。 だからあなたにもう一度言います。ここはボランティア部などという部活ではありません。 そしてあなたにとって面白そうなことも興味を引かれることも一切合財起こりません。 お帰りを」


「見たところ2人しかいないけど、確か創部には5人必要では?」

「関係ないあなたに心配されるいわれはありませんが、いらぬ心配です。 なぜなら他3名は幽霊部員で確保済みなので」


 馬鹿にした顔をするならまだマシだったかもしれない。

 けれど女はチラリと俺を1度見てからというもの、一切こちらを見ずに窓の外を眺めていた。 それはまるで俺という存在に興味が無いと言っているように


「しかし、そうですね…あなたがどうしてもというのなら、幽霊部員でならば許可します。 だからあなたは胸を張って帰宅部になるといい。 それがあなたの望みでしょう?」


 この女は俺の心を読んだとでも言いたいのか?

 ふざけんなよ、馬鹿にしやがって。

 お前に俺の何が分かる?

 お前みたいな人間に何も分かるわけがない。


「勝手な解釈してもらってなんなんだけど…でも君の言ってることほとんど違うよ」


 部室の中にいるのはたったの2人、昔みたいに何百人の観客がいるわけじゃないんだ。 ”できる”そう自分に言い聞かせた。

 そしてこの場にいる2人を”騙してやる”と俺は今までへの字に固く結ばれていた口角を上げる。


「どういう意味ですか?」


 それは本当に気持ち上げる程度、この女が気づくか気づかないかの微笑の初動。

 女はそれを横目で見ると目を細めた。


「どうもこうもないよ。 俺は広告なんてものは知らない、俺がここに来た理由は生徒会の業務でだよ。」

「あなたが生徒会の人間だというんですか?」

「ええ」


 表情から見るに疑ってるな。

 ということはこの後にこの女が言うであろう言葉は


「で、何か御用ですか? あ~見学でしたっけ?」


 こちらが何のようで来たのかをさぐってくる。

 ここでこちらが答えを渋れば俺は生徒会の人間ではないことがばれる。

 しかも質問のしかたに余裕を感じる、もし本物の生徒会でも主導権を渡さないようにこの女は考えている。

 俺がもしも本当の生徒会なら何の目的でと…とんだ茶番だが、そっちがその気ならこっちも本気だしてやる。


「ええ最近部の不正申請が多発しているのはご存知ですか? ここがその疑いをかけられている、それで俺はここに来ました。 部の申請をした方、つまり部長は金髪のあなたですか?」

「なるほど。 筋は通りますね、部長は私ですよ。 名前は…」


 そのクマで彩られた目は、まるで俺の心を読むようにねちっこく視線を合わせてくる。


「あなたに当ててもらいましょう。 もちろん知っていますよね?」


 そうきたか、確かに俺が本物の生徒会なら造作なく答えれる内容。


「すまないが知らないな」

「知らない? それはおかしいですね、私は部の申請をする際自分の名前を部長の欄に書きましたよ。 本物の生徒会役員なら知っていないと話が通らない」


「今年、いくつ部活が出来たか知っていますか?」

「ワトソン君」


 急にホームズなる女に問いかけられた自称ワトソン。

 床に置いてある学校指定のかばんを急いでごそごそ、そしてキラキラとしたラインストーンが散りばめられた手帳を取り出した。 


「えーと、16です。 現在44の部活がこの学校にあります」

「だからこういう自体が問題になったんですよ。活動もしていないのに部室や活動費をせしめるやからが多くなったからね」

「え!あの!、違うんです! ここはあの~ボランティアも」

「今おたくの部長はしてないと言ったけど?」


 少し苛立ったかのように俺は言葉の節々に怒りの感情を入れた。

 よしよしワトソン君とやらは焦ってやがる、話題も俺がおたくらの名前を知らないから変更成功。

 しかし奥の女は目を閉じて眉間に手の平をあてがう。

 何を考えてるかわからない。


「なるほど。 部が多くなって新人の自分も借り出されている状態、だから申請用紙など見ていない、つまり私の名前など知っているわけない。」

「え?ああ、うん! そうだ」


 話題変更、失敗してた!?

 いかん、思考が追いつかん、とりあえずこの女に合わせよう。


「筋は通りますね」

「ならとりあえず名前を教えてもらえるかな。 このままだと俺は君の事をホームズと呼ぶしかなくなる」

「それいいじゃないですか!ね? ホームズさ」

家頭謳歌いえずおうかです。」

「はうぅ」


 ホームズは却下らしいよワトソン君、残念!!


「え~と、そちらの金髪の方は日本人では…」


 俺の問いかけが終わりきるまで待てなかったワトソン君。

 そのはち切れんばかりの胸を反る。


「日本人。 でも三世、おばあちゃんイギリス人だから」


 いかん、なんか踏み込んではいけない話題だったか。

 いたずらや嘘は好きだが、それで人が傷つくのはいやだ。


「へーでもワトソンってかっこいい名前だね」

「ハイ、お気に入りです!!」


 そっか、よかったね。

 家頭謳歌は癇に障る女だが、君は嘘のつけない心の綺麗な子だよ。

 俺だけはわかってるからな。


「ちなみに彼女の本名は孫一和戸まごいちわとですよ」

「ワトソンもイギリスのおばあちゃんも関係ねーじゃねーか!!」

「ハハハ、面白いことを言われる。 わたしはシャーロックホームズの片腕、探偵のワトソン君です。」

「コナン・ドイル作のシャーロックホームズに出てくる、助手のワトソンは探偵でなく博士だぞ」

「「え?」」


 共に口を開けた2人。

 ホームズお前もか!?


「ホームズさん、ワトソンは探偵だって言ってましたよね?」


 家頭はゆっくりと紅茶を含む、そして味わうように外を見る。


「言って…ましたか、ね?」


「えぇぇぇぇぇぇ!?」


 ホームズが己の無知をさらけ出すわけにはいかない。

 孫一和戸、いやワトソン、お前が知らなかったことにするのだ。

 ワトソンは無言の圧力を感じ取って黄金の髪が顔を隠すほどに頭をたれた。


「わたしかな? 勘違いしてたの」


 その従僕精神や見事!


「そう。じゃあ改めて家頭謳歌さん、孫一和戸さん、なぜ不正申請したのかな?」

「不正? おかしなことを言われますね。 私は不正などしていない」

「じゃあなんでボランティア部って名前にしたんだい?」

「認可がおりやすいから、それ以外にボランティア部なる名称を付ける理由があるというんですか? 面倒な客が来たら、同じく今年できた地域貢献部に回します。実質そこがボランティア部ですから」


「ならボランティア部という看板を譲っておあげなさいよ」

「それは敗者の意見です。 私たちのほうが早く部名を登録した、ならこちらが譲る責務も理由もありません。 残念ですが先方にはあきらめてもらうしかありませんね」

「ならこの部活の存在理由も同時にありませんね」

「ここで意義を求められても困ります。審査をして判を押したのはそちらです。 こちらは活動内容の欄に”ボランティア活動”などとは書いていません」


 マジかよ、この女。

 書いたのか”ボランティアに興味はないと”ボランティア部という看板を掲げているのに!?

 どんな神経してんだよ、そしてなんで認めたんだ生徒会長!?


「まぁ、それはじゃあいいとして。 活動内容ではなく5人という規定を守らずに部室を占領していることが問題についてはどう弁解するんですか?」

「でもそういう部活はうちだけじゃないです」


 そうそう。

 こうやって高圧的に言うと普通は焦りながら自分だけじゃないって言うよね。

 可愛げのある孫一さん、潤んだ大きな目もかわいい。

 それに比べて家頭さんは冷静だね、焦ったそぶりも見せない。

 達観したその瞳は細身の体を大きく、自身に満ち溢れさせていた。


 この女を完全に騙すにはいったいどうしたら…


「とりあえずこの部には2人しかいない、後3人は幽霊部員だということは上に伝えさせてもらいます」

「そんなぁ」

「………」


 俺のハッタリは効いてないのか?

 それともこの女は聞いてないのか!?

 そうなってくるともう騙す手がない、演技は問題ないと思うんだが


「ふ、焦る必要ありませんよワトソン君。 どこまで本当だか、それにこの人物が本物の生徒会役員でも1年生、入りたての人間にそこまでの権限があるとは思えません。 」


 おや?

 おやおや?


 今までは俺が生徒会の人間で無いことを前提に考えて述べていた口から、出た”本物だとしても”これは面白い。

 こいつ、無意識に信じ始めてるぞ。


 ならここで”あれ”を言ったら効果があるかも


「まだ俺が偽者の生徒会員だと思うなら職員室にでも生徒会室にでもどうぞ聞きにいってください。 そして家頭謳歌さん、あなたのマネをするならもう1度言います。 活動内容に問題が無くとも規定である5人を守っていないのは問題です、だから胸を張ってなるといい、帰宅部にね」


 言ったったよーーーー!!

 全部嘘だけどね☆ 聞きにいかれるとバレちゃうけどね♪


 でもここまでしないとお前は信じない。

 まぁもとよりこちらには嘘がバレて困ることなど無いのだよ。

 ノーリスク、ハイリターン。

 気にしてるのは逃走経路だ。


 長い沈黙は音楽室全体を6畳1間に変換するぐらい窮屈なものだった。

 ワトソン君、俺と謳歌さんの間に挟まれてオタオタするのは分かる。

 でも今の俺は君よりもドギマギしてるよ。



「信じましょう。疑ってもうしわけありませんでした。」


 勝った。

 こいつを騙すという当初の目的は達成された瞬間。

 勝者、岩神社という名の俺!


 さて、このいけ好かないインテリ女に敗因というプレゼントを授けたわけだが、どうやってこの場から去ろうかな。

 生徒会を演じることで酔いしれた満足感から醒めた俺は背後にあるドアをチラチラとまばたきの回数を増加させながら見る。


「じゃあ俺はこのへんで!」


 これ以上ここにいるとボロがでるかもしれん。

 帰ろう。

 お家という名のゲス部へ。

 見てるか? 石田よ。

 共に女子の体と心を調べつくそうではないか。


 そして次、君たち2人に会った時はアザー、他人だよ。

 話しかけても無視しちゃうぞ☆


 そう思ってドアに手をかけたんだ、すると閉め切ったドアから全員の耳にノックの音が飛び込んできた。



[事件番号#1.割れた花瓶と割れなかった壺]



閲覧ありがとうございました。

よかったら次も読んでねヽ(;▽;)ノ

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