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「オレロレレレレrrrrr」
太陽が心地よく暖かさを運んでくれる。
ドンブラコ~ドンブラコ~と揺られております。
俺の視界も波打つ青い海面と同様に揺れております。
「ハァハァ、、気持ち…悪いよぉ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫に見える?」
「いいえ、尻から空気を入れられ膨らんだカエルが爆発する寸前に見えます」
「たとえが具体的すぎる」
息をすると海に流れる潮風が肺に入ってくる。
死んだ目から複数のダイヤモンドのような涙を流しながら俺が背後を見ると、スラリと伸びた白い足が目に入ってきた。
それが謳歌さんだとムラムラしながら確認した俺は、気を紛らわすように口を開く。
「謳歌さん、桃太郎って三半規管が強靭だったからこそ鬼に勝てたんだと思うんだ。 だって桃太郎が酔い止めの諸成分を体内で生成できてなかったら、桃を開けたとたん…地獄だぜ」
「地獄だぜ、とおっしゃられても……そもそもアレはフィクションですよ社君。 考えても見てください人間1人が村ぐるみで手を焼いていた鬼に挑んで勝てるとは思えません。 それに鬼が島ですよ、鬼が1匹とは考えられない島という表現から複数匹いたと考えられます、下手をすれば数百、その大群にサル?キジ?イヌ?そんなチャチなペットまがいのやからが何の役にたつと? いいところ桃太郎もろとも鬼のペットとして末永く幸せに暮らすのがこの物語のGoodエンディングでしょうね」
「そりゃ夢も希望もないね」
「夢や希望が存在しないことはファイナルファンタジーⅩのティーダも言っているのでまず間違いないでしょう」
「ゲームの影響を受けすぎだろ、謳歌さんの中でティーダはキング牧師か?マイドリーム見てるのか?見えなくても一歩踏み出すことに意味を見出して…オロレレレrrrr」
「ツッコミも満足に出来ないとは、出発前にカップラーメンなんて食べるから」
「だって食べたかったぁ……オロロレレレ」
このような悲劇がなぜ起こったのか、それを説明するためには時間をさかのぼらないといけない。
ほんの4時間ほど前、学校の校門まで…
……………
………
【四月終わりの某日、土曜日、早朝、六時】
眠い。
ため息に眠気が混じって口から出て行く。
日に民と書いて眠いのだから、こんな暖かい日差しだと一般ピープルであるところの俺は寝てしまったとしてもそれは仕方がない。
朝日を浴びながら田園風景を歩いて学校の校門の前でうずくまる。
丸まっていると何だろう?
ネコの気持ちが良く分かるぅぅzzzz。
「おはようございます」
「zzzz。。。ん?我輩はネコでぇある」
「ネコからかわいさを引いたら、それはただの汚物ですよ。ええ、おはようございます、社君」
どこか陰のある声と心を砕きにかかる罵声、俺の脳細胞は家頭謳歌だと認識する。
目を開けた。
「………」
「何か?」
「いや、、、なんていうか、それ、ゴスロリファッションでしょ? こんな田舎で見ることになるとは思わなかったっていうか…それがそんなに似合う人を初めて見たから、あまりの衝撃で脳がフリーズを起こしてるんだよ」
謳歌さんは誇らしそうに日傘用の黒いフリル傘をパタンと閉じた。
「ふふふ、そうでしょうそうでしょう。 私は”流行というのは自分で作っていく”をもっとうに幼い頃から服を選んで来ましたからね、何を隠そうこの完成系のファッションは小学1年生には完成していました、そして歓声が」
「あったの??」
「いえ、皆まか不思議なことに近づいてこなかったですね」
そりゃまぁ…
そのファッションが認知されている今でも限定的な場所以外では誰もよってこないだろうよ。それを幼稚園を卒業したての小学1年生がしてたなら…浮いただろうな大気圏を軽々突破するほど。
「ゴスロリといっても、黒で統一すればいいというものではありません。 淡い黒や、濃い黒、はたまたグラデーションのようにするのか? それによって」
なんか語り始めたぞ
………
……
「チラリズムやエロティック、それらも黒という色が持ち合わせている特色の」
もう勘弁してくれ
「ぐぅぅぅぅ」
「お腹が減っているんですか?」
「うん。 誰かさんのせいで夜寝付けなかった、そして朝急いでたから食べ損ねてね」
「自分の自堕落な夜更かしを人の責任にされてもね、まだ時間は結構ありますが?」
「1分でも遅刻をして正義の名の下に、君のご親戚に痛めつけられる悪夢ならぬ予知夢を深夜3時に見てしまった結果寝れなかったんだ」
「そうですか。 ではこれを」
え?
謳歌さんはどこから取り出したか分からないコンビニ袋からホクホクした肉まんを取り出した。
「もらっていいの?」
「ええ、私は今、気分がたいそういいので恵んであげましょう。」
「はぁ、じゃあ遠慮なく」
俺は勢いよく頬張った。
中に入っていた旨みたっぷりの豚汁が口の中に広がっていく。
うぅぅぅ、デリシャスぅぅぅ。
ありがたやぁ~、ありがたやぁ~。
「大変おいしゅうございました。 この安っぽい豚の汁が溢れる感じ、貴重な庶民の味を体験させてもらったよ」
「差し上げたことをこの上なく後悔する謝礼の言葉ありがとうございます」
「冗談、冗談♪それはそうとこれもらってよかったの? 謳歌さんの朝ごはんじゃないの?食べてよかったの?」
「その心配する言葉とは裏腹にあなたは早々に食べ終わった包み紙をコンビニ袋の中に入れてクシャクシャしたわけですが、、気にしないでください私はもう食べました。 それは餌です」
「えさ?」
「ええ、ワトソン君の」
「ワトソン君の朝ごはん!? お前っ、ふざけんなよ!!食っちまったじゃねーか!! 今から戻せるかな? いや、戻したとしても原型を保てる自信が……」
「その反応の違いに怒りと憎しみを覚えますが、、、まぁいいでしょう。 ワトソン君に昨日の夜中に明日の朝迎えに行くと連絡したんです」
「うん、ワトソン君には私から時を見て言うので黙っておいてくれって俺にも言ってたもんね」
「ええ、すると電話越しにゴネましてね」
「そりゃ急に明日、パーティに行くからついて来いって引きこもりに言ったらゴネるだろうな」
「はい、電話越しでも分かるぐらいベットで嫌だ嫌だとゴロゴロ」
想像するとたいそうかわいいな。
「だから…」
「だから?」
「朝、家の前で肉まんをチラつかせると出てくるかと」
「出て来ねーーーよ!! どんだけ単純な生き物なんだよワトソン君」
「あいつは単純ですよ」
「んなことは……まっ、単純かも知れないけど。 てことは今日はワトソン君は」
周りを確認する瞳の動きが無駄だと悟らせるほどに、ここにはゴスロリ女しかいない。
導き出される結論は当然
「欠席ですか」
「はい」
明瞭な返答は今から訪れる2泊三日ほどの仏滅のような日々を、ゴスロリとゴリラをお供につれて天竺への道のりに挑戦するようなものだ。
戦闘能力に文句は無いが、いかんせんコミュニケーションを取れるかが疑問だ。
「なぜ頭を押さえるのですか?」
「なぜだと思う??」
「頭皮に不安が」
「ねーーーーーよ!!!!フッサ!フサ!だよ!!」
うずくまり、膝を折る。
するとゴスロリバックからまたしてもコンビニの青い袋が見えた。
「なにそれ」
指を差した先を追った謳歌さんは目ざといですねと言わんばかりに袋をギュッと取り出す。
「ワトソン君の昼ごはんに10時のおやつです」
本格的に君はワトソン君の飼い主みたいだな。
「ちょうだい。別にあの腐れパツ金女は来ないんだからいいでしょ」
「構いませんが…カップ麺とカップ焼きそばですよ」
「どっちがおやつ!?」
ともあれ俺は職員室でお湯を借りその2つを平らげた。
これぐらいは着手金としてもらっても文句は出ないだろう。
なんたってこちとらゴールデンウィークの三日ほどを訳の分からないボランティア活動に費やしてやるのだから。
程なくして長い見たことも無い黒塗りの車からゴリラが一匹降りてきた。
ラチラレタ
…………。
………。
……。
【時間は胃液を戻すがごとく10時へ、水上の船】
「社ちゃん」
「え?」
優しい口調とは裏腹にドスのきいた声。
見たくはなかった、、、
出来ればこのまま波を見ていたかったが、このままシカトを決め込むことでの命の危うさを鑑みれば見ないという選択肢は僕にはなかった。
怯えた子羊のように恐る恐る視線を移すと船の先頭に冠銅生徒会長が腕を組んで真っ直ぐ前を見据えていた。
何してんの?
「社君、昔から言うでしょう? バカと何かは先頭車両が好きと、うぷぷ♪」
「バカ?」
「いえいえいえ!言ったのこいつですよ!」
「…そろそろ着くよ」
先を見ると俺は湧き上がる吐き気を忘れた。
「すご」
波しぶき越しに現れたのは大きなホテル。
豪華三ツ星を彷彿させるレンガ仕立ての外観、その巨漢な本館と人工で作られた緑面コートが敷地を埋め尽くすように小さな孤島に聳え立っていた。
謳歌さんは俺のように驚いた様子もなく波風とホテル越しの日光をいぶしげに、そしてふてぶてしく言った。
「えらく豪華建物ですね」
「施設は元々警察官の慰安を目的に作られたんだけど、近年の財政状態の悪化からゴミの廃棄施設だと偽って現在も慰安施設として警察の上層部にご愛顧されているんだよ」
「その言い逃れだときつくないですか?」
ん?と首を捻る冠銅生徒会長に俺はコートの方角を見ながら話を続ける。
「いくら公式の会見で廃棄施設だと行った所で現実にはキレーなコートに豪華なホテルですよね、マスコミに袋叩きにされそうなもんですけど」
「うん、だからメディアへの対応策や国民からの追求を逃れるために大型高温焼却炉を作ったんだよ」
「ふっ、お役所が考えるやっつけ的な対応とどぶ水のように国民の税金を使って自分達の既得権益を守ったわけですね」
「謳歌さん言い方あるでしょう。 冠銅先輩のお父様は警察官様なんですよ」
「…あなた彼にワイロでも受け取っているんですか?」
「受け取ったのはワイロじゃなく恐怖心だよ、返却不可の赤札だよ。」
「?」
そんな無垢な瞳で首を捻られても。
君にとってはただのガタイの大きな親戚の兄ちゃんだろうが、第三者から見たら十分、激甚災害指定物なんだよ。
身長測ったら2メートル超えてるんじゃないのか?
「いや、いいんだよ社ちゃん。 謳歌ちゃんの言っていることは至極全うなまでに正しい」
謳歌さんは、切れ長の目を細め、冠銅先輩の心内に語りかれるように口を開いた。
「あなたは納得してすませるんですか?」
「納得?ありえないよ。その言い訳じみた対応策がありえない。 この国を守っているのは警察だ、慰安施設の1つや2つで文句がでることが僕には一番ありえない」
今までで一番回答に時間をかけなかった。
でも先輩、一つあなたに問いかけたい。
ありえないのは”そこ”ですか、と。
俺はそろそろ目前に迫ってきた船着場に下りる準備をしながらこの国の行く末に不安を抱かずにはいられなかった。
………
……
…
「陸地だぁぁぁ、愛してるよ母なる大地ちぃぃ」
俺は不安定な船から安定なる台地によろこび降り立つ
足はがくがくと荒波のように揺れる。
瞳からは自然と、ごく自然に涙がブワッと溢れ出す。
「ちょっと見ない間に歩き方が老人化しましたね」
「もう乗らないもんね! 絶対乗らない! こんな化け物に乗るもんかぁぁぁぁ!」
「しかし帰りも」
「やだよ! 絶対ヤダ! こいつは俺を殺すために生み出された拷問器具に決まってるもんね!」
「あなた一人を拷問するために船が生み出されたとする考えそのものを矯正することをお勧めします。いっそう帰りは泳いで帰ってはいかがですか?」
「まだ寒いから断る」
「では帰りはどうするつもりですか?」
「謳歌くん、ヘリを呼んでくれたまえ。 時間だって?ハッハッハ、俺は心が広いからね、時間は君に任せようじゃないか」
「じゃあこれをどうぞ。タケコプターです」
「わーい♪ありがとう♪謳えもーん♪ って!!これ竹とんぼ!!てか!何でこんなもん持ってんの!?」
「私のバックは時間を跳躍する」
「四次元ポケット!?」
「謳歌ちゃんも社ちゃんも元気だねぇ~」
俺達のゴッドファザーとも言うべき冠銅生徒会長は、まるで黒幕のように最後に先導に挨拶をして船からどしどしと下りてきた。
その重さから乗ってきた船と船着場をつなぐ木製の跳ね橋がギシギシと軋む。
「いっそ折れて沈めばいいのに」
「ん?何か言ったかい、社ちゃん?」
「いいえいいえ、今日もその時代錯誤のサングラスがよくお似合いだと思って関心しておりました」
「やっぱり分かるかい? 実は今日はいつものとは角度が違うんだよ」
「角度? あーレンズ部分のですか」
「いや、鼻アテの部分」
わかるか!!
「これが違うだけで気持ちの持ちようが変わるんだよ」
この上なく有益性の無い情報をありがとうございます。
できれば気持ちの持ちようも変化から退化して、そのまま動物園で生涯を過ごして頂けると幸いでございます。
「遠路はるばるご苦労様です王土さん」
俺達の爆笑コントにクスリとすることなかった無礼者なので電柱か何かだと脳内錯覚してしまっていたが、船着場の灯台下にスラッとした一人の女が立っていた。
「私は電柱ではなく生きた人間だと分かってましたが」
ほんと俺の心と会話するのそろそろやめない?
てか、生きたっていう助動詞は不要だろ?死んだ人間がいたら俺だってそっちに注目するよ。
なにはともあれ俺達にお辞儀したのは、細長な長身に出来るOL風のスーツを身に纏った女性だった。
滑舌のよい凛とした表情。
さすが警察官といった所だろうか、よく見ると細い腕は体操選手のように引き締まっている。
年齢は20代前半といった所だろうか? 切り揃われた黒い髪が清潔感と清楚感を演出して正確な年齢が絞れない。30と言われればそれも納得してしまう落ち着いた振る舞いだった。
「やぁ久しぶりだね、2日ぶりかな?沙里ちゃん」
それ久しぶりって言わないよね。
「はい、お久しぶりです」
久しいかな?
「この方達が…」
「ああ、そうだよ」とだけ返答した冠銅生徒会長、俺達に向かってまるで獣のように大きな口を開けた。種類で言うとグリズリーかヒグマ辺りだ。
「2人とも~!この人が言ってた父の部下、万殿沙里巡査部長。沙里ちゃんって呼んであげてね」
沙里ちゃんはチラッとこちらに目をやると、その長身を見せ付けるように深々と頭を下げてしてきた。
謳歌さんはそれを見るなり俺に耳打ち
「彼女は王土の秘密を知っているようですね」
「え、そうなの?」
「彼女は私達に分からないように”この方達が…”で言葉をやめた、これは王土を気遣っていることを意味します。 ではここで問題です、なぜ気遣う必要があるのか?」
「生徒会長が言って欲しくない内容だから」
「その通り。では、ここで言う言って欲しくないこととは?」
「王土先輩が解いたとされてきた事件を解いたのが、本当は王土先輩でないこと」
嬉しそうに謳歌さんは俺の耳元でフーと息を吹きかけた
「!?」
「正解です、即興推理もだいぶ馴れてきましたね、さすが社君。 ですがそれでは80点といったところですね」
驚いた俺は耳を押さえて真っ赤になった顔で距離をとった。
「あ、あと20点は?」
「彼女の立ち位置です」
「ただの警察官じゃねーの? あ、父親の部下?」
甘いと言った謳歌さん、首を振って、妖艶な手で口元を隠す。
「いいえ、私には彼女は警視監の父親よりも、ただの高校生である冠銅王土の部下に見えますね」
そんなバカな。
こう言っちゃなんだが、冠銅生徒会長はちょっとうまく立ち回れるだけの高校生だろ。あとちょっと、、だいぶ怖い高校生。
疑問符が映る俺の瞳、謳歌さんは証拠としてという言葉に続けて口を開く
「彼の父親は彼に今回の事件を解くように頼んできている点です」
「それは王土先輩がそう言っているだけで、実は父親も知っていて謳歌さんへの窓口として王土先輩を使っているとは考えられないのか?」
「それなら私にも挨拶の一つぐらいするでしょう?」
「それは俺の知らないところで内密に」
「ありませんね~未だかつて、それに思い出してみてください。 彼は脅迫状を私達に見せるときに”父にこの脅迫状めいた文章を送った人間を見つけて欲しいと言われた”と言っていたでしょう?」
あー言ってたね。そういえば
「それらから導き出される答えは、彼女は実の父親ですら得ていない王土の信用をかっている唯一の人間」
「唯一なんてなぜ言い切れる?複数人いる可能性だって」
そう言うと謳歌さんは流すように冠銅生徒会長を流し見る。
「無いです。彼の基本的な思考パターンは”頑固”、昔から染み付いた考えにもとずき行動する。その人間が自分を曲げてまで私という存在を頼って、あまつさえ自分の手柄にしている」
「させてるのはあなたでしょ?」
「過程はどうであれ結果は手柄の横取りです。彼がそんなことを許せそうな人間に見えますか?」
「…見えないね、自分が信じてない道なら壊しそうな感じにみえる」
「ふふふ、面白い表現をしますね。しかしその通りです。 だからこそ、その不正を一度教示したなら彼はそれを頑なに知られないようにする、知られれば今までの自分への虚偽になるわけですからね」
「頑固者は内面が弱いみたいな?」
「ええ、そう考えていただいて今は問題ないと思いますよ。そんな彼がべらべらと自分の秘密を言いまわると?」
「それは…言わなそうだね」
「私達に口止めもせず彼女を紹介したのもいい証拠です、もしも私がしゃべってしまったら彼は終わりですよ」
そこまで言い終わると謳歌さんの瞳が黒々と色ずく。
「彼女は要注意ですよ、もしかしたら王土以上の立ち回りをする人間かも。王土が今後、そのカリスマ性をもって成り上がることを予想しているのか…それとも」
「まっ、なんにせよ」と俺の肩に手をそっと滑らせる謳歌さん。
「社君、もう少し頑張りましょう♪」
「いちいち耳元によってくんなよ!」
「さぁ2人とも、そろそろ行くよ」
先陣を切るように進む冠銅生徒会長。
ドシドシと滑らかな斜面を登っていく、後姿を見ていると横にいる現役警察官より頼もしい。今からモスラと戦うと言われてても納得できるな。
そんなことを思っていると、心の声を拾われた!?と錯覚するタイミングで沙里ちゃんと目が合った。
ぼそりとつぶやいた。
「そういえばですが、、、」
「は、ハイ。なんですか? え~と、万殿巡査部長」
「沙里ちゃんでいいですよ」
友達か!
「じゃあ、、沙里ちゃん巡査部長?」
「長いですね」謳歌さんがつぶやくように文句をたれる。
「じゃあ謳歌さんは何がいいんだよ?」
う~ん、そうですね~。と坂道によって息が荒くなった口元に手をやる謳歌さん、ハッと思いついたように手をパンと叩く。
「沙里ちゃん巡査」
「部長は!?」
「降格ですね」
「いやいやいや」
「ふふ、構いませんよ。」
「いいんですか?この女、勝手にあなたの階級を降格させましたよ」
「本当に構いませんよ、降格といってもたった二階級ですから。」
しかし
二階級つったら殉職して得られるものですよね?
「では社君、君は沙里ちゃん巡査と言い。私と王土は沙里ちゃんと呼ぶで…OK?」
「え?降格させたのは俺?」
「はい」
「はい、じゃねーよ!俺も沙里ちゃんって呼ぶよ」
俺と謳歌さんの掛け合いを沙里ちゃんは子供の戯言をほほえましく見守る母親のように微笑む。
「ええ、お願いします」
「それよりもさっきのお2人の掛け合い、とても面白かったですよ。特に竹とんぼが出てきたときにはお腹がよじれて死ぬかと思いました」
はずかしので真顔で言わないでください。
俺は恥ずかしさから逃れるように「謳歌さんよかったね」と言ったらまんざらでもなさそうに鼻をかいた。
「…あたりまえです」
なんで嬉しそうなんだよ。
「そういえばワトソン君からメールがきてましたね」
「え?俺来てないよ、アドレスは交換したのに…」
「目に見えすぎるほどに肩を落としますね。あなたがどれだけ落ち込んみ、その結果死海に飛び込んでいただいても私は一向に構いませんが大した内容ではないですよ」
謳歌さんはそう言うと、歩きながらその服のどこのにそんな収納スペースが!?というマジックまがいなフリフリゴスロリ服からスマートフォンを取り出した。
”ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい”
綺麗に工事をされて歩道となった坂道でなければ恐怖で足が縺れて海面に身を落としていた、だろう。
「怖いな」
「ええ」
「脅迫文といい勝負してるよ。返信は?」
「してませんよ。家から出てこない引きこもりに腹が立ったので」
「しょうがない!じゃあ、ここは俺が返すよ」
「吐いた後で顔が真っ青、そんなあなたがここぞとばかり自分の携帯を取り出す様は滑稽ですね」
「うるさい。……あれ?電波が」
三つのアンテナマークは赤色の×マークになっていた。
ちょっと振ってみた。
変化なし
よし、もうちょっと振ってみよう
「今後あなたがその執念ともいえる求愛行動のすえ1秒間に3万回振るという技を身に付けたとしても無理ですよ、私もですから。この島に着くちょっと前ぐらいから電波は届かなくなりました」
「いちいち言い方が嫌みなんだよ」
沙里ちゃんは歩きながら社交性スキルをフルに使ったと思えるほどに申し訳なさそうな顔を向ける。
「申し訳ありませんここの周辺は電波が届きませんので連絡ならあの宿泊する建物にある電話を使うしかありません」
「へぇ~、じゃあここで殺人事件なんてあった日にゃ~助けを呼べないですね(笑)」
無言
「社君、私も人のことは言えませんが…さすがにブラック過ぎますよ」
「え、何で?」
「リアルにありそうだからですよ」
……帰りたいな。
「皆さん、そろそろ着きますよ」
帰りたいです。
謳歌さんは含み笑う
「さてさて鬼が出るか蛇がでるか」
勘弁してくれ。
重厚な両開きの鉄の門の前に立つ。
青々とした空の下、俺の前にそびえたつ館。
古い洋館のように見えるが近くで見るとよく管理が行き届いているのが分かる。
3階仕立ての巨漢は何も語らず、俺達を見下ろしていた。
まるで、、、
ここから逃れるような事を許さない、そういわんばかりの立ち姿だった。
これからここで俺達は数日を過ごすことになる。
ただそれは平穏な休日にはならない。
そんな確信めいた不安が胸にざわめいた。
「事件番号#3.冤罪のマリオネット」
最後まで閲覧していただきありがとうございます。
推理ものは「後出しじゃんけん」ができないので、なかなか大変です:(;゛゜'ω゜'):
よかったら次回も楽しみにしていてくださいねっ(^0_0^)