辛い幼少期を送った世界的アイドルだった俺は異世界の王子に転生し~平和のために数千年を生きる無敵の悪役令嬢と結婚することになった~
今日、人気日本人アイドルがコンサートのために海外へ向かう途中、悲劇的な事故で命を落とした。
飛行機は墜落し、生存者は一人もいなかった。
――はずだった。
突然、誰かに触れられる感覚がした。
くすぐったさを感じながら、ゆっくりと目を開ける。
目の前には、見覚えのないメイド服姿の女性が立っていた。
「アーサー様、お加減はいかがですか?」
少女は眉をひそめ、不思議そうな表情で彼を見つめている。
「え? あなたは誰ですか? ここはどこですか?」
メイドの目が大きく見開かれた。彼女はそっと彼の額に手を当てる。
「ご気分でも悪いのですか、アーサー様?」
少年は二歩後ずさりし、慌てて周囲を見回した。
(あり得ない!!!)そこは巨大な建物だった。
まるで中世の城のような造りだ。
しかし、家具や壁には金色の装飾が施されていた。
近くに鏡を見つけたアーサーは、慌てて駆け寄る。そして、その姿を見て言葉を失った。
鏡の中に映っていたのは、どう見ても十一歳ほどの少年だった。
(そんな馬鹿な!)
メイドは彼に近づき、肩を掴んで自分の方へ向かせる。
「殿下、一体どうなさったのですか?」
その言葉を聞いたアーサーは、さらに驚いた。
(殿下? どうして俺をそんなふうに呼ぶんだ?)
その時だった。重々しい足音が近づいてくる。
やがて角の向こうから、丸々とした腹を持つ男が姿を現した。頭には黄金の王冠が乗せられている。
「リリア、私の息子の準備はできているか?」
王は部屋に入ると、少年の困惑した表情を見て眉をひそめた。
「父上……?」
アーサーは、自分の口からこぼれた言葉に自分自身が驚いた。
「父上だと?」男は苦笑する。 「そんなに緊張しているのか?」
アーサーは何も理解できなかった。
儀式?王?王子?
その瞬間、頭に激しい痛みが走った。
「うあああっ!」
彼は頭を押さえ、その場に膝をつく。目の前に次々と見知らぬ記憶が流れ込んできた。王宮。
教師たち。年上の兄たち。
騎士たち。そして――名前。
アーサー・テオドール。王国の第三王子。数分後、痛みは消え去った。
「殿下!」
リリアが心配そうに叫ぶ。
「ぼ、僕は……大丈夫だ……」
アーサーは荒い息を吐いた。そして理解した。
自分は本当に死んだのだ。そして――異世界に転生した。王は安堵したように息を吐く。
「よし。それなら謁見の間へ向かうぞ」
「なぜですか?」
「エレノアから手紙が届いた」
王の表情が一瞬で真剣なものへと変わった。メイドのリリアでさえ顔を青くする。
流れ込んできた記憶が、その名前の意味を教えてくれた。エレノア。大陸中の誰もがその名を知る女性。巨大な軍勢を率いる無敵の悪役令嬢。
王たちでさえ恐れる存在。
「それで……何と書かれていたんですか?」
王は数秒間沈黙した。そして重々しく口を開く。
「お前との面会を求めている」
「僕と……ですか?」
アーサーは自分の耳を疑った。
記憶によれば、エレノアは大陸中の人々から恐れられている存在だった。
強大な力を持つ王たちでさえ、彼女の名を軽々しく口にしようとはしない。
そんな存在が、なぜ自分に興味を持ったのだろうか。
王は重々しくため息をついた。
「面会だけで済む話ならよかったのだが……」
そう言うと、彼は懐から一通の手紙を取り出し、アーサーへ差し出した。アーサーは慎重に封を開く。
そこには整った、驚くほど美しい文字が並んでいた。
『テオドール陛下へ。先日、私は貴国の第三王子を目にする機会がありました。私は彼との婚約を望んでおります。その代わりとして、王国国境に展開している我が軍を撤退させ、すべての軍事行動を停止することを約束いたします。ご返答をお待ちしております。エレノア』
謁見の間に数秒間の沈黙が流れた。
「婚約……?」
アーサーは手紙を何度も読み返した。
そして王を見る。再び手紙を見る。もう一度王を見る。
「彼女は……僕と結婚したいと言っているんですか?」
「だからこそ、お前と直接話をしたかったのだ」
テオドールは疲れ切った表情でそう答えた。
ついさっきまで飛行機に乗っていたはずなのに、今は王宮の中で、大陸中から恐れられている女性からの手紙を読んでいる。あまりにも現実離れした状況に、頭が追いつかなかった。テオドール陛下が俺へ視線を向ける。
「それでどうする、息子よ? 受けるか?」
アーサーは肩を震わせた。
「父上……でも、彼女は僕よりずっと年上ですよ……」
王は重いため息をつく。
「そのような存在にとって、年齢などとっくに意味を失っている」
その後、一行は長い廊下を歩いていた。すると――
突然、すぐ隣の壁が凄まじい轟音とともに粉々に吹き飛んだ。ベアトリスは即座にテオドールとアーサーを掴み、その場から飛び退く。アーサーは彼女の力に驚愕した。やがて土煙が晴れ始める。その場にいた全員が息を呑んだ。目の前に立っていたのは――
エレノアだった。
圧倒的な存在感を放ちながら、彼女は悠然とそこに立っている。
「エレノア!? まだ返事の期限は残っているはずだ!」
テオドールが叫ぶ。
「ごめんなさい、テオドール」
エレノアは平然と答えた。
「もう待てないの」
そして彼女の視線は真っ直ぐアーサーへ向けられる。
「今すぐ返事が聞きたいわ」
テオドールとベアトリスは同時に、呆然としている王子へ視線を向けた。
「そう……」
エレノアは小さく呟く。次の瞬間。彼女はすでにアーサーの目の前にいた。そして何の苦もなく彼を抱き上げる。
「アーサー!」
テオドールが叫んだ。ベアトリスもすでに攻撃態勢に入っていた。
「心配しないで」
エレノアは落ち着いた声で言った。
「彼が成人するまで待つわ」
彼女はアーサーを地面に下ろし、その瞳をじっと見つめる。なぜか厳しい表情の中に満足そうな色が浮かんでいた。
「この子が第三王子なのね」
アーサーは緊張した様子で唾を飲み込んだ。
目の前にいるのは、一人で王国を滅ぼすことすらできる女性だ。
「えっと……こんにちは?」
「こんにちは」
エレノアは軽く首を傾げた。テオドールとベアトリスは呆然としながらその様子を見守っている。
「エレノア! お前、私の王宮の壁を壊したぞ!」
「扉が遠かったの」
「それは理由にならん!」
エレノアは彼の抗議を完全に無視した。
「アーサー、私の婚約者になる気はある?」
王子は固まった。
「そういうことって、普通は知り合ってから聞くものじゃないの?」
「なら、今から知り合いましょう」
「そういう問題じゃない!」
長い年月の中で初めて、エレノアの顔にわずかな笑みが浮かんだ。
「私はエレノア。年齢は覚えていないわ。静かな場所が好き。戦争は嫌いよ」
「でも戦争を始めるのは君じゃないか!」
「たいていは、誰かが私を殺そうとしてきた後だけど」
アーサーは返す言葉を見つけられなかった。テオドールは頭を抱える。
「エレノア、せめて彼が私たちに会いに来られるようにしてくれ!」
女性は意地の悪そうな笑みを浮かべた。
「皆さんを式にご招待します」
そう言うと、彼女はアーサーと共にその場から姿を消した。ベアトリスは拳を握り締め、床を叩く。
巨大なエレノアの宮殿へ転移したアーサーは、驚きのあまり口を開いたままになった。
「さあ、ぐずぐずしていられないわ! 準備は全部できているもの!」
「え?」
彼女の豪華な深紅のドレスは床を長く引きずっていた。周囲を見回したアーサーは、自分が儀式用の会場のような場所にいることに気づく。
そこには数多くのテーブルが並び、大きな祭壇がそびえ立っていた。
会場は獣人や魔族で埋め尽くされている。
儀式はあっという間に終わった。しかし祝宴は二日近く続いた。
アーサーは婚約を受け入れるかと尋ねられ、少し考えた末に承諾した。アーサーはこの不思議な女性を気に入っていた。
十一歳の少年の身体であっても、その中身は前世で大人だった世界的アイドルのままだったからだ。
儀式が終わると、エレノアは彼に自室を案内した。
扉はとても大きかった。彼女が軽く押すと、巨大な扉は素直に開く。部屋の中は広々としていた。
中央には金色の装飾が施された大きなベッドが置かれている。外はすでに夜になっていた。
今日一日の出来事に疲れ切り、なおも現実感を持てないまま、アーサーはベッドに横になる。
そしてすぐに深い眠りへ落ちていった。
八年の歳月が流れた。その間、アーサーは何度か両親のもとを訪れていた。戦争は終わった。
人々が戦場で無意味に命を落とすこともなくなった。
アーサーはエレノアの領地の大部分を統治し、人間たちからも魔族たちからも徐々に信頼を得ていった。
その日も仕事を終えた彼は、疲れた身体を引きずりながら宮殿へ戻ってきた。
昨日、彼は十九歳になったばかりだった。
「もう八年もこの世界で生きているのか……」
アーサーは疲れたように椅子へ腰を下ろす。
窓の外には深い夜が広がっていた。
部屋を照らしているのは、魔導灯の淡い光だけだ。
その時――勢いよく扉が開いた。アーサーは顔すら上げない。
「またドアノブを壊したのか?」
「今回は違うわ」
その返事に驚き、彼は顔を上げた。入口にはエレノアが立っていた。
これまでの年月で初めて見るほど、彼女はどこか緊張しているように見えた。
視線を下ろしたアーサーは、わずかに顔を赤くする。彼女は膝丈ほどの薄いネグリジェ姿だった。
「だ、ダーリン?」
「あなたももう十九歳でしょう……」
エレノアは視線を逸らした。
「これからは、一緒に寝てもいいかしら?」
悪役令嬢の頬がうっすらと赤く染まる。アーサーは照れながら頷いた。彼女の表情には喜びと緊張が同時に浮かんでいた。
それから二人の距離はさらに縮まった。
そして、しばらくの時が流れる。ある日の夕方。
アーサーは宮殿の庭園へ出て、ベンチに腰掛けながら夜空を眺めていた。
「休憩中?」
エレノアが近づいてきて、彼の隣へ腰を下ろす。
そしてそっと頭を肩に預けた。
「ああ、ダーリン……」
アーサーは微笑む。
「娘の名前を考えていたんだ」
エレノアはぴたりと動きを止めた。
「もう何か思いついたの?」
「いや、まだだ」
「それなら一緒に考えましょう」
庭園には静かな沈黙が流れる。
エレノアはそっとアーサーの頬に口づけた。
数千年もの時を生きてきた彼女が――心の底から幸せだと感じたのは、これが初めてだった。
こんばんは!これはリラックスしながら読める短編小説です。読んでくださってありがとうございました!
もし作品を気に入っていただけましたら、ぜひ評価(☆☆☆☆☆)をお願いします!
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自分の作品が気に入ったので、今度はもっと細かく描写しながら内容を深掘りしたいと思っています。
良い考えだと思いますか?
それとも、この作品を連載化するのもありでしょうか?
改めて、最後まで読んでくださってありがとうございました!




