Aパート後半
時を戻して、令和10年……。
若干だが春の風が吹くような季節、そこで自宅のパソコンに表示された掲示板を眺める一人の男性がいた。
「やはり、転売ヤーは一掃すべきか」
自宅の一室と言っても、ある意味で仕事部屋と兼用しているような気配にも見える。
本棚には、様々なアバター製作方法を記した本があるのだが……その著者名は、一部企業の合同出版以外は全部同じ。
身長175センチと言う長身でありながらも、服はそこそこな値段の服を着ており、ブルーグラス対策のメガネをかけているのも特徴か。
その男性は、かつて秋月穂村と呼ばれていた人物。
一時期はネット上でもVTuberの不知火穂村が有名となり、その他にも様々なバーチャルアバターを生み出している。
アバター製作方法の本に書かれていた著者名、それは彼だったのだ。
しかし、ネット上ではやはりというかアンチ勢力が存在し、こうした勢力がまとめサイト勢などと組み、秋月を炎上させた。
一連の事件こそ解決したが、後に『真夜中のパルクール』事件とも呼ばれるようになっていき、この事件も一定の規模で拡散されている。
それでも、忍者構文に関係した『対電忍』事件よりは真相を知る者が少ないだろう。
(しかし、転売ヤーを一掃するにしても、どうするべきか……)
米などの生活必需品では規制の法律があり、相応の罰則も設けられている。
しかし、中には転売ヤーが完全放置されているようなジャンルも存在するため、そこでは転売ヤー無双な状態となっていた。
そこで彼は、別の掲示板で言及されていた転売ヤーを指名手配するというスレを発見、転売ヤーの指名手配制度を作ることにしたのである。
(協力者も必要になる、か)
彼はふと、あの事件に関係した彼らならば……と連絡を入れ、シグルドリーヴァと言う組織を作ることとした。
これからしばらくが経過し、転売ヤー一掃を掲げた転売ヤー指名手配制度が姿を見せたのである。
いまだに1000億円と言う賞金の懸けられた最初の転売ヤーは捕まっていない。
1000億でも捕まらないと言ってしまえば、それまでかもしれない。
しかし、この最初の転売ヤーが捕まっていないという事が、別の転売ヤーも『自分は捕まらない』と認識させていく。
最初の転売ヤーが捕まらない理由は不明にしても、その後の転売ヤーはゴールドラッシュのごとく逮捕されていった。
次第に転売禁止となっていくものが増えていき、それらをオークションサイトで転売する事自体も犯罪と条例などで決められていく。
指名手配制度自体は日本限定と思われがちだが、日本から密輸されたようなものでさえも適用されるため、転売ヤーは次々と減っていった。
ある意味でもシグルドリーヴァは転売ヤーが半グレのようなものではなく、明確にテロリストと同じという認識を指せたという意味では、表彰されるべき……という声もある。
それでも、彼らは表彰各種に関しては辞退しており、そういったことの為に転売ヤーの指名手配制度を作ったわけではない、と言う証拠なのだろう。
再び、あの転売ヤーの摘発シーンへと戻す。
とある転売ヤーをガーディアンへ引き渡した戦国武将の外見をした男性、彼は早速だが賞金を受け取っていた。
賞金の金額は500万円……転売ヤーのレベルとしては低いものだったのである。
低いと言っても、それを出しているのはクリアファイルのイラストに描かれたバーチャルアイドルの芸能事務所が全額を出していた。
更に言うと、同じ事務所で複数の転売ヤーを指名手配しているので、総額1億円と言うべきか。
なんとも恐ろしい話だが、この世界の令和日本では当たり前の話なのだ。
早速だが、この賞金は即日、彼の銀行口座へ振り込まれた……はずだったのだが、思わぬトラブルが発生する。
「振り込まれて、いない?」
銀行口座の番号を間違えたのか、とも考えたが、他の賞金が振り込まれているのを踏まえると、そうではない。
だからと言って偽の指名手配だったのかと言われると、公式サイト経由で知ったのでそれも違う。
では、一体どういうことか? この転売ヤー自体、存在しないフェイクニュースの類だったのか?
『どうやら、そういう事だったようですね』
戦国武将の人物の背後から現れたのは、諸葛亮孔明だったのである。
思わず、声を聞いて驚いた戦国武将の人物が後ろを振り向くと、そこには三国をモチーフにしたようなデザインのパワードスーツを装備した人物がいた。
(まさか、これが……)
何かをつぶやこうとした戦国武将の人物だったが、一瞬の出来事すぎて動きが取れず……即座に敗北した。
どのような手段で倒されたのかは不明な一方、これがいわゆる『孔明の罠』というものなのだろう。
孔明としても、戦闘行為を行えば別の意味で炎上しかねないので別の手段を……と言う可能性は高い。
真相は……不明のままになるだろうが。いずれ、どこかでメディアミックスでもあれば判明するかも、と。
これが起きる数分前、孔明は事前にシグルドリーヴァへ偽の転売ヤーハンターに関する情報を提供していた。
賞金額的な意味でも企業をアピールするために転売ヤーを利用しているのではないか、と言う案件も散見されていたのが……その理由だろう。
実際はフェイクでも何でもない転売ヤー情報を悪用し、転売ヤーハンター側が自身のチャンネル登録などのアピールに利用していた……と言うのが事実のようである。
シグルドリーヴァも、自称正義マンな迷惑系配信者が無許可転売ヤーハンターをやっている情報はつかんでいた。
しかし、証拠がなかったので泳がせるしかなかったのが現状で、今回の逮捕はその第1号とも言える事例である。
「こういうことになるのは、何となく予想出来ていたが……」
孔明とのやり取りを遠目で見ていた男性が、偽者の転売ヤーハンターを確保した辺りで引き上げていく。
彼はシグルドリーヴァのメンバーではない。転売ヤーに関しての何らかの規制は必要でありつつも、ここまでの事は望んでいない人物でもある。
どのような外見なのかは、周囲のギャラリーも気にしていないので詳細は分からない。ただ、20代後半っぽいのと男性位しか……と言う具合だ。
「所詮、品を変えただけの展開が起きる……そう予想されていたはずなのに」
この状況を見て、いらだっているのではない。だからと言って、煽り目的でSNSへ投稿しようという気も彼にはないだろう。
かつて、自分が関与した事件を踏まえ、同じことを繰り返す……そう考えているだけなのだ。
言葉では冷静を装っているものの、何かの感情は見て取れるだろうか?
(やはり、あの計画を進めるか)
この人物には名前はない。あえて名付けるのであれば、アネモネ……。
かつて、AIアバターを巡る事件でも全ての元凶と言われていた人物でもある。
最終的には彼が撤退したことで、事件は解決したようなものだが……真相はカバーストーリーに隠れていて、不明なままだ。




