Aパート前半
ここは、埼玉県内某所のコンビニ。時は令和10年、6月頃……の気配がする。
そこでは、すでに微妙な行列ができていた。
駐車場へ車を止めようとしていた客も困惑し、信号をスキップしてコンビニの駐車場へ行く振りをして……という、コンビニワープをしようとした車もワープが出来なかったのを踏まえると、ある意味で異常かもしれない。
コンビニワープをしようとした車に乗っていた運転手は数分後、ここで起きる騒動の原因とともに逮捕されることとなった。
それ位にギャラリーの注目をコンビニが集めていた、と言っても過言ではない。
(ここで何があるというのか?)
ここのコンビニで朝食のおにぎりでも買おうとした男性客も、目の前にあった行列には疑問を持つ。
普段、コンビニで買い物をしたりサイトをチェックしていないような人にとっては、この反応になるのは当然の話か。
この時に行列を確認したときは時間が午前7時になろうという辺りである。
そして、午前7時になったと同時に行列は動き出す。列は既に数十人……朝ラーメンのような行列を思わせるかもしれない。
大きな動きがあったのは、それからわずか3分後……である。
店から出てきたある男性が別の場所へ座り込み、スマホを片手に何かの写真を撮ろうとしていた時だったという。
休憩スペースが用意はされているが、あくまでも小休止専用である。喫煙スペースではない。
更に言えば、草加市全体で『ある事情』によって対象エリアは禁煙、罰則も場合によって1000万円となっていた。
それを踏まえると、路上喫煙なんてしようものなら……と言う事だろう。
しかし、彼が購入したのはお菓子類であり、電子タバコなどを買ったわけではない。
その時だった。
彼が別の意味でも後に恐怖体験とも語る展開が起きたのは。
「貴様、転売ヤーだろ? 転売ヤーだな? すでに分かっているんだぞ!?」
戦国武将にも似たような鎧を装着し、明らかに模造刀にも見えるようなものを、スマホを持った男性へ突き付けている人物……。
その男性は、明らかに数人の客を目視でチェックし、それらをスルーしてスマホを持った男性に一直線へ向かっていたので、目的はあの人物と言う事だろう。
路上喫煙しようという人物はいないし……怪しい挙動をしているような人物もいない中、ピンポイントでこの人物に戦国武将の人物が近づいてきたのだ。
「転売ヤー? 何のことですか。こちらはスマホで写真を撮ろうとしただけで……」
転売ヤーと呼ばれた男性も、反論をするが明らかなテンプレ対応だった。
こうした人物に絡まれれば、明らかに危険……と感じてはいるのだろう。そういうノウハウとかがネット上で拡散しているのかは、不明だが。
その反応を見て、即座に戦国武将の人物が取った対応は……。
本当に、一瞬だった。台詞がないレベルで。
手に持った模造刀でスマホを一刀両断するのだが、物理的に真っ二つにしたわけではない。スマホの方は無事だ。
斬られた人物の方も若干の困惑はする。一体何があったのか、その斬撃の衝撃で落としてしまったスマホ、それを拾って、表示されている画面を見た時……。
「データが、消えている?」
実際に物理的な意味でデータが消えたわけではなく、彼にはそう見えただけなのだろう。
ある意味でもスマホのデータをロックされた、と言うべきか。
落とした程度でスマホのデータが消えたら、それは逆に戦国武将の人物が損害賠償を請求されるのは間違いない。
だからこそ、か。
「やはり貴様は転売ヤーだ!」
戦国武将な人物が叫んだと同時に、ガーディアンが駆けつけ……この転売ヤーは確保されることとなる。
ガーディアン自体、他のコンビニも巡回しており、その流れで立ち寄ったという形だが。
何を転売しようとしていたのかと言うと、コンビニで行われるキャンペーンのクリアファイルだった。
ファイルごと窃盗しようとして逮捕されたというニュースも存在し、やはりというか転売ヤーの存在には警戒していた中での転売ヤー確保となったのである。
周囲のギャラリーも驚く人物もいたが、この日本で転売ヤーは確実に破滅する……と言うのがギャラリーの認識だろう。
中には海外からの観光客で疑問に思う人もいたのだが。
一体、何故にこんなことが起きたのか……と疑問に思う人たちも多いのかもしれない。
該当するコンビニから少し離れた距離にある回転寿司店、コンビニとは道1つ分くらいしか離れていない場所。ある意味でも近所と言っても差し支えないだろう。
そこで様子を見ている人物が1人いた。人物と言えるのかどうかは、外見を見ると怪しいかもしれない。
その外見は、明らかにロボットものに出てきそうなデザインをしたスーツだったのもある。
しかし、装飾や意匠に関して言えば、とある作品がモチーフベースに使われているらしく、ややファンタジーにも見えなくもないが。
『なるほど。あの転売ヤーハンター、明らかに怪しいですね』
声は男性の声なのだが、若干のノイズ交じりで女性声も混ざっているように聞こえる。
明らかにボイチェンの類なのは確実だが、周囲はそれにも気づいていない。あの転売ヤーが捕まった様子をスマホで撮影するような人物もいるが……。
メタ的に言えば、この声に関して言うとアニメ版では男性声優と女性声優が別に同じキャラを担当する……そんな感じだ。
1人2役ではなく、2人1役と言うワードが適切か?
もちろん、この人物も一連の駐車場で起きた騒動は全部ではないが、目撃はしている。
転売ヤーの方よりも、あの戦国武将のハンターを疑問に思うのは、周囲ではこの人物位なのだろう。
『調べてみますか』
この人物が右手に持っているのは、羽扇子……少し古い時代にあったようなもの。
羽はビームというかCGで作られているような投影方式なのが、気になる所。リアルで羽が……と言う事ではないようだ。
その後、しばらくしてこの人物は駐車場を離れ、別の場所へと向かう。
諸葛亮孔明、かの三国を取り扱った小説ではチート軍師ともいわれるようなレベルで活躍したという軍師。
フィクション上の創作では、あまりにも有名になりすぎて色々な設定が盛られたことで有名。
その中でも孔明の罠はあまりにも……有名すぎる。
この人物のアーマーなどの意匠が若干のファンタジー寄りに見えたのは、もしかすると諸葛亮をモチーフベースにしたのかもしれない。
その一方で、この人物はあえて諸葛亮孔明の名前を使っていた。
もしかすると、別に実在するパルクールプレイヤーのハンドルネームにあるかも、と思ったのだろう。実際、そんなことはなかった。
時を少し戻し、数か月前……。
日本では様々な分野で『転売ヤー』と呼ばれる人物の存在が問題視されていた。
彼らの影響で様々な業界が転売ヤー対策をしていくことになったが、資金力のない業界では転売ヤー無双をされた結果、衰退していったという話もある。
そこで、とある勢力は転売ヤーに賞金を懸けて、追い詰めていこうという発想に至った。
当然だが、そんなことをしても逆効果なのではないか……と言われたのは当然だろう。
しかし、ある時期から米に関しては転売規制が実施され、罰金も発生するようなこととなる。
それを踏まえれば、この勢力が提案したことも酔狂の類ではないのは間違いない。むしろ、周囲からは「遅かった」という声も出るレベルだ。
そして……最初の転売ヤーに賞金を懸けたのが1億円。額としては出せる最高額という事だったが、この転売ヤーは数週間ほど姿を見せなくなり……額を上げることとなる。
それから数人に賞金を懸けていき、最初の転売ヤーを追い詰めようとした。
だが、それは思わぬ所で成果を上げることになる。
最初の転売ヤーとは別の転売ヤーが、別の形で逮捕されるという実例が発生したからだ。
彼が転売していたものは、覚せい剤……それを海外で処方された薬と偽って転売した。いわゆるオーバードーズ的な需要を狙ったのだろう。
そんなことをすれば、当然だが別の罪で問われることとなり……この先がどうなったのかは、言わなくても分かるかもしれない。
こうして、転売ヤーに賞金を懸けた結果として別の犯罪を一掃するきっかけになり、警察でも情報を仕入れて様々なジャンルで転売ヤーを一掃するために動き出す。
政府も米だけに限らず、様々な分野で転売規制を強化していき、転売ヤー自体は根絶された……。
そう、誰もが思っていた近年の令和日本。
気が付けば、転売ヤーはジャパニーズマフィアと同等の犯罪者集団、それこそ闇バイトがかすむようなレベルでの存在となっていた。
違法な風俗営業やホスト問題のようなものは、ガーディアンが動いたことで一掃され、今は新宿歌舞伎町もアニメやゲームコンテンツで聖地巡礼をするような街へと一変。
いわゆるトー横と呼ばれていたエリアも、今は週に一度の割合で公式のVTuberアイドルが野外配信ライブを行うような聖地となっている。
それでも……転売ヤー『だけ』は一掃するにしても、あと一手が足りなかったのだ。
最初の転売ヤーも、1億円だった賞金額が膨れ上がり、気づけば1000億円。
いまだに、この人物に『限って言えば』捕まっていない。
闇バイトのリーダー格を始めとした人物なども指名手配になって捕まったりした一方で、未だに転売ヤーは逃走している。
彼に関して言えば無差別テロなどを起こしたわけではないので、放置しても問題がなさそうにも見えなくはない、という認識をされているのが長期化の原因かもしれない。




