教室の天井付近
掲載日:2025/11/19
教室の隅っこ。
掃除用具入れの前。顔を伏せて存在を消している男の子。
教室の真ん中。
迷いのない表情で正面を見つめ、宙に思いを放つ女の子。
黒板の前。
チョークをくるりと指で回し、戦国武将の逸話を嬉しそうに語り始める教師。白い粉が袖につくのも気にしない。
教室には、静かな時間だけが流れていた。
上から見れば、ここはまるで小さな城下町。等間隔に並んだ三十の机は街路のように連なり、
カッ、カッ、ツーっと白い文字が黒板に刻まれるたび、鉛筆の細い音が小さな役所のように控えめにそれを写し取っていく。
教室の最前列。
真面目な顔でノートを取るふりをしながら、お金の計算だけを進める男の子。
窓際の席。
校庭の風の揺れだけを頼りに時間の流れを測ろうとする女の子。
宇宙を彷徨うように眠り続ける子。
消しゴムのカスだけ丁寧に集める子。
みんなそれぞれの小さな世界で息をしている。
その営みを眺めているだけで、胸の奥が温かくなった。
──教室の天井付近。
光る蛍光灯のすぐ下でふらふらと漂いながら、羨望のまなざしで彼らを見下ろしている。
チョークの粉も、風も、誰かの笑い声も、みんな僕を通り抜けていく。
手を伸ばしても、もうどの席にも座れない。
僕は、そんな男の子。




