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[掌編]ちょっと行ってきました

作者: 短文ちゃん


『ある日の小話』


 面白くねー上に何のタメにもならねーエピソードをいくつかゲロゲローとぶちまけるんだぜ。

 最近めっきり更新がお留守になってるからね!


 あ、一応創作の短編てことにしとくんだぜ。

 ついでに言っとくけどオチはねーから。



■お客様それは困ります

―――――――――――――


 システム本稼働日のとあるひとコマ。


 今日は全体の運用に関わる基幹システムの本稼働を迎える日だ。


 新しいシステムにいち早く慣れてもらうため、戸惑う現場のユーザーに適切なアドバイスを送って支援する。

 稼働前の議論だけでは拾いきれなかった実運用上の問題点をすくい上げる。

 想定外のシステムトラブルにいち早く対処する。


 こういった目的のために俺たちは数日間現場に張り付いてサポートを行う。


 いわゆる「立ち会い」ってやつだ。


「立ち会い」で得られた現場の情報、問題点はその日のうちに集約して速やかに切り分けを行う。

 そこで得られた問題や知見は社内だけでなくお客様とも共有して対処し、明日の運用をより良くするため活用するのだ。


 その日の朝、ミーティングを終えた俺は割り当てられた自分の持ち場、外来の一角に向かった。


 到着した現場でまずは「おはようございます」と挨拶して顔見せする。


 立ち会い者が来たってこととどんなやつが来たかってことをまず知らせねーと先方も声をかけづらいだろうからな。

 まあそもそも朝の挨拶なんて社会常識の範疇だぜ。

 この程度のことは誰でも当たり前にやるよな!


「ちょっと来てください」


 早速カンファレンスルームの中から手招きする人が……

 中に入るとそこには十数人の若手医師達が全員集合していた。

 よく見るといろんな診療科から集まっている。

 患者さんはすでに外待ちにあるふれているし、そろそろ外来診療が始まる時間だ。

 こんなん許されんのか?


 のっけから何だろうと思っていると背後で「ガラガラ、カチャ」という音が……

 振り返ると一人が引き戸を閉めてサムターンを回し、外から開けられないように施錠していた。


 端的に言うと、俺は密室に閉じ込められた。


 あっという間に周囲のドクター達が群がり逃げない様に周囲をブロックする。


 そこで中央に座っていたヒゲ面の男性医師が口を開き、丁寧な口調で自分の隣席の椅子を引きながら「ここに座ってください」と指示してきた。

 恐らく、この人がリーダー格なんだろう。


 突然の出来事にビクつきながら、俺は素直に従う。

 ここで逆らってもどうにもならないってことは火を見るより明らかだ。


 俺が着座するのを確認したヒゲ面の医師はマウスを手にしながらゆっくりと口を開く。


「電カルについてちょっとき聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

「はい」

 それこういう状況で聞くことじゃねーから。


「キミたち、いつまでいるの?」


 電カルの画面を開きながら聞いてくる。

 そんなん情シスに聞けよと思いつつ回答。


「16時ということになっておりますが、外来は患者様の来院状況や診察の進み具合によって臨機応変に対応します。

 予約の少ない診療科については午前いっぱいでオンコールに切り替えさせていただくこともあります」


「24時間いてくれるの?」


「いえ、オンコールについては最終的に19時までとなっております。

 立ち会い期間中は毎日17時30分から18時30分まで病院様主催の院内反省会がありますので、何かございましたら各部署でお取りまとめいただき、代表者からそちらの席でご報告いただく形になります。

 また各部署には情報システム課様より別途、問題点記入用紙が配付されていると思います。

 運用的な課題はそちらで院内でお取りまとめされると伺っております」


「伺っておりますって何だよ。業者が責任を持って対処するって意識はないの?」


 何だよ、面倒くせぇ人だなぁ……


「システム的な問題以外で発生した運用的な課題は私共を通さず病院様が対応することになっております。

 院内運用の範疇で発生する課題につきましては私どもは関与しておりません。

 トップページにも掲載されていると存じますが、システム運用に関するお問い合わせは立会期間かどうかにかかわらず、情報システム課様にお問い合わせいただく旨院内ルールになっていると存じますが」


「今は立会期間だろう。急患が来たときはどうするんだ?

 何かあったら責任をとってもらえるの?」


 おっと、センセーがだんだんイライラしてきたぞ。

 しかし何で責任者を呼べって言わねーのかね?


「救外については病棟と共に外来よりひと足早く本稼働しております。

 先週末は24時間体制で対応させていただき、受付、カルテ入力、会計、それに各部署に配置した物品の管理や薬剤・検査部門の体制など問題なく運用いただけたことを確認しております。

 また、万が一に備えて直近の診察予約と救急当番については負荷を軽減するための調整を行っていただいております」


「今日以降はどうなんだ?」


「本日以降の時間外のシステム運用については院内情報システムのマニュアルに沿って病院様で運用いただく形になります」


「無理だろぉ、24時間体制にしてほしいんだけどぉ」


 俺の説明を聞いた髭面医師が女子高生チックな抑揚の効いた声で不満の声を上げると、周囲のトリマキ達も一様にそうだーそうだーとか言い始める。

 えーとぉ……なんか残念なものを見てしまったぜぇ……


「それ以降はどうすんの」


 もうすっかり部活の後輩に話しかけるノリになっちゃってるよ。


「えぇと、外来の立ち会いは今週いっぱいです。

 病棟については3日間スタッフステーションに一人ずつ張り付いていますが、4日目以降はオンコールになります。

 オンコールの連絡先は先程各診療科に配布させていただいた用紙にある2つの内線番号のどちらかになります」


「その後は?」


「数名、SEが待機いたします。

 今ご説明させていただいた内線番号でのオンコールとなります。

 待機時間は8︰30から19︰00までとなっております」


「いや無理でしょ。だって何かトラブルが有ったら仕事できないんだよ?

 こっちは人命がかかってるの。何かあったらどうしてくれるの。え?」


 いやーえぇ? って言いたいのはこっちだから。


「立ち会い体制に関しては病院様との合意の上で取らせていただいておりますのでこの場の一存では判断いたしかねます。

 ですのでここは一度持ち帰らせていただき、本日の業務終了後に私共の責任者、情報システム委員会の皆様、それに今ここにお集まりいただいている皆様で膝を突き合わせて検討させていただきたいのですが」


「よし分かった。じゃあここに念書があるから署名して。

 後で出すから」


 えーと……


“私は現場で発生したあらゆる問題に対応し、必要な機能をオーダーメードで開発します


 ○年○月○日 署名:_________”


 何コレ? 契約書ですらないんですけど。

 

「パソコンも全部macにしてもらうからよろしく」


 あっ、あぁ……ちょっとくらい悪ノリしてもいーよな?


「あのぉー、私が署名してもここにいらっしゃる皆様の連名がないとこの件の念書としては根拠に欠けるものと存じますが」


「え? そうなの?」


「ええ、少なくともここで皆様と話し合った結果、このような合意に至ったというエビデンスが必要であるものと愚考いたしますが」


「じゃあ紙を回すから」

「えっ?」


 そう言って代表者の先生が近くにいた若手の先生に紙を渡したけど……今誰かちっちゃい声で『えっ』とか言わなかった?

 何かお互いに牽制し始めたぞ?

 もしかして匿名で事がうまく運ぶとでも思ってたのか?


 トントントン……

 バサッ。


 ん? 何か外が騒がしくなってきたぞ。

 今のは呼び出し待ちのファイルを受付に置いた音だな。


 そろそろ先生はどこだとか始まった頃合いじゃねーか?


 コンコン。

 ガチャガチャ。

『あら?』


 そら来た。

 なんかみんな息を潜めてるぞ。見つかったらマズいってか。


 外から声がする。

『いまご案内しますから少し待っててくださいね』

『誰かカンファの鍵借りてきて。開けるの忘れてたみたい』


 あーそういえば化療の患者さんのオリエンテーションの予約が入ってたな、ここ。


 ん? あれ?

 と思い隣を見ると思いっきり目をそらされた。

 と思ったらトリマキの皆さんも何やら急にキョドり出したぞ。

 いやー分かりやすいですねぇ。


『守衛室に行ってきたんですけど鍵は戻ってないそうです』

『えっ!? 最後に借りたのは?』

『あ、私です。今朝いつも通り借りて開けたはずなんですけど』

『ちゃんとボックスに入れた?』

『はい、入れました』

『おかしいわねえ。どこに行ったのかしら?』


 えーと……どーすんのコレ。

 知ーらねっと。



おわり。




■ボクは偉いんだ崇めろ

――――――――――――― 


「すいませーん、B5東病棟から電話でーす。誰かお願いしまーす。注射オーダーについてだそうでーす」


「はいはい、自分が行って来ますね」


 電子カルテの導入もリハーサルが終わって本稼働の調整やら何やらに忙殺されていた頃の話。


 この病院は結構オーダーメードのカスタマイズをしてるので、SEが結構たくさん常駐している。

 最近あんまり見ないよね。こういう金のかかることやってる病院。


 まあそんな事情もあって業務設計やら何やらが片付いているにもかかわらず、ちょっとした用事で担当者が呼び出されて時間をとられることがちょくちょくあるのだ。


 俺が呼び出されて向かった病棟のスタッフステーション。近場にいた看護師さんに声を掛けると、すぐに案内された。

 看護師さんもこういったことにはすっかり慣れっこになった様子で、「大変ですねえ」とねぎらいの言葉をかけてくれた。


 案内された先には気難しそうな先生が一人待ち構えていた。

 あー、またこの人かぁ。


 看護師さんに一礼すると先生の傍らに近付き、「お待たせいたしました」と到着を告げる。


「遅ーい」


 遅い、じゃなくて遅ーいである。

 完全にデートに遅刻したときのノリだぜ。


「申し訳ございません。エレベータが混み合う時間帯なものですから」

 と適当返事。

 どうせ聞いてねーしな。


「キミ、注射箋のレイアウトなんだけどね。

 何で僕は同意した覚えなんてないんだけどいつの間に決まったの?」


「大分前に業務設計のワーキンググループで決定して決定内容は院内でも決済済みと認識しておりますが」


 えーと……もう本稼働間近なんですけど……


「ワーキンググループ? そんな会議体の設置を許可した覚えはないよ」


「あの、業務フローや帳票サンプルなどの資料は医療情報部様から議事録と一緒に院内回覧頂いていると伺っているのですが」


「医療情報部? 何だそれ。そんな非公式なクラブ活動の発注で開発しているのか? それこそ認められないな」


「あの、非公式なクラブ活動というのは?」


「ああ、君は業者の人間だから知らないのも無理はないか。

 当院の医療情報システムの管理は私が代表を務める情報システム委員会に一任されているのだよ。

 医療情報部というのは何人かの医師が趣味で集まってシステム導入のシミュレーションごっこをする勉強会の様なものだ」


 ええっマジですかぁ!?


「あの、私どもが参加させていただいたシステム委員会では理事長や院長先生もご出席になられていたのですが」


「理事長は勉強会の様子を時々に見に行っていると言っていたからね。院長を連れて視察に行ったんだろう」


 えぇー、毎回来てましたけどぉ?


「あの、すみません。すでに院内ネットワークも敷設済みで端末1000台もこの病棟を含め院内に設置済みになっております。

 サーバーも既に稼働体制に移行しておりまして、各部署のシステムとのシステム間連携テストも完了しております。

 ここにきて趣味の活動なので承認できない、というのはさすがにトラブルになってしまうのではないかと思うのですが……」


「何、大丈夫だよ。私は◎△□大学の$$$先生と懇意にさせてもらっているのでね」


 えーと……誰?


「ホラ、見たまえ。これが$$$先生とロスでBBQパーリーをエンジョイしたときの写真だよ。

 どうだい、羨ましいだろう?」


 もう考えたら負けだぜ!


「あ、はい。とても素晴らしいと思います」


「そうかそうか。じゃあここに念書があるからサインしてね」



 結局それかい!



おわり。




■聞いてねーよ

―――――――――


 これまたとある病院の立ち会いのときの話。


「すいませーん」

 中待ちから声がして俺はそちらを向く。


 すると看護師さんが入り口から身を乗り出して「先生がお呼びです。お願いします。1番です」と伝えてくる。


 患者さんの目に付かない様にバックヤードをこっそり移動して1番診察室に向かう。

 1番診察室って確か非常勤の先生だよな……

 何だろ……


 コッソリ覗いて様子をうかがう。

 よし、患者さんはいないな。


「失礼しまーす」

 そう言って中に入ると座っていた白髪の医師がこちらを振り向く。

 

 そして開口一番出た言葉がコレだったんだぜ。


「今日来たらシステム変わってたんだけど何か知ってるかね?」


「へ?」

 さすがの俺もこれには思わず心の声が漏れてしまったぜ……


「あの、今日から新システムが運用開始になったんですがご連絡の方は……」


「何も聞いてないですねえ」


 マ、マジですかぁー!


「も、申し訳ございません。少々お待ち下さい」


 いやー温厚そうなおじいちゃん先生で良かったわー。

 話聞かねえ自己中ヤローだったらどうなってたことやら。


 俺は速攻で本部に連絡して緊急の病院様対応事案の発生を伝える。


 他社のシステムからの移行だから操作は違うわ移行制限はあるわで説明すんのが大変なんだよなー。


 ん? 何か大げさな集団が……

 理事長、院長、副院長、医事課長、内科部長、看護部長?


 何で?

 あ、何か整列し始めたぞ?


「何をやってるんだ。早くキミも並びたまえ」

「え? あ、はい」

「よし、揃ったな」


 一同緊張した面持ちだ。

 そして医事課長が音頭を取って大きな声で叫ぶ。


「この度は大変申し訳ございませんでしたァ!」

 これに合わせて一斉に頭を75度下げる。

 俺も慌てて追従した。

「申し訳ございませんでしたァ!」


 周りの患者さんも何だ何だと野次馬しに来てるぞ。

 撮影してる人までいるけどこれ大丈夫なんだろうな!?


「ああ、いいよいいよ。指導員をつけてくれればいいから」

「はいッこちらの者が対処いたしますッ」

 そう言って俺の肩を掴んでズイと押し出す。

「キミ、よろしく頼むよ」

「はい、至らない点もあるかと存じますがどうぞよろしくお願いいたします」

「ふむ、よろしい」

 何やら訳が分からんけどとびきりの営業スマイルで応えてやった。


 そうすると後方で何やらヒソヒソ話が……


『オイ、連絡してなかったのか』

『知りませんよぉ。患者さんじゃないんですから外来が連絡する必要なんてないですよぉ』

『予約は医事課が管理してるだろ、気づいてなかったのか』

『気付くも何も不定期で来ていただいているんですから診察室の番号しか分かりませんよぉ』

『じゃあ誰が把握してるっていうんだ』

『分かりませんよぉ』


 あ、ピンと来たぞ。

 この人東京の某大病院の院長先生だ。

 確か理事長の友達で時々非常勤枠に入ってくるんだ。

 いつもは若手を派遣してるんだけど、地域医療の視察だか何だかで偉い人が来るときがあるんだよな。

 そんな人の予定なんて分かる訳ねーじゃん。

 向こうとこっちの秘書で調整してるだろ。


 でも何で俺まで謝らにゃーならんのだ……


「キミキミ」

「あ、はい。何でしょうか」


「キミも大変だねえ。こいつら[ぴー]だから許してやってね」

「あ、はい。大丈夫です。お気遣いありがとうございます」


 うーむ。

 地方――

「地方の公共医療の限界だねえ」

「あ、ハイ。そうですねぇ」



『オメーだろ』

『オメーが何とかしろよ』

『俺は悪くねーぞ!』



 マジで勘弁してほしーわぁ……



おわり(?)



★keywords:病院情報システム導入 方針決定 プロジェクトルール キックオフ 本稼働体制 課題管理 院内周知 外部調整 お門違い

★9月末をめどに検索よけを設定します


(更新)

2022.05.22 新規 6,229字 エブリスタ

2022.09.11

- タイトル変更 「SE小話」→「ある日の小話」

- 小説家になろうに一時転載 6,271字

2022.09.15 誤字修正

2024.11.09 HAMELNに投稿(怒られたら削除予定)

2025.07.31 なろうで再公開

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