輝きたい
俺はずっと劣っていた。誰よりも、何よりも。
勉強も運動も出来やしない。それでも俺なりにずっと頑張ってきた。
俺はずっと「輝きたい」と思っていた。誰からも羨ましがられる、特別な何かが欲しい。ずっと夢だった。
*****
中学一年生になりたての頃、俺は希望を見つけた。それは一本のギターだった。ずっと押し入れにしまわれていた、夕日色のエレキギター。
「これなら俺でも輝けるかもしれない」
そんな希望を胸にギターを手に取った。
「かっこいい!」
そのギターは俺を一瞬で虜にした。
「桜樹、それよくみつけたねえ。」
通りかかった母さんが言う。
「そのギターはね、桜樹のお父さんのものなんだよ。やっぱり血だね。」
「父さん?」
俺に父さんはいない。俺が生まれる前に他の女と駆け落ちして、この家には何も残してないはずだ。
「そう、お父さん。桜樹のお父さんはね、バンドマンだったの。」
母さんは懐かしそうに笑った。
「これ、俺が使っていい?」
「もちろん。お父さんもきっと喜ぶよ。」
母さんは笑っていたが、その笑顔は悲しいようにも寂しいようにも見えた。
「そうだといいな。」
俺も笑って見せた。このギターで俺は輝く。父さんが最後に残してくれた希望を抱いた。
窓から光が差し込んできた。ギターがきらきら光ってる。よく見ると押さえるところは少しだけさびていた。
「これからよろしくな。」
誰もいないことを確認してギターに話しかけた。
父さんはずっと俺たちを捨てたと思っていた。母方のばあちゃんからずっとそういわれていたから。
でも違うかもしれない。なんとなくそう思った。
その夜、俺はギターの練習を始めた。動画サイトで色々調べてみた。Em?C?G?
「クソぉ、わけわかんねぇ。」
でも俺は諦めたくなかった。最後の希望かもしれないから。