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短編集

セックス3

作者: 豆苗4


「……『セックス』しなくちゃ。もっと。もっともっと。正直そんなんじゃ全然『セックス』し足りないよ。やっぱり。これを見たら誰だって同じことを言うだろう」

「……はっ? そんなこと初めて聞いたよ。この場面で君みたいなことを言う人が複数いてたまるか。夢の中でもここまでは酷くない。君だけだ。このとんでもなく広い世界で君だけだよ。頭のネジが外れたようなふざけたことを言っているのは」

「ふざけてないんだけど……。至ってまじめだ。この顔を見てなおもふざけているって言えるのか? 君がまともに何かをやるには『セックス』するしかない。セックスすることなしに」

「どう言うことだ? セックスせずにセックスするなんて無茶だろう? 」

「ところがどっこい無茶じゃないんだ。全然無茶じゃないんだよ。これが。驚いたよ。こんな不思議な『セックス』が出来るなんて」

「セックス、『セックス』言ってるけど、一体どのセックスの話だよ。とてもとても私の知っているセックスの話とは思えないんだけど」

「うーん、そうかな。少なくともあの『セックス』は知っていると思うけど」

「あの『セックス』ってどのセックスだよ」

「これ」

「それ? 」

「あれ」

「どれ? 」

「あの……昨日通りがかったパン屋の裏庭に埋まっている地図。それが指し示す場所だよ。覚えてない? 赤い髪の少女が楽しそうに埋めていたじゃないか」

「えっ? 昨日はパン屋なんて行ってないよ」

「一昨日は? 」

「行ってない」

「じゃあ明後日かもしれないな」

「はぁ? 君は預言者なのか? 」

「いやはや、なんとも恐れ多いことを。彼ら彼女らには到底敵わないよ。あの人々は達人だからね」

「何の? 」

「言わなくても分かるだろう。『セックス』だよ」

「う〜ん? 分かった分かった。らちが明かないから丸バツで答えてくれ。『セックス』だったら⚪︎、違ったら×」

「ああ」

「占い師」

「⚪︎」

「子供」

「⚪︎」

「走る」

「⚪︎」

「丸い」

「⚪︎」

「たどたどしい」

「⚪︎」

「しかるに」

「⚪︎」

「セックス」

「×」

「……?」

「語弊を恐れずに分かりやすく言おう。『セックス』とはセックス的でないもの全てだ。セックス以外の全てが『セックス』に帰着する。その不可逆的な運動のことを『セックス』と呼ぶんだ」

「……え〜、つまり……宇宙ってこと? 」

「違う」

「えっ」

「え〜、なんて言えばいいかな。その……」

「急に歯切れが悪くなるな」

「そうっぽく感じるかもしれない。でも、宇宙とは違うんだ。明確に違う。あの〜、あれだよ、あれ」

「何? 」

「人間、そうだ。人間だよ。『セックス』はすっごく人間っぽいんだよ。でも、宇宙は人間っぽくないだろ。それだ。あ〜スッキリした」

「こっちは全然スッキリしてないんだが。言ってる意味が全然分からない。完全にちんぷんかんぷんだよ」

「う〜ん。『セックス』ってのは隣に座っている幽霊みたいなものだ。想像できる? 」

「幽霊か。そうはいっても目に見えないからなぁ」

「じゃあ、これは? 『セックス』しながら『セックス』するものってな〜んだ? 」

「なぞなぞ風に言われても分からないものは分からないよ」

「そうか。アイデアが『セックス』するって言われたらピンっと来る? 」

「……交流ってこと? 混ざり合うみたいな」

「そうそうそう。それ、それだよ」

「始めからそう言ってよ」

「でも、交流とか交差とかとはちょっと違うんだ。もっとロマンティックで、あまりに人間的で、やっぱりどこか泥臭くて、ひどく退廃的で、……それでいて信じられないぐらい()()()んだ。まぁ、こんな感じだからあんまり言いたくなかったんだけど」

「そうかもしれないけど、伝わらなかったら意味がないだろ? 」

「……まぁ最終手段としてはありかもしれないね。悲しいけれど」



 人生の中にセックスがあるのではない。セックスの中に人生があるのだ。生とはセックス以上のものを発見すること、セックスを超越することだと誰かが言っていたが、本当にそうだ。ただし本来の意味である「セックスとは別の、輝かしい何か、例えば趣味であったり演技であったり絵画であったりといったような事物や行為を、セックスの代替として置換すること」をここで意図している訳ではない。セックスを生から解放すること。生においてセックスの代替として『セックス』を想起するのではなく、『セックス』において生の代替としてのセックスを捨て去ること。これこそが、本意である。



 もちろんこれはご存知の通り、肉体的なセックスの話ではない。それと同時に精神的なセックスの話でもない。ここに述べた事は、すべてなめらかなホイップクリームを作るための序章に過ぎないのだ。もったりとしていてほのかに甘く、軽やかでとろけてしまいそうなぐらいふわふわのクリームを。これはレシピのためのレシピなのだ。


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