娼館で100回チェンジしたら最後に魔王が出てきたので戦った件。
俺の名はルーファス。
ソロで活躍するしがないB級冒険者である。
今日は冒険者ギルドの依頼でレッドボアを5体程仕留めてきて、少し血が沸っていた。
「…娼館でも行こうかな。」
やっぱり討伐後の楽しみといえばコレでしょ!幸い依頼をこなしたばかりで懐は温かい。
俺は逸る心を抑えて娼館に向かうのだった。
◇◇
ここが隣町に新しく出来たばかりの娼館『カオス』である。
「いらっしゃいませ。どの娘になさいますか。」
受付で、どこか無機質な感じのする妖艶なお姉さんが娼婦の似顔絵を見せながら対応してくれた。
「じゃ、じゃあこの娘で!」
好みの可愛らしい感じの巨乳の娘を選んだ。
(うおおおおおおお!!!めっちゃ楽しみだ!)
ワクワクしながら部屋で待っているとノックがされた。
「今日はー。ご指名頂いたブリトニーでぇす。」
写真とは似ても似つかない100キロはありそうな太った女が部屋に入ってこようとした。何故か斧も持っている。
(なん、だと。太っているのと巨乳は違うだろ!!)
「あ。チェンジで。」
俺がそう言うと、ブリトニーは斧を振り上げてきた。
「なんですってええええ!!」
思わずファイヤーボールを打ったら焼き豚になってしまった…。というか!こいつタダの女装したリアルオークじゃねぇか!ふざけんなよ。せめて人間にしてくれよ!
◇◇
コンコン。
「うふふ、お兄さん、私マリアンヌって言うの。宜しくね。」
次にドアを叩いたのはマリアンヌという女だった。
おお。いいね。めっちゃ美人だし巨乳である。舐めるように顔から順番に目線を下げていくと…。
(上半身がめっちゃ美人だけど足から下が蜘蛛じゃねぇか!!)
「チェンジで。」
「キエエエエエエエエ!!!」
(あー、叫び方が可愛くない。めっちゃ萎える…。)
ザシュ!!!思わず剣で刺してしまった。
でも、襲って来たのは向こうだしこれって過剰防衛にならないよな?
すると、何故かマリアンヌは上半身だけ脱皮してただの大蜘蛛になってしまった。
なんでだよ!!どうせなら足だけ脱皮して普通の人間になれよ!
口の中に剣を刺してファイヤーボールを撃ちまくったらなんとか勝つ事が出来た。
というかさ。この部屋もこれだけファイヤーボール打ったり暴れたりしてるのになんで壊れないの?
丈夫すぎるだろ!!
◇◇
「拙者は竹之丞でござる。この妖刀で満足させるでござる。」
今度は鬼が来た。しかも、女装しているけれど、明らかに男だ。
(鬼じゃねぇかよ!!角が生えてる上に、皮膚赤いし!しかも、『妖刀で満足』の意味がどっちの意味かわからなくて色々こえぇわ!!)
「チェンジで。」
「うおおおおおおおお!!!」
オイオイ!なんでチェンジしただけでコイツら襲ってくるんだよ!ちょっとやべぇだろ!!
仕方ないから撃ち合いをして、なんとか俺が勝った。
…なんでこんな変なやつばっかり出てくるんだよ!!
俺は殺りに来たんじゃなくて、ヤリにきたんだよ!!!文字が違うだろうが!!
◇◇
その後も女装したゴブリンが出てきたり、ただただ女の子用のカツラを被っただけのクオリティの低いゴーレムが出てきたり、ブラジャーをのせただけのスライムが出てきたりした。
もう、雑すぎるだろ!
せめてもう人間とは言わない!魔物でもいいから淫魔とかちょっとエッチな魔物を出してくれよ!!
その後も何故か『モンスター』ばかり出てきた。
途中からは、もう女装すらしていないガチモンスターが堂々と出てくるようになった。
…もうサービス精神のカケラすら消えてしまったのだろうか。
こうやってみると、さっき出てきた雪男は髪にピンクのリボンを付けていたので可愛いレベルに思えてきた…。いや、雪男ってくらいだから男なんだけどさ。
あのスライムの被ってたブラジャーもワンチャン美人な女の子のものだったかもしれないのに…。倒すんじゃなくてブラジャーを奪い取っておくべきだった。
もう最初のオークのブリトニーで俺は我慢してヤッておくべきだったんだろうか…。
よく考えればきちんと会話が出来たのはブリトニーと竹之丞だけだったし。
でも、なんで金を払ってるのに我慢をしなければならないのだろうか。
俺は挫けそうになりながらも、一縷の希望に欠けてチェンジを繰り返した。
(オイオイ!なんでこんなにチェンジしまくってるのに淫魔を出してくれないんだよ!)
残念ながら淫魔も出てきてくれないし、出てくる娼婦のクオリティは何故かどんどん下がってきている。
…ていうか、娼婦っていうけど男が混じってたりモンスターばっかりだけどな!
…本当にここって娼館なんだろうか。何度も確認して来たはずなのに。
戦い慣れてきてだんだん俺の剣筋のキレ味がよくなってくる。
しかし、剣筋なんてどうでもいいから俺の玉筋をどうにかして欲しい。
そして、チェンジを繰り返し、ついに100回目。コンコン…とドアをノックされた。
「どうもー。魔王でぇす。今日はよろしくね!」
そう言って明らかに威圧感のある、銀髪に赤い目の耳がとんがった男が出てきた。
ただ、唯一サービス精神を感じたのは、頭にレースの白いエッチなパンティーを被っていたことだけだった。
俺の怒りは頂点に達してぷるぷる震え出した。
「ふざけんな!何が魔王だ!俺は娼館に来たんだよ!せめて人間の女の子を出せよ!!」
すると、魔王は目を見開いた。
「何、だと。俺の変身を見破っただと…?!」
「何が変身だよ!頭にパンツ被っただけだろうが!」
俺がそう言うと、切り付けてきた。
だが、遅い!!
一晩で99体の魔物と戦ってきた俺を舐めるなよ!俺の気分は上がらなかったけれど、レベルは虚しいほどチャリンチャリン上がったんだからな!!
俺は奴の攻撃を悉く跳ね除けた。
「くっ!なかなかやるな!」
魔王は驚いたように鋭い目線を寄越して斬撃を繰り返す。
しかし、パンティを被っているせいか全く怖くない。なんなら、変態度が増しているだけである。
この攻防は日が昇るまで続き、やがて…。
「…参った。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。どんなことでも受け入れる。」
と言われた。
「いや、別に受け入れなくていいから!!!俺、娼館に来たのになんで魔王と戦ってんの?!」
と言うと、謝られた。
「…すまない。
魔王城がそろそろボロくなってきてな。
どうせなら断熱材も壁に入れたいし、エコキュートも入れたいし、お風呂は自動洗浄機能も付けたい。ついでに床暖房もつけたいし、耐震強度も上げたい。
だが、金がないからみんなで娼館をやることにしたんだ。」
俺はそれを聞いて絶句する。
「せめて、娼館をやるならクオリティを維持してくれよ…」
「いや、それは本当に申し訳ない。お詫びの印にこれをあげよう。私がプライベートで履いているものだ。」
そう言って頭のパンツを脱いだ。
…いらねぇよ!!!!お前のかーい!
やる気もヤる気も失せてしまった俺は、『せめて、淫魔を寄越して欲しかった…』と愚痴ってからションボリして家路に着いたのだった。
後日、魔王からお詫びの品が届いた。
『この前は大変迷惑をかけた。猫耳付きのランジェリーセットを送る。ぜひ使ってくれ!』
いや、使う相手なんていねぇーし!!
俺は怒りでランジェリーセットを床に叩きつけたのだった。