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異世界猫

もっともな婚約破棄

作者: 山田 勝

「ギュンタ、貴方を追放します。理由は、子猫じゃなくなったから、今まで1年間ありがとうね」



 ママのサビーネに追放を宣言された。

 始め、何を言われているのか分からなかった。

 僕はギュンタ、猫、灰色のシマ模様の猫だ。

 小さい頃から大きな猫と暮らしていたので、言葉は少し分かる。



「ミァン?」


 箱に入れられ、河原に置いてかれた。時々、連れてこられた河原だ。


 ヒュ~!


 風が寒い。いつもはサビーネが家来に魚を釣らせて、生で食べさせてくれる河原なのに、誰も僕に見向きもしない。



 少したつと。ボロボロの服の大きな猫がやってきた。



「あら、捨て猫?手紙があるわ。『血統書付きの猫、ギュンタです。大人しい子です。宜しくお願いします』ですって」


「貴方も捨てられたのね。ギュンタ君・・・ね。うちにおいで。私はマリよ」



 抱っこされて、これまたボロ小屋につれてこられた。


「ご飯、食べるかな。干し魚だよ」


 プィ!


「ギュンタ君、ごめんね」


 しばらくすると、新鮮なお魚を持って来てくれた。

 これだよ。僕は海魚しか食べないのだ。


「フフフフ、お水もあるわ」


 ミルクじゃないのか?ノドが乾いたから仕方ない。飲むか。

 しかし、ここはオモチャもない。おやつもない。

 あの石のハウスでは、いつも暖炉が焚かれていて、お皿には小魚がいつもいっぱいあるのに。



 プィ!


「あ、ギュンタ君、一緒に寝ないの」




 そんな。不満を猫集会でもらした。ここの猫集会は猫相が悪い猫ばかりだ。



「・・・・新入り、ギュンタとか言ったな」

「しゃあないよ。俺たちについてこい」


 ボス格の猫の後ろを付いていく。そこにはマリがいた。



 ・・・・・



「お花を買って下さい!」



 マリだ。みっともない。大人にすがりついて。



「ほら、あの子は孤児だ。捨てられたんだ」

「お前のご飯を稼ぎに夜も居酒屋で働いているぞ」

「この前は、髪の毛を売るって相談していたぞ」


「何だ。それ、大きな猫なら当たり前じゃないか?」



「シャアアアアアーーーーー」(何だと!)


「ミャアー!」(痛い!)



 前足で頭を押さえられた。野良はこれだから嫌だ。前の所のような上品な飼猫はいない。



「何だよ!猫は優れた生物だ!奉仕されて当然なんだよ!」

「はあ、まだ、言うか!」


 マリが駆けつけてくれた。


「コラ、ドラ猫!ギュンタ君をいじめるな!」


「ミャアー!」(しゃあない。猫語通じないし)

「ミャン!」(逃げるか)



「大丈夫だった。ギュンタ君」


 プィ!


「待って!」


 僕は逃げた。マリとその家は嫌だ。


 元の家に戻る。また、あの生活に戻るんだ。あの追放は間違いだったのだ。


 何とか屋敷を探した。


「あら、ギュンタ戻って来ている。ミーシャは見ちゃだめよ」


 サビーネの腕には他の猫がいた。


「ミャアー」(どちら様ですか?)

「やっぱり、猫は女の子で長毛がいいわ。そこのメイド、ギュンタを捨ててきて」

「・・・はい、お嬢様」


「ミャン!」

「キャア!」



 僕はメイドの手から逃れ街をさまよった。世界が反転したような気持になった。地面がグラグラする。もう完全にあの生活に戻れない。


「ミャン!ミュン!」


 気がついたら、路地の行き止まりで鳴いていた。

 誰か見つけて欲しい。

 優しいママが欲しい。


 朝日が昇る頃、僕を探す声が聞こえて来た。


「ギュンタ君!ギュンタ君!あ、いた!」


「シャアアアーーー」


 と軽く牙を見せたけど、あの子は僕を抱っこしてくれた。


「ごめんね。お魚を買ったから家に戻ろう」



 マリは布を頭に巻いている。

 髪を切ったらしい。


 魚を置いてくれた。


 プィ!


 僕は食べなかった。


「ギュンタ君・・・」


 数日の間、ご飯を食べなかった。マリは神妙な顔をして僕に話しかけた。



「あのね。聞いて欲しいの。私、親にすてられたんだ。ずっと、一人だったよ。だけど、君のために働けるのならこんなに嬉しいことはないの。独りじゃいやだよ」


「・・・・」


「もし、君も死にたいのなら、何も言わない。君の悩みはわからないから、だけど、もしね、私のために、お魚を我慢してくれるのなら、それはやめて欲しい。ギュンタ君がいるから、私は生きていける生きがいなんだよ」


「ミャ」


 ショックで食欲が無かっただけだが、お魚を少しかじった。


「うわ。嬉しい!」


 フン、笑顔はいいな。






 ☆☆☆数ヶ月後



「ニ゛ァー、ニャン、ニャー」(ギュンタ、ママのお出迎えか?)

「ミャン!ミャン!ミャー」(ボス、僕が迎えに行くと、早く帰れるのです)

「ミャアアーー」(よぉし、今度、ネズミの捕まえ方教えちゃる!)

「ニャン」(はい)




 ☆居酒屋


 居酒屋でマリを呼ぶ。

「ミャアン」


「マリちゃん。彼氏迎えに来ているからあがりな」

「でも、女将さん」


「ほら、ご飯持ってき!」

「有難うございます」



 段々分かってきた。僕は可愛いらしい。


「フフフフ、毛繕いしてあげるね」

「ミャアン」


 マリの髪の毛が元の長さに戻った頃


 サビーネが僕を迎えに来た。

 何故?



「はあ、はあ、探した。貴方ね!うちのギュンタを誘拐した人は?」

「そうなのか?君、サビーネがそう言っているが」


「いえ、違います」


 何だ。男と二人で来ている。


 男はサビーネの未来の番のようだ。



 話の内容から分かった。

 僕を捨てた噂を聞いた婚約者が問いただしたそうだ。


 何でも、僕を捨てたのなら、そんな薄情な女は婚約者として相応しくない。

 婚約を破棄するとの事だ。



「さあ、帰るわよ。ギュンタ、うちに帰ればいっぱいご飯とミルクをあげるわ」


 プィ!

 とそっぽをむいてマリの膝の上に乗った。帰るものか。


「あの、お貴族様、確かに、この子はうちの子です!」

「証拠はあるのか?」

「いえ、あの手紙は、使ってもうないのです」



 それで、裁判になった。

 動物裁判だ。



 サビーネの方に証人がいっぱいいる。メイドや執事のようだ。

 口々に。


「ええ、ギュンタ様は脱走しました。今までお嬢様は探していました」

「そうです。この女が連れ去ったに違いありません」



 マリの方は勤め先の居酒屋の夫婦ぐらいだ。


「いつも、迎えにきていました。懐いていました」

「そうでえ。とても、誘拐されたとは思えないぜ」



「マリ殿とモルタ伯爵家令嬢も状況証拠に過ぎない。よって、動物裁判を行う。ギュンタ、人族の言葉はわかるな」


「ミャア!」(なんとなく)


「好きな方に向かえ。それでギュンタ殿の保護者を決める」


 僕は檻から、放された。


「ほら、来なさい!毎日、本マグロでパーティーよ!」


 プィ!とサビーネにそっぽを向いた。


 迷うことなく、マリに抱っこされに行く。


「ギュンタ君」




「「「「ミャアアアアーーーーー」」」」(やったぜ!)

「マアアアーー」(猫を捨てる奴は地獄行きだ)


 兄弟猫たちが見守ってくれていたようだ。


「判決、ギュンタ殿は、マリ殿と暮らすように!」

「はい、ありがとうございます」

「ミャン」(わかった)


「そ、そんな」

「やはりか。サビーネ、そんな女は当家の婚約者に相応しくない。よって、婚約破棄だ!」

「ヒィ」




 ・・・・・



 それから、僕とマリは、居酒屋夫婦の養子になった。

 僕はボスから狩りを習って、ネズミを捕っている。


「ミャン、ミャン」


 ボスだ。


「おう、ギュンタ、あの女の家、工事しているぜ。今夜、行こうぜ」

「分かりました。何をしますか?」

「ざまぁだ」



 夜、皆とあの女の屋敷に行った。

 ボスが教えてくれた。


「いいか、セメントであの女の家、工事している。今は乾かしている真っ最中だ。そこを通るのだ」


「これが、ざまぁになるのですかね?」


 僕は歩いた。何だかプニプニして気持ちいい。

 僕だけじゃない。

 他の猫たちが、一斉に歩いた。

 本当に歩いただけだ。



 ☆翌日



「ヒィ、花壇を整備したら、猫の足跡ばっかりじゃない!猫は嫌!」


 なるほど、人族はこれを嫌がるのか。

 ザビーネの叫び声を聞きながら、僕は、隣の長毛猫の女の子と話をする。


「あれ以来、屋敷に引きこもってね。全然構ってくれないし、飽きたら捨てられそう」

「大変だね・・・うちに来る?」

「そーする。でも大丈夫かな?」

「僕がネズミを捕るさ。市場で魚をもらえるコツも教えてあげる」


 近々、ママに彼女を紹介する予定だ。





最後までお読み頂き有難うございました。

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