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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
部活無所属組
9/89

王道の関係性



 説明を受けたトクサツは一瞬楽し気に瞳をキラキラと輝かせたものの、ふと何かに気付いたような顔をして、すぐに泣きそうな顔になってしまった。


「……演劇、なのよね。だったらそれはヒーローじゃないから……」

「英雄でないといけないの?」

「だって、僕はヒーローだもの。じゃないとママが悲しむわ」


 トクサツは膝の上で強く手を握り、眉を下げ、瞳を潤ませる。


「ママを悲しませるのはいけない事で、ヒーローのする事では無くて、僕はヒーローでいないといけなくて……」

「そんな事は知った事じゃないのだわ」

「ヒメちゃん一刀両断し過ぎ!」

「そもそも、この演劇については強制参加なのだわ。不参加決め込もうにも、記憶を失った末に何故か演劇に参加していたという情報だけを後から聞かされて終わる。それなら意識を保った上で自分らしく演じる方がよっぽどマシなのだわ!」

「…………記憶を失う、とは……?」

「フリョウが不参加を主張した時にジンゾウが慌ててたの、そういう事? 詳細はわかんないけど」

「詳細は言えないけど、うん」


 男三人がヒソヒソ小声で話してるのは無視する事にする。


「自我が無い状態で本人の性格完全無視の公開催眠プレイとかそれはもうエロの世界……妄想が捗る!」


 男以前に頭の中が馬と鹿で出来ていそうなユニコーン頭も無視しておく。


「というか、ヒーローであろうとするなら、学園祭でこれをやれと言われた出し物に不参加決め込もうとする時点でアウトなのだわ」

「うっ」

「見回りをするのは有りかもしれないけれど、生徒である以上は生徒側として楽しむ、というのが学園祭を全うする為の義務」

「うう……」

「ヒーローらしくない、ヒーローでは無い役だから、と他の生徒との協力を拒否して教師からの指示も無視するなんて、それの方が一番ヒーローらしくないのだわ!」

「そ、それはそうだけど、そうなんだけど、でも僕は」

「てか、ちょっといい?」


 ノートに何かを書き込み終わったらしいユニコーン頭、もといマンガがノートを閉じて挙手した。


「正直なところ脚本すらまだなわけだし、どうしてもヒーロー関係である必要があるなら、ヒーローも登場するような脚本にしちゃうっていうのも手だと思うんだよね」

「あるいはこういった時でもないと無理だろう、ヒーローとは無関係の世界にしちゃうとか?」


 ライトの追撃に、ううう、とトクサツが唸る。とても心惹かれるけれど、でもヒーローで居ないといけなくて、という葛藤に悩まされているらしい。

 成る程。幼少期から滅私奉公の英雄であれと洗脳染みた教育を受けている、というのは本当のようだ。


「ぼ、僕はヒーローで……ヒーロー家を導く者でないといけなくて……」


 ぐ、とトクサツは唇を噛む。


「……学園祭は、きっとママが来るわ。もしママの期待する僕じゃなかったら、ママは僕を……」


 見捨てるかも、という言葉は紡がれなかった。とても言えない、言いたくない、認めたくないといった顔でトクサツは目を伏せる。


「だったらその時はうちで引き取るのだわ」

「…………えっ?」

「きっと見捨てられたりなんてしない、なんて無責任な事は言わないのだわ。だってそれは貴女のお母様が決める事。私がどう思ったって、会った事も無い相手の考え方なんてわかるはずもないのだわ」


 きっと大丈夫だ、なんて無責任な事を言って参加させて。それで万が一があった時、きっと大丈夫だという言葉によって安心していたなら、その分だけ彼女の心は痛々しく砕けるだろう。


「貴女のお母様については、私よりも貴女の方が、トクサツの方が知っているはず。そのトクサツが言うのならその可能性があるとして考えるのだわ。その場合は我が家、あるいは我が家と交流がある家に話を通し、貴女が不自由せず暮らせるくらいの生活を用意します」

「……それ、僕の問題は解決してないわよね?」

「トクサツの問題はトクサツの精神的な問題なのだわ。外野がどう言ったところで、トクサツ自身が解決したと断言出来ない限り、解決したとはとても言えない問題。だったら最悪の状態に陥った時用の受け皿を用意するのが精いっぱいの誠意なのだわ」


 んんんんん、とトクサツは唸る。

 けれどその顔は先程までの逃げ道が無い袋小路に追い詰められて泣きそうになっている顔とは違い、目の前にある二つの道のどちらを選ぼうか、という顔。


「……ヒーローが、自分に課せられた役目を果たさないのは格好悪い、わよね」

「別に役目から逃げたって良いのだわ。結果的に参加する事になるでしょうし」

「ううん、やる。僕、やるわ。だってヒーローが、ヒーローらしくないから、なんて言って役目から逃げたら、それこそ本当のヒーローじゃ無くなっちゃうものね」


 うん、とトクサツは拳を握る。


「ママに言われているからこそ、ヒーローとして、やるべき事をやらなくっちゃ!」

「ええ。それでこそ、ヒーローらしいのだわ」


 母親からの心象を気にして足踏みするよりも、よっぽどヒーローと言えるだろう。





 さて、とヒメは手を叩く。


「残りはマッドだけなのだわ」

「最初の時は説明の前に顔を見る間も無く逃げられちゃったもんね」

「ええ」


 ジンゾウの言葉に頷いた。

 しかし最初の時とは明らかに違う。


「これだけ人数が集まったのだから、外を囲いつつ空き教室に入れば良いのだわ」

「ヒメ、もしかして狩りの話してない?」

「してるのだわ」

「してたかァ」

「マッド以外を集めきったのだって、説明前から逃げるような相手じゃ人数が揃ってから出直せって言われるかもしれないからなのだわ」


 だが、既に揃っているならその手は使えまい。


「だけど、マッドは周囲を囲ってるくらいじゃすぐに逃げちゃうかも」


 トクサツの言葉に、おや、とヒメは思った。


「トクサツはマッドの事を知ってるの?」

「ええ! 僕は魔法で目からビームを出す事は出来ても、ヒーローのように……ヒーロー家の祖先たる正義の英雄のように巨大化したり空を飛んだりは出来なかったわ」

「出来なくて良い事だと思うのだわ」

「でも! マッドはそんな夢を叶えられるかもしれないって言って沢山の薬を作ってくれたの! 勿論上手くいかない事も多いけれど、それだって必要な情報だものね!」

「……巨大化したり、空を飛んだりする薬?」

「そう! 逆に小人化する薬だったりした事もあるけど。でも、薬って目的の物が出来る前には真逆の物が出来るって事もあるから希望が潰えたりはしてないわ!」


 確かにヒーローの傍には必ず技術者が居るものというイメージはあるけれど、かなりアングラ方面の技術者のような。


「素直無垢真面目英雄願望持ち美少女プリンセスに紙面でしか見ないような薬を試飲させて実験台にするとか現実が妄想を追い抜いてきたな……!」


 ユニコーン頭が何か言っているのは無視しておく。うるさいノイズだ。


「つまり、そういった薬を持っているからそれを使用して逃げられるかもしれないって事なのね?」

「あと、マッドの使う魔法もあるから」

「マッドの魔法って?」

「ブレーキ操作魔法!」


 自信満々に言われた言葉が一瞬理解出来ず停止した。


「……つまり?」

「つまり、筋力のブレーキを緩めて普通以上の力を出したりが出来るの!」

「筋力のブレーキって必要以上の負荷を与えないようにしてる必需品だから、そのブレーキを緩めたら筋肉の筋を痛めたりするのだわ」

「うん。筋肉痛や肉離れが辛いからって痛覚にブレーキ掛けて痛みを感じないようにして、筋肉の痛みを治す薬作りをしてたわ」

「緩めたり止めたりだけじゃなく、ブレーキを掛ける事も出来るのね。あんまり良い使い方じゃ無さそうだけど」


 肉体が壊れるような無茶が出来る、という事だ。意図的に火事場の馬鹿力を引き出せるもの、とも言える。

 だがそれは元の肉体あってこそ。

 普通の人でも火事場の馬鹿力を出せば疲れるし、体が弱い人だったりしたらその分だけの反動がやってくるだろう。力を込めても折れない太い枝だって世の中にはあるが、同じだけの力を籠めれば粉砕される程に細い枝だってある。必要以上の力というのはそういう事になるものだ。

 そこまで考えて、ヒメはふと逃げ去る影の事を思い出した。成る程、ブレーキを緩める事で窓から木の枝に飛び移ったり、凄い速度での逃走をやってのけたという事か。


「あと倫理観のブレーキもオフに出来るって」

「用法用量を確実に守っていない薬だと明言してるも同然なのだわ!?」

「で、でも良いところもあるのよ? 今日だって僕は沢山収穫されたお野菜の運搬を手伝ったのだけど、そのお野菜に使われた肥料を作ったのがマッドなの!」


 その言葉にフリョウが険しい顔で眉間に皺を寄せる。


「…………安全性があまりにも心配になってくるな……」

「野菜に有害な虫を野菜自身が葉っぱや蔦を使って地中に引きずり込んで、近くにある野菜と同じ姿に変質させる仕組みの肥料らしいから大丈夫よ! 成分もしっかり野菜になってたって言ってたわ!」

「待ってそれ原材料虫の野菜って事ォ!?」

「食べても野菜の味しかしなかったから大丈夫よ」

「にこやかに言ってるけど食べてるゥ……」


 ひえ、とライトが引きつった笑みを浮かべながらフリョウの上着を縋るように掴んだ。

 まあ、最初から虫料理と出されるなら逆にマシだが、野菜の顔して野菜の味した原材料虫が混入しているかもしれません状態が怖いのは仕方あるまい。

 尚、ヒメは特に気にしてない。万が一のサバイバル時用に虫も食べれるようになっておけば衰弱し過ぎる事は無いだろう、との事で両親から食べれる虫や調理法を教わっていたからだ。


「ともあれ、ブレーキ云々を念頭に置きながら囲い込みでマッドを捕まえるのだわ。逃がしたら逃がしたで、ジンゾウに探ってもらい追跡」

「え、でも逃げられない? マップを移動する時の速度からすれば追える速度だと思うけど、それをやると向こうがもっとブレーキを緩めて後遺症が残る勢いで無茶しちゃうかもしれないよ」

「それならそれで動けなくなって捕まえやすいから良いのだわ」

「…………俺の魔法は治療系だ。捕まえて話をし終えた後なら俺が治そう」

「フリョウ、それって限界まで追い詰める宣言と同義だと思うんですよねェ……」


 いいこでお話してくれるなら何の問題も発生しない、良心的な案なのに。





 幸いマッドはトクサツとの交流があったので、まずトクサツを行かせて事情を説明する事で逃亡する事無く会話が出来る状態に持ち込めた。





 ヒーロー家について。


・祖先は特撮好きの異世界人。

・魔法が何でも使えるとわかり夢を叶えまくった。

・その武勇伝が語り継がれ、祖先の遺言である「誰かを助ける人間であれ」が受け継がれている。

・ただし最近は……。



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