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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
姫騎士なのだわ
86/89

因縁の終演



 速い。

 ジンゾウが知っているよりも速い動きで、ヒメはジンゾウの攻撃を弾く。

 遠心力と筋力と単純な重みが加わった大剣は、短剣が少し触れて金属音が響くと同時、予想外の方向へと振り回される。


(やっぱり、ヒメちゃんだなあ)


 ほんの少し接触しているだけなので、ヒメ本人の負荷は少ない。けれど強い力を込めているジンゾウ側は、その力を利用されて大きく空振り()()()()()

 動きの軸をほんの少しずらされただけで、その大剣はてんで見当違いの方へと振るわれた。


「ふ、」


 普通の人間なら分身かと思う程の速度。残像を残す勢いで動くヒメからの攻撃を、半分は大剣で、半分は魔法による障壁で弾いた。

 そう、魔法だ。

 ジンゾウには無数の、無限の魔法がある。

 三年時には魔法有りでの組手を行っていたので、ヒメもジンゾウが使える範囲の魔法については知っているだろう。


(でも)


 知っているからといって、砕けるわけじゃない。

 ジンゾウは一度知れば大体対応出来てしまう。でも、それ以外の人はそうじゃない。障壁があるとわかったって、それはどうしようもない。


(それに)


 例えジンゾウを上回るスピードを出せたって、意味はない。

 半分を魔法の障壁で守らせる速度なら、勝機があるのではと人は思うだろう。

 違う。

 その速度を見て、動きを覚えれば、その速度も覚えてしまう。慣れてしまう。目で追えない速度は目で追えるようになり、肉体が追い付かない動きは、肉体が追い付く()()の動きに成り下がる。


「――ふッ!」

「おわっ」


 それでも、先程までの速度を上回ってくるのがヒメだった。


(ああそうだ、そうだったっけ)


 危うく目の前まで迫りかけていた短剣を、間に合わせた大剣の側面で受け止めて強く弾く。

 そうだ、ヒメは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 ()()()()()()


(でも……)


 それでもやっぱり、意味なんて無い。

 ヒメもそれをわかっているからか、言った。


()()()()()()()()()()()()()

「……あーあ、バレてた」


 魔法をまったく使ってないというわけじゃないので誤魔化せないかと思ったが、駄目だった。

 それに気付かれないように、と思って薄皮一枚くらいの誤魔化し魔法を使ったけれど、やはり映像系魔法の持ち主であるヒメにはそういった偽造系は通じないらしい。


(あーあ)


 バレちゃった以上は、本当に本気を出さないといけなくなっちゃった。


「死んじゃうよ?」

「上等!」


 万が一に躊躇いを覚えるジンゾウとは対照的に、ヒメは牙を剥くような笑みを浮かべた。

 それはもう楽しそうな、嬉しくて仕方のないという、剥き出しの笑みだ。


(――ああ)


 そんなヒメが大好きだから、ジンゾウは手加減無く、魔法で作られた高威力の球体を頭上から放つ。

 否、頭上からだけじゃない。

 正面からも背後からも、球体が迫る。球体と見せかけた砲台から細長い光線も放たれる。


「死ぬ危険性があるにしては、直線的過ぎるのだわ」

「言われちゃった」


 それを、ヒメは容易く避ける。

 ほんの少し立ち位置を変えるような些細な動き。一瞬ごとに立つ場所と腕の位置をずらす程度の動きなのに、まるでジンゾウの攻撃が自ら避けるかのように避けられる。


「それに、ぬるい」

「っ!」


 真正面から来ていたヒメを狙った無数の光線は、ジンゾウの肩に手を置いて空中で前転してジンゾウを乗り越え避けられた。


ジンゾウ(使用者)に当たらないよう調節されてる直線なんて、動きが読みやす過ぎるのだわ」

「そっか」


 確かに、ジンゾウの真正面からヒメを狙ったりはしなかった。ジンゾウに当たらない斜め後ろの位置からは狙ったのに。

 そしてジンゾウの背後から、ヒメが乗り越えてくるのを想定して放つ、という事もしなかった。結果、がら空きの背後を取られてしまった。

 勿論それも舞台の端に魔法で瞬間移動する事で避けたが、それを読むとは流石ヒメ。


(僕が学習しても、対応に難しい動きするんだもんなあ)


 ヒメがそう動くのを読んで後ろから光線を放てば、ヒメがジンゾウを乗り越えず横に避けた場合、ジンゾウが無駄に自滅する事になってしまう。

 ジンゾウが判断出来るのは、対応出来るのは、あくまで最適な動きのみ。

 ヒメが同じ動きをあと二回もすればこの状況でヒメは必ずそうすると判断し適応するだろうが、ジンゾウがパターンを学ぶや否や自滅させにくるのがヒメだ。


(……ほんと、それで何回やられたか)


 そうして学習した分をまた更新して、直前で消すとか色々調整入れて。そしてその処理に思考の容量を多少持っていかれて動きが鈍って、またヒメの動きに適応する為ちょっと時間が掛かって、のスパイラル。

 相手が上回るのを利用して動くんだから、流石としか言いようがない。


(さっきから幻覚系も全部無視されちゃってるし)


 攻撃するタイミング、位置、全てが躱される。見抜かれている。

 しかも何が問題かって、()()()()()()()()()()()()()()()()()で躱されること。


(これで、見抜いた上で避けたっていう動きをしてたら僕も対応するんだけど)


 ジンゾウの対応は、やろうと思って出来るわけじゃない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、または、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、という形。

 見抜かれた上で避けたなら、見抜けないよう更新した動きになる。勝手になる。

 だが、そうじゃないなら。

 極自然に、()()()()()()()()()()()()としか認識出来ない避け方をされれば、ジンゾウ自身が避けられたと感じたとしても更新されない。対応出来ない。

 オートで更新されるからこその、意図的に条件未達成にするという手法。

 足を滑らせたかのような動きは間違いなく意図的だが、見た限りでは足を滑らせたようにしか見えない為、避けたのではなく足を滑らせた結果予定通りに行かなかった、という事になる。


(そこまで見抜いても、そして実際にやろうと思っても、そう簡単に出来る事じゃないと思うんだけどなあ)


 ジンゾウの意識ではどうにもならない部分を手玉に取り、更新を遅れさせる動き。

 人間というのはどう頑張っても無意識で視線を向けてしまったり、反射的に反応してしまったりするものだ。

 それを完全に押し殺して、目の前に迫る大剣の幻覚に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、あるいは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だなんて無茶苦茶過ぎる。


(でも、それをやってのけるのがヒメちゃんだもんね)


 それをやってのけるヒメで居てくれる。

 ジンゾウが落とし穴の幻覚と、本物の落とし穴を発生させる魔法を併用しても避ける。上下左右からの攻撃も、コンマ数秒の隙を縫って踊るように避ける。質量を持った分身なんて、何の障害にもならない。

 寧ろ、魔法を併用するジンゾウの方が負担を感じる程だ。


(並列処理の魔法も使わないとだしね)


 それでも併用には少しのタイムラグが発生し、その隙を狙われる。

 予知能力は精度が高ければ高い程に今と未来の区別がつかず、かといって精度が低いと何が起こるかまでは視えず、そもそもヒメの速度が速過ぎるせいで未来を視ても次の瞬間にはもうその未来が直撃してきた。

 突然体の大きさを変えても、口の端を裂いた蛇顔で噛み付きに掛かっても、ヒメはただひたすらに楽しそうな顔でそれをさばく。


「ぬるかったらどうしようかと思ったけど、中々に楽しめるのだわ!」


 青い目をギラギラと、爛々と、煌々と輝かせ、獣が牙を剥くような笑みを浮かべてヒメはそう言う。

 お姫様がする顔じゃないし、そもそもこの状況がお姫様らしくないけれど、


(でも、すっごくヒメちゃんらしい)


 これでこそ、ジンゾウが好きになったヒメだ。

 惚れ込んだ人だ。

 反則みたいな動きをするジンゾウ相手に真正面から対峙して、ジンゾウのオートで更新する特性すら手玉に取って、とても楽しそうな顔を向けてくれる。

 どれだけ獰猛だろうと、間違いなく嬉しそうで、楽しそうで、満ち足りていると語る顔。


(僕に)


 こんな僕なんかに、全力でそれらを向けてくれる。上回ってくれる。

 ジンゾウというチート(枠外の反則)を否定してくれる。

 ああ、


「ああ、もう、本当に」


 本当に、


「大好きだよ、ヒメちゃん」


 流石に疲れて来たのか、さばけなくなったのか、ジンゾウが対応出来てしまったのか。

 ヒメの動きがどんどん見えるようになって、ヒメの体の表面に細かい傷が出来始める。

 頬に、腕に、足に。

 血が出たり出なかったりという浅い傷だが、確かに傷が入り始めた。ヒメの服は先程からわざと防御として前に出しているのか、肉を守る代わりにどんどんワイルドな切り込みが入っていく。


「そう? ありがとう」


 場所自体に変化をもたらすのは、ジョテイの上書き魔法を更に上書きしなければならない。下手すれば空間そのものに異変が生じてしまう。

 だからジンゾウは、周囲に蛇を発生させるという形で道を潰した。

 足を踏みこめば致死性の猛毒。一歩踏み込む、どころか踏み込まないままでも危険な状態。足に絡めばそのまま引きずり込まれ、足をへし折ることだろう。


「私も」


 ヒメは言った。

 蛇なんて気にしてもいないように。幻覚ではなく本当に発生している猛毒の蛇相手に動じず、川の水面からほんのちょっぴり顔を出している岩を足場にして跳ぶように、軽やかな動きでジンゾウに迫り、言った。


「私も、こんな私が大好きよ」


 ジンゾウは攻撃を放つ。真っ直ぐに。

 光線はほんの少しをずらした動きで避けられ、ヒメは目前まで迫って来た。


(……ここまで、かなあ)


 ジンゾウは大剣を振るう。涙が散る。

 わかる。ヒメの動きが。またずらす躱し方をするんだろうとわかってしまう。

 だからずらした先、このままでは致命傷にはならない位置をあえて狙う。真っ直ぐ攻撃するように見せかけた一撃だ。ヒメが動きをずらせば致命傷になる位置だ。

 そう、ジンゾウは、


(ああ……)


 ()()()()()()()()()()()()()()





 短剣が、宙を舞った。





 大剣が、飛ばされた。





 ヒメは、真っ直ぐに突撃した。

 致命傷にはならない位置に向かって来た大剣を、わかっていたかのように弾いた。片方の短剣を予めその位置に固定し、短剣一本を犠牲にする事で、一つの大剣をジンゾウの手から離させた。

 間違いなく、ずらす為の動きだったはずなのに。

 呼吸も歩法も視線も体重の掛け方も、間違いなく一致していた。真っ直ぐ来るとわかっていたならそれに対応した動きをそのまま出来る状態だった。

 なのにジンゾウは完全に騙されて、ずらす動きで行われた真っ直ぐな突撃に、対応し損ねた。


(裏を、掛かれた)


 その動揺に一瞬出来た隙。

 その隙を逃さずヒメはジンゾウの足を払い、転がした。

 残っている一本の短剣は、その切っ先をジンゾウの喉へと突きつける。


「少し会わなかったから、避け方の癖が変わったと思ったでしょう? 主流の避け方を変えたと、そう思ったでしょう?」


 ふ、とヒメは短剣を持つ手を一切ブレさせないままに笑った。


「残念」


 弾むような、甘い声。


「前座にもなっていない奴らを相手取っていた時から、つまり最初から、貴方対策の動きしか見せてないのだわ」


 そう、


「一年振りに見る、今の私。今の私はこういう動き方をするんだと貴方は学んだ。学んだ貴方は、実に思い通りの隙を作ってくれました」


 額に汗を滲ませながら、ヒメはニッと口角を上げる。


「貴様は本当に、やり方さえわかれば戦いやすい相手だな」

「……こっちもそう、思ったはずなんだけどなあ」


 一から全部、手のひらの上で転がされていたというわけだ。

 いや、飼い主の指の動きに合わせてころんと転がってみせる飼い犬か。


「僕を相手取って戦いやすいなんて言うの、ヒメちゃんが初めて」

「あらそう?」


 ヒメは笑う。ヒメの母によく似た、ヒメの父にもよく似た笑み。


「私、貴方の初めてを貰ってばっかりなのだわ」

「ほんと」


 くすくすと、ジンゾウも笑う。

 喉にまだ切っ先が触れている中、笑う。


「何をほのぼのとやってんのジンゾウ!? 後でどうにでも上書きすれば良いんだから、さっさとその小娘を殺せ!」

「無理でーす」


 疲れた。疲れ果てた。

 ただの人間になっているジンゾウには疲れがある。

 もう、疲れた。疲れるくらいの全力を出した。


「僕はちゃんと全力を出したんですよ。でも、ヒメちゃんの全力を出させるとこまではいかなかった」


 いけなかった。


「手加減したまま僕に勝っちゃうんだもんなあ、ヒメちゃん」

「それは勿論、私は自分を磨きに磨いていたもの。腐った砥石しか周りになかったジンゾウと違って」


 そう、ジンゾウは上回る。相手を上回る。

 上回る必要がある相手が居ない場合、ジンゾウはそこを限界値としたまま、何一つとして変化は無い。成長出来ない。

 それが、大きく勝敗を決した。


「て、手加減? そっちの方が随分と手傷を負ってるのに?」

「確かに僕は無傷ですけど」


 困惑に目を白黒するキンキ王に、ジンゾウは言う。


「ヒメちゃん、魔法使ってないんです」


 そう、あれだけ大量の魔法を使ったジンゾウ相手に、ヒメは魔法無しで勝利した。


「そりゃ僕だって魔法を使われたら見抜けるし、打ち消す事だって出来る。でも一瞬はそれを判断するのに使っちゃうし、その隙を狙って感覚を鈍らせたり、一瞬視界を奪う事で居場所を錯乱させたり……僕が思わず動揺するような映像を出す事だって、きっと出来た」


 出来たのに、しなかった。


「ハンデ持ったまま僕を負かすんだもん。無敵の反則だと思ってたけど、僕って結構弱いのかな」

「充分に強いのだわ」


 短剣を突きつけたまま、ヒメは言う。


「ただ、貴方よりも私が強かっただけ。単純な話よ」

「単純に強いのが僕のはずだったんだけどなあ」


 最強として生み出されたはずの存在なのに、あっさりとそれを否定された。

 お前は最強でもなんでもないと、証明された。


「……ヒメちゃんはいつでも、僕を負けさせてくれる」


 短剣が引かれる。


「今回なんて本当に全力を出したのに、全然通用しなくって」


 差し伸べられた小さな手を取る。


「僕に勝つのを諦めず、本当にやり遂げちゃう」


 ジンゾウを立ち上がらせてくれたその手は、とっても小さくて可愛くて柔らかいのに、この世の何よりも力強くて、頼もしくて。

 そしてとびきり、愛おしい。


「そんなヒメちゃんの事が、本当に」


 本当に、


「本当に本当に、大好きだよ」

「でしょうね」


 聞き飽きたわ、とヒメは呆れたような笑みを浮かべたまま肩をすくめる。


「私だって私が好きだもの。当然よ。自分が好きと思える生き方をしてるんだから」


 そうじゃないなら生きていないわ。


「ああそれと、私をここまで強くしてくれた、私が好きだと思える自分に磨き上げてくれた最大の協力者の貴方も好きよ。当然ね」


 ジンゾウは耳を疑った。

 あれあれ、耳がイカれちゃったのかな。


「……それは、恋愛的な意味で?」

「別にどちらでも構いません。貴方が、私から、どんな形での愛を受け取りたいかによります」


 真剣な時の口調。

 ヒメは目を眇め、ニヤリと笑う。


「私が勝ち取った賞品からのキスで、それを示してもらいましょうか?」

「!?」


 それはつまり、部位の話。

 恋愛的な意味なら唇に。そうじゃないならそれ以外に。


「う…………」


 今更、視線が気になり始めた。


「ジンゾウくん頑張ってぇー!」

「勇者になれ!」

「そうだよジンゾウ新刊の出来に関わるから!」

「おひゃー! 生のジンヒメが見りぇるにゃんてぇ!」

「おれが読む新しい本の数を増やす為にもあと一歩前へ出やがれジンゾウ!」


 創作部うるさいちょっと黙ってて。というか何で先輩の人まで居るの。身内枠なの。思わず睨めばお揃いの指輪が見えた。お幸せに。でも黙って。


「……あの、目を瞑るとか」

「すると思う?」

「だよね」


 パッチリ開いたままの目。

 その強い視線に、目力に圧倒されながら、ジンゾウは屈んで、





 恐る恐る、その小ぶりな唇に口付けた。





「いよっしゃー!」

「よくやった!」

「後で祝いのダンス見せてやっから!」


 ダンス部の三人はお願いだから黙ってて。

 顔が真っ赤になってるのを自覚しながら顔を離せば、ヒメは少し驚いたように目を瞬かせていた。


「えっと、ヒメちゃん?」

「意外。てっきり日和って誤魔化すかと思ってたのに」

「それで誤魔化したらヒメちゃん二度と応じてくれなくなっちゃうもん!」


 学園生活の殆どを一緒に過ごしたジンゾウだ。ヒメがそういう人なのはよく知ってる。それはもう知ってる。うっかり躊躇う様子を見せてチャンスを棒に振れば、その瞬間、未来永劫、あったはずの道は閉ざされるのだ。


「な、っにをごちゃごちゃとラブコメやってんだ!」


 その声に、体が跳ねた。





 キンキ王の視界は、赤と黒で埋め尽くされていた。

 視界一面のBAD END(詰み)が、キンキ王の呼吸を浅くさせる。


「ふざけるな、認めない……! こんなの儂は認めない! どいつもこいつもそのつもりだってんなら戦争だ! うちの民に爆弾括って送り付けてやるからな!」

「失礼」


 聞こえなかった。

 一際大きい、耳をつんざくような警報。無数のBAD END(詰み)が、大きな一つに集約されて視界を埋める。

 次の瞬間、頬に鋭い痛みが走った。


「一括用の一発だ、クソッタレ!」


 誰かの声が聞こえた気がする。警報で聞き取れない。痛い。痛い。何でこんな。痛みなんて、どれも見える攻略法のままに動けば受けずに済んだはずなのに。

 尚も止まない警報に呻けば、頭に触れる誰かの手。


「安心しな、記憶や意識は弄らない。一番辛い事をしてやるだけさ」


 視界が赤黒い。耳が割れる。脳、が、触られ、


「大丈夫、その視界はすぐに晴れる。音も消えるよ。一生な」


 途切れるように、視界が晴れた。

 仰向けに倒れ伏しているキンキ王を見下ろしているのは、冴えない顔の男。


「処刑、幽閉、あるいは一般人として生きる苦痛か。あんたに迫る未来は何でも良いしどうでも良いが、まあともあれ」


 何も表示されない視界の中、男がへらりとした笑みを浮かべる。


「攻略なんて欠片も見えない、道筋なんてありはしない、魔法も何も使えない世界を楽しみな」


 それはキンキ王にとって、攻略頼りで生きて来たキンキ王にとって、何よりも絶望的な一言だった。





 同日同時刻、ワルノ王国では、国王も王子も兵士も居ない中、市民による革命が発生していた。

 指揮する者も戦う者も居ない為に無血で開城し、キンキ王の帰る場所は無くなった。

 そして、解放された人質。

 かつて異世界人の世話係となり、人質となっている現状を打破しようと自殺するも未遂に終わり、意識を失っている間に異世界人が自殺し、そのまま人質として数十年取り残された者。

 生まれたジンゾウの世話係兼人質を務めたジュン・ジョウは、生まれて初めて、自由を得た。





「というわけで移動を頼む」

「そりゃゴオちゃん先に事情説明されてるし読みたかった古文提供してもらったしで別に良いけど、めっちゃこき使いやがるな」

「その分は支払ったぞ」

「そりゃそうだけど、ワガミチの方に頼みゃ良いじゃん。俺様ちゃんのゴオちゃんワープってランダムだしぃ」

「法則性からある程度行き先を操作可能なのは知っている。ワガミチの方は羽目を外させる理由になるから却下だ。下手に頼むと移動の役目を果たすどころか市民の扇動をより酷くして無用な争いを勃発させかねない」

「あー……やりそ」

「だろう」

「じゃ、しゃーねーしお仕事すっか。お運びは革命家二名と、俺様ちゃんのダチの保護者一名な」

「いや、オラはただの」

「ゴオちゃんがそう言ってんだからそうなんだよ。運ばれる荷物が運ぶ側の伝票内容に文句つけんな」

「…………」

「んあ゛ーーーーー! これだから黙り込む人生送って来た相手はやり辛ぇんだよなーーーー!」

「わかっているならもう少し言い方を考えたらどうだ。僕のように反骨心溢れる監禁被害者は少ないぞ」

「その辺はどうでもいいから移動を頼む」

「も、申す訳……」

「わあってるよとっとと三人揃って腕の中にどうぞだコンチクショーーーーー!」






 Q ジンゾウ、上から舞台上全部を潰すみたいなビームとか出せなかったの?

 A 自然と自分に被害が出ない程度に抑えちゃうし、そういう発想力が無いので出来ませんでした。


 Q なら自分に被害が出ないよう調整したらやれてた?

 A 発想出来て、尚且つ自分が無事となるバリア張ってるならやりますね。でもヒメはジンゾウを盾にして回避するし、ジンゾウを盾に出来ないなら一旦客席側に跳んで客の頭を足場にして回避します。戦意喪失しない限り決闘は続行なので、客の頭を足場にしなくても場外失格無いですしね。


 Q キンキ王を殴ったのは誰?

 A 一発入れる予定だった、フリョウの身内枠の一人としてやってきた叔父さんが居ましたね。前髪上げた状態のめちゃくちゃ目付き悪い男だったようですよ。


 Q ラスト、何されたの?

 A 頭の中を弄れる人、居ましたよね。脳みそを弄れば、自力で魔法発動なんて出来ないように魔法を封じる事だって出来ちゃいます。攻略法無き、よい人生を。



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