駄犬
ヒメはジンゾウの顎を掴んで壁に押さえつけその膝に乗り上げたまま、問う。
「で?」
「で、って……僕からは何も無いよ。ちゃんと上手に、多角的に誤魔化せるよう、沢山の魔法を使ったのに。それにさっきだって綺麗に取り繕えてたでしょ?」
どうしてわかったの? と眉を下げるジンゾウに、ヒメは深いため息を吐いた。
「気付くのなんて当たり前なのだわ。距離がある時はまんまとしてやられたけれど、ライトのお陰で解除された。そして今は、ジンゾウがそういう手段を用いるという認識もある。警戒していれば精神力で他者からの影響をねじ伏せるくらいは出来ます」
「そうなの!?」
「ええ」
先程までのジンゾウは明らかにジンゾウ自身を誤魔化すように使用されていたのでヒメの意識を改竄するのとはまた種類が違うだろうが、その辺は適当で良いだろう。
「でも、そっか」
「何を嬉しそうにしているの」
「ううん」
何でもない、とは言っているがジンゾウの表情はほころんでいた。冬の日に温かいものを見つけたような笑顔。
膝に乗りあげられて顎を掴まれ壁に後頭部を押し付けられているとは思えない笑顔だ。
「例え消す事になるとしても、こうして話せて嬉しかった」
「ジンゾウ?」
「禊祓、発動してるね。視ればわかるよ」
ジンゾウは、とても穏やかな顔で目を細める。
「だけどヒメちゃん、ちょっと鈍った?」
「あ゛?」
「知ってたから警戒出来たって言うのなら、知らない事にしちゃえばいい。僕にはそれが出来る」
瞬間、ヒメの目の前がぐらりと歪む。複数のインクをぐるりと混ぜるようにぐにゃりと崩れた。
「せめて、ヒメちゃんだけは守りたいんだ。ヒメちゃんはきっととっても嫌がるだろうけど、それでも、僕はヒメちゃんを守りたい。ごめんね」
「ジ、」
「僕の事までは消さないけど」
消せないけど、
「……ごめん」
暗転。
・
ふ、とヒメの意識が覚醒した。一瞬眠ってしまっていたらしい。
「それじゃあね、ヒメちゃん」
隣で立ち上がってそう言うのは、ジンゾウ。
そう、確か、久しぶりに会ったから少し話をしていたんだった。他愛も無い話を。
(本当に?)
目の前のジンゾウは微笑んでいる。おかしい。
顔が上手く認識出来ない。おかしい。
笑顔なのはわかるのに、全体のパーツがぼやけて詳細が認識出来ない。おかしい。
それを、おかしいと感じられない。おかしい。
「それと前に言ったようにキンキ王はちょっと危ない人だから、出来たら話しかけないように」
悪戯な微笑み。秘密だよ? と軽い言葉のような言い方。おかしい。
何がおかしいのかわからないのに、確実におかしい。
(私は何かを忘れている)
確証は無いが、確信がある。
何故。恐らくはジンゾウ。ヒメが目の前でこうなっているのに何一つとして気付いていないのはおかしい。この男なら気付く。
なのに反応を見せていないなら、犯人はジンゾウだろう。
何故。どうしてジンゾウはそんな事をした。ジンゾウに都合の悪い事をヒメがしようとした。
あるいは、ヒメが危険な橋を渡ろうとした。
何故。ジンゾウはそこまでしてでもヒメを守ろうとした。
ヒメが思い出せる限りのジンゾウは、常に隣に居た。自らヒメと別行動する事は少なかった。
卒業後一年も経過しているから別行動をするのだって当然だろうが、そんなジンゾウが自分から去るなんて、
(当然?)
何か違和感。でもわからない。それのどこに違和感を抱いたのか。
そもそも何故、ここに居るのか。オタク国での国際パーティーという名の同窓会。それだけ。それだけだったか。他に何かあったんじゃなかったか。
あったはずだ。
思い出せずとも、わかる。
「ジンゾウ」
立ち去ろうとしていたジンゾウが止まる。
違和感はある。胸の奥に。しかし頭はそれを拒否する。そんなものは無いと。感覚も、ジンゾウには何も違和感なんてないよと告げている。反射的に体が違和感を訴えるという事も無い。
でも、魂が叫んでいる。
二度も同じ目に遭ってたまるかと、同じ手を二回使うとは舐められたものだなと、そう叫ぶ。
決して逃がすなと、本能が雄叫びをあげている。
「ジンゾウ」
不快。
「あなた」
不愉快。
「魔法を使って、何かを誤魔化したわね?」
こちらに顔を向けるジンゾウは、先程通り。
何を言っているのかわからないという顔。困った様子すらも無い、自信に満ちた男の顔。
「ヒメちゃん、いきなり何を」
「舐め腐るなよ」
言うが早いか、ヒメは自身の左手の人差し指を口元に持って行き、そのまま手加減無く噛み砕いた。
「なァっ……!?」
動揺したジンゾウの化けの皮は、一瞬で剥がれ落ちる。
顔は青ざめ、目は見開かれ、呆然と開かれた口が何度か開閉したかと思うと、目に涙を浮かべて慌てた様子でヒメに駆け寄りその左手を両手で覆うようにして握っていた。
「ヒメちゃ、何て事を!」
ぼろり、とジンゾウの目から涙が零れ落ちる。
ヒメの左の人差し指は、千切れていないのが奇跡という程に砕けていた。両の奥歯に近い位置まで指を入れて噛んだ為、付け根と指先が骨ごと砕けて無惨な姿を晒している。
爪は根本から剥がれそうになっているし、皮膚は千切れて肉がその身を晒し、骨は砕けて見事な悲惨さ。歯と顎は問題無いが、口の中は指を砕いた事による血生臭さが広がっている。
「痛いでしょ!? 何でこんなこと!」
言いながら、ジンゾウはその青い目からボロボロと大粒の涙を零しつつヒメの指を魔法で治す。
砕く瞬間の刹那的な激痛も、その後の砕けている事実による神経を走り続けるような熱っぽい痛みも、幻であるかのようにスゥと消えた。
「……これで、よし」
治った手を両手でしっかりと挟むように握り、祈るように額を当て、ジンゾウは呟く。
「怖かった……」
ぐず、と聞こえるのは鼻を啜る音か。
「……どうして、こんな事」
「そっちの往生際が悪い以上、こちらに掛けられている魔法を痛みで強制的に排除する方が楽と思ったのよ」
幻覚系の魔法の場合、激痛に近い痛みを一瞬でも良いから与える。そうすれば諸々がリセットでもされるのか、意外と解除出来たりするものだ。電源ぶつ切りに近い反則技だが、今すぐに思い出さなければ駄目だという気がしたので迅速に指を一本犠牲にした。
幸いコワイ先生もフリョウも居るので万が一があろうと回復してくれるだろうと思っていたし、間に合わずとも利き手じゃない方の指の一本くらいなら切り捨てて構わないと判断した。
それに、
「結果的にジンゾウを捕まえる事にも成功したのだわ」
にっこりと笑い、ヒメは右手をジンゾウの手に添える。ヒメの左手を覆っているジンゾウの手。その手首をしっかりと掴み、絶対に逃がさないからなと笑顔で強く圧を掛けた。
「……ヒメちゃん、躊躇なさ過ぎ」
「躊躇して万が一がある事を思えば、躊躇の息の根は早めに止めておくが吉よ」
「生かしてあげようよそこは。……今の僕に関連する記憶や意識もぼかしたのに」
「そうね。でも学園に居た時のジンゾウとは明らかに動きが違う。私が突然意識を飛ばすなんて事もあり得ない。更に、何かを忘れてるような違和感まで」
そもそも、表情からして違っていた。
いつも見ていたジンゾウの顔とは違う、見本のような表情。見た目によく似合う、キリッとした顔。
そんなおかしい事があるか。
いつだって顔を緩ませたゴールデンレトリーバーみたいな表情の男が、一年の空白があると言っても突然きちんと躾られたドーベルマンみたいな顔をしているのだ。
飼い主が、その違和に気付かないはずもない。
「それに、魔法の特性上こういった改変系には耐性もある」
「あ、そっか、映像系……」
「何かを上書きするという事象なら、私にとっても得意分野なのだわ」
専門職が同じ分野のミスや異変にすぐ気付くのと同様、ヒメだってまた気付く。
「とはいえ指の一本を犠牲にしても記憶を取り戻せない辺り、随分強い魔法だこと。流石異世界人の力」
「嬉しくないよ。まさかここまでするなんて……」
「五体満足で安全なまま居られるからと好き勝手にしてやられるより、指でも手足でも内臓でも、どこかが欠けるとしてでも抗う方がよっぽど美しい在り方なのだわ」
そうでしょう、とヒメは笑う。
「タカラザカにおいての、そして私の思う美しさとはそういうもの。屈する方面での強さがあるのは認めるけれど、私が求めるのは抗う強さよ。残念ながら、指一本では抗い切れなかったけどね」
「……ヒメちゃんのそういうところ、本当……」
「困る?」
「うん。でも大好き」
長い睫毛に涙の欠片をつけたまま、ジンゾウは眉を下げてへにゃりと笑った。
「本当、ヒメちゃんには敵わないや」
その言葉と同時に、ヒメの頭の中で記憶が弾ける。途切れていた先程の会話までもが早送りのようにヒメの脳内を巡り、
「ふん!」
「あいだぁっ!?」
ヒメはそのままジンゾウに頭突きをかました。
「い、いた、ヒメちゃん今、僕、痛覚消してないから本当に痛い……ってヒメちゃんの額から血が出てるよ!? ヒメちゃんも痛かったでしょ!?」
「痛みより怒りが勝ったのだわ」
「そこまで!?」
驚きながらもジンゾウはヒメの額に回復魔法を掛けて治す。
ヒメとしては感覚から察するにちょっとしたかすり傷程度で傷痕が残るようなものでは無いし、前髪で隠れる位置だから気にする事でも無いと思うのだが。かすり傷一つで大袈裟過ぎる。それよりも突然頭突きされた方を気にすれば良いのに。
本当、相変わらず変なところでずれている。
「とはいえ、すぐに魔法を解除したのは良い事だわ。もう少し往生際が悪いかと思っていたけれど」
「それは……そうしたかったけど」
額をほんの少し赤くして、手こそ放したがまだヒメに駆け寄った時同様に膝立ちの状態。
その体勢のまま、ジンゾウは頬を掻いて困ったように苦笑する。
「でも、ヒメちゃん、確信を持って言ってたもんね。普段は魔法で気付かれたかどうかを感知してるけど、今はそれをしてなくて……でも、そんなの無くても、ヒメちゃんの顔を見たらわかっちゃったから」
ジンゾウは言う。
「確証は無くても、僕じゃ絶対に消せない程の確信、持ってたもん」
それだけ表情から察せる癖によくまあこんな悪手に走ったものだ。
「……うん、まあ、正直、嫌われるのは覚悟の上だったけど」
ジンゾウはそう言ってすっかり治ったヒメの左手を取り、自身の頬に当てる。
「でも、それでもやっぱり、そんな中で無理に粘って誤魔化して、また魔法を使って……そんな見苦しい姿を見せて、嫌われたらって考えたら」
それはとても、
「それはとても、凄く、嫌だなあって思っちゃった」
「そう」
「うん」
「だったら最初からしなければ良いのだわ」
「最善のはずだったんだよ。まさかライトさんの魔法で解かれちゃうなんて。いや、対象者がそれを害と見做してるものを浄化する効果があるから、ヒメちゃん達にとって不本意だったっていうのはそうなんだろうけど……」
気付きが遅い。寧ろ不本意じゃないとでも思っていたのかこの駄犬。
「そもそも、私を守ろうとしているのが不愉快なのだわ」
「うっ」
「ジンゾウになら背中を任せられると思ったのに、そうでもないようね」
「い、いやその、それは」
「何。文句があったとでも言うの?」
「…………」
睨みつけてやれば、ジンゾウはしょんぼりと縮こまった。
「……背中を任せてもらえるのは嬉しいけど、僕は、ヒメちゃんを守りたかった」
「結構よ。自分で守り切れないのなら相手がそれだけ強いという事。己を守り切れないならそれは私自身の責。大事に囲われて五体満足より、前線に出て腕一本を無くそうとも敵将の首を取る。それこそが誉なのだわ」
「僕はヒメちゃんに傷付いて欲しくない」
「傷つかずとも、そういう対応こそが私を苛立たせるといい加減に理解しろ」
それがジンゾウの価値観であるのはわかる。
守れなかった実績があるせいで、守りたいものを奪われ続けたせいで、大事な何かを守り切る事こそが重要だという感覚なのもわかる。
だが、ヒメは守られる側じゃない。
「私を抱きしめ守って相手に背中を切られ、私の動きを封じそのまま背中を切られ続けるなど愚の骨頂。私と背中合わせになって背中を守りながら戦うのであれば及第点。最高は、私が取りこぼしたものを何とかすること」
「……仕留め損ねた相手を仕留めるって事?」
「戦闘であればその通り。でも、人を助けるのだって変わらないのだわ」
人にはそれぞれ、役割がある。分担出来る。
誰かが居るのに一人で背負うなんて、そんな馬鹿な話があるものか。
「ジンゾウは、一万人を助けられるけれど千人を見捨てろと言われたら、どうする?」
「助ける。両方」
「片方だけよ」
「それでも助ける」
反射的といった速度で、真面目な顔で、ジンゾウはそう答える。
「僕の魔法があれば、それは何とか出来るはずだから」
「そうね」
でも、
「それは一万人と千人の為に、貴方自身という一人を見捨てている判断だわ」
その上、
「助ける側のたった一人を犠牲にすれば、一万人と千人だって助からない。ジンゾウのその判断は、どちらかを選んで救うのではなく、どちらも掴んで両方と沈むという答えになるのだわ」
「え、ぁ、う……」
ジンゾウは何かを言おうとして、何も言えずに肩を落とす。
反論しようにも反論が浮かばなかったのだろう。あるいは反論以前に、納得してしまったのか。
「……じゃあ、ヒメちゃんはどうするの?」
「千人を見捨てる」
「即答!?」
「単純な数の話なら当然なのだわ。国の維持に必要な技術を持った千人と、ただ食う寝る遊ぶをするだけの足手纏いが一万人であるなら当然一万人の方を見捨てるけれど、そうじゃないなら一万人を助けて千人を見捨てます」
「……嫌じゃない? だって、千人の人が……」
「その千人を救う為に一万人が死んでも良いと思うならその千人を救えば良いのだわ」
「んんんんん」
ジンゾウは物凄く困った顔で頭をぐしゃぐしゃと掻き乱す。
「……こんなもの、そんなに悩む必要も無いでしょうに」
「悩むよ!」
だって、
「……犠牲が出るのは、辛くて悲しいじゃないか」
「自分だけで助けようとするからなのだわ、駄犬」
「あうっ」
先程頭突きした位置を指で弾いた。
「私が一万人を救って千人を見捨てたとして、そこにジンゾウが居たなら話は違うでしょう」
一人ならともかく、二人なら、
「私が一万人を救って、ジンゾウが千人を救う。犠牲が嫌ならそうすれば良いのだわ。自分から一人になろうとしない限り、こういった手段も取れる」
「……え、っと、それって有りなの?」
「私が有りと言ったなら有りよ」
「ぼ、暴論……」
ぽかん、とジンゾウは口を開いている。
「で、でも、百人は? 千人を助けても百人は見捨てるしかなくて、しかもヒメちゃんは一万人を助けてるんだとしたら?」
「だったらその百人は私が救えば良いだけでしょう」
「えええっ」
「何? 一万人に対しての百人程度、誤差みたいなものなのだわ。千人は無理でも、百人なら助けられる。それとも何? 私が百人を助ける代わりに見捨てる事になる十人が居たとして、千人を守ってるジンゾウは見捨てるの?」
「助ける」
即答し、気付いたようにジンゾウは目を瞬かせた。
「……あ、そっか。確かに僕も、千人守ってていっぱいいっぱいでも、十人くらいならまだ何とかなるかもしれない」
「そういう事よ。最後にあぶれた一人は私が拾う。ジンゾウが最初に見捨てた、ジンゾウ自身をね」
「!」
一瞬目を丸くし、すぐにジンゾウは噴き出した。
「ヒメちゃん、その考え方めちゃくちゃ!」
「暴論だろうと、正論が太刀打ち出来なければ正義なのだわ。正論側とは異なる正義であってもね」
そう、
「実際に出来るかどうかはともかくとして、一人で背負おうとしない限り、そして自分に出来る全力を出す限り、本当の意味で少数を切り捨てるなんて事にはならない」
手を伸ばせる誰かが一緒に手を伸ばしてくれたなら、その分だけ手が届く範囲は増える。
助けた誰かが他の誰かを助けるのなら、救える命は倍に増える。
誰かを抱えているせいで腕が足りないと言うのなら、抱えているその誰かの腕を使えば良い。
誰かと一緒というのは、そういうものだ。
「一人を守る為……いいえ、六人を守る為に一人が犠牲になるなんてナンセンス。人を守ろうというのなら、同じだけ守られなさい」
「うひゃ」
ジンゾウの頬に両手で触れ、ヒメは言う。
「自分以外が何の役にも立たないと判断するのは、一番最低な行為。そうだろう?」
「そ、れは」
ジンゾウの目が、揺らぐ。
動揺し、後悔し、自分以外に対してそんな扱いをしてしまったという事実に、揺らぐ。
「確かに戦闘面でライトは役立たないだろう。マンガも役立たない。イマドキもイショウもコモノもか」
それは事実。ただの事実。純然たる事実。
「だが、解呪の面においてライトの右に出る者は居まい。創作に関してマンガに勝れる者は居まい。情報でイマドキに勝てるか? 服飾でイショウとコモノに勝てるか?」
ジンゾウなら、魔法を使えば勝てるだろう。
だが今しているのはその話じゃない。そこじゃない。
「貴様の物差しで無力と決めつけるなよ、駄犬。飼い主は私だ。私の事は私が判断する」
「で、でも、僕の所属はワルノ王国で」
「そんなもの」
頬から手を離し、ハ、とヒメは鼻で笑う。
「私が勝ち取れば良いだけだ」
「へ?」
「来い」
ヒメはジンゾウの手を引き、廊下を歩き出す。
向かう先は、パーティー会場。
力強く扉を開き、その音で視線を集める。それらの視線を向けられたまま、動揺で取り繕うのをすっかり忘れた様子のジンゾウを連れて会場の中心へと移動し、手を離した。
くるりと向き直り、ヒメは言う。
「貴方に、決闘を申し込むのだわ」
無敵ではない貴様を、負かしてやろう。
「……ライト、少し」
「あれ、何ですかお義兄さん」
「その呼び方はやめてくれ。俺はまだ君の兄になれていない。そもそもプロポーズすら出来て……いや、出来る! 出来るとも! 必ず近い内にやってみせる!」
「わかってますってェ。落ち着いて落ち着いて。それで王子」
「タイシュウで良い」
「タイシュウ義兄さん」
「……昔は確かにそんな呼ばれ方もしていたが、今だとニュアンスが……いや、まあ、良いとしよう」
「それで何か問題でもありました?」
「問題、というかそれ以前の問題として、やはり俺がここに居るのはおかしいんじゃないか? 国際的な場である事は間違い無いし、交流が持てて嬉しい相手と接触出来たのは俺にとってもありがたい事だ。後日正式に招待すると約束も出来たし。だがそうではなく」
「そこでさらっと正式な国家間交流の為の場を用意するとこまで持ってけるのがタイシュウ義兄さんだよなァ」
「そ、こ、で、は、な、く! メインがライト達の同窓会なら俺は居なくて良いだろう!」
「でも国家ブンガクの為にはなりますよね」
「ぐっ」
「そりゃオレはチリョウ国に移住しましたけど、母国はブンガクですしィ。保護者連れて来て良いって話だけど両親は仕事上忙しくて、姉ちゃん連れて来ようにも姉ちゃん一人は、ほら、心配だし」
「……言いたい事はわかる」
「タイちゃんタイちゃん! あ、ライトも居る! ねえ見てこれ! とっても可愛いカップケーキなの! こんなに可愛い猫ちゃんのカップケーキなんてすっごいよね!」
「……噂をすれば、か」
「タイちゃん?」
「何でもない。それよりジドウ、口元にソースが付いている。拭ってやるから、ほら」
「んー!」
「……よし、取れた。気を付けてくれよ。見た目としてみっともないのもそうだが、その状態でうっかり誰かにぶつかってソースを相手の服につけたら大変な事だ」
「あ、そうだね! わかった! 気を付ける!」
「よろしい」
「それでねそれでねこのケーキなんだけどね! とっても可愛かったからタイちゃんにどうかなって!」
「ありが……え、これを?」
「? タイちゃん、猫ちゃん好きでしょ?」
「好き、だが、好きだからこそ困るというか……食べるのは躊躇う、な」
「あー、そっか可愛いもんね! じゃあお姉ちゃんが食べさせてあげるね!」
「確かにそっちが年上だが恋人相手にその言い方は、じゃなくてこんな人前でそんなはしたないこと、」
「…………あーん、いや?」
「……あーん」
「! はい、あーん!」
「いやー、姉ちゃんいつでもフルスロットルなんだもんなァ。正直タイシュウさんしか姉ちゃん任せて安心な人居ないし。姉ちゃん、モテはするけど付き合い長くなればなる程体力尽きたり困り果てたりで去ってく人多いから」
「成る程ネタ出しありがとう」
「うおっ。……何度見ても素顔なのちょっと驚くなァ」
「トクサツ奪還の時にも卒業式の時にも、手紙持って来た時にも見たじゃん。他の生徒も大体そんな反応だけど。寧ろ一瞬何でもないように通り過ぎてから、あれっ今のってあのユニコーン頭の中身って言ってたヤツじゃない!? って顔で二度見されるのはちょっと不服」
「自業自得じゃない?」
「ライト結構容赦なくなったね」
「そ?」




