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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
姫騎士なのだわ
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同窓会



 ヒメは両親と共に、オタク国へとやって来ていた。

 会場に入れば、見慣れた顔が既にかなりの数集まっている。関わりの深い顔から関わりの薄い顔まで様々。

 見慣れない人達は、年頃等から見ても彼ら彼女らの親族だろう。ヒメの親族としてオウとジョテイがやって来たのと同じ事だ。

 遠くにはテキトー先生らしき顔も見えたので、教師もこの盛大な同窓会に招待されたらしい。


「ようこそヒメ!」


 主催者自体はこの国の王であるニジゲン王だが、企画者であるマンガがまず挨拶にやって来た。

 流石に自国だからかパーティ会場だからか、ユニコーン頭は被っていない素顔状態。


「それにそちらはヒメの……待ってあの時のご老人!?」

「あ?」


 ご老人なオウは一瞬睨みつけるように、単純に怪訝そうにしただけだが、元々人相が良くないのを一層悪くして何かを思い出すようにマンガの顔をじっと見る。


「……あー、メイク無しだとそうなるのか。ハナコの母親役してたな、そういや」


 何故知り合いみたいな会話をしているのかと一瞬疑問に思い、そういえば一年時の学園祭後にそんな老人が居たという話を聞いたなと思い出した。

 相変わらず通りすがりに名乗りもせず不審な老人を維持しながら人助けをしていたようだが、それをヒメが伝えるのも何だし、オウ本人も素性を知られるのは好むまいと思って黙っていたんだったっけ。


「その後もユニコーン頭でちょっと遠巻きにされてたわたし達に嬉しい言葉くれたり人に囲まれる理由作ったイケジジ! えっ、ヒメのお父さ……って事は帝王!? ザカの!? あとそちらの方は!?」

「ヒメの母、タカラザカ女帝であるジョテイ・キシだ」

「ひえ……タンビ先輩の作品で見た顔……」


 握手しながら言う事じゃない。

 母はわりとそういうのに寛容だから良いが、これで地雷だらけな女だったら大変な事になっているところだ。いや、こういう発言が多いのがマンガだけれど。丸一年会っていないだけなのに最早懐かしい。


「あ、わたしは」

「マンガ・ドウジンシ・コミックだろう。ヒメからの手紙や土産話でよく知っている。愉快なユニコーン頭で奇天烈な言動も多いが、ライト・ノベルとはまた違う方面で場を明るくしてくれる存在だと」

「ヒメ……! わたしの事をそんな風に思っててくれたの……!?」

「ええ、まあ。事実しか言っていないのだわ」

「あっちょっと待ってそんなあっさり肯定されるとちょっとカウンターが」


 ユニコーン頭を被っていないマンガはほんのり赤くなった顔をにやけさせて胸を押さえた。


「……マンガ、私はいつでもこういう言い方をするのだわ」

「いや、うん、そうなんだけど久々だったからちょっと見誤った。今後はきちんと解像度上げて行きたい所存です。よろしく」

「創作前提なら別に上げなくても良いけれど……ジンゾウと関わりが多かった分、私の言動に関する記憶もかなりぼやけさせられてたでしょうしね。仕方ないのだわ」

「それー」


 うんうん、とあっという間にいつものテンションに戻ったマンガが頷く。

 ヒメとしては学園生活がやたら思い出し辛いというか、思い出しても酷く味気ないというか、明らかに何かが足りていないという感覚を覚えていた。

 カラメルの無いプリン。スパイスの無いカレー。ソースが無いパスタ。

 ああこれは違うなという感覚を頻度高く察知しては、その輪郭が掴めずぼやける毎日。お陰でその感覚を振り切ろうと鍛錬にやたら力が入ったが、まあそれは良い。後でジンゾウにぶつけるまでだ。

 ちなみに母も父も言動からジンゾウ関係の話題に対する反応がおかしい事には気付いていたそうだが、


「あの坊主に告白逃げでもされたもんかと思ったが」

「オウ、ヒメは私似でもあるのですよ。そんな事をされたなら即日国に押しかけます」

「おい」

「しかし、悪意無く精神に影響をもたらす系統というのは厄介だな。己を律すれば対応可能な事も多く、悪意自体に反応して反射的に対応する事も出来るが……悪意どころか、善意。それを超えて、愛とさえ言えるかもしれない想いでは、察知出来まい」

「エゴだろ。愛じゃなくて」

「エゴも愛ですよ。愛が無ければ、エゴも何も生まれないものです」


 そんな事を言っていた。

 ある意味ワルノ王国についてを言われた後に逃げられたようなものなので告白逃げという言い方も間違ってはいない。真実の告白、からの逃亡だ。

 本当、舐め腐ってくれる。


「それにしても、あのお爺さんがヒメのお父さんだったとは……しかも帝王。ヅカの女帝はともかく、ヅカの帝王って全然人前に出てこないから謎が多かったんだよね。年齢差あるとかゴリラとか、女帝目当ての男を蹴散らしたとかそういう噂止まりの話しか無くって」


 間違いなく真実な噂だった。


「あれ、ヒメ何で遠い目してんの?」

「いえ。確かに、お父様は面倒見が良い癖に人付き合いを嫌うところがあるのだわ」

「…………俺は適当に見てるぜ」


 自分の話題と見るや否や、オウは片手を挙げて速やかにこの場から逃げた。恐らく壁際で気配を消したり、いつも通り具合を悪くしてる人を見つけては応急処置をしたりするんだろう。よくある。


「ふふ、相変わらずだな」


 そんなオウの背を見て、ジョテイは柔らかく微笑んだ。


「では、わたくしの方はニジゲン王達に挨拶をしていこう。案内を頼めるか?」

「勿論です! あ、そうだヒメ」


 思い出したようにマンガはヒメに視線を向け、少し声を潜めて向こうを指差す。


「キンキ王とジンゾウ、もう来てるからね」

「!」

「じゃ!」


 それだけ言ってマンガはジョテイと共に、来賓と会話しているニジゲン王達の方へと移動した。

 一人残されたヒメはマンガが指さした方を見る。


「儂がこういうのには参加しなそうだって~? 酷いなあ。誘いさえあればどこへだって行くとも。何せ儂の跡継ぎであるジンゾウが居れば、異世界人の力を使えるジンゾウが居れば、どこにでも行けるんだから。移動系魔法を持ってる人間を複数雇うより、ジンゾウ一人の方がよっぽど役立つってもんだよねぇ」


 ニコニコと、明るく、愛嬌さえ感じさせる笑顔と声色でキンキ王は話している。だがその話の内容はジンゾウの有用性を語っているだけであり、自身の優位性を語るもの。

 話しかけられているのは少々気弱そうなタイプの保護者と見た。

 一見人付き合いが上手に見えなくもない、お茶目な老人に見られやすいキンキ王に話しかけられ、そのままペースに乗せられたのだろう。


「…………」


 キンキ王の後ろに控えてひたすら黙っているのは、あの日以来見てないジンゾウだった。

 制服とはまた違うデザインのロングコート。表情は自信ありげな強気顔。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()、それこそが違和感だろう。あの駄犬は相変わらず詰めが甘い。


「……キンキ王、少し」


 声を潜めて声を掛けたジンゾウに、キンキ王が軽く眉を潜める。


「え? 何? トイレ? ったく、ジンゾウが強くなるのは良いけど不便になったもんだよねぇ。そういうのが無ければもっと都合が良かったのに。ま良いや。いってらっしゃーい」

「…………」


 ジンゾウは頭を下げ、キンキ王に話しかけられ続けている人達にも頭を下げ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を纏って会場から出た。


「ヒメ」

「ライト」


 追いかけようとすれば、声を潜めながらライトが話しかけて来た。


「久しぶり、ヒメ」

「ええ。久しぶりなのだわ」

「追いかけるんだよね?」


 声を潜めたままライトがそう言うと同時、ふわりと体が軽くなる。

 何かやわらかなものが触れているような心地よさ。心に広がる爽快感。空気抵抗を感じない程軽い体。


「……禊祓?」

「ジンゾウがまた新しく魔法掛けてきたらちょっと困るかもだしィ、一応保険?」

「成る程」


 ふ、とヒメは笑う。

 一度自覚した以上は違和感を疑う理由も無い。違和感を抱いたなら疑わず、その上でねじ伏せてしまおうと思っていた。だが、禊祓を纏っていれば新しく何かを施そうとしても通用すまい。

 ジンゾウの目ならそれも感知しそうだが、現状執拗な重ね掛けをされていない、こうして同窓会が開かれている、という点から考えて禊祓で諸々を解除された事は知らないのだろう。知っていれば時間を操作くらいやってのけても不思議じゃない男だ。

 つまり、禊祓でジンゾウの魔法を弾いてると気付いても、一瞬のタイムラグが発生する。

 その魔法を解除する事は容易いだろう。何せジンゾウだ。しかし禊祓に気付き、解除し、その上でその他の魔法を使用するとなれば一瞬以上の隙が出来る。

 一瞬以上の隙が出来たなら、その間を見逃さずに攻撃に出れば話をする気にはなるだろう。

 飼い主が怒っているとわかれば、大人しくなるのが飼い犬だ。


「ありがとう、ライト」

「どういたしまして。……あの、いきなり首にナイフ突きつけるとかはやめたげてね?」

「その前に後でライトが私にどういう印象を持ってるか詰めさせてもらうのだわ」

「藪蛇!」


 頬を引き攣らせたライトに思わず笑いを零し、ヒメはジンゾウが出た扉から廊下へと出る。


「さて、ジンゾウは右と左どっちに……あら、コワイ先生」

「ああ」


 フリョウの身内枠としてかお世話になった教師枠としてかはわからないが、廊下の壁にもたれる形でコワイ先生が立っていた。

 相変わらず、その目元を長い前髪で隠している。確かに怯える生徒も多いだろうけれど、折角おめかししているのならその前髪をグッと上げてしまえば良いのに。前髪のせいで無駄にモサい。


「ジンゾウならあちらへ行ったぞ」


 コワイ先生はスッと右、ヒメから見て左を指差す。


「追うんだろう?」

「ええ。ありがとうございます。久しぶりなのに挨拶を後回しにしなくちゃいけないのが残念なのだわ」

「構わん。吾輩はお前が自由にした後、拳を一撃食らわすだけだ」

「そう」


 どんな理由で誰に対して拳を放つかは、聞かなかった。

 会釈してコワイ先生と別れ、ヒメは教えてもらった方へと歩き出す。

 廊下のあちこちにも本棚が埋め込まれている光景は壮観だと思いつつ歩みを進めれば、そこに、ジンゾウが居た。


「…………」


 隣に本棚が設置されている、休憩用だろう椅子。

 二人用、ギリギリ三人用かもしれない椅子を巨体で占領、しないように小さく纏まりながら疲れたように背を丸めている。





「ジンゾウ」

「!」


 パ、とジンゾウは顔を上げた。


「あれ、ヒメちゃんだ! 久しぶり!」


 そう言って笑うジンゾウは、とても明るい。その顔色から疲れは見えない。

 顔色以外も、仕草から目の動きから血色から、何一つとして疲れらしきものは見えなかった。


「ええ、久しぶり」


 ヒメはジンゾウの言葉に頷きを返す。

 そのままジンゾウの隣に腰掛ければ、ジンゾウは一切揺らがない笑みのまま微笑んだ。


「こうしてヒメちゃんと話せるなんて嬉しいなあ」

「そうね」


 頷く。


「ジンゾウがやってくれたお陰で、そんな機会も作れなかったのだわ」

「え? ()? 俺は何もしてないよ? 距離もあるし顔も合わせてないのに、一体俺が何をどうするっていうのさ」


 それはキョトンとした顔。本当に不思議そうな顔。

 ああまったく、本当に、


()()()()()()()()()()()()

「っ!?」


 ヒメはジンゾウの顎を手で掴み、顎の形を確認するように力を入れる。


「私がそういう扱いを一番嫌うと、貴様は知っているはずじゃなかったのか?」


 膝に乗り上げジンゾウの青い瞳を覗き込みながら低い声でそう告げてやれば、被っていた笑顔の仮面が割れるようにして剥がれ落ちた。


「…………ヒメちゃん、どうしてあのままで居てくれなかったの?」


 泣きそうな顔で、ジンゾウは言う。


「あのまま()を忘れていてくれたなら、ヒメちゃんは僕の問題にこれ以上巻き込まれる事無く、幸せで居られたはずなのに」

「舐め腐るなと言っているのだわ」

「っ」


 顎を掴んだまま壁にジンゾウの頭を軽く叩きつけ、額を合わせて睨みつける。


「私を軽んじるな。私を甘く見るな。貴様自身が私の敵になりたくないのであればな」


 それ以上馬鹿をほざくなら貴様を敵と認識するぞ。


「……ヒメちゃん、本当変わってないね。僕の知ってるヒメちゃんだ」


 暗にそう告げられたジンゾウは、泣きそうな顔で下手糞に笑った。

 お前も全く変われていない。





「いやあ……アカの指示書通りに手回しするだけしたけど、疲れたぁ」

「お疲れのようだね、マンガ」

「やっほーマッド。いやもう本当に疲れた。マジで。しかも皆、久々に会ったわたしに対して「誰だお前」だよ!? 酷い!」

「うん? 初期はともかく、知らない間に意外と広く浅く交流をしていたと思ったけど。一方的に情報を知っているのは変わりなくとも、同年代なら知り合いは多いはずだろう?」

「素顔初めて見たって言われた」

「…………ああ、そういえばそうだったね」

「わたしだって地元じゃ普通に素顔だよ! 卒業式だって素顔だったし! 寧ろ卒業してからは自費出版物関係のイベント以外で被ってないし!」

「被ってはいるのか」

「そこはまあ、性癖が駄々洩れ過ぎて素顔はちょっと恥ずかしいから」

「今更何に恥じらいを覚えるのか、わたくし様にはわからないな。これだから個人差が出る感覚的な感情というのは面倒臭い」

「そっちはそっちで相変わらずみたいだね。トクサツとは相変わらず仲良くしてる? してるよね?」

「トクサツとの手紙で知っているだろうが、問題無く暮らしている。わたくし様も、わたくし様の家族も皆快適だ。うるさくない庇護者というのはありがたい。祖父と母も、トクサツという真っ当に可愛がれる孫、娘といった存在に喜んでいるしね」

「父との関わり、兄の存在、そして母からの愛に飢えまくりで見るからにヤバい状態に陥ってたトクサツが最終的に家族からの無償の愛を得られる展開最高。神。お布施先はどちらですか」

「エンタメ国のヒーロー家宛てに研究資金提供可能な窓口があるよ。商談で優先権が得られるだけだが、意外と資金が集まるものだね」

「お布施先がある喜び。後で調べて束で送るね」

「ありがとう」


「……あの、ライト? 僕も結構おかしい考え方してるっていうのは理解してきてるんだけど、あの会話ってお友達として合ってるのかしら。お友達で一方的なお金の譲渡って、あんまりお友達とは言わないって聞いたのに」

「友人としては合ってない気がするけど、マッドとマンガの間にあるよくわかんない友情としては間違ってない……んじゃないかなァ。多分」

「友情って難しいのね」

「いやァ、あれはあの二人が変わってるだけじゃない?」



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