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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
二十歳の皆
79/89

王家とマンガ



 お呼ばれした王城には、無数の本の山が出来上がっていた。

 勿論全て、マンガ、そして父のユリと母のバラが持ち込んだものである。


「わあ、また新しいのがたっくさん出たんだねぇ。嬉しいなあ」


 部屋の中心で顔を満足げにほくほくさせて喜んでいるのはこの国の王、ニジゲン・オタク。

 幼い頃は幽閉同然、尚且つ親族とも遠ざけられた状態でひたすらに署名させられたり判を押させられたりといった暮らしだったらしく、そんな状況から解放したと言えるマンガの両親に対してかなり懐いている。

 心を開いてる、というよりも、懐いている、という表現が似合う感じの慕い方なのだ。

 正直言ってネタとしては最高に美味しいし、ネタにされた本を読んでも自分が出てて嬉しいなあとしか思わないからと許容してくれる辺り最高の王様だと思う。

 まあ本人曰く、


「本には興味があったんだけど、自我の発達や思想の相違が発生する危険性がある、ってそもそも与えてもらえなかったから。でも本の中って沢山の世界があるし、色んな人の色んな考え方を見る事が出来て楽しいって思うんだ。ぼくも書いてみようとしたけど上手に出来なくて……だから、こういう素敵な物を作れる人を、尊敬しちゃうなあ」


 との事だった。

 この国は民主主義状態になっているものの、王という立場や城はそのままに、尚且つ国民からの忠誠心が高いのはこの人のこういうところだと思う。

 へにゃっとした優し気な、そして嬉しそうな笑顔で言われたら誰だって崇めずにはいられない。


「凄い……! これってこの間の舞台の本よね?」


 頬を赤く染めて嬉しそうに微笑んでいるのはニジゲン王の妻でこの国の女王である、ニイテン・ゴジゲン・オタク。

 ニイテン女王は本よりも舞台観劇の方が好きという方であり、オタク国の舞台は勿論、他の国の舞台にもよくお忍びで観劇に行く程には舞台好き。

 その際には護衛としてマンガの母であるバラを同行させているのだが、護衛という名目でお友達と一緒に旅行、みたいな感覚な気がしてならない。

 勿論そういったところはしっかり作品のネタにされているが、彼女もまた自分がネタにされるのを許容するタイプの人だった。


「だって、わたくしを作品に登場させる程の存在だと思ってくれたって事でしょう? それってきっととっても嬉しい事で、お願いして出してもらったってそんなに素敵に表現してもらえるかもわからない事で、なのに自主的に、自分から、とっても素敵にしてくれてるんだもの。その人から見た私や、その人が見た事で見いだされた私の可能性まで見せてくれるっていうところも素敵だわ」


 ニイテン女王はにっこにこでそう言っていた。

 彼女もまた当時の悪辣貴族の被害者であり、悪辣貴族の娘だった。政略結婚用の道具として育てられた為に自由が無く、気付けば結婚していたし、旦那であるニジゲン王とは公的な場以外で会う事も、会話する事も叶わなかったという。

 それでも彼女は心腐らせる事も無く、同じく自由が無かったニジゲン王と心を通わせ、自由を与えてくれたマンガの両親を恩人兼親愛なる友人と認識した。

 正直言って国王も女王も毒っ気が無さ過ぎて、男女とか年齢とか関係無く永遠の幼女かと思う程に警戒心が無いのが心配になるが、そういうところが国民の好感度高い部分なんだよなあという複雑な気持ち。

 マンガ個人としてもネタになる的な意味でこのままのが美味しいので、自分達で守るからこのままで居てくれという気持ちがあるのを否めない。


「タカラザカで見た舞台の、ええと、原作?」

「その通り!」


 ニイテン女王の問いに、バラがニコニコな笑顔でそう返す。


「舞台でも素晴らしかったあのシーンやこのシーンの詳細がしっかりと書かれていて、あの舞台を絶賛していたニイテン王妃にも是非読んでもらいたくなってしまってね! 詳しくはネタバレになるので言えないが……後悔はさせないと断言しよう!」

「まあ、素敵!」

「中身はもっと素敵だよ!」


 保証する! とバラは自信満々の顔で親指を立てた。


「んっひひひひひ、では私からはニッジーにこちらの作品を」

「これは?」

「世界各国の有名だったりマイナーだったりな作家を逸話と一緒に紹介するという素晴らしき一冊ですぞ! いやもうマジで良いから。読んで」

「そうなの?」

「作品は有名だけどそういやこの作者ってどういう人なんだろ、みたいなマイナー枠までしっかりと載ってる上に、何コレめっちゃ面白い人じゃーんってなる逸話もしっかりと! 読まなきゃ勿体無いってくらい神作だからマジで!」

「わあ、ユリがそこまで言うって事はきっと凄く素敵な作品なんだね。楽しみだなあ」


 ユリが気持ち悪い笑みと荒い鼻息と凄い勢いで本を押し付けているのに対し、ニジゲン王は神対応をしてくれていた。素で神対応をしてくれるから感謝に堪えない。


「ね、ねえ、マンガくん?」


 くい、と服の裾をヨンコマに引かれ、そういえばと思い出す。


「あ、ヨンコマにも新刊を」

「マンガくんとトショくんの実録漫画!?」

「いや、今回あんまりネタが集まらなかったからそれは延期」

「しょんな……」


 ヨンコマは小さい体躯を一層小さくしてしょんぼりした。

 そう言われても、トショは他国なのであまり交流が出来ないのは仕方がない。交流出来なきゃネタも無い。手紙の内容を参考に描く事もあるけれど、それだとマンガが一方的にツッコミを入れる描写になるだけなのでヨンコマが望むような直接的な交流は無いのだ。あと似た図にしかならなくて作画的にアウト。

 いやまあいっその事、最初からトショの手紙にツッコミを入れるマンガというシチュエーションを主軸にすれば有りかもしれない。有りな気がしてきた。よし今度はそういう新シリーズを描こう。でもやっぱりヨンコマが望んでるシリーズの新刊にはならないので結局意味なし。ぐぬう。


「うう……マンガくんとトショくんの、お互いをこれ以上なく理解している同士という雰囲気に満ちたあの図はもう見れないんですね……」

「いや来月から見れるけど。アイツ移住しにくるし」

「詳細を! 今すぐに!」

「うわ急に元気になった」


 ヨンコマはふんすふんすと興奮気味に顔を上げていた。変わり身が早い。

 もっともネタが投下されたら元気になる現象は身に覚えがあるし、この国の人間は大体こんなもんなので通常運転。健康で良し。


「元々相談は受けてたんだよ。オタク国で就けそうな職種とか」

「トショくんがマンガくんと離れるのは嫌だからいっそこちらの国に引っ越しちゃう的な来ちゃった☆展開ですか!?」

「じゃなくてこっちの蔵書数目当て」


 オタク国はまず、国民の殆どが創作者。公的に発行してる分から自主発行まで幅広い。しかも個人で作った本を一定期間ごとにイベントという形で販売したりするという、一部の人間には堪らない催しもある。

 そして次に、本を所蔵するという癖がある。

 勿論本以外もだが、他国では最早手に入らないとさえ言われた歴史的な物が何故かこの国ではやたらと保存状態が良好なまま現存してた、とかもある。

 まあそれらはこの分野が好きと主張する者が個人で所有してたりするので向こうの博物館に、となる事は滅多にないが、ともかく歴史的な価値も高い国。

 一時期の圧政のせいでマナビヤ学園の図書館には及ばないものの、ここ二十数年で一気に取り戻した分もあり、相当な数の本が存在している。

 図書館はあちこちに点在しているし、本屋もアホ程あるし、その本屋だってかなりデカい。

 一般的な家屋には当然のように本棚が作りつけてあるし、それとは別で書斎も用意されているし、トイレにまでちょっとした本棚があるくらいには読書好きの聖地。


「……読書中毒過ぎてぶっ倒れた実績があるトショが住んでないのがおかしいくらいの国だもんなあ」

「そのお陰で私はまたマントショやトショマンを拝めるんでしゅね……!? ああ、神に感謝です……!」

「泣きながら拝まれても」


 拝む側は慣れてるが、拝まれる側になると何とも微妙な気持ち。ライト達もこんな気持ちだったんだろうか。でも状況次第では拝むしかないからね。仕方ないよね。


「あ、えっと、じゃあマンガくんとトショくんの新刊は無いとして、ジンヒメといった新刊は……!?」

「んー……」


 マンガは難しい顔で唸る。


「……何か、新しいネタが無いせいかもしれないけど、盛り上がらなくって」

「しょんな!? 歩いている人が噴水の縁に座っただけでもネタを生み出すマンガくんがですか!?」

「そう。不思議な程ネタが出ない。やっぱ学園で出し切っちゃったのかも。あれだけ濃厚だったし」


 正確には描こうと思ってたネタは書き留めてあるのだが、驚く程ピンとこないのだ。

 何となくぼやけているというか、ピントがずれているというか、あの時何であんなにも盛り上がってたんだっけ、という心地になってしまう。

 ヒメからの手紙にはジンゾウ関係の話が出てこないし、ジンゾウとは連絡も取っていないから仕方ないのかもしれない。

 オタク国の民は昔に得た一滴の水で十年以上持つ者も居るが、大半は供給が耐えれば死んでしまう。そういうものだ。


「え? あれの新刊は無いの?」


 ニジゲン王に残念そうな声で言われ、思わずビックリしてしまう。


「に、ニジゲン王も興味が?」

「うん。とっても素敵な関係性だったし、何度か読み直しちゃうくらい()()が詰まってたから。二人の関係もそうだし、それを見てるマンガもとっても嬉しい気分になってるんだろうなあって」


 その言葉に加え、うんうん、とニイテン女王にも頷かれた。


「そりゃわたしだって、描けるなら描きたいんですけど……」


 手が止まる。思考が止まる。ネタが生まれない。

 なんというか、造花に水をやるような感覚なのだ。足踏みでも良い。同じところでぐるぐるしていて、そこから先に進めないような感覚がある。

 ヒメがマウンと絡んでる作品は描けたのに、いやはや本当に何故なのか。


「こんにちはー」


 そんな時、聞き覚えのある声が聞こえた。

 使用人に部屋まで通されたその客の顔は、


「ライト!?」

「ライトくん!?」

「一応フリョウも居るんだけどなァ」

「…………」


 扉の陰に隠れていた巨体がヌッと出て来た。その威圧感にヨンコマは怯えてマンガの背中に隠れてしまったが、彼女は誰が相手でも人見知りしがちなので気にしないでおく。


「どうしたの、二人共。珍しい……どころかどうやって城内に? 予定入ってないよね?」


 民主国家状態で王家は象徴として存在するだけの飾り状態。しかし立場はある。簡単にはいどうもと入れる場所じゃない。

 それが、とてもあっさりと。


「チリョウ国から緊急かつ公的な何か? それとも最近実家での研修終わってチリョウ国に移住したライトから嬉しいご報告とか?」

「嬉しい報告……では無いかも」


 そう言って頭を掻くライトだが、顔に浮かんでいるのは苦笑。困ったような笑み。

 フリョウに至っては険しい顔で、一層何が起こっているのかよくわからない。学園生活でフリョウの表情は大分読めるようになったが、それでもこれは、正真正銘険しいと言える顔だろう。


「ここに来れたのは、アカからの指示。……これで、嬉しい報告じゃないっての伝わる?」

「…………え、わたし何に巻き込まれるの?」

「もう巻き込まれてるんだよなァ」

「えっ」

「そして、巻き込む側になるよ」

「えっえっ」


 ちょっとよくわかんない。久々の再会でこんな意味わかんない事ある?


「で、これアカからの手紙ね。紹介状あったお陰でここまで通してもらったんだけど……受け取ってくれる?」

「……わたし宛て?」

「正確には王様達も巻き込む前提だけどォ、まずは確認の為にもアカに受け取ってもらわないとって感じ」


 怖過ぎる。

 マンガはフリョウに視線を向けるが、フリョウは相変わらず険しい顔のままマンガに視線を向けていた。

 これが何らかの、それもマイナスな影響を及ぼすなら、フリョウの性格上顔ごと目を逸らす事だろう。それが無いという事は、この行為が必要だと理解しているから。

 それを理解して腹を括り、マンガは表の筆跡からもアカからだとわかる手紙をライトから受け取った。


「んえ……?」


 受け取ると同時、パチンと弾けた。

 頭の中に掛かっていた枷が、蔓延していた靄が、パチンと一瞬にして弾け飛んだ。

 解放されて広がるのは、今までまったく意識すらしていなかったジンゾウについてで、


「いやわたし何を呑気にネタ浮かばないとか言ってんの!? ネタしかないに決まってるじゃん無限に湧いてるネタを死蔵してたとか万死に値するよわたし!」


 マンガは膝を折って渾身の力で床を叩いた。痛い。でも痛くない。痛みよりも何よりも、後悔と怒りの方が津波のように襲い掛かってくる。


「この一年何してたんだわたしは! これだけ! これだけ最高のカップリングをネタ書き留めたから満足しちゃったのかなまあ良いか~~~とか呑気か! 死ねわたし! いや死ぬなわたし描くまで死なない! 死ねやしない!」

「え~~と……効果あった?」

「ありまくり! っていうか今の何!? それ以前に今までのが何!?」

「多分、ジンゾウの魔法」


 苦笑、というよりはどこか悲しみも混ざったような笑みで告げられた言葉に、マンガの顔から表情が消えた。広がるのは納得の感情。

 ああそうだ、そんな感じの事を別れ際に言っていた。

 そしてジンゾウならば、魔法でこういった事も出来るだろう。相手の意識を逸らし、自分を思い出さないように、自分に感情を向けないように、という事だって容易いはずだ。


「にしても物の効果を打ち消す事も禊祓で出来るのは知ってたけど、物に付与してそれを持続させる事で触れた相手にも禊祓を、っていうのは初めて」


 たはー、とライトは見慣れた、変わらない笑みで頭を掻く。


「いやァ、一年間の研修でこれでもかってくらい魔法使わされた効果が出たかな!」

「……俺達もつい先日まで、お前と同じ状態だった。そこにアカの手紙が届き、魔法の効果があるせいでその時点ではあまり内容は理解出来なかったが……物は試しにとライトが魔法を使用した。結果、ジンゾウにしてやられていたらしいと理解した」

「わたしから萌えを奪おうだなんてジンゾウのヤツ……!」


 素晴らしき推しカプを一つ失わせるとは何たる重罪。絶対グチョドロエロ描いてやるからなあんにゃろう。ジンヒメじゃなくてヒメジンで、尚且つ女性優位ふたなりでいきなりステーキタイプのエロ特化本だ。絶対描く。許さん。


「いや、まあ、多分ジンゾウの事だからオレ達に被害を出さないようにっていう気遣いなんだろうなァって思うんだけど」

「わかってるよライト! わたしだってそのくらいはわかるけど、だからってこれは違うでしょって話! 自分だけ犠牲になるなんて創作物の中だけで良いっていうのにあの身投げプリンセスは!」


 姫じゃなくて王子だけど、あんなの姫で良いだろう。剣持ってるよりも牢獄に幽閉されてる図が似合い過ぎる男だ。ゴリムキボディの癖に。華奢で小さいプリンセスなヒメの方が剣を持って救いに行く図が似合うの何なんだ。お似合いか。突発イラスト描きます。でもこの燃え滾るような萌えを封じてたのは許さん。エロも描きます。絶対描いてやるからな覚えとけ。


「っていうか、アカからの指示って一体何が」


 手紙を開いて中を確認。

 大体の状況、展開、作戦、そして指示が書かれている。一緒にやってくれるかという問いも無い辺り、その必要は無いとわかっているんだろう。

 そう、その通り。

 そんな問いかけが無くっても、マンガは間違いなく協力する。


「ニジゲン王、お願いがあります」

「うん。何?」


 マンガは手紙を掲げ、ひらりと揺らす。


「ニジゲン王主催の国際パーティって名目で、同じ学年メンバー揃えての同窓会開いて良いですか?」

「良いよ」


 ニジゲン王は逡巡する様子も無く、理由も聞かず、いつも通りの笑顔といつも通りの穏やかな声で即答した。


「そうしたいって思う、大事な何かがあるんだね」


 微笑むその目は、慈しみに満ちている。


「ぼくの名前が役立てるなら、是非使って。他に協力する事はある?」

「王家からの招待状とわかる印の使用許可を」

「良いよ」


 またも即答だった。

 そんな王の、独断とも言える決定を誰も止めない。

 ニジゲン王は優しく目尻を緩ませる。


「そうしたら、またマンガの素敵な作品が読めそうだしね」

「!」


 ああまったく、本当にこの人は、


「……はい、ハッピーエンドの新刊を描き上げますよ!」


 創作者の心を掴むのがお上手だ。





「じゃ、じゃあ一年振りにあのカプもあのカプも見れるんでしゅか……!?」

「その代わりめちゃくちゃ人来るけど良い?」

「お、同じ学年の人達なら、多分、きっと、ど、どう、どうにか……!」

「うーん産まれたての子ヤギよりぷるぷる震えてる。本当に平気?」

「あ、あんまり……だけど、でも、これを成し遂げたら、そこに誰かの幸せがあるはずなので……」

「……あの人、実績あるもんね」

「はい。私の両親が自由になれたのも、私が生まれてこれたのも、アカさんのお陰でひゅ」

「噛んでる噛んでる」

「だ、だから、だから、私達は直接的な部分じゃ関係無いかもしれませんけど、これをやる事でマンガくんや他の皆に良い事があるのなら、やりましゅ!」

「…………うん、ありがとヨンコマ」

「恩を返します! かんぱりましゅっ!」

「頑張りすぎて頑張れてないから一旦休む? 招待状の用意するのわたしだし、それに魔法掛けるのはライトの仕事であってヨンコマが絶対ここに居ないとってわけじゃないからさ」

「いえっ! 招待状の書き方とか色々っ! お役に立てないわけではないので!」

「……ありがと」

「はい!」

「何かお礼するね」

「お礼なんてそんなっ、ジンヒメの新刊とトショマンの新刊とフリョライの新刊とトクマドの新刊とユウオハの新刊があれば私は別に、えへ、えへへぇ……」

「想定より倍くらい強欲!」



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