マッドの祖父母
イカレタとマトモナは幼馴染だった。
「勝負だイカレタァアアアアアアアアアアアア!」
「うるさ」
マトモナは喧しいガキ大将だった。
対するイカレタは、喧しくこそ無いが幼い頃から変人として有名な子だった。
「今日こそお前に勝ってやる!」
「ああ、うんうん。じゃあ今日もこの同意書にサインを。今日はちょっと強めの薬を試したくてね」
「おう良いぜ! 残念ながらこの同意書が役立つ事はねえだろうがな!」
「君、それ言うのは趣味か何かかい?」
マトモナはガキ大将として、近所の子供と勝負しては勝っていた。勝つまでやった。
だがイカレタだけは、そうはいかなかった。
まず勝負をしてくれない。それは勝負に負けたら実験の被検体になる、という契約をする事で解決した。勝負に負けた。当然のように、マトモナは勝負に負けた。
かけっこでも腕相撲でも計算でも水切りでも負けた。
負けた理由は、わかっていた。
「このアクセル全開女め!」
「嫌なら魔法を使用禁止にしてしまえば良いだろうに。私様としてはありがたい限りだが、君、さては被検体になりたいだけのアブノーマルな趣味をお持ちとかじゃないだろうね?」
「誰が想像もつかねえド変態だ!」
そう、イカレタの魔法はアクセル全開。
肉体への負荷は掛かるものの、技術といい筋力といい、通常以上の威力を出す事が可能な魔法。
対するマトモナの魔法はただ声がデカいだけのもの。山向こうにだって届く大声を出す事は出来るが、声で衝撃波を出すなんて不可能な、本当にただ大声を出せるだけの魔法である。
それでも、そうだとしても、
「それで魔法を封じて勝ったところで、つまんねえだろ。オレは魔法込みで全力のお前と勝負して! 勝って! オレが最強って胸を張る! その為だけにやってんだ!」
「変な趣味だねえ」
「変な実験しかしてねえお前に言われたくねえ」
「君からすれば、今日もまた変な実験、という事になるだろうね。まあとりあえずこれを飲んでくれたまえ。失明する薬だ」
「おいこら」
「その後、こちらの失明を回復する薬を飲んでもらう。回復させるには、一度その状態に陥ってもらわなくてはいけないからね」
イカレタは、本当にイカレていた。
毒みたいな薬を平気で作っていた。人に試すのも躊躇わなかった。効果が弱くて効果時間も短い物なら、平気で水源に毒を入れて影響が出た人間の観察記録を付けるくらいにはイカレていた。
・
その話に、流石のトクサツもドン引きした。
「……あの、マッドのお婆様? それは流石に悪じゃないかしら」
「私様にとっての正義は、薬を作る事。薬の効果を調べる事だ。人間を害するのが悪だというのがトクサツの価値観なんだろう? 私様にとっての悪は、知的探求心を我慢する事だ。私様は私様の悪を否定する為、私様の正義として、知的探求心の赴くままに行動しただけさ」
「え、え、ええ? そ、それって正義? いえでもそれが正義なら……でも……」
「トクサツ、湯気出す程悩まなくても良いぞ」
マトモナが目をぐるぐるさせているトクサツの頭を優しく叩く。
「コイツ悪の研究者みたいなもんだから、コイツの主張イコール世間一般の悪だ」
「妻に対して酷い言い草だなあ、マトモナ」
「水源に毒盛るのを十八番にしてるヤツが悪じゃなくて何だってんだ」
「ちゃんとその後、薬を無償で提供したりもしているじゃないか。正義の善人として名が残っている地域もあるよ」
「そりゃ消火して褒め称えられる放火魔と変わりねえだろ! マッチポンプを得意技にしてんじゃねえ!」
「……流石の私様でも、これは一線を越えたと思ったのが君を半身不随にしてしまった件なのだけどねえ」
遠くを見ながら、イカレタはいつも通りの真顔でため息を吐いた。
・
マトモナは勝負を挑み続け、負け続け、実験台になり続けた。
イカレタは実験が楽しくて仕方がなかった。マトモナの事は喧しくて面倒臭い人間という認識だったが、自分からやって来てはちょっと勝負に付き合うだけで実験台になってくれるのでありがたい存在だった。
そうして、ちょっとずつ危険度が増していった。
きっとこれも大丈夫だろう、と思っていた。
ちょっとくらい失敗しても何とかする薬はあるし、とも思っていた。
「…………お?」
薬を飲んだマトモナが、ガクリと倒れた。
驚いた顔で目を白黒させている。痛みは発生していなかった。
だが、筋力の枷を外す効果が出るはずの薬は、コントロール権を失うという効果を放っていた。
「まあ、一時間で効果は切れるだろう」
「おいこれ一時間の間にトイレしたくなったらどうすんだ!?」
「ああ……感覚が無いなら勝手に垂れ流しになるのかな。おむつ履かせようか?」
「そんなんされるくらいなら垂れ流す!」
「何て嫌な決意を……」
人の研究室で垂れ流されても困るが、まあ排泄物もまた調べるには有用なものなので、それはそれで良いかと判断して様子を見た。
一時間経っても、戻らなかった。
三時間が経っても、戻らなかった。
「あり得ない……あり得ないあり得ないあり得ない! 何故こんな効果が出た!? あの材料とあの工程でこんな効果は出ない! 何が違う反応を起こした? これまでに服用した薬が体内に蓄積されていて、それと化学変化を起こしたのか?」
「おい、それよりオレは? これじゃお前に勝てねえじゃねえか!」
「今そんな話はしていない!」
勝負どころか、まともな生活が出来るかどうかすら怪しい。そんな事もわからないのかと怒鳴りつけそうになり、マトモナ相手に当たる事ではないとイカレタは自制する。
そう、やるべきは怒鳴る事ではなく、この状態を改善する事。
調べた結果、どうやら飲ませた失敗薬を解毒したところで効果は無い事がわかった。既にそういう形に変質し終わっている。
落とし掛けたカップをキャッチすれば割れずに済むが、一度落として割れてしまえば、拾い上げたところで元の形には戻らない。
割れたカップを元に戻す、そういった工程が必要なのだ。
「二時間……いや、一時間半だ! 待っていろ!」
「お前、珍しく焦ってんな。普段失敗なんてしねえから動揺してんのか?」
「このまま一生半身不随になりたいのかい君は!?」
笑ってはしゃいで走っている姿を、よく見かけた。いつ見てもこの男はうるさいなと思っていた。
それが、見れなくなる。
・
「それが何となく嫌だったし、失敗した薬をそのままにしておくのも不愉快だったからね。宣言通りに一時間半で半身不随を治す薬を作り、投薬し、その日の内に治したとも」
「危なかったのね……」
「そんな私様に対し、この体力馬鹿は何て言ったと思う?」
「え?」
わからず首を傾げるトクサツに、イカレタは言う。
「また明日も来るから、明日こそ負ける覚悟をしておくんだな、だよ。いつもと変わらない負け台詞だった」
「負け台詞って何だ負け台詞って! 次こそ勝つっていう宣戦布告だろうが!」
「調子に乗って失敗した女、それも自分を半身不随にした元凶相手に、即日治ったとはいえそんな相手に対していつも通りというのがおかしいんだ。気が狂っているのならともかく、馬鹿の代名詞かと思う程に元気印な君が言うなら尚更おかしい」
「ああ?」
マトモナは目を眇め、しかめっ面でイカレタを睨みつけた。
「お前の腕なら、そんなもん簡単に治せるだろ。お前に治せねえモンなんてこの世に無いんだ。何でオレが絶対治る状態を、そんで実際に治った状態をぎゃあぎゃあ言わなきゃいけねんだよ」
「これを真顔で言ってくるわけだ。手に入れたいと思うだろう?」
「わかるわ!」
「何が?」
真顔なイカレタ、頷くトクサツ、わからんという顔のマトモナという状況だった。
ちなみにヤサシイはトクサツと同じように頬を赤らめて頷いているし、クレイジーとマッドはそもそもの興味を失ったのか再び実験に戻っていた。血筋が濃い。
・
翌日、マトモナは本当にいつも通りにやって来た。
また負けて、実験台にされても、何の躊躇もなく薬を飲み干す。それを何度も繰り返した。
「よし、ここを去ろう」
イカレタがそう決めるのは、早かった。
マトモナをあんな目に遭わせたというのにまったく変わらない態度。酷く奇妙だ。不審にさえ思える。おかしいだろう。
普通はもっと、頭の正常さを疑うといった系統の罵倒を繰り出し、絶縁するものじゃないのか。
その後も当然のように実験台になる事への躊躇の無さ。それもまた気味悪かった。頭がおかしいとしか思えない。
普通は、二度とやらない、となるはずだ。
体が本能的に拒絶するとか、そういったトラウマ状態になるはずだ。
しかしマトモナはそんな事も無く、当然のようにやってくる。
逆にイカレタの方は、薬を作るのに躊躇いが生まれていた。安全かどうか。試す前に成分等から有害かどうかを確認出来ないか。人体に万が一が発生したりはしないか。
それらをつい気にしてしまう自分が、嫌になった。
それでも気にせずにはいられなくて、安全性を高めたものでもマトモナ相手に試すのが何だかとても嫌な気持ちで、当たり障りのない薬を出しそうになって自分のプライドも傷付いて。
いっそ、勝負に負けてしまおうかとも思った。
でもそれすら何だか嫌で、だから何もかもを捨て去って、イカレタは別の国に移動した。何の手紙も残さず、行き先も言わず、
「他国に行きます」
同じく研究者肌な両親にそれだけ伝えて、一人で旅立つには少し早い年頃のイカレタは、どこに行くかも決めずにとりあえず行けるだけ行ってみた。
・
「いつも通りにコイツの家に行ったら、どっか行ったよ、だったからな。しかも帰ってこねえし音沙汰無し」
マトモナはテーブルを強く叩く。
「勝ち逃げしやがったんだコイツは! あれっだけオレがコイツとの勝負に勝とうとしてたの知ってる癖にだぞ!?」
「不戦勝にしてしまえば良かったのに」
「ざっけんな! 正々堂々真正面から勝ってこそだろうが!」
「はいはい」
面倒臭い、という態度を隠さずイカレタは手をひらひらさせてマトモナをあしらった。
「ま、すぐに追いかけてやったけどな!」
「追いかける事が出来たの?」
「コイツ、すっげー噂になってたから」
「困った事にね」
やれやれ、とイカレタは肩をすくめる。
・
マトモナを治した為、半身不随を治す薬、というのは既に出来上がっていた。
とても欲しい学問書があった為、その学問書と引き換えに、その薬を処方した。
結果、半身不随すらも治せる薬を作った者として、各国から狙われるようになってしまった。
比較的マシな条件を提示する相手だって、自白剤を盛ればあっさりと全てを吐く。子を産ませて人質にするだの、飼い殺しにして薬を作らせ続けるだの、まあ色々だ。
「うん、移動するか」
だからさっさと移動した。色んな国を梯子した。
当然ながら狙われたが、追っ手には強めの下剤を盛れば大体は何とかなった。そこらの宿屋では裏切られて情報を売られる為、一般人の家に泊まる事を覚えた。
しかし逃げる度に顔と名前の知名度が上がる為、一般人の家でも裏切られるようになった。
「じゃ、恩人になろう」
恩人は売れない。人間には情というものがある。
それを狙って、水源といった生活用水に効果が出やすい軽めの毒を盛り、解毒剤を処方する事でそこら一帯の恩人になった。お陰で快適に宿泊出来るようになったし、お礼としてちょっとした食料や衣服を用意してくれる事さえあった。
勿論怪しまれてはいけないので、時々通りすがりに毒を撒いた。
数日で治る程度の毒を撒き、解毒せずに立ち去る。そうすれば、そこらでそういったものが流行ってるんだな、で終わる。治った人達は偶然運良く、薬を持った旅人と出会えたのだ、と。
毎回治していては、そこのカラクリに気付かれる危険性があった。
子供や病人に万が一が無い程度に薄めておいたので、恐らく死人は出ていないはずだ。調べていないので知らないが。
「見つけたぞイカレタァアァアアアアア!」
そんな暮らしを繰り返して、お礼として山近くに家を貰った時だった。
市民を味方につけているお陰で足取りが辿り辛くなったようで、追っ手の心配が薄くなっていた頃、扉を蹴破る勢いでマトモナがやって来た。
「テメェこの、っ馬鹿女! 何勝手にこんな遠くまで旅してやがんだ見つけるのにどれだけ苦労したと思ってやがる!」
「マトモナ、かい? 随分と屈強になった上に日焼けまでして。健康的だね。スポーツでもしていたのかな」
「お前を追いかけて旅する路銀稼ぎに土木作業だのやってたんだよ!」
即金目当てだろうが、そこで肉体労働を選ぶ辺りがマトモナらしかった。
「それで、どうしてそこまでしてここに? よく見つけたね」
「お前の指名手配みたいなヤツで追えるだけ追って、そっから不思議な薬を使うヤツの噂を辿った。オレもソイツに助けられたんだ、って話しゃ、どっちに行ったのかはあっさりと教えてもらえたぜ」
「…………」
意外と頭の回るやり口をしていた。
半身不随にした犯人といえど、半身不随を治したのは本当なので間違っても無い。失明させて失明を治したりもしているので、何度も助けてもらった、という言い方でも間違っていないから嫌になる。
「君、そんな小手先の手口が使えるような男だったとはね。意外だな」
「ッハ! 勝ち逃げ出来ると思ってたんだろうが残念だったな! 勝つまでオレはお前の事を諦めねえぞ!」
マトモナはイカレタを指差し、口を大きく開いて笑う。
「こっから逃げようと、地の果てだろうが海の果てだろうが、何が何でも追いかけてやるぜ!」
そうか、と思った。
追いかけてくるのかコイツは、とも思った。
折角こんな危険な女から逃がしてやったのに馬鹿な男だ、とさえ思った。
「そうかい」
成る程、とイカレタは頷いた。
半身不随にしてしまった事に、幾ら予想外の結果だったとはいえ尋常じゃなく焦りを覚えた事。その後、申し訳なさのような気持ちを抱いた事。また同じような被害を与えたくはない、と思った事。
それらは全て、
「納得したよ」
イカレタが、マトモナに恋をしていたから発生した感情だったと理解した。
・
「だからもてなしとして出したお茶に薬を盛って意識を奪った」
「いきなり!?」
「自覚した以上は早い方が良いだろう。逃げられても困る。まずは手に入れる事、逃げられないようにする事、が最重要だ。幸いにも情が深くて変なところで粘着質な男だから、理由があれば簡単には見捨てられまいとも思ってね」
イカレタの言葉に当時を思い出したのか、マトモナはそれはもう苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
・
手柄目当てで女たらしが近付いてくる事はあった。薬を盛って顔を爛れさせた。
子を孕ませて逃げられないようにしようとする男も居た。薬を盛って二度と機能しないようにした。
マトモナは、そういった男達とは違う。
手柄がどうとか国がどうとか賞金がどうとかではなく、イカレタの薬目当てでもなく、ただイカレタだけを見て追ってくる。
ここまでイカレタを追い続ける男も、辿り着ける男だってそうはいない。
「……あ?」
「おはよう」
薬で意識をぼんやりさせたまま、数ヵ月が経過した段階でマトモナから薬を抜いた。
「何か、スッゲー寝てたよう、な……、!?」
にんまりと微笑むイカレタを見て、マトモナは目玉が落ちるんじゃないかという程に目を見開いて驚く。
イカレタというよりは、まだ膨らみが薄い、しかし中身があって膨れているとわかる腹を見て、だ。
「君の子だよ」
本当は堕ろせない程に育ってから意識を起こすつもりだったが、あんまり育ち過ぎてもそれが自分の子か確証が無い、なんて言われても困ると判断して早めに起こした。
もっともマトモナはそんな事を言う男でも無いから、単純に、マトモナとちゃんとした会話をしたい気持ちが勝っただけかもしれない。
「オレの、子? はぁ?」
「意識を朦朧とさせた状態の君の上に跨って子種を搾り取らせてもらった。さて、君の子を孕んだ私様に対し、君が言うべき言葉は何かな? まさか君が、自分の子を孕んだ相手を放置するわけもないしね」
「おま…………」
いつも喧しいマトモナにしては珍しく、静かな様子で顔を覆っていた。
「…………プロポーズさせるにしたって、順序とシチュエーションってもんがあんだろうが!」
「だから先に子供を作って逃げ道を塞いだんじゃないか」
「順序とシチュエーションを馬に殺人キックさせてるようなもんだそれは!」
そんな事を気にしていては、逃げられる可能性をゼロに出来ない。確実性の為にも、そんなものはさっさと馬に蹴り殺させるが吉と言えよう。
・
「そうして生まれたのが私様の血を色濃く継いだクレイジーだ」
「本当、ここまで色濃くなくて良いってくらい色濃く……」
クレイジーの方を見ながら、ヤサシイがそう小さく呟いた。色々と思うところがあるんだろう。
「え、ええと、何だか、何て言うかその……マッドのお婆様がマッドのお爺様に抱いた気持ちは間違いなく素敵なのに、その成就のさせ方が、ちょっと……」
「でもそのお陰でマッドが生まれる事になった。そう考えれば、間違っていないとも言えるんじゃないのかね?」
「う、うう……」
「素直な子を惑わせんなイカレタ!」
威嚇するように吠え、マトモナはトクサツの背を軽く叩く。
「気にすんなトクサツ、マッドが生まれたのは良い事だが、それはそれとしてコイツの行為は間違いなく外道だった!」
ふむ、とイカレタは顎に手を当てて頷いた。
「妻に対して酷い事を言う」
「酷い事をしたのはそっちだろうがコラ」
「君を脅す材料には一人居れば充分だったから、それ以降無理矢理に薬を盛って合意無しで性行為をしたりはしなかっただろう? サイエンティスト家の血の濃さを思えば優秀な頭を持った子が産まれるのはわかっているが、妊娠中というのはどうにも研究にムラが発生してしまうしね」
精神状態が安定しないのも自分での実験が出来ないのも困る、とイカレタはため息を吐く。
「だから必須の行為ではないと判断して君に無理強いをする事は無かったのに、何故そんなに怒鳴るんだ」
「それ以降じゃなくて、それそのものの話をしてんだよオレは……!」
ギギギと歯を食い縛りながら無理矢理獰猛な笑みを浮かべるマトモナに、イカレタはやれやれと肩をすくめた。よくある事なのか、まだ慣れていないトクサツと違い、ヤサシイですら平気な顔でお茶を飲んでいる。
「それよりマトモナ、その腰にある物だけど」
「話を逸らそうとすんじゃねえ!」
「ここにそんなものが届くとは、珍しいね」
「…………あっ、そうだトクサツ! マッド!」
「「?」」
何かを思い出したらしいマトモナに名を呼ばれ、お茶を飲んで喉を潤していたトクサツと、作業が終盤に差し掛かっていたマッドは首を傾げた。
そんな二人に、マトモナはポケットに入れていた、少しよれてしまった物を取り出す。
「手紙、届いてたぜ。いつものダチから、にしてはちょいと物々しい気配だが」
いつものダチ、という事はライトだろうか。マンガかもしれない。
確かに普段のラフな手紙とは違って、何かの招待状といった気配が漂っている。随分と珍しい。ちょっとした催しでもするとかだろうか。
そう思いながらトクサツはその手紙を手に取って、
「…………あっ」
受け取った瞬間、何かがパチンと弾け飛んだ。
「トクサツ? どうかしたのかな?」
最後の工程を終えて作業を終了させたマッドが近付けば、泣きそうな気持ちと驚きの気持ちが入り混じった表情で、トクサツが招待状をマッドに差し出す。
「トクサツ?」
「……触れば、わかると思う。これ、送り主はマンガだけれど……きっと、ライトも関わってるわ」
まだ中身も見ていないのに、何故そこまでわかったのか。
そう疑問に思いながらもマッドはトクサツが差し出した招待状を受け取り、
「、お」
パチン、と弾け飛ぶ感覚。
同時、今まで意識すらしていなかったような位置の記憶が鮮明になっていく。爽快感すら感じる程の勢いで鮮明になったのは、
「…………これは、何かをしてやられた、というところかな?」
「きっとそうよ! あんな別れ方をしてたから……いいえ、あんな別れ方をしたのに、僕達があれ以降一度も気にする事が無かったなんておかしいわ!」
「中身を確認しよう」
わかりあった風な二人を何が何だかという顔で見て来る祖父母と母、そして作業の片手間に視線を向けて来る父を無視して、マッドとトクサツは中身を確認する。
「へえ、オタク国で同窓会」
「……これ、ライトの魔法が掛かってたのと関係あるかしら?」
「わざわざ手紙自体に魔法を掛ける事で、わたくし様達にその効果を発揮してみせたんだ。関係がある、と言っているも同然だろう」
それも返事を送り返すのではなく、紙に書いてある参加するかしないかという問い。そこに丸を付ければ送り主にもその返事が伝わるという、中々に金が掛かったタイプの仕掛け付き。
王族が娯楽で使うようなコレを使っている辺り相当に気合いの入った、本気の催し。
「トクサツの意見を聞こうか。どうしたい?」
「……これはきっと行くとか行かないとかいう意思じゃなくて、行かなきゃいけない、ってものだと思うの」
「そうだね。それで?」
「行くわ!」
「よろしい。わたくし様も賛成だよ」
頷きながら微笑み、マッドは白衣のポケットに入れていたペンで招待状に丸を付ける。
勿論、参加するという表記の方を。
マトモナからイカレタに対して。
マトモナはイカレタに対して、やべーなコイツ、の認識してます。
全然勝てないくらいすげーヤツ、という認識もあります。出来ない事は無い、という信頼もあります。
恋心については正直怪しい。どこまでだって追いかけるぜという対象ではありますが、当時はラブにも性欲にも繋がってなかったので。
多分追いかけて見つけて、そこからまた勝負を持ちかけて毎日勝負して、を半年くらい続けていれば当時より成長した精神が「あれっオレさてはコイツの事好きか?」と思う事もあったかもしれませんが、その前に薬盛られて子供作ったので芽生えなかった。
結婚したのは子供が出来たのに無視なんて事は出来なかったのもありますが、このやべーヤツを野放しにしない方が良いよな、と思ったから。
別に傍に居るのも実験台にされるのもそこまで苦ではないし、ストッパーが居ないと何しでかすかわからんぞ、という点からも結婚に賛成。
今もラブを抱いてるかは怪しいものですが、イカレタをちゃんと妻と認識しています。恋愛かはさておき、愛はある。




