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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
三年生
74/89

相変わらず



 ジンゾウが落ち着いた頃、ガラリと部室の扉が開いた。


「やっほー久しぶりー。って、あれ、何だヒメとジンゾウしか居ないの? 姫と忠犬(駄犬)二人きり、密室で何も起きないわけがなく……オッケー新刊だね」

「何も良くないのだわ」


 このユニコーン頭、三年になっても何も変わらないにも程がある。


「ところでヒメ、わかる? わたしのこの肌艶! もー、最高の神本たっくさんで! しかも中にはわたしが書いた本から派生した作品まであったりしてね! 髪艶も肌艶も艶プルになっちゃったよ!」

「一応聞くけれど、それはジョーク?」

「何が?」


 地元でまでこの被り物をしているとは思いたくないが、髪も肌も完全に覆い隠している自覚は無いんだろうかこのユニコーン頭。いや、ユニコーン頭自体の毛艶についてを言っているのかもしれない。言われても困る。


「あ、そうそうあとヒメが好きそうだからお土産! 戦闘描写に気合い入っててクオリティ高い人の本と、武芸に長けた偉人に関する逸話の論文染みた本!」


 どさ、と手渡されたのは大量の本。

 薄かったり厚かったり様々だが、間違いなく執念にも似た情熱が詰め込まれているとわかる代物だった。


「……良いの?」

「もっちろん! ヒメを主役にした本が何種類もあるんだけど、それがまた人気だったからそのお礼も兼ね……あ、大丈夫何でもない」

「全部言ってるのだわ!」

「基本はヒメとジンゾウのいちゃつき本だし、ヒメ語録の四コマ漫画とかそういうのだから大丈夫!」

「それ以外は?」


 ユニコーン頭が顔を逸らした。ユニコーン頭なので逆に目が真正面からこちらを見ているような状態になっている。


「それ以外は?」

「いや、そのぉ、それはぁ」


 えへ、と笑って誤魔化そうとしているがどんなぶりっ子をしていようがユニコーン頭で見えないし、そうやって誤魔化そうとするという事は元ネタ相手に知られてはまずい系統を描いたという事だろう。


「やあ、久しぶり。楽しそうだね」

「久しぶりー!」

「あら、マッドにトクサツ」


 ああ、丁度良い。簡単に挨拶を済ませ、ヒメはマンガに告げる。


「マンガ、マッドにその鬣を好き勝手されたくなければそれ以外についてを言いなさい」

「わたしの鬣が人質に!?」

「ん? 何だかよくわからないが、好きにして良いなら好きにさせてもらおうか。切り落として採取させてもらうので良いかな?」

「却下だよ! わたしの鬣になんて事を!」


 マンガの鬣というよりもマンガが使用している被り物の鬣のはずなのだが。

 それでも嫌だったらしく、マンガは自身の人差し指同士を突き合わせながら気まずそうに答える。


「……えー、まあ、そのぅ、ヒメ主役女性上位逆レ物を」

「首を吊るか足を吊るか、好きな方を選ばせてやるのだわ」

「どのみち処刑! 待って待ってちゃんとヒメは強いままにした!」


 それでどうして許されると思ったのか。確かにそう言われると八割方許したい気持ちになるけれど。


「創作内だからと強者が問答無用で名も無きおじさんに組み敷かれるのは創作的に有りだし性癖的にも有りだけど解釈違いだったし!」


 よし、処刑しよう。


「ジンゾウ、魔法を使ってマンガの足に縄を括りつけて逆さに吊るして欲しいのだわ。いつでも縄を切ってあげられるよう、てこの原理で」

「え、あ、うん。ごめんねマンガさん」

「何も意味をわかってないままやらないでジンゾウ! というかわたし自制した! 頑張って自制したって話だったのに何で!?」

「ヒメちゃんが即座に処刑を言い渡すって事は相当かなって思うし」

「ぐうの音も出ない!」


 マンガの言ったワードが理解出来ていないのかヒメの耳が塞がれる事は無かったが、状況から判断したらしくマンガは無事に逆さ吊りとなった。妥当。


「お土産ちゃんと渡したのに!」

「そうね。私からもマンガへのお土産に、ザカの有名劇団の最新演目、その設定資料と衣装の資料を用意しておいたのだわ」

「えっ」

「これはお土産の礼として後で渡します。ただし出版物に関しては別の話なので吊るしあげます」

「うう……被り物がずれる……」


 逆さ吊りにされながらマンガはずれないようにと被り物の首元を摘まんでいるが、被り物の心配が出来る辺りかなり余裕があるらしい。


「あの、ええと、マッド?」


 そのやり取りに、一連の流れについていけていないトクサツはおろおろとマッドに問いかける。


「あれって放置で良いのかしら」

「人がどうすれば苦しみ、どこまでいけば死ぬか、というのはタカラザカ所属であるヒメにはよくわかっているはずだよ。命の危険はない」


 マッドは淡々とそう返した。


「わたくし様としても、折角なら逆さ吊りにされた後の状態を調べさせてもらいたいからこのままにしておこう」

「そ、そう? その方が良いのかしら」


 うーん、と首を傾げてトクサツはマンガを見る。


「えっと、マンガ? 本当に駄目そうだったら、助けを求めてくれれば僕が助けるからね?」

「ありがとトクサツ……でも有罪なのは本当だから大丈夫。マッドとトクサツでもやらかしたし」

「何を?」


 よくわからないという顔でトクサツが疑問符を浮かべながら首を傾げていたが、これは知らなくて良い事だ。ヒメだってあまり察したくはなかったが、前世の知識があるのでわかってしまうのが歯がゆい限り。


「……トクサツは、マッドの家で楽しく過ごせたみたいね」


 トクサツの顔色がかなり良いこと、肌艶の様子からも辛い思いをしたようには見えなかったのでそう告げれば、パ、とトクサツは表情を明るくした。


「凄い! ヒメってば、見ただけでそんな事がわかっちゃうの!?」

「さっきのやり取りを見ればわかるのだわ」


 今までのトクサツなら、マッドがそれを望むなら、とマンガを見捨てる可能性が高い。

 何せ今までヒゲキ女王に向けていた感情を、そのままマッドにスライドした状態だった。ヒゲキ女王が言った事に、内心はどうであれ、行動は忠実だったトクサツ。それに反抗するなんて考えもしなかったし、したが最後見捨てられるという恐怖に見舞われていた事だろう。

 それが、無かった。

 マッドの言葉を受けても、マンガが助けを求めれば助ける、と言い切った。自分から言った。

 見捨てられる事を恐怖するでもなく、実に自然に言ってのけた。

 マッドの実家がどういう感じかは知らないが、少なくとも、精神的に安定し、見捨てられる事への不安を抱かずにいられるくらいには、楽しい時間を過ごしたという事に違いあるまい。


「あのね、マッドのママがとっても、とーっても優しかったの! 一緒にお菓子を作ったり、一緒にお庭の手入れをしたり……夜寝る前にはね、本を読んでもくれたのよ」


 胸の前で手を組んで、トクサツはとても嬉しそうに顔を綻ばせた。


「とっても……とぉっても、嬉しかったわ」

「母も喜んでいたよ。昔から娘とそういったコミュニケーションを望んでいたようだが、わたくし様はそういったタイプでも無かったからね。読み聞かせに論文を求めて泣かれた事もあったくらいだ」


 うん、とマッドが頷く。どうやらマッドは幼い頃からマッドだったらしい。


「沢山の夢を叶えてくれてありがとうと、そう伝えるようにこっそり言われたくらいには喜んでいた」

「そうだったの!? そんな、僕だって、夢をいっぱい叶えてもらったのに……」

「それならそう伝えれば母も喜ぶと思うよ。トクサツにも近況の手紙を書いて欲しいと言っていたから、そこにそう書けば良いんじゃないかな」

「そ、そうよね! お手紙があるんだものね!」


 指先をもじもじ動かして、トクサツは照れたようにはにかむ。


「……マッドのママはマッドのママだけど、ママにただ報告するだけじゃなくて、ママとお手紙のやり取りが出来るなんて……素敵」


 嬉しそうに微笑むトクサツに、ふむ、とマッドは首を傾げる。


「正直に言ってわたくし様は試作した薬の詳細、完成させた薬についての論文ならともかく、手紙という形での近況報告が苦手でね。トクサツにそれらを頼めると助かる。そういったものを送ると母と祖父が喜ぶんだ」

「い、良いの!?」

「わたくし様はそうしてくれた方がありがたいかな」

「嬉しい!」


 トクサツはマッドの首に飛びつくように抱き着き、マッドも慣れたようにそれを受け止めてトクサツの背中をポンポンと軽く叩く。

 その時、またもガラリと扉が開いた。


「おっ、声がすると思ったら皆もう集まってー……マンガ、何やってんのォ?」

「百合に感謝を捧げてる」

「いやそっちじゃなくて逆さ吊りの方ね?」

「……凄い絵面だ……」


 部室に入って来たライトとフリョウが引いていた。

 確かに冷静になると、逆さ吊りされているユニコーン頭が祈りを捧げているという奇祭か何かみたいな図になっている。マッドとトクサツが仲良くしているだけならともかく、マンガの存在が明らかに異様だった。前衛オブジェですら現状に比べればもう少し理解出来る形をしているレベル。


「と、とりあえずマンガ下ろして良い? 逆さのままとか体に悪いし」

「まあ、一定時間吊るせたから良しとするのだわ」

「ありがとうライト! ライトがフリョウに流されるままなシチュでやらかしたわたしを助けてくれるなんて!」

「んー、何か嫌な予感がするけどとりあえず下ろすねェ」


 ライトは苦笑しながら椅子に結んであった縄を解き、マンガが落ちないよう気を付けながらゆっくり下ろした。

 無事に上下が元に戻ったマンガは多少ずれていたユニコーン頭の位置を調節し、ふう、と息を吐く。


「いやあ、酷い目に遭っちゃった。ジンゾウ用にってオタク国でも資料用によく使われてるマイナー魔法大全とか買って来たのに、それを渡す間も無く吊るすんだもん」

「ご、ごめんね? でもヒメちゃんがアウト判定出したから、駄目な事を言ってるんだろうなーって」

「完全なる自業自得だったのだわ」


 成る程、とライトはマッドに脈拍やらを測られているマンガを見て頷いた。


「また色々本を描いた感じかなァ。オレは自分が本の内容になってるのって面白いし楽しいから嫌いじゃないけど、人によっては内容次第で好き嫌い別れるもんねェ」

「そうだライトに聞きたかったんだけど!」

「マンガ、今興奮で脈拍数に変化を出すのはやめてくれるかい? データが取り辛い」

「あ、ごめん」

「……よし、もういいよ」


 確認出来たらしくマッドはマンガの手首から手を離し、にっこりと笑う。


「データは取れたから脈拍を好きなようにしてくれたまえ」

「よっし! というわけで自由の身になったわたしからの質問なんだけど、ライトの家にフリョウがご挨拶に行っての色々は!? どんな感じに!?」

「滞りなく挨拶に成功した」

「親父はまァ、気に入るだろうなーって思ってたから想定内? あとは母さんと姉ちゃんが思った以上にフリョウと仲良くなって、オレの卒業後の就職先がほぼ確定になった感じィ」

「なったの!?」

「結婚に関しては流石にまだ保留だけどね」


 それは今決めちゃ駄目だと思うしさァ、とライトは笑って手をひらひらさせた。

 軽めの反応ながらもきちんと真面目に考える気はあるらしい辺り、流石はライト。ヒメはわりと即断即決なので、そうやってじっくり時間を掛けて考える、というのはそれだけで凄い事だと思う。


「てかさ、気になってたんだけどジンゾウ何か悩み事?」

「えっ!?」

「泣いた痕あるよ」


 自身の目元を指差してライトが言う。


「あと、雰囲気晴れやかだけどさっきからタイミング窺ってるっぽかったから。悩み自体は吹っ切れたけど、その事に関して何か話したい事があるとか、そういう感じ?」


 ライトの言葉に、ジンゾウはポカンと口を開けた。


「え、と、うん、その通り、だけど……ライトさん凄いね。そういう魔法を持ってるとかじゃなくてもわかるもの?」

「普通は持ってる魔法しか使えないもんだから、何でも自力で見極める力付けなきゃねー」


 あっはは、とライトは明るく笑う。


「それに患者さんって、中にはぜーんぜん症状話してくれない人とかも居るからさ。入院するくらい状態悪いのに、どれだけ頭痛起きてようが腹が捻じれる程痛かろうが笑顔で誤魔化す人も居る。声色も完璧に誤魔化すから、それ見抜けないと医者でもド叱る事になるくらい悪化しちゃうんだよねェ」


 だから見抜けるようになんないとヤバい、と言うライトにフリョウが頷く。医療関係者も大変らしい。


「で、ジンゾウは何を話したいの?」

「……その」

「うん」


 言い難そうなジンゾウに対し、ライトは笑顔で続きを待つ。

 会話の呼び水で話しやすく促すヒメと違い、相手のタイミングを待つというやり方だ。中々出来るものではないし、つい素早く話を纏めたがるヒメにはとても出来ない芸当で素直に感心してしまう。


「……い、色々、色々と説明しないといけないし、説明されても困るような事情だらけで、凄く困らせると思うんだけど」

「うん」

「……ライトさんにも、フリョウさんにも、マッドさんにも……出来たらテキトー先生やコワイ先生にも協力してもらって、何とかならないかなって思ってる事が……あって」

「テキトー先生に関してはよくわからないが、他人に影響を及ぼせるメンバーだね」


 マッドが顎に手を当てて言う。


「わたくし様以外のメンバーは魔法がそういった系統であり、わたくし様の魔法はそういったものではないが、わたくし様の作る薬はそういった系統だ。加えて、長期休暇前にジンゾウから頼まれたのは、生きていない要素が強いものを生きた状態にする薬」


 作れるか、という問いだったけどね。そう言ってマッドは肩をすくめた。


「前から思っていたんだけど、ジンゾウの体って時間が停止でもしてたりするのかな」

「っ!?」


 ぎょ、とジンゾウが目を丸くして驚く。


「な、んで」

「必要な情報として、それぞれの個人情報は確認済みだ。代謝量なんかも、こちらで勝手に把握して確保してある」


 そこに関しては謎でもない。マッドならやる。実際部室内の誰も、それに動揺はしなかった。


「そこで不思議に思ったのはジンゾウの入学初期の摂取カロリーと消費カロリーの差……他にも髪の毛や爪等、手入れをしている様子が無いのに、ミリ単位で差が見られない。こまめに切っていたとしても、数ミリから数センチ単位の誤差が生じるはずなのに、だ」


 ああ、成る程。

 ヒメは何だか納得した。確かに、ジンゾウはずっと同じ髪型だった。爪の長さも常に一定。身長も伸びた様子が無い。

 身長に関しては入学時点で既に伸び切っていたからという考えが漠然とあったが、よくよく思い返せば、五年前にジンゾウという存在が生まれた瞬間からこの体だったという。

 幼児だった頃も何もないジンゾウと考えれば、髪の毛や爪の増減も無いのは当然かもしれない。

 物を食べたり汗を掻いたり涙を流したりはするので、すっかり意識の外だった。


「……つまりジンゾウは、様々な魔法を一人で使える身でありながら、他人の魔法や薬に頼ってでも成し遂げたい何かがあるという事か。それも、己の肉体状態に関する何かで……」

「……うん」


 フリョウの言葉にジンゾウは俯き、指先を弄る。


「…………僕は、普通の人間になりたいんだ」


 普通で居られなかったジンゾウからすれば、普通というのは手が届かない星のように見えるのだろう。





「そういえばヒメ、泣いた痕がどうとかライトが言ってたけど、つまりわたしが来る前にヒメと二人きりの中でジンゾウが泣くなんていうイベントが……?」

「詳細を私から言うのは憚られるけれど、そこだけに関してを言うなら確かにあったのだわ」

「見逃した! 見る手段はあったのに!」

「他人に見せるような会話でも無いのだわ」

「他人に見せるような会話じゃないからこそ解像度が上がるしネタになるんだよ!」

「……その根性、クリエイターとしては間違いないと思うけれど、人間関係的には普通にアウトだと思うわよ?」

「正論やめて」

「まあ、私達は慣れているから今更気にもしないのだわ」

「ヒメ……!」

「でもそれはそれとして、人権的な問題から苦情を入れたりは当然します」

「あ、はい」



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