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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
タカラザカにて
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手合わせ



 ハァ、とため息を吐いてオウが言う。


「俺が知ってるのは以上なんだからとっとと部屋帰れ。もしくは基礎体力もうちょい上げてこい」

「あら、お母様の大好物をご馳走はしてくれないの?」


 ヒメがにっこりと笑みを浮かべれば、オウは渋い顔をしたまま立ち上がり、ヒメ用の小さな椀にシチューを入れて戻って来た。


「お前、足腰悪くしてるジジイ相手に頼むとは性格悪いな」

「確かに動きは足腰が悪い人だけれど、正直言ってお父様の戦い方を見るに、足腰が弱いとは思えないのだわ」

「死ぬような怪我したのは若い時の現役時代だから、この足とも付き合いが長い。そう見せかけてるだけだ。年には勝てなくて、最近じゃ杖無しで歩き回るのもキツイしよ」


 おら食え、とオウは無造作に、しかし零れないようにお椀をヒメの前へと置いた。きちんとスプーンも添えてくれている辺り優しいが、本人に指摘すると拗ねるので言わないでおく。


「ありがとう、お父様」

「おう」


 久しぶりに食べるオウ手作りのシチューには相変わらずウサギの肉がたっぷりと入っていて、体の無駄な力がホッと抜けるくらい美味しかった。





 食べ終えてのティータイム。デザートタイムとでも言うべきか。

 先程の遺品入れとはまた違う缶に入っていたお茶菓子を摘まみながら、ヒメはオウが淹れてくれた紅茶を飲んだ。美味しい。オウは自分で淹れたコーヒーを飲んでいる。

 ヒメが紅茶を頼んだわけでもないのに、自分がコーヒーを飲むなら二度手間だろうに無言で食後の紅茶を用意してくれる辺りがオウらしい。だから妻子に微笑ましい目で見られるのだが、その自覚が無いのだろう。


「……遺品、持ってくか?」

「いいえ。それはお父様が託されたのでしょう」


 幸い、ヒメの魔法なら見た物を再現する事が出来る。原寸そのまま、ジンゾウに見せてあげる事が出来るだろう。それこそ、定期入れの中の写真だって。


「託されたなら、それそのものはお父様が持つべきなのだわ」

「別に俺が託されたわけじゃねえ」


 ズズ、とコーヒーを飲みながらオウは眉間に皺を寄せて顔を顰める。


「早い段階で着替えがどうだのって理由から、そういった所持品を没収されてやがった」

「お父様が追放された時、それを持ち出したという事?」

「んなわけねえだろ。持ってって何になるんだそんなもん。そん時ゃまだあのガキだって生きてた」


 自分で言っておいて、オウは数秒無言になって動きを止めた。

 何気ない一言として出たからこそ、甚蔵が生きていた当時等を思い出して地味にダメージを受けたのだろう。


「……あのガキが死んだ後、コウガノ達が要らねえ気を回して持ってきたんだよ。異世界を思い出すような物があると言う事を聞かせにくいって理由で処分される事になったから、ってな」

「成る程」


 処分するという名目で持ち出し、オウのところへ運び込んだらしい。


「その後、こういった遺品に残った分から魂を呼び起こしたり出来る魔法持ちも呼んだようで、処分しなければ良かったとキンキ王は随分機嫌が悪かったそうだがな。愉快なもんだ」


 くく、とオウは笑う。

 恐らくそれは肉体こそある程度出来上がったものの、精神が無い空っぽ状態だった頃の話だろう。関連する何かがあれば、強い思い入れのある何かがあれば、ミサ・セイジャクのように呼び戻せるかもしれなかった。

 でも、異世界恋しさから反抗される可能性を考えて処分してしまった。

 実際は処分されずに残っているわけだが、それを知らないキンキ王はさぞ歯噛みしただろう。成る程、これは確かに愉快な気持ちだった。


「だから俺に必要なもんってわけじゃねえ。俺が持ってるのも、ここならキンキ王の手が届かねえってだけの話だ。持って行きたきゃ」

「いいえ」


 ヒメはクッキーを齧りながらそう言った。


「きちんと手入れして大事にしているお父様の手にある方が、よっぽど供養になるのだわ。きっとね」

「…………嫌な言い方しやがる……」


 お前俺がそういう言い方されんの嫌なの知ってるだろ、とオウがぼやいた。

 嫌ならそういう行動をしなければ良いのに、ついついやってしまうから言われるのだ。虫食い一つ無いまま数十年保管してる方が悪い。いや、良い、と言うべきか。


「それにしても今回、思ったよりも抵抗なくあっさりと教えてくれるだなんて。珍しい」

「……お前、実の父親を結構マジな脅し方した自覚はあるか?」

「あんなのただのジャブなのだわ。この山ごと燃やす想定もありました」

「ふざけんな。森が復活するまで何十年掛かると思ってやがる小娘」


 そこで森の心配をする辺りが、と思うがヒメは言わないでおいた。単純に山火事程度で仕留められたりはしない、という自信があっての事だろう。実際、ヒメもその程度でオウにダメージを与えられるとは思っていない。


「最終手段としては、マッドから貰っておいたこの自白剤の出番でした。薬に耐性がある戦士であろうと、本人が自覚していない深層心理までゲロッと話す特別製」

「没収」

「あっ」


 ヒメにも知覚出来ない速度で手の中の瓶を没収された。


「お前、父親相手に何を盛る気だったって? 明らかに人体を害する以外のなにものでもねえ毒じゃねえかこんなもん」

「大丈夫よ。効果が強いから副作用が強い、なんて一般論はマッドの薬に通用しないのだわ」

「非人道的だっつー話をしてんだ馬鹿野郎!」

「出番は無かったのだから文句を言われる理由はありません!」

「使おうとして懐に隠し持ってたってのが有罪だテメェ! ただ所持してるだけならともかく、最悪の場合刺すって前提で懐に剥き身の包丁持ってる奴が無罪になるわけねーだろが!」


 叫びながら、お互いじりじりした動きでゆっくりと椅子を下げていつでも立ち上がれる体勢に入った。よくある事だ。ヒメがオウの動きを止めるか、オウがヒメに一撃入れるか。ただそれだけ。

 主張を通したいなら勝ってみせろ。そんな戦闘中心の暗黙ルールを実行する為、二人はいつでも動けるよう立ち上がりながら体勢を低くして、


「ヒメ様居たーーーーーーーーっ!」


 扉を壊す勢いで飛び込んで来た指南役の大声に、突然の大声に耐性を付け済みの二人はビクリと身を跳ねる事すらしなかったが、ああこれは続けられないなと察して構えを解いた。





「シ・ナン、私に何か?」


 どうやら探していたらしい指南役のシ・ナンに問えば、


「はい!」


 シ・ナンはにっこにこの笑顔で元気よくそう頷いた。


「オウ様にヒメ様の足止めの為、全力でしごいてやってくれと言われました! なので! ヒメ様を探し回ってお城を三周したところです!」

「お父様?」

「あー、まあ、うん、そんな事もあったかもしれねえな」


 ヒメがオウへ視線を向ければ、オウはすっとぼけてそっぽを向く。どうやらしっかりちゃっかり布石を打ってあったらしい。

 幸いにも彼女に出会わず直行でオウのところへ辿りついたが、成る程、上手く行っていれば彼女による足止めがあったというわけか。それでオウのところへ辿り着いて以降は意外に話が早かった、と。

 じとーっとした目でオウを見るも、オウは知らねえなあという顔でそっぽを向き続けている。流石生涯現役、往生際があまりにも悪い。


「そういうわけですので、手合わせをしましょうヒメ様! 現状、この時期しかヒメ様と手合わせ出来ませんからね! 去年は驚く程の成長を遂げて、尋常じゃない程の手数を身につけていたヒメ様が今年はどれ程まで成長したのか……ん~~~~~~! 想像するだけでわくわくしちゃう! さあ! さあさあさあ!」

「ちょっと、落ち着いて欲しいのだわシ・ナン」

「落ち着けませんよお! ヒメ様の動きに対応したつもりでもあっという間に、その場で上回るんですよ!? もう私ウッキウキしちゃって! だって入学前は一日、長くて三日掛けて対応してたじゃないですか! それを即日、即座に!」


 休日の度にジンゾウと手合わせしている成果と言えよう。

 そういう風に作られた結果だとサト夫婦との会話で知ったが、ジンゾウはあっという間に動きを理解して応用するし対応する。それにこちらも負けじと食い付き、ぶつかるように自身の動きを磨き上げて研鑽していった結果だ。

 確かに、入学前を思えばかなりの上達だと言えるかもしれない。

 最近ではその程度、あまりにも当然だったのですっかり意識の外になっていた。


「ヒメ様と手合わせするだけでどこまでも成長していくあの感覚、脳がバチバチするようなあの感覚……」


 わりと戦闘狂っ気があるシ・ナンは嬉しそうにうへへと涎を垂らしてにやけながらそう語る。


「しかも日が暮れるまで全力でヒメ様と手合わせして良いとオウ様から許可も出てるんですよ!?」

「お父様?」

「あー、と、そういや俺は用事があったような気がしてきたな」


 成る程、不利を悟って逃げる気らしい。逃がさん。


「シ・ナン。今日はお父様に全力で手合わせしてもらうのだわ。シ・ナンも一緒にお父様と手合わせしましょう?」

「は!? おい、」

「良いんですかあ!?」


 目をキラッキラにさせたシ・ナンの好反応に、ぐ、とオウは待ったと言おうとした手を躊躇うように彷徨わせた。


「ジョテイ様をあそこまで育て上げた実績のあるオウ様……そして指導される事はあっても、稀に相手をする事があっても、本気の手合わせは滅多にしてくれないオウ様と!? 全力で!?」

「ええ、全力で。私とシ・ナン対お父様で」

「おい待てヒメ。八十目前のジジイに何て無茶を言いやがる。最近流石に全力で戦うのキツイんだぞ」


 八十目前でようやく()()と言える辺り、言っている程の衰えが発生しているわけではあるまい。


「面白そうな話をしているではないか」

「ゲェッ」


 庭小屋の扉にもたれかかって微笑んでいるのは、ジョテイだった。その姿にオウは思わずといった様子で顔を顰める。


「ふふ、酷いなオウ。妻の顔を見て悲鳴を上げるとは」

「……だったらお前、思ってる事言ってみろよ」

「二対一、楽しく見守らせてもらおう」

「あ?」


 きょとんと目を丸くしたオウは、ほ、と胸を撫で下ろした。


「何だ、そんな事か。お前も丸くなったな。お前の事だから三体一とでも言うんじゃねえかと」

「まさか。それでは貴方の負担が大きくなってしまいますからね」


 微笑み、ジョテイは言う。


「二対一が終わった後の時間をいただきます」

「待て。詳細を語れ。ただ一緒の時間を過ごすだけか、夜を共に過ごすのか、それとも追加で戦うのかによって二対一の時に使う体力の配分が決まる」


 オウは冷や汗を垂らしながら手を垂直に立ててそう問うた。

 ちゃっかり二対一の時の体力配分と言っている辺り、場合によっては余力を残した上でヒメとシ・ナンを倒す気らしい。やはり全然衰えていないだろうこの人。


「わたくしはどれでも構わんぞ。オウが望む選択肢を選んでくだされば良い。追加の戦闘でも、夜でも、ただ一緒に居るだけの時間でも」

「…………へえ」


 にこやかなジョテイの言葉。だが何故かその言葉に何かを煽られたらしいオウは、先程までの腰が引けた様子から一転、獰猛な獣のように目をぎらつかせて口角をにやりと吊り上げた。


「良いだろう。テメェが鈍ってないか見てやる」


 オウは笑う。


「二対一を終えた後の、八十目前のジジイ相手に無様晒すなんてみっともねえ真似はしてくれるなよ。愛情込めて、血反吐を吐かせて育てて実らせた弟子が、そんなもんに負けちまう程鈍ってた日にゃあ、悲しくって泣いちまう」

「本当に、貴方は素直じゃありませんね」


 そんなオウを見て、ジョテイは愛おしそうに目を細め、こちらもまた笑った。


「圧勝出来るかはさておき、不甲斐ない弟子と言われない程度の動きは見せましょう」


 ジョテイは右手を胸に添え、左手でスカートの裾を持ち軽いカーテシーをして見せる。


「これが俺の最高傑作だと、そう貴方に誇ってもらえるわたくしを、その目にしかと焼き付けろ」

「ハ、俺好みに育ちやがった」


 ギラギラ光るジョテイの青い目を正面から受け、オウもまたギラついた目でそう返す。

 お互いに喉元を食らい合おうとする獣のような気配を纏いながらの掛け合いは今にも殺し合いを始めそうで、これが中々のいちゃつきなのだから不思議なものだ。

 まあともあれ、全力で叩き潰しに来るだろう父と手合わせが出来るようなので良し、とヒメは自分を納得させた。





 オウは若者が成長していくのが好き。

 だから面倒見が良いし、アドバイスもするし、憎まれ役も買って出る。成長する前に死んでしまった甚蔵を惜しんだりもする。きっちり成長して咲き誇ったジョテイに心奪われるのもさもありなん。

 強く育ってくれると嬉しい、というのがある。

 戦闘狂と言うよりは、相手の強さを感じるのが好き。相手の強さの現在における限界点を知る為には、それを引き出せる程強い必要があるので、気付けば自然と強くなった。

 ジョテイとの会話で煽られた理由は、お前が本当に衰えたと言うのなら逃げ道を用意してやろう+二対一との戦闘というハンデがある上でどこまでの動きを見せる事が出来るのやら、という意味が込められていたから。デカい口が叩けるようになったようで師匠として感無量。それはそれとして、デカい口叩けるだけの実力を鈍らせてねえだろうな、というアレ。

 結局のところ、素直じゃなくて面倒臭い天邪鬼、が結論となる。



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