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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
異世界人とジンゾウ
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甘く見るな



 コウガノが語り終えた。ジンゾウの生まれに関する何もかもを。

 ヒメの意見としては、成る程、というのが第一印象。

 通りで最初はフレンドリーでありながらコミュニケーションに難があり、どこかおかしな言い回しも幾つか見られたわけだ。

 マッドが言っていた幼児化や大人化といった肉体年齢を変化させる薬に対する、今の僕しかない、という発言もそういう事だろう。

 ジンゾウに幼少期と言えるものはなく、その記憶は、意識は、五年前に発生した。

 コウガノが語った年代から判断するに、ヒメが十二の時にジンゾウは今の体のままこの世に生まれた。


「……ジンゾウが組手の際、相手の動きをすぐに、それも反射的に理解して対応、トレースして自分の動きにしてしまうのは」

「そう作られたからに御座る」

「一年時、汗が出る事も無かったのは」

「そう作られたからに御座る」

「疲労や痛みといったダメージを得ていないように見えたのは」

「そう作られたからに御座る」

「ジンゾウの身長体重、どころか食事に偏りがあっても栄養状態に一切問題が出ないのは」

「そう作られたからに御座る」


 そう、そうか、そういう事か。

 人間業じゃないとは思っていた。人間離れしているとは確信していた。

 作られたとかそのままだとか、そういったワードもそういう事か。


「生き物として活動出来ているかのメンテナンスがされるのも」

「そう作られているからに御座る」

「無茶をしているから寿命が危ういかもしれないというのも」

「そう作られているからに御座る」


 ヒメが知る前世、つまり異世界において、人造的に作られた人間はホムンクルスが代表例。だがそれらは寿命が短いとも言われていた。

 ゼロから作ったわけでなくとも、千々に千切れた肉片を繋ぎ、加えてその他の材料を混ぜ合わせて別物に作り上げた肉体となれば、そういったデメリットが発生していないとも限らないが故のメンテナンスだったわけだ。

 今までにちらほらと見えていた断片が形を作り、コウガノの話に納得を生む。

 作成のコンセプトからすれば寿命すらもかなり長く設定されている可能性が高いが、それを判別する方法が難しい以上、寿命が短い可能性もあり得なくはない。それらを判断する為にもメンテナンスが必須と、そういう事だろう。


「もっとも、そう作られたからと言って、仮にも生き物になった以上、不変のままというわけにもいかぬで御座る。子供が他人から影響を受けて自我を育てていくように、ジンゾウ様もまたこの学園で影響を受け、汗を掻くようになったり空腹を覚えたりといった生物的特徴が」

「ねえ」


 問いかけたのは、ジンゾウだった。

 その顔に笑みは無い。その顔に怒りも無い。その顔に悲しみすら無い。

 ただ椅子に腰かけたまま、冷たく、感情が読めない顔で静かにコウガノを見据えている。


「何でそんな話をしたの?」

「今この環境ならワルノ王国から逃げ出す事も、」

「僕の話じゃなくて、コウガノさんの罪の話だったよね」


 ジンゾウは真顔のまま、首を傾げる。


「違った?」


 その目は暗い。


「僕を助ける名目で話をしたの? 違うよね。学園の生徒として暮らしているこの環境なら僕がワルノ王国から逃げ切れるかもしれないから、出生を話し、その危険性を伝え、逃げようという気持ちを強くさせようとした? 違うじゃないか」


 ぐ、といつもの明るさを失った暗い瞳が、コウガノを睨みつける。


「お前が僕を生み出さなければ良かっただけの話だろう」


 その声は、低い。


「僕が生まれたせいでどうなった? 僕を作り出す為にと、復活する為にと集められた人々は口封じの為に捕らえられ、僕が生まれたと同時! その魔法を確保しておく必要性が無いからと言って! 彼らは皆、処刑された!」


 椅子を蹴り飛ばすような、珍しい程の乱雑な動きでジンゾウが立ち上がる。


「……コワイ先生の婚約者が殺されたのは、僕のせいだった……!」


 その顔には苦渋の皺が刻まれ、歯を食い縛っていた。


「僕が異世界人で出来ているなら、結局やっぱり僕は異世界人なんじゃないか。それが違っていれば救いもあったのに、その救いも潰されて。それで僕の為? よく言えるね」


 ジンゾウの拳が、ゴムを擦れ合わせた音かと思う程に強く握り込まれる。


「僕の()である異世界人が全力をもってその体が悪用されないよう魔法を施したのに、魂は逃げおおせたのに、その肉体を利用した悪行に力を貸したのは事実じゃないか。死ぬ以外に逃げ道が無かった異世界人の覚悟を侮辱した。僕を生み出せてしまった時点で、お前はただの共犯者だ!」


 本気で怒るという行為自体に慣れていないのだろう。ジンゾウの声は低く、恐ろしく、そしてどこか不安定に震えていた。


「……多角的に視るっていう助言はありがたかったよ、イガノさん。お陰で言葉自体は真実であっても、僕に対する申し訳なさや善意で話したのではなく、そういった行いをしてしまったという懺悔をして自分が重荷を下ろしたいだけだというのがよく()えた」


 そう、


「あわよくば致命的なまでの失敗をして二度とこの体が使い物にならないようにして、王様に一泡吹かせるつもりだった事もね。お互い不本意でこうなってるなんて、笑い話にも出来ないな」

「おや。お前が意外と自分本位というのがバレたようじゃぞコウガノ」

「言うなイガノ。……今更ながら、拙者が自覚していたよりも軽薄であったと理解してしまって落ち込んでるので御座る。当時も今も、拙者は……」


 ずんと暗い雰囲気で肩を落としているコウガノを見て、イガノはからころと笑った。


「ほほほ、某もおぬしも、そういう風に育てられておるのじゃから仕方あるまい。お国でもそう育てられ、ワルノ王国など皆がそうであった。他人を慮るといった常識よりも、他人の善意を利用して情報を得て懐に入り込む事をこそ教えられる身じゃ。寧ろ誇れ」

「……真摯に謝罪すべき場で絶対にあってはならぬ事をした相手に告げる言葉ではないで御座ろう、それ……」

「某の問題では無いからのう」


 その会話に、ジンゾウは顔を顰める。

 不快や嫌悪といった顰め方ではなく、彼らにも彼らの人生がある上でそういった態度を取った事を知り、一概に拒絶するのは申し訳なかっただろうかと逡巡している顔だった。

 作り物にしては随分と他人を慮る癖があるようだけど、ジンゾウにその自覚はあるのかしら。


「……ここまでは、まあ、いいよ。何も良くないし、失われた命の価値も数も大きい。許せないけど、僕が言える立場にはないから」


 でも、とジンゾウは言う。


「でも、ヒメちゃんを巻き込んだ事だけは許さない!」


 予想外のタイミングで自分の名前が出され、ヒメはちょっとビックリした。


「ヒメちゃんに離席を促すタイミングはあったはずだ。僕に知らせる必要はあったかもしれないけど、ヒメちゃんにまで伝える必要は無かった。こんな、こんな内容を、ヒメちゃんが居る場で……僕の事情を、ヒメちゃんにまで押し付けた!」

「……ジンゾウ」

「こんなの、知るだけで危険な事だ」

「ジンゾウ」

「ヒメちゃんを、危険な事に巻き込むなんて」


 どうやらヒートアップしているらしい。声を掛けても無反応なジンゾウに、ヒメはため息を一つ。

 そして深く息を吸って、


「 ジンゾウ 」


 低い声で名を呼べば、ビクリと反射的に身を跳ねさせてジンゾウが止まった。


「座れ」


 ヒメは細く小さい指で椅子を指差す。


「で、でもヒメちゃん、これじゃヒメちゃんが」

「二度は言わんぞ」

「…………」


 ジンゾウはまだ何かを言いたそうではあったが、倒れた椅子を元の位置に戻し、大人しく座り直した。


「さて、ジンゾウ。私が巻き込まれたという件だけれど、そんなのは貴方に庇われるまでもないのだわ。離席するタイミングは幾らでもあった」


 そう、


「それは私にも言えること」


 ヒメは立ち上がり、ジンゾウの前に立つ。目線の高さは大して違わない。

 それはそれでちょっとイラっとしたが、ヒメはジンゾウの青い、そして不安定に揺れている目を真っ直ぐ見据えた。


「私は離席せずに話を聞いた。これは聞くべきではないと悟っても、離席より聞く事を選んだ。それを選んだのは私。私自身が選んだ事。私の決めた決定に口出しされるいわれは無いのだわ」

「で、でも」

「私の決定に貴様がケチをつけるなと言っている。耳があるなら私の言葉をきちんと聞け。口を失いたくないならな」


 耳を指で強く摘まみ、軽く引っ張る。

 ヒメの言葉にジンゾウは黙って聞かなきゃ口潰すぞという意図を察したのか、慌てて口を噤んだ。


「お前に庇われる私ではない。甘く見るなよジンゾウ」


 ジンゾウの膝に乗り上げて顔を近づけ、睫毛が触れるような距離でジンゾウの目を睨みつける。


「貴様の重たい出生程度、背負ったところで私の人生においてはハンデにすらならん。自分のせいで私を危険に晒すだなどと、思い上がるな」


 重たい出生ではある。だからどうした。

 その情報を知ったからと狙われるならそれも良し。真正面から叩き潰すのみだ。仮に誰かが人質に取られたとしても、そんな事も想定せず訓練していると思われる方が業腹である。

 ヒメの父は、あの男だ。

 ワルノ王国がどういった手段で来るにしろ、来ないにしろ、手口を知らないわけではないオウ直々に様々なパターンでの対処法を叩き込まれている。

 その程度で大人しく頭を垂れて囚われの身になると思われているなら、そちらの方が腹立たしい。


「それとも。ジンゾウ、お前は私の逆鱗に触れるのが趣味なのか?」

「そんなわけない! 僕は、僕はただ、ヒメちゃんを守りたくて、」

「守りたいなら貴様は私の背を守れ」


 ジンゾウの目が、見開かれた。


「前に立とうとするな邪魔臭い。私は目の前の敵を倒すくらいの事は出来る。本当に守る気があるのなら、私が背中を気にせず目の前に集中出来るだけの動きをしてみせろ」


 その言葉にジンゾウは目を伏せ、噛み締めるように口の端を結んで唇を何とも言えない様子で動かす。


「……ヒメちゃんって、本当、素敵な人だね」

「当然なのだわ。寧ろ今更理解したの?」

「まさか。ずっとそう思ってるよ。出会った日から、ヒメちゃんが素敵じゃない瞬間なんて無かった」


 そう言って微笑むジンゾウの顔に、険は無い。


「……守る必要なんて無いって、邪魔って言われると思ってた」

「常に私を上回る相手を邪魔扱いなんてしないのだわ」


 これがただ互角というだけなら邪魔になる。けれど、ジンゾウはヒメを上回り、ジンゾウを上回ったヒメを見ればまた上回る。

 逆に言えば、ヒメの弱点を完璧にカバーする事が出来る人材でもあるという事だ。


「あくまで現状の話ですが、貴方以上に私の背を守れる人間は居ません。胸を張れ」

「……うん!」


 瞳に光を取り戻し、ジンゾウは笑みを浮かべて頷いた。

 自信に満ちた、揺らぎの無い青い目だ。夏空のようであり、海の中のようでもあるその目は悪くない。そういった安定感がある間は、好ましい、とさえ言えるものだ。


「あと、コウガノに対して怒るのは止めません。それは正当な怒りなのだわ」

「ヒメ様!? ちょ、ここは止める流れでは御座らんか!?」

「コウガノの責任である事は確かでしょう」


 ヒメはジンゾウの膝から下り、コウガノを見る。


「私という第三者が居るという事で、他人の視線を気にしてその場では許すしかなくなる、という状況を意図せずとも無意識的に作り上げている。否定出来る?」

「ぐっ……! そ、そういうのを利用して状況を都合の良い方に調節するのが癖づいている以上、否定出来んで御座る……!」

「そういう搦め手を無意識で使う程じゃというのに、本人は至って愚直に真面目に真っ直ぐなのがおぬしの可哀想なところよなあ」


 他人事のように言われたコウガノはイガノを睨みつけたが、睨まれた方であるイガノはただ愉快そうにコロコロ笑うばかりだった。

 本当、悪い人達では無いが灰汁が強い。





Q 何で今までジンゾウ、またコウガノやイガノはワルノ王国から逃げなかったの?

A お互いが枷になってたからです。色々と。



 ・キンキ王は攻略の魔法があり、こういった事が起こるぞっていうのとその状況をどうやって乗り越えるかの方法がわかる。


 ・コウガノやイガノは地元の仲間と離れ離れにされており、連絡も取れないようされている為、もし逃げようものなら地元仲間の誰かが被害に遭う危険性があった。


 ・我が子も当然人質にされるとわかっていたからこそ、サト夫婦は我が子達をあらかじめ逃がしておいた。


 ・現在地元仲間の年寄り達は死に、地元の教えも知らないような世代ばかりになっているのでもう見捨てても良い段階。


 ・しかし見捨てるには、と思うような地元仲間ではない善人が城内に複数居る。


 ・加えてジンゾウが生まれた為、キンキ王の命令一つでジンゾウが居場所を特定、連れ戻しをする危険性があった。


 ・実際、ジンゾウは命じられればやった。


 ・何なら既に何度もスパイを見破り、その報告をしてしまっている。


 ・ジンゾウはジンゾウで人質を取られている為、どうにもならない。


 ・魔法の力があれば人質を安全に確保した上で逃亡も可能だが、それをやれば無関係の人間をお前のせいだと言って一日に一人処刑する、と言われている。


 ・キンキ王は本当にやる。


 ・ジンゾウがキンキ王を殺してしまえばそんな事にはならないが、ジンゾウにはそんな事出来ない(常識や人間性がある者としてやってはいけない)という思いがある。


 ・結果ジンゾウはキンキ王に従うしかなく、ジンゾウが居る限りコウガノ達は派手に動く事が出来ない状態に。


 ・更にジンゾウは城内に居る時、幽閉されているも同然な状況。


 ・キンキ王に呼び出されていない時は幽閉状態で待機させられており、接触出来るのは世話係のジュンだけ。


 ・そのジュンもジンゾウへの人質として基本的には幽閉状態にある為、コウガノ達は気軽に接触する事が出来ない。



 その結果が現状です。



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