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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
異世界人とジンゾウ
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復活せし人造



 コウガノの居たのは、小さな集落。

 主君が居た。仲間が居た。主君に対し真摯に仕え、戦闘面でも日常面でもお支えするのが仕事だった。

 だが、それは終わった。


「これより君たちには、儂に従ってもらおう。よろしくね」


 にこやかな笑み。だというのにその男は、キンキ・フッカツの顔は、酷い悪意に満ち溢れているようにしか思えなかった。

 主君を殺されたコウガノ達に、拒否権は無かった。





 コウガノ達と敵対していたと言える、イガノの所属していた集落も潰された。

 代々主君に仕えるコウガノ達と違い、あくまで傭兵に徹しているのがイガノ達。それもあって相当に抵抗するも敵わず、相当な壊滅状態に陥っていた。

 だが、それはコウガノ達も同じ事。

 それぞれバラバラにされた。ワルノ王国に強制所属させられた。若い世代はワルノ王国流の教育を施され、コウガノの地元で伝え紡がれていた様々な価値観、技術は終わりが目に見えていた。

 五十年もすれば自分達は、ワルノ王国によって完全に掌握され、吸収され、何もかもが終わるだろう。


「取り引きをしよう」


 そう絶望するコウガノに声を掛けて来たのは、イガノだった。

 元は敵対していた相手に何の取り引きかと問えば、イガノは言った。


「貴様の子種を某に寄越せ」

「……は?」

「某の故郷は滅んだ。故郷の戦闘方法も、道具の作り方も、技術も、何もかもが既に朽ち果て欠けている。元より口伝が多かった故に、年寄りが死んだ今、某くらいしか語り継げる者も居ない」


 貴様にもわかるじゃろう、とイガノは言う。


「継がれてきたものを、次代に継ぐ。その大事さ、わからぬとは言うまいな」

「……だが、何故拙者にその話を持ち掛けた」

「故郷だけで見れば貴様は敵じゃが、しかし対立し続けるだけの優れた相手というのもまた事実。そんな相手との子であれば、さぞ優れた子が産まれるじゃろう。某と貴様、二つの故郷の技術を兼ね備えた子がな」


 言いたい事は、わかる。

 どちらの故郷も滅んだ以上、自分達で次代へ繋げなければならない。自分達が知っている全てを繋げなければ。

 例えお互いの文化を混ぜる事になろうと、無理矢理完全な状態でお互いを残すのではなく、お互いを混ぜる事で一つの次代を作り後世に残そうというのも、わかる。

 無理に残そうとしても潰されるからだ。

 同じ故郷の相手とは顔を合わせる機会すら無いよう調整されている。だから純粋な後継者を作る事は叶わない。

 だが、同じ故郷の相手でないなら。

 そして、ワルノ王国の手の者でないのなら。


「某同様、貴様にはもう後が無い。一つのイカダを共有するか、お互い溺れて死に絶えるか。二つに一つじゃ。この問題、解けぬ貴様ではあるまい、コウガノ」

「……そうで御座るな、イガノ」


 自分達の全てを継承させる為、滅びを二度と起こさない為。

 優れた子孫を残してお互いの何もかもを継承させる。

 いつかそれぞれを継ぐ子になり、二つの故郷を再興してくれるかもしれない。その為にも語り継ごう。全てを紡ごう。

 そうして利害の一致により、コウガノはイガノと結婚し、十人の子供をこさえた。





 オウは、とっくに追放されていた。

 短い付き合いだが良い人間だった。まだ年若かったコウガノにもイガノにも、憎まれ口こそ酷いがとても面倒見よく様々な事を教えてくれた。

 そんなオウと連絡を取り合い、時折ワルノ王国を脱出しようとする人間に協力して逃がしてやりながらの日々。

 タカラザカの女帝がオウに懸想しているようなので、その恋の成就の邪魔になるような他者の排除をすると約束し、タカラザカで子供の保護をしてもらった。

 あくまで取り引きであり、タカラザカは上司では無い。そう誤魔化し、内心を見抜くような魔法持ちにも気取られぬよう、子供達の無事を確保した。

 オウが帝王になってからは、よりスムーズに保護を頼めるようになった。


「君たちって確か、あの男と面識あったよね? 情報よろしく」


 キンキ王にそう命じられたのも、都合が良かった。

 役割としてはタカラザカの情報収集。可能なら帝王であるオウに、かつてワルノ王国が自国の邪魔になるからという理由で追放したオウに取り入り、深いところの情報を得ろという命令だった。


「という事に御座る」

「また馬鹿正直に全部吐きやがってテメェ……」

「良い大義名分が出来たので、その報告に参っただけですよ」


 オウには早々に全部話した。

 ワルノ王国に公開して良い情報、世間には知られているがワルノ王国には公開しない方が良い情報等、色々と調節した上でキンキ王に報告した。

 タカラザカは中々入り込むのも難しい為、重宝された。諜報部隊の中でもそれなりの地位に固定された。





 だが、ああ、知っていたのに。

 知っていたはずなのに。

 自分達の専門外だからと、情報を探るのとは別の話だからと、見ない振りをしていたはずのそれは、生きていた。

 放っておけばどうにもならずに終わるだろうと思っていたその企みは、キンキ王の目論見は、長い年月を経て形を作り上げていた。

 非道な、非合法な、おぞましい禁忌。

 コウガノ達が目を逸らしていた四十年もの間、キンキ王は諦めていなかったのだ。





 今から四十五年前。オウは追放された。

 何故追放されたのか。

 現役騎士では無くなったが、指導に回っていた。優れていた。慕われていた。だがその人間性故に、キンキ王から邪魔者扱いされて追放された。

 オウは、キンキ王に反発したのだ。

 何に対し反発したのかと言えば、ただ一つ。


「幾ら異世界人とはいえ、ガキ相手にやる事かこれが!?」


 そう、異世界人。

 キンキ王は異世界人を閉じ込めていた。

 他国の領地に現れた異世界人を、キンキ王はまるであらかじめ知っていたかのように確保し、そのまま自国へと連れ帰った。

 若くして王となったキンキ王の魔法なら、それが出来た。

 全ての問題、現状を打破する事が出来る方法を見抜ける、攻略という魔法によって。

 勿論どう足掻いても回避不可能ならばどうにもならないようだが、キンキ王は異世界人を手に入れる攻略法を視てしまった。そして実行し、異世界人を手に入れた。

 まだ十三歳だという、幼さの残る少年を手に入れ、その能力を自分(キンキ王)の為だけに使うようにと閉じ込めた。

 言う事を聞けと少年を脅すキンキ王にオウは真っ向から反抗し、そんなオウが邪魔になると判断したキンキ王は、素早くオウを国外追放という形で追い払った。





 そして四年後、十七になった異世界人は、自殺した。





 オウがジョテイを拾ったのは、その事を教えて間もなくだった。

 あの異世界人を救ってやれず、結局は見捨てる形になってしまったオウを思えば、彼女の存在はさぞ救いになった事だろう。

 さておき、異世界人は自殺した。

 となれば話はここでお仕舞い。

 キンキ王は失敗した事を後悔して、物語はお仕舞いとなる。

 はずだった。


「こんなぐちゃぐちゃになられちゃねえ」


 キンキ王がそう言う程の惨状。

 万が一でも復活させられないよう、使える限りの魔法を使ったのだろう。異世界人は跡形もなく肉片になっていた。

 死体を直せる魔法持ちが集められた。魔法の効果が及ばないよう細工されていた。

 魔法を打ち消せる魔法持ちが集められた。その時点で既に肉は腐り果て、それなりの時間も経過していた。

 肉の鮮度を戻せる魔法持ちが集められた。肉は鮮度を取り戻した。

 改めて死体を直せる魔法持ちの出番が来た。肉体だけは、元通りになった。


「折角だし、もっと使い勝手が良いようにしちゃおっか」


 キンキ王はそう言った。笑いながら言った。

 人の命も肉体も何とも思っていないような気軽さで言った。


「やっちゃお」


 人体を改造出来る魔法持ちが集められた。生きていない体を改造出来るのは一部だけだった。

 死体はキンキ王に都合の良いよう改造された。

 見栄えする体に。素手でも戦える体に。素早い反応が出来る体に。食わずとも飢えぬ体に。知能指数が高い体に。常に相手を上回れる体に。劣化せぬ体に。

 そうして体を弄り倒して、理想の体を作り上げた。


「そろそろ目覚めてもらっちゃう?」


 蘇生の魔法持ちが集められた。異世界人の魂は戻らなかった。

 治療の魔法持ちが集められた。異世界人の意識は戻らなかった。

 肉体改造の魔法持ちが集められた。異世界人の心臓は動かなかった。


「手加減してるとかでも無く、マジで駄目って感じだねえ。困っちゃった。魂だけ異世界に還っちゃったとか? やだなあ」


 キンキ王は笑う。


「まあ、前の時って全然言う事聞いてくれなかったし、折角与えた体でワガママ言われても困っちゃうもんね。()()()()に戻すより、()()()()()()()()()()()()()


 そうして命じられたのが、コウガノだった。


「確か精神操作出来たよね? やって」


 コウガノの魔法は、表向きは精神回復魔法。実際は、精神操作魔法。

 変質させたり、分離させたり、一つにしたり、認識をおかしくしたりと色々出来る。


「了解に御座る」


 コウガノは、内心怯えているのを悟られぬようそう答えた。

 異世界人が死んでから、ここに至るまで、三十六年が経過していた。

 三十六年。

 並み大抵の人間ならとっくに諦めるような時間を費やし、キンキ王は異世界人の復活に力を注いだ。注ぎ切った。

 ただ異世界人を手中に収め、絶対的な立場と権力で頂点に君臨したいという、実に子供らしい願い。そんな子供らしい自分勝手な願いの為に、キンキ王は三十六年をつぎ込んだ。


「では……」


 ここで不幸なのは、コウガノには出来てしまった事だ。

 そう、()()()()()()()

 恐らくは魔法でその結果になるのをわかった上でキンキ王はコウガノに命じたのだろうが、コウガノは見事に、異世界人の体だったものから作られた体に、意識を宿させる事に成功してしまった。

 精神自体は、完全に死んでいた。最初から無かったかのように。

 だが、だからこそ、元からあるものを変質させるわけでもなく、一から人格を作り上げるのは容易かった。


「…………?」


 そうして、その体は目を開いた。

 生まれたばかりの赤ん坊より何も知らない状態で、しかし肉体に宿る動き方といった記憶は備わった状態で、異世界人の魔法が使えるその子供は、目覚めてしまった。

 それこそが、ジンゾウという少年が誕生した瞬間。

 キンキ王の所有物であり、異世界人のチート魔法が使える者として作り上げられた彼が、()()()()()()()()瞬間だった。





 ジンゾウについて。


・肉体的に見れば一応は異世界人判定。

・でも原形は留めてない。

・人格も別物。

・異世界人の素体から作った人格ですら無い。

・完全に一から作られた人格であり、その肉体に元の異世界人の人格が残っていたりもしない。

・その肉体に、ジンゾウ以外の人格は一欠片も存在しない。

・けれど異世界人特有の魔法は使えてしまう為、分類としては異世界人。


 人参潰して原形皆無なキャロットケーキにしたとしても、原材料は間違いなく人参なのです。



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