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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
異世界人とジンゾウ
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サト夫婦



 ほほほ、と女の方が上品に、しかし煽るように微笑む。


「いやはや、ジンゾウ様にここまで嫌われるとは。某達の演技力も大したものと自慢出来てしまいますな」


 そう笑う女に、男が眉間に皺を寄せて注意した。


「……イガノよ、あまりそういった言い方はせぬ方が」

「おや、某が何をしたと? それこそ言いがかりというものでしょう、コウガノ。某はただ、ジンゾウ様に信用されぬ程に上手く潜み続ける事が出来たと喜んだまでのこと。キンキ王は某達をネズミと思っておいででしょうが、実際はタカラザカの白ネズミだったというだけの話」

「……長年の付き合いだが、お前のそういった言い回しは慣れぬな」

「コウガノが実直過ぎるだけでしょう。繊細な魔法を扱う癖に、本人は直刀にしかなれぬというのは、はて愉快と言っていいものやら」


 妻であるイガノ・サトはころころと笑い、夫であるコウガノ・サトは何とも言えない微妙な顔で眉を下げた。二人共相変わらずらしい。

 さて、とヒメはジンゾウの方を見る。

 ジンゾウは不審そうにサト夫婦を睨むばかりで、彼らの言っている意味はあまり聞いていない様子。


「ジンゾウ、喋って良いのだわ」

「ヒメちゃんこいつらは!」

「静かに」

「っ」


 お預けを食らった犬みたいに潤んだ瞳を向けられたが、その程度で揺らぐメンタルではない。犬なら多少可愛いと思うものの、同い年のデカブツがそんな目を向けて来たところでどういう反応をしろと言うのか。


「…………」


 ふぅ、とため息を吐き、ヒメは言う。


「ジンゾウから見たサト夫婦の印象のみ発言許可」

「ワルノ王国所属の諜報部隊。その中でも幹部の地位。……タカラザカ担当。現帝王の旧友という点を活かし、タカラザカの情報を流すよう命じられてる」


 タカラザカ担当という点は、彼らと顔見知りでありタカラザカの姫であるヒメには大層言い難そうにしていたが、


「でしょうね」

「えっ」

「知ってるのだわ、そんな事」


 だから()()()()()()()()()()()()と申告している。


「ネズミではない。寝ず見に非ず。彼らはワルノ王国の見張りじゃないの。白ネズミとは忠実なもの。さて、彼らはどこに忠実と言ったかしら」

「……タカラ、ザカ?」

「そういうこと」


 しかし反射的に鑑定で相手の情報を得るジンゾウ相手に、よくまあ騙し切れたものだ。





 流石に中庭で話すような事では無い為、いつもの部室へと移動した。

 他の部活メンバーは真面目に見回りつつ学園祭をエンジョイしているだろうから、鉢合わせる可能性は心配無用。他の誰かが来る事も無い。

 実質的に見回りの役目をサボる形になっているが、まあ仕方あるまい。テキトー先生には安い早い美味いが揃った近場の飲み屋情報でも渡せば買収出来るだろう。

 ヒメも別にそういった店に詳しいわけではないけれど、イマドキに聞けば間違いない。彼女のコミュ力と魔法なら完璧な情報をくれるはずだ。

 もしイマドキ情報は既に知っているようなら、奥の手でワガミチに聞くという手もある。彼の場合は何が出て来るかわからない闇鍋なので、まず間違いなくテキトー先生も知らないような穴場、と言って良いかも不明な場所を紹介してくれるのが想像に容易い。


「……ヒメちゃんは、僕がそう判断したなら彼らは敵だ、って思わないの? 今まで騙されてたんだ、って……」

「ジンゾウが万能じゃないのは私が誰より知っているのだわ。舐めないで」

「う、嬉しいのに嬉しくない……」


 うう、とジンゾウはしょっぱい顔でお茶を飲んだ。

 実際組手でも、ヒメは何度かジンゾウに勝っている。当然負ける頻度が高い日もあるけれど、勝つ頻度が高い日だって当然ある。どれだけジンゾウが優れていたって、優れているからこその隙は幾らでもあるのだから。

 つまり、万能ではない。完璧ではない。

 ヒメ自身で判断するには材料が足りないという状況ならジンゾウの判断を全面的に信用するが、彼らに関してはそうじゃないのだ。

 ヒメ自身でとっくの昔に見極めている。


「胡散臭いし立場もよろしくない奴らだが、飼い主殺されて帰る場所を消され、無理矢理飼い犬にされたような奴らでもある。そこは間違いないんだ。こいつらの忠心や友情を信じる気は無くとも、その内側で燃えてる恨みは、信じて良い」


 父もそう言っていた。

 相変わらず酷い言い草だが、意訳すれば怪しく見えるけど信じるに足る人物だよという意味になる。


「まあ、ワルノ王国が所属だったというのは初耳なのだわ」

「当然で御座いましょう。あの国は興味を持つだけ、毒を舐めるのと同じこと。ヒメ様が知る必要はありませぬ」


 コココ、と獣のようにイガノが喉を鳴らして笑った。


「……今鑑定で視ても、所属は間違いなくワルノ王国だ。なのに、どうやって信じろと?」

「その程度の結果しか信じられぬとは、お可哀想に。まあそれ以外の手段を思いつく頭が育たぬようにと隔離されていてはそうなるのも致し方ありますまい」


 イガノの言い方にジンゾウがむっとした顔になる。


「ジンゾウ様は、鑑定以外にも様々な魔法をお使いになれるでしょう。そちらを使い、もっと多角的に判断されるようになった方がよろしい」

「多角的に……」

「ええ。前からそう思っておりました。某達が危機に陥るので進言は致しませんでしたが。散々鑑定を試す場にを見ていたお陰で、どういった結果が出るかは存じていましたのでね。対策を練りやすい鑑定の結果だけを信じてくれた方が、こちらの安全も確保出来るというものです」


 イガノをちょっと見直していたジンゾウはまたもやむっとした顔になった。素直なジンゾウと、言い回しに煽りが混ざるイガノは相性があまり良くないらしい。


「……え、あれ?」


 そんなジンゾウが、ふと驚いた顔になる。


「うわ、えー……そんな、ああ……成る程」

「何が成る程かわからないのだわ」

「いや、多角的にって言われたから鑑定以外の魔法も併用したんだけど……所属はワルノ王国なのに、忠誠度がマイナス100ってなってる。しかもこの魔法、確か100が限界値」

「ジンゾウ様の前で言う事でもありませぬが、それが適当かと」


 コウガノが真面目な顔で、膝の上で拳を握り、言う。


「拙者もイガノも、ワルノ王国には殺意を抱いているで御座る」

「……うん、そうみたい」


 ジンゾウがこくりと頷く。


「鑑定で視えるのは、あくまで所属のみ。オウはただの友人であり、友人との会話でしかないという態度を崩さなければ、オウにワルノ王国の内情をどれだけ報告しようとも某達の所属はワルノ王国」

「元より、拙者の故郷もイガノの故郷もワルノ王国により滅ぼされ失われた。恩を売るという形で拾われワルノ王国に所属する事になった以上、他と契約を結ばない限り、所属はワルノ王国のみと表示されるので御座る」

「子にもそれを背負わせる気は無かった故に、我が子十人、全員タカラザカの所属にさせましたが」


 ほほほ、とイガノが笑った。


「……結局、どういう事? どうしてタカラザカの味方を……いや、ワルノ王国に所属して、じゃなくて理由は何となく今聞いたから、所属し続けてる方を聞くべき?」

「そんなものは最初から聞けば良い話なのだわ」


 混乱するジンゾウを切り捨て、ヒメは問う。


「私も、何故今回二人が来たのかの理由については聞けていません。あなた方の立場、目的は?」

「懺悔と、告白を」


 コウガノは言う。


「ジンゾウ様に、懺悔と告白をしに参ったので御座る」


 その目には後悔と、申し訳なさと、淀んだ歪みの色が灯っていた。





「そういえばオウ、ヒメに貴方の故郷がワルノ王国であり、元はそこの騎士であったという事は?」

「言うわけねえだろ。四十年は前の話だ」

「ふむ」

「……何だよ」

「いや。つまりヒメの持つ情報は少なく、説明をしなければならないサト夫妻は大変だと思っただけだ」

「あー……まあ良いだろ。ワルノ王国の情報貰ってるとはいえ、こっちだってあいつらのガキが向こうにバレねえよう保護してんだし」

「保護というよりは雇用に近いが。しかし、イガノはよく妊娠を隠し通したものだ。それも十人分」

「部下に興味のねえ上司様なんでな。適当に隠しときゃ何とかなったんだろ。危険でもコウガノの魔法で何とかなる」

「……上司相手にそれが使えるなら、もっと根本的にどうにか出来たのでは?」

「人格改変級だと流石に手間が掛かるんだとよ。そこまでの時間は作れなかったらしい」

「やろうとはしたのですね」

「当たり前だ」

「……ところで話を戻しますが」

「あ?」

「サト夫妻の話が終われば、まず間違いなくオウの知る限りの詳細を聞きたがりますよ、ヒメは」

「…………会わずに帰るか」

「わたくしは会います」

「勝手にやってろ」



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オウさんの経歴に驚きました。
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