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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
異世界人とジンゾウ
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二度目の学園祭



 学園祭が始まった。

 二年目の学園祭である事と、私服警官ならぬ私服見回りを頼まれたので程々に学園祭を楽しんで回る。

 ある程度見て回ってからは見回りという役目もあるので別行動になったが、私服で学園内を歩くというのは新鮮だった。


「思ったより平和なのだわ」


 わざわざ見回りをする必要があるのかと思うくらいには平和だ。


「……ヒメちゃん、さっき人目が無い場所で誘拐しようとしてた人攫いを気絶させといてそれ言う?」

「騙される馬鹿なんて、カウントする価値すら無いのだわ」


 小さい子相手に不審な動きをする男が居ると聞いたので、その話が多い場所で一人に見せかければ数分で釣れた。歩き疲れた振りをして少し人目が無い場所へ行ったくらいで薬を嗅がせて眠らせようとは愚の骨頂。

 薬が沁み込んでいたハンカチを背後から嗅がされそうになったが、肩をホールドするように伸ばされた腕で拘束される前に腰を滑らせ仰向けになる事で避け、その体勢のまま腕を支えに下半身を持ち上げて踵で顎を蹴り飛ばせば一発だった。

 小回りと柔軟性を活かしての迎撃とはいえ、この程度も避けられないとはやはり三流。さっさと引き渡す以外に価値も無い。

 まあ、実力があるからといっそスカウトしたいようなプロの人材はこんな日を狙わないだろうから当然と言えば当然と言えよう。

 本物のプロは長期休暇から学園に戻る最中、油断している上に学園側からの干渉も少ないタイミングを狙う。長期休暇で家に戻る時を狙うとまだ学園の目がある為、案外バレるのだ。そういう意味でも、プロはそういったタイミングを狙う。


「とりあえずこのまま……被服部から遠ざかるように動きましょうか」

「うん、そうだね。あれは驚いた」


 誘拐犯を確保する前、被服部の出し物に顔を出したら凄い勢いで捕まり掛けたのだ。


「ヒメ! ヒメ・ミコ! 去年のリベンジだ私服という学園では珍しい恰好も良いが我輩達の用意した服を着てもらうぞマネキンよ!」

「ごめーんヒメヒメ、私も去年のアレは悔しかったから大人しく着せ替え人形ヨロシクー♡」

「ごめんなさい、ヒメさん……でもウチもちゃんと見たいんですウチ達の手で飾り立てられたヒメさんを!」

「そして去年全力で飾り立てたジンゾウ! 貴様もヒメの隣に居るのであれば今年も全力で飾り立ててやる! ヒメの隣に立つに相応しい王子にしてやろう! あっ、おい待て貴様逃げるな!」


 部長になったコスチユム先輩、イショウ、コモノはまあ良い。良くは無いけれど。

 だが何故卒業したヒフク元部長まで居たのか。

 まあ普通に考えて卒業後でも客として来れるのでそういったルートで来ていただけだろうが、まさかまだ根に持っていたとは。しかし飛び入りアドリブで発生したメイユウ役なので、その服を自分達でデザインしたかったとどれだけ訴えられてもどうにもならない。

 そのせいで追いかけ回されたが学園祭後の長期休暇、その間に行われた卒業式、で他三名はともかくヒフク元部長からは逃れられたはずだった。


『俺は貴様を許さんぞヒメ・ミコ。あんなシンプル極まりない旅人服で良いと思っているのか。幾ら咄嗟のアドリブとはいえ旅をしていたからこその擦り切れ感を出せただろう。貴様なら出来たはずだ。そして何より、もっとメイユウというキャラクターに合う遊び心を取り入れたデザインがあったはずだ。作れたかもしれないもう一着が俺達にとってどれだけ価値ある一着かわかっているのか貴様。忘れんからな。絶対に忘れないからな貴様』


 時々届く恨み節の籠った手紙は無視すれば良いのでノーカウント。

 しかし、まさかここで再会するとは。想定に入れておくべきだった。

 チラリと見えたヒメ用に作られたらしいリベンジ服はフリフリお姫様なデザイン、動きやすそうな男装服、いっそメイユウを意識したとしか思えないヤンチャな旅人感溢れる服などいっぱいあった。

 捕まれば最後数時間は持って行かれる気がしたので逃げたが、下手に被服部の出し物付近に捕まれば先程の再放送となりかねない。

 ジンゾウもそれは察しているのか、ヒメの言葉に真面目な顔で頷いた。

 察しが良いのか悪いのかいまいちわからないジンゾウにすらそう言われる辺り、やはり被服部やべー四天王は伊達じゃない。


「そうなると……調理部の出し物でも見に行きましょうか。軽食があったはずよ」

「沢山食べるからって試食に駆り出されたけど、どれも美味しかったよ! ヒメちゃんが気に入りそうなのはシチューパイかな。持ち歩きながら食べられるサイズだし、味もヒメちゃん好みだと思う!」

「そう。ジンゾウはそう思ったのね?」

「うん! ヒメちゃんが食べる時に美味しいって言ったり、機嫌が良かったりする味付けの傾向と一致してたから。数値的にもヒメちゃんが好む傾向の範囲内だったよ」

「ならそれにしようかしら」


 ジンゾウが数値的に判断するのは今更なので指摘しない。よくある事だ。

 今思い返せば、そもそも最初は美味しい美味しくないもよくわかっていない様子だった。そんなジンゾウが美味しいと思える味を知り、必須なエネルギーかはさておいて食べたいという欲求に従い沢山食べるようになったのは良い事だろう。





 ヒメが空いている席を確保している間に、ジンゾウが列に並び食べ物を購入。

 丁度空いた席に腰掛けて一息つけば、列の進みが早いのかジンゾウがトレイの上に山盛りの料理を載せてやって来た。


「……ジンゾウ、それ全部食べるつもり?」

「? うん。食べてる人が居ると注文数増えるからって。あ、大丈夫だよヒメちゃん。ヒメちゃんが食べ終わるまでには食べ終わるから!」

「早食いのし過ぎは健康に良くないから、気を付けた方が良いと思うのだわ」


 そう言いつつ、ヒメはシチューパイを受け取った。じんわりと熱い。


「……あ、本当。コクがあって美味しいのだわ」

「だよね!」


 良かったあ、と言ってジンゾウは山盛りの料理をパクパク食べていく。凄いスピードなのに見苦しくないのは中々に凄い。食べ散らかすような汚さも無いので、気付けば皿の中が消えている事に驚いてしまう。

 一方、ヒメの方はゆっくりと食べ進めていた。

 一口一口が小さいのと、よく噛んで食べるせいで進みが遅い。噛んでいるはずなのに呑むように料理を消していくジンゾウとは対照的だった。

 小腹を満足させるくらいのサイズだろうシチューパイを食べ終わる頃には、ヒメの腹はすっかり満たされていた。寧ろちょっと食べ過ぎたくらいだ。とはいえジンゾウに頼る必要は無かった為、成る程ヒメ向けの量と言うだけはある。


「あ~、居た居たぁ。ヒメちゃ~ん」

「シュ・エン先輩」


 そろそろ席を立とうかとすれば、ゆったりした動きでやって来たのは演劇部のシュ・エン先輩だった。現在演劇部の部長であり、切れ長な顔付きのイケメンながらきゃぴきゃぴしたタイプの方である。


「どうかしたのかしら」

「ヒメちゃんを探してたんだよぉ。んもー、見つけるの大変だったんだからぁ」

「何か用事が?」

「僕じゃないけどねぇ」


 シュ・エン先輩はニコニコした笑顔でチラリと後ろを見た。


「演劇部の舞台を見に来てくれたんだけどぉ、その後歩いてたら話しかけられて感想言ってくれてねぇ。その後に、ヒメちゃんと会う予定だけどどこに居るのかって聞かれちゃったんだぁ」

「ここ、と決まった場所に居るわけでもないから難易度高いのだわ」

「自分で言う? 僕も別にヒメちゃんの場所とか知らなかったけどぉ、このくらいはね。一流の演者は自分と無関係の事でも、ファンの為にちょぉっぴり頑張っちゃうものなんだよ!」


 えっへん、と胸を張る姿は可愛らしく、確かに一流と言えるものだった。見つかるかもわからないような中で一緒に探すのを手伝うなんて中々出来る事ではない。

 演技の腕前も上等な人とは思っていたが、それ以外も立派であろうとし、それを実行するとは素晴らしい。それもまた強さの一つ。


「で、それがこの人達ぃ」


 シュ・エン先輩の後ろに居た二人が前に出ると同時、ヒメはジンゾウに抱きすくめられた。


「……何でここに?」


 頭上から聞こえるその声は低く、ヒメの視界はジンゾウの太い腕によってすっぽりと覆われている。

 しかし酷く警戒態勢に入っている事は察せた。

 そんなジンゾウの態度に、喉を鳴らすような笑いが混じった女性の声。


「そう警戒なさらずともよいのに」

「彼女に何をする気だ」

「ジンゾウ様、某達は敵ではありませぬ」

「黙れ。タカラザカを担当するモグラの言葉なんて信用出来るか」


 聞き覚えのある女性の声と、今まで聞いた事が無いようなジンゾウの声。

 その二つの声で交わされる会話に、ヒメは何となく事情を察した。


「ジンゾウ、邪魔。退いて」

「駄目だよヒメちゃん。ヒメちゃんは小さいからこうしておけば隠せるけど、あの二人は警戒しておいた方が」

「離せと言っているのが聞こえないのか」


 低い声でそう告げれば、ジンゾウは大人しくヒメを解放した。ようやく見えるようになったその顔は酷く不満そうで、尚も客人二人への警戒に眉根が寄せられている。


「……ヒメちゃん、この二人は」

「黙れ。許可するまで口を開く事を許可しない」

「、」


 睨むように視線を向けて命じれば、ジンゾウは大人しく口を噤んだ。酷く不満そうなままではあるが、大人しく命令に従っているので良し。


「面倒をお掛けしたのだわ、シュ・エン先輩。もう大丈夫です」

「本当? ジンゾウがすぅっごく不機嫌そうだよぉ?」

「そこはもう話し合いで納めるのだわ」

「オッケェ。本人が良いならいっかぁ。見つかって良かったって事で、じゃあねぇ」


 笑顔で手を振って去るシュ・エン先輩は、すぐに他の人達に捕まっていた。様子からして間違いなく演劇部の舞台を見た人達だろう。良い事だ。

 さて、とヒメは二人の客に向き直る。

 それなりに年嵩のある男女。夫婦のようにも、友人のようにも、他人のようにも見える距離感がある二人こそ、


「お父様から二人が来るとは聞いていたけれど、迷子にはならなかったようで何よりなのだわ」


 父から手紙で告げられていた、父の昔馴染みであるサト夫婦。





「折角来たのに、娘には会わなくて良いのかい? オウ」

「こんなジジイが顔合わせに行っても迷惑だろ」

「親が会いに行くのは喜ばしい事でしょう。昔から変わりませんね」

「こんな男を欲しがるなんざ、お前みたいに趣味の悪いヤツくらいなんでな。見放されねえように昔から変わらんスタイルでやってかねえと」

「おや、嬉しい」

「……そう言いながら何で顔背けてんだお前」

「いえ、少々、その、久々に直接的だったので」

「そんなにも不意打ちに弱くて女帝やり続けられんのか?」

「貴方以外にこんな事にはなりませんよ。貴方だから、わたくしはこんな事になるんです」

「……そうか」

「ええ」

「あー、それより、あれだ、ヒメに会うかどうかだったな。あの坊主と顔合わせるのは気まずいし、イガノとコウガノの話が終わったの確認してからちょっと挨拶するくらいで良いだろ」

「照れ隠しにしては娘に対して冷たい対応だな」

「うるせえ。良いんだよ長期休暇でどの道顔合わせるんだから。……場合によっちゃ、聞かれるだろうしな」

「すぐ説明出来るように、と荷物をひっくり返してまで当時の物を探して。そんなにも、娘と仲が良いあの男が気になりますか」

「そんなんじゃねえ。荷物だって、久々に読みたい本があったからひっくり返したら懐かしいモンが見つかっただけだ」

「そういう事にしておきましょう」

「そういう事ってどういう事だ! 俺は誤魔化してねえぞ! 事実だ事実!」

「わかっていますよ。貴方がこういう時、最高のパフォーマンスが出来るよう、そうとは悟られぬよう事前準備を終わらせておく人だという事は」

「……ジョテイ」

「はい」

「お前は俺がそういう扱い受けるの大嫌いだって知ってるよな」

「ええ。悪い人ぶりたい事も、良い人扱いされるのが嫌いという事もよく知っていますとも。わたくしが貴方に助けられた数々の事でお礼をしようにも、全然受け取ってくれない人ですしね」

「何でさっきそういう言い方した」

「貴様の事実を言ったまでだ」

「……お前、厄介に育ったよなあ」

「貴方のお陰で最高の育ちが出来た、の間違いでしょう」

「イイ性格ってのは間違いねえよ」

「ふふふ」



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