表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私、実は姫騎士なのだわ  作者:
後日談
62/89

拒否二択



 ヒメは部室で、親からの手紙を読んでいた。

 基本的にこういったものを出さない父から珍しく来たかと思えば、学園祭にはサト夫婦を寄越す、の一言。一体どういう意味なのやら。

 父の昔馴染みだと言うサト夫婦とは面識があるけれど、学園祭後の長期休暇で会うわけでもなく、わざわざ学園祭を指定してきた。意図がわからず、うーむとヒメは首を傾げる。

 まあ何か仕出かすような人達では無いし、ただ学園祭に興味があるだけかもしれない。とりあえず暫定でそういう事にしておこう。


「何か悩み事かい、ヒメ?」

「いいえ」

「そう?」


 即答したヒメに、マッドはにやにやした笑みを浮かべながら首を傾げる。


「手紙を見て思い悩んでいるように見えたけれど」

「そうね、さっきまでは少し悩んでたけどもう解決したのだわ」

「いいやそうは見えなかった。問題を先延ばししただけに見えたよ。ではそんなヒメに新薬を飲ませてあげよう」

「結構なのだわ」


 そんな気がしていたから素早く拒否したのだが、マッドは尚もにやにやした笑みで青い液体が入ったコップとピンクの液体が入ったコップを掲げて見せた。


「そこまで深く考える事でも無い軽い悩みなら青い方。これは他の誰かに話すわけにはいかないというような深い悩み事ならピンクの方。さあ、飲んでみておくれ」

「結構なのだわ」

「そう言わず」

「結構なのだわ」

「うわ、帰って来て早々に一歩も引かない戦い目撃しちゃったァ」


 ガラリと扉を開け、修羅場だったらヤダなァ、とぼやきながらそこまで深刻ではないと察しているのかライトがフリョウと共に教室内へ入って来た。


「お帰りなさい、ライト。フリョウ。フリョウによる逃げ道封じは成功したのかしら」

「んー……何か、それどころじゃない、言語化するのが難しい状態になったから、一旦卒業前まで保留って感じかなァ……そのくらいにならないと将来どうするかとか決まんないしね」


 アハハと笑っているが、一体何が起きたのか。

 フリョウの方はライトを諦めるつもりは無いという顔をしているけれど、言語化するのが難しい状態というワードが出た時に、まるで学園祭後にヒゲキ女王関係のワードを聞いた時みたいな顔になっていた。

 恐らく、フリョウからすると恐怖体験みたいな事が起きたのだろう。


「…………テキトー先生関係?」

「えっ何でわかんのヒメ!?」

「ジンゾウの巻き添えで事前情報が揃ってるだけなのだわ」

「あー、魔法関係? やっぱ魔法だよなァ、アレ」


 細かい事を言わずとも察したような態度を取っている辺り、やはりテキトー先生が洗脳でも仕掛けたらしい。ライトに気付かれている事、フリョウが怯えた顔をしている事、等から判断するに洗脳はされず済んだようだが、フリョウが洗脳されかけた、のは間違いあるまい。

 フリョウがライトを連れて保健室に行ってコワイ先生に報告して外堀埋めをしようとしていた以上、保健室に入り浸っているテキトー先生が居ると考えるのは難しくない。

 そしてあの先生はわりとラフに洗脳を仕掛ける。仕掛けた相手に洗脳された自覚なんて持たせもしない。

 なのにライト達が気付いているという事は、それを回避したと、そういう事だ。


「まあ、とりあえずフリョウが落ち着いたのなら良かったのだわ」

「ああ」


 フリョウは頷き、その顔の良さを前に出した凛々しい表情で言う。


「……まずは外堀から埋めていく事にする」

「落ち着いてないんだなあこれが」

「……ライト、本当に本意じゃない状態に陥ったら私に言うのよ。決闘で倒して貴方の自由を勝ち取ります」

「あ、僕も! 僕も出来る限りでお役に立つわ! 今回の件、頑張らなきゃいけないのは僕だったのに、とっても頑張ってくれたのはライトだったものね!」


 そのお礼はしなくっちゃ、とトクサツがむんと拳を握った。


「……そこまでの無理強いをする気は無いんだが……」

「ここで婚約決定コースだったら結婚ルート直行みたいな可能性オンリーになるところだったけど、婚約未定状態だからこその分岐があるのは良い……! 未来が定まるまでの期間限定だからこそ描ける無限の可能性! 燃えてきた! スケッチモデルありがとうジンゾウ今からちょっとネタを複数書き留めるから!」

「あ、もう良いの? わかった」


 部室の隅でジンゾウがポーズを取りつつマンガがそれをスケッチしていたのだが、マンガは何やら勝手に燃え上がってスケッチを中断しノートに書き連ね始めたようだった。

 明らかに難易度が高いポーズをびくともせずに平気で一時間維持していたジンゾウは、ふぅ、と息を吐きつつもそこまで疲れていない様子で首を回し、ヒメの隣に椅子を持ってきて腰掛ける。

 流石の巨体と言うべきか、学生用の椅子はミシリと悲鳴のような音を立てた。既に何度か壊れているので、この椅子ももうじき殉職する事だろう。

 まあ、壊れたら壊れたでジンゾウが魔法を使って即座に修復する為、買い直しという事にはならないけれど。


「ヒメ、結局薬はどちらを選ぶんだい?」

「諦めてない気はしてたけど本当に諦めてなかったのね……」


 ずっとコップを掲げたまま視線を逸らしてくれなかったのでそんな気はしていた。していたが、詳細な説明がされていない薬を飲みたくはない。

 マッドの性格上、薬の詳細を説明する際に嘘を交える事は無い。

 もっとも詳細を隠し、嘘ではない、という言い方をする事もあるが、基本的に違う効能を説明して騙し飲ませる、という事はしないのだ。

 そんなマッドが説明を省いている、イコール、説明すれば同意を貰えない可能性が高い新薬という事。

 端的に行って危険度が高くてお断り一択が確定事項。


「飲む気は無いけど、効果を聞かせてもらおうかしら」

「選ばなかった方の説明なら。選んだ方については飲んだ後に説明してあげる」

「そう」


 ヒメは一度頷き、視線をマッドに固定したまま胸の前で腕を組み、トンと腕を指で叩いた。


「ジンゾウ。説明」

「青い方は一時的に体から桃の香りがするようになる。ピンクの方は意識を混濁させる自白剤。話した記憶も残らないかな。どちらも後遺症は無し」

「おいおいジンゾウ、そう簡単にネタ晴らしされちゃあ困るじゃないか。飲んでもらえなくなる」

「どの道飲む気は無かったのだわ」


 しかも青い方はともかく、ピンクの方は悪質過ぎる。


「……悪意が無いのはわかるけれど、一応どういう意図でそんな薬を盛ろうとしたのか聞かせてもらえるかしら」

「深い悩みじゃないなら、少し気が紛れる程度の薬が良いと思ってね。私としても試したかったものだが、自分の体臭はわかり辛いから他人に試す方が好都合。匂いを変えたオレンジ臭の方は既にトクサツに試し済みだ」

「ええ。今はもう効果が切れてるけどね」


 言われてみれば、部室に来た時はやけに爽やかな香りがしていた。

 室内用アロマか誰かが新しく購入した香水か何か、と思っていたがまさか一時的に変えられたトクサツの体臭だったとは。その発想は無かったし、無くて当然のものだった。その可能性を思いつく方が怖い気もする。


「……で? ピンクの方はどういった意図なのかしら」

「ジンゾウ、本当に困るよ。こういうのは悟らせないのが大事なのに」

「ごめんねマッドさん。でもヒメちゃんに聞かれたら答えなくちゃ」

「そうしつけられているのかい? 流石は飼い犬」

「どっちかと言うと人前で言わないようにってしつけられてるから、説明するかしないかは僕の意思だね!」


 飼い犬呼びを笑顔で肯定するのはどうなんだ。

 いや厳密には肯定していない。否定していないだけだ。でも実質肯定しているも同然。飼い主扱いされたヒメはちょっぴりしょっぱい顔をした。実際何度かジンゾウを飼い犬扱いしてしまっているので何も言えない。


「マッド?」

「わかっているよ。そんなに凄まないでくれるかな、ヒメ。君の圧はわたくし様にもまあまあ効果があるんだぞ」

「それで? 意識を混濁させて自白させるような薬を盛ろうとした意図は?」

「とても誰かに相談出来るような内容じゃない場合、トクサツの時みたいな大騒ぎになる可能性があるだろう? トクサツの様子からヒーロー家の様子については何となく察していたが、アレは実に後手後手だった」


 言いつつ、マッドはコップに入った薬を机に置く。


「だからそれの再演が行われる可能性があるのなら、先手を打って情報を得ておこうと思ってね。で? 結局どちらも選んでもらえなかったわけだが、飲むとしたらどっちだったのかな」

「……そうね。今後も飲まないでしょうけれど、問題としてはそこまで重くないから、選ぶとしたら青い方なのだわ」

「へえ。悩み事の内容は?」

「父の昔馴染みが何故か学園祭に来るんですって」

「それだけ?」

「ええ。本当にそれだけかどうかを判断したくてわざわざ内容を聞いたんでしょう?」


 ピンクの方を飲まされるわけにはいかない、と虚偽の申告をして誤魔化した、というわけでも無い。実際隠すような内容でも無いのだから。


「ジンゾウ、わたくし様からも聞こう。ヒメのこの言動は真実かい?」

「うん」


 当然のように頷いてから少しの間を置き、ハッとジンゾウはヒメを見る。


「……あっごめんヒメちゃん! 先にヒメちゃんに確認取った方が良かったよね!?」

「別に、これに関しては明らかにされても問題無い範囲だから良いのだわ」


 既に何度か明らかにしてはいけない事を口から滑らせていたりするので、この程度なら可愛いものだ。


「ただ昔馴染みが来るだけ、と言うなら確かに深い問題じゃ無さそうだ。仲が悪いとかも無い?」

「無いのだわ。所属しているところがあまり環境が良くないみたいで、お子さんたちはザカ所属になってるけど」


 子供達を所属している国に住まわせたくないらしく、教育はしっかり本人達でやっているものの、所属国に連れて行く気は無いと断言していた。

 なら何故その国を見捨てないのかと何度か思ったが、色々準備が要るらしい。恐らく諸々の手続きが至極面倒な国なのだろう。多分。


「薬を試せなかった事は残念だけれど、ヒメに何か問題が発生しているとかでないなら良かった。安心したよ」

「……ええ、ありがとうマッド。ただ出来たら薬を使用しない方向性での心配だともっと嬉しかったのだわ」

「わたくし様から研究を奪えば、それはわたくし様、マッド・サイエンティストの死と同義だ」


 それは確かに、研究を奪われたマッドサイエンティストは死んだも同然でしょうけれど。





「そうだわ、ねえねえマンガ、前から言おうと思ってたんだけど」

「何? トクサツ」

「マンガって沢山の本を作ってるのよね?」

「うぐっ……まあ、隠してないから、うん。内容は基本的にナマモノメインなので流通経路には気を遣って、出来るだけご本人の目に触れないようにしております。あんま出来てないけど」

「僕とマッドのラブストーリーなんかもあるのかしら!」

「ある。マッドとトクサツのあの伝説は既に本にした」

「素敵! 是非僕も読みたいわ!」

「……前から思ってたけど、トクサツって結構そういうの大丈夫なタイプ?」

「? 物語になるって、歴史に残るのと同じ事でしょう? それは素敵な事じゃないの?」

「あー、いや、正式な本じゃなくてあくまで個人的に作成した……」

「悪意があるわけでは無いんでしょう?」

「それは勿論! でも悪意は無くても性欲とか衝動とか欲望とか色々は練り込まれてる!」

「そ……! それはつまり、ちょっとえっちなのもあるって事かしら……!」

「えっ逆に好印象? これは今後トクサツを描く時に解像度上がっちゃうな。ちなみに答えると、ガッツリある。結構高頻度で描くから」

「キャー! 素敵! わくわくしちゃう!」

「そういえば前から、恋バナ系とか好きだったっけ」

「ええ、そういうラブストーリーって大好き! ドキドキしてキュンキュンするもの! ママはあんまり好きじゃないみたいだったから、僕は大きな声でそんな事を言ったりは出来なかったけど……今はそうじゃないものね!」

「ウ゛ッ闇。後で既刊のマドトクとトクマドあげる。マッドとトクサツのラブメインのヤツ」

「嬉しい! ありがとうマンガ!」

「ちなみに無所属部のメンバー全員分、それぞれこれでもかってくらい組み合わせた本いっぱいあるけど要る?」

「えっ!? どういう事なの!? 組み合わせるってトランプタワーみたいに!?」

「そういう物理じゃなくてカップリング的な組み合わせね。全てのカプは網羅した。わたしは自分受けも自分攻めも平気派なのでわたしが関わってるカプもしっかりある。何なら全員で乱れに乱れながらえっちな事してる本も描いた」

「そ、そんなえっちなのって良いのかしら……! 見せて!」

「イケる口だねトクサツ!」


「いやあ、まさかトクサツがあんなにも好意的にカップリングを受け止めてくれるとは!」

「……マンガ、あんまりトクサツの情操教育に良くなさそうなのは、それなりに修正を強めた上で与えてやってくれるかな」

「ヒエッ、モンペ」

「わたくし様はこれでもトクサツがこれからの生活で不便しないよう、あの母親に仕込まれた面倒な洗脳を解除している真っ最中なんだ。彼女が求める物を与えるのは構わないが、おかしな方向に突き進みかねないような劇薬は程々に薄めておいてくれると嬉しいね」

「……マッド、意外とそういうの気遣うんだ……解像度上がる……」

「王族の思考回路だけはヤバい方向に狂わせるなよ、最悪巻き添えでこっちも死ぬ」

「え、マッドいきなり何?」

「祖父の言葉だ。祖父は祖母によく振り回されていた」

「……マッドのお爺さん、苦労したんだね」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ