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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
後日談
61/89

一先ず保留



 翌日、フリョウはライトを連れて保健室にやって来ていた。


「そういうわけで俺はライトを必ず連れて帰ろうと思う」

「…………そうか」

「そうかじゃないっすよォ!」


 困惑を滲ませながら頷いたコワイに、ライトは思わずそう叫んでいた。


「大問題でしょ!? 甥っ子がよくわかんない事言い出してんですよ!?」

「……いや、ヤンキー家の血族にとって、理解者は最重要だ」

「他にも理解者居ますって!」

「それでも常に隣で笑ったり、圧を気にせず、無言も気にせず喋ってくれる者は得難い。加えて医療関係に長け、解呪も出来るとなれば……そうなるだろうな」

「そうなられても!」


 コワイの発言にライトは思いっきりシャウトする。


「そんなにフリョウは嫌か?」

「嫌じゃないけどいきなり過ぎて困惑九割」

「そうか。助言しておくがヤンキー家は傍に居ると決めた瞬間から尋常じゃなく重いぞ。命くらいは容易く懸ける」

「危ねェ一族過ぎません!? 何すかそれ!?」

「そのくらい傍に居られる人間が少ないんだ」


 怖い話かと思ったら切ない話だった。確かに友人が少ない人ってその少ない友人に結構強めの感情抱きがちなイメージあるゥ。

 尚、ライトにはいまいちその感覚がわからない。友人が少ないという状態に陥った事がまず無いので。


「故に、決して離れない関係性になろうとする。仕事仲間、では退職したらそれきりになりかねないだろう」

「えー……オレ地元のダチとも卒業した先輩とも普通に手紙のやり取りしてるからあんまり……」

「ダッハッハ、流石はライト」


 シャッとベッドを隠していたカーテンが開かれたと思えば、そこにはテキトー先生が横になっていた。


「あ、やっぱ居たんですね」

「おう。先生が寝てる前でいきなり何の話を始めたのかとビックリしたぜ」


 くあ、と欠伸を零してテキトー先生が起き上がる。


「ったく、夜中に叩き起こされたもんだから寝不足だってのになあ」

「あはは……すみません」


 そう、帰って早々、こういう報告は早くにした方が良いからという理由で教員用の寮に向かい報告したのだ。


「失礼、先生。色々終わらせたから報告しに来たのだわ」

「……おう……当日中に終わらせたのかお前達……凄いな……」

「……テキトー先生ってミニマリスト?」

「違う」


 明らかに寝ていたとわかるテキトー先生に視線を逸らしたヒメは先生の部屋の中を見てそう言った。

 ライトもちらっと確認したが、中々にこざっぱりした部屋だった。仕事関係の机や棚は見受けられたが、ベッドも無い部屋だった。今脱いだのだろう寝袋があったので間違いなく寝袋就寝。そりゃあ保健室のベッドで寝たくなるよな、と謎の納得をしてしまうお部屋状態。

 友達が多いライトも誰かの部屋に遊びに行って、その内装に驚く時は度々あるが、あそこまで生活臭がしない空間も珍しい。仕事用の部屋と言われたら納得するけれど、自室と言われると困惑する。

 その部屋で人が生活している時特有の、その人らしい匂いというものがまったくなかった。


「一般的に私物と呼ばれるようなもんは、コワイの部屋とか保健室に置いてあるから良いんだよ。自室なんて一番居付いちゃいけない場所だぜ」


 流石に心配したヒメ達に大丈夫か問われたテキトー先生は、酷く眠そうにしながらそう答えた。

 自室なんだから一番居付いた方が良い気がするが、そういうポリシーか何かだろうか。


「まー、その辺は卒業後に決めても良いんじゃないか?」


 そんな事を思い出していれば、もう一度欠伸を零してテキトー先生が言う。


「早い段階で結婚決めちまうと逃げられないしな」

「逃がしたくないので結婚を申し込んでいます」

「だろうよ。オレもされた事あるからわかるぜ。でも、だったら尚の事ごり押しはやめとけ。卒業後に決めて欲しい、って事で一旦終わりにしておくんだな」

「何故ですか」

「お前オレのトラウマ話聞く?」

「逃げろフリョウここは吾輩が抑える」

「仕方ねえ、後学の為に聞かせてやるか。テキトーお兄さんがお家を大っ嫌いな理由」

「逃げろ」


 慌てた様子のコワイ先生がシャッとカーテンを閉めてテキトー先生を封じたが、残念ながら音声は封じ切れていない。


「コワイ、お座り」

「っ!?」


 ぺたん、とコワイ先生が突然床に座った。

 前髪で顔が隠れていてもわかる動揺した様子に困惑していると、再びカーテンが開かれる。


「まったく、若者が知らないままで居るのもそれはそれで良い事だが、暗い裏側を教えてやるのも教職としては大事だぞう」

「……テキトー、貴様、仕込んだな……?」

「大丈夫、オレの声と一定の音程とワードで発動するコマンドだから他のヤツがやろうとしても発動しない」

「何が大丈夫だ」


 コワイ先生の声が怖い。今にもテキトー先生の首を締めに掛かりそうな低い声だ。殺意を声にしたらきっとこんな感じ。

 だが前髪越しでも殺意が籠っているとわかる視線をガッツリ向けられながらも、テキトー先生は相も変わらずへらへらした様子で手をひらひらと振った。


「そこで大人しくしておけって。で、結婚をごり押しするのが良くないって話だけどな」

「はい」

「オレの実家は代々教職関係で、それに強いこだわりを持ってる。オレはそれが嫌で逆らって、でも跡継ぎであるオレを家に縛り付けたい肉親は、無理矢理オレを縛り付けようとした。結婚を強制させる事で」

「……それ、は」

「お前も縛り付ける手段として結婚を使うのか?」

「そんなつもりではなかったのですが……」


 テキトー先生の言葉に、フリョウはとてつもなく険しい顔で拳を握る。

 まあ険しい顔と言っても、これは本気でやらかした事を自覚した申し訳なさとかどうしたらいいか困ってる時特有の顔なのだが。確かに困りはしたけど、そこまで重く受け取らなくても良いのに。


「オレは教師になりたくなかったが、自由になる代わりに教職に就いた。そういう契約をした。だがそれでもアイツらはオレを教職にした上で家に縛り付けようとし、それはもう毎日のように嫁候補を送り込んで来た。酷い時には薬を盛って積極的に子作りするよう仕向けられたくらいだ」

「そ、そこまでするような、つもりは……いや、だが男でも跡継ぎを作る手段はあると言った以上……」


 テキトー先生の話が重いのは事実だけど、フリョウは別にそこまでを強制しようとしてなかったような。こういった問題があるよという問いに対して答えを提示しただけで、無理強いはしてない。

 こういうのを論点と言うのかはよくわからないが、明らかに何かをすり替えられている気がする。


「だからオレは実家が大嫌い。誰かと一緒に居るのは好きだから、一時期自殺しかねない程には大分危うかったコワイに世話される事にしたけど……そうじゃなかったら例え可愛い生徒達が居ても、名前も顔も捨てて失踪してたかもな」


 一時期、というのはフリョウが話したコワイ先生の婚約者の件だろうか。そう思った瞬間、パチッと目が合ったテキトー先生がウインクした。えっ怖いこれ絶対心読まれた。

 テキトー先生の魔法は知らないが、読心系の魔法なのかもしれない。


「それで、フリョウ」


 何だかゆっくりとした、独特な声の抑揚でテキトー先生は言う。


「お前は、ライトに、それを強要しようと言うのか?」

「……俺は、俺はただ、ずっと俺の隣に居てくれるだろうと思えるのはライトだけで……だから、結婚という形を取れたなら、と……」

「そうかそうか。だが相手が拒否しているのに無理強いをするというのは、それは、良くない」


 あー、これなんかまずいなァ。

 ライトは目をぐるぐるさせているフリョウと、いつも通りにへらりとした笑みなのに嫌な薄っぺらさを感じる笑顔のテキトー先生を見比べてそう思った。

 何というか、フリョウの顔が駄目だ。

 具体的にはヒゲキ女王を前にした時の、マッドに依存先をスライドされる前のトクサツみたいな目になっている。


「それはやってはいけない事だと、」

「待ったァ!」


 ライトは大声を出してテキトー先生の声を遮り、その場に居る全員に禊祓を使用した。

 同時、明らかに何かを浄化したなという手ごたえにちょっぴり肝が冷える。


「ふ、フリョウ大丈夫!? 意識しっかりしてますか!?」


 フリョウの肩を掴んで前後にシェイクすれば、フリョウは目を白黒させながらも答えた。


「い、意識はしっかりしているはずだが」

「本当に!? さっきまでの会話思い出せます!?」

「さっきまでの、とは、」

「いいから!」


 早く答えろと急かせば、困惑した様子ながらもフリョウは思い出すように視線を動かす。


「俺はお前に傍に居て欲しいからという理由からプロポーズをし、本気の拒絶は無かったからこれは押せば手に入るなと思って……」

「そこは初耳ですが続けて」

「だがそれは強制的に繁殖して家に捕らえようとするテキトー先生の実家と同じ思想だと……うん……?」


 フリョウは怪訝そうに顔を顰め、顎に手を当てた。


「…………同じか?」

「よォっし戻って来たァ! 全然違いますよ根本的に! 確かに結構強引な押せ押せ見せたのは確かですが、そこまでオレの意思無視ってわけでも無けりゃ無理矢理モノにしようってわけでも無かったですからね!」

「……何故俺は無理矢理手籠めにして子を孕ませ強引に実家へ連れ去るつもりだったと思い込んだ……?」

「いや本当それェ! オレがいっちばん聞きたいっすよそんなのォ!」


 良かったァ! とライトはフリョウを抱きしめた。腕回んないけど良いよもう。あー怖かった凄く怖かった。


「てか何かやったのって間違いなくテキトー先生ですよねェ!?」

「おう、まあな。しっかり解除されちまったが」


 うーむ、とテキトー先生は困ったように笑いながら首を傾げる。

 否、そこまで困ったようでも無く、眉を下げてはいるが愉快そうな笑みだ。


「お前の禊祓、浄化特化でもあるとは昨夜聞いたが……まさかこれも解除してみせるとは。いや、意図的に使用したからこそ、か? まあ対象自身の進む先をこちら側で調整する、というのは対象自身からすれば邪魔認定となり、祓われる……というのもわからなくはないが」

「……テキトー先生、何か催眠術的な魔法使いました?」

「おう。お前にあっさり解除されたがな」


 ふむ、とテキトー先生は楽しそうに手をグーパーして確認する。


「オレにも使用されたようだが、実家からオレに掛けられてどうにも解除し切れなかった()()()()()()()()()()という洗脳が切れてるな。対抗する為にオレ自身に使用した()()()()()()()()()()()()という洗脳は維持……対象を守る、あるいは強化目的であれば有害認定は出されないというわけか」


 テキトー先生は、こいつは面白い、とカラカラ笑った。


「オレが細工した厄介な父兄なんかの場合、当人からすれば有害な洗脳。しかし他人からすれば平和的になってありがたいという判定になる洗脳となれば、禊祓はどういう判断を下すのか。オレに掛けられてた洗脳を知らないはずのライトがそれにも対応してみせたという事は、判定は魔法が自動で下すと」

「テキトー」

「あ゛」


 やべ、とテキトー先生が呟くが早いか、その脳天にデカいたんこぶが出来上がった。


「……い、っつぁ……手加減しろよ……」

「した」


 頭を押さえて涙目で睨むテキトー先生に、コワイ先生はフンと鼻を鳴らす。


「少なくとも貴様が吾輩に使用した行動操作コマンドの仕込みは解除されたようで何よりだ。後で詰める」

「安全策だってぇ。コワイが気付けてなくて対処に遅れた時とか、先に仕込んでおいたら即座に反応させる事が出来るからさぁ」

「同意無しをやめろと吾輩は言った」

「いやー、それにー、ほらー、お前の甥っ子が友人君困らせてたしー……」

「貴様のせいでより一層困っていたようだが」

「個人的な解釈の違いってヤツだな。認識に相違があったようだ」

「すまない、フリョウ、ライト。詳細はお前達同士でしっかりと話し、どうするかをお互いで決めてくれ。吾輩は今からこの馬鹿を締め上げる」


 そう言ってコワイ先生はテキトー先生を掴んでベッドに放り投げ、ベッドに近付きカーテンを閉めた。


「えっちょ、コワイ? あの、オレそういう痛い系はちょっと勘弁してほしい感じなんだが……あ゛だだだだ腕を雑巾絞りするのはやめてくれ! 頼む!」

「安心しろ、皮膚をねじ切りはしない。まずはひたすら説教代わりに痛みを与え、そこから尋問だ」

「既に拷問! 説教なら普通に言葉で注意してくれれば良いだろ!?」

「貴様に口先で勝てる気がしないのでな。となれば物理には弱い貴様に物理で仕置きするしかあるまい」

「あだだだだ指と指の間の薄い水掻き部分ねじるのやめだだだだだだだ」


 何だろう、カーテンの向こうで微笑ましいようなそうでもないような会話が広がっている。体罰と言うには難しいけれどまあまあ痛いポイントを突いてる辺り流石保険医。いや、流石と言っちゃ駄目だろうけど。


「……とりあえずフリョウさァ、男同士にはオレも偏見無いけど、今後の方針とか定まってくる卒業前くらいにその辺話し合いましょうよ。今の段階で結論出しても駄目だと思うし。あと単純に将来の目標が曖昧な今の段階じゃ無理」

「わかった」


 こくり、とフリョウが頷く。


「では親に手紙で話し、外堀から埋めていく事にする」

「フリョウ、オレが言ってる意味理解してる? 大丈夫?」

「元々、ライトにはよく助けられている、ライトの事をかなり好意的に見ている、といった内容は親に伝えていた」

「普通の友情だと思って聞いてた親御さん飲んでたモン噴き出すんじゃないかなァ」

「いや、恐らく母からはお前を囲い込む為の詳細な作戦内容を送られる」

「いや本当に何で!?」


 解呪能力者が欲しいと言っても息子さんがトンチキ言い出したら止めましょうよお母さん!?


「母は父に対し、間違いなく成功するだろう国家転覆案を提出し、それにより父に見初められた人だ。そういった手順作成を大変得意としている」

「手順作成以外の詳細が気になり過ぎる」


 何で王弟にそんな案を提出させて見初められてるんだ。

 幸いチリョウ国で不祥事が起きたとかいう話は聞かない。フリョウに王位継承権が無いという話からも結局実行はしなかったんだろう。

 しかし、ほんの少しの断片を聞いただけでも怖過ぎる。





「おー、いってぇいってぇ。酷い目に遭わされたぜ」

「無断で洗脳を施した貴様が言うか、テキトー」

「安全策だってぇ。ったく、お前が自殺しそうになってたのを止めたのはオレだってのに。自殺するなコマンドに感謝しろよ」

「確かに思考が自殺に向きそうな中、お前の洗脳のお陰でそこから無意識に意識を逸らす事となったのには感謝している」

「だろ」

「お前がやたらめったら吾輩の生活に食い込んで来たのも、吾輩の監視とメンタルカウンセリングを兼ねていたのはわかっている」

「な? 感謝されるべきだろ?」

「だからといってアウト判定も出ていない生徒相手に洗脳をするな」

「あだだだアイアンクローやめろいだだだだ! お前普段からお前の自室に私物勝手に増やして勝手に入り込んで勝手に菓子食って勝手にだらだらしてても怒んねえ癖に!」

「彼女の亡骸すら抱けなかった吾輩に誰かを抱きしめる権利は無い。そうしてこの世への重しを失った吾輩に、自らを背負わせる事で命の重しになってくれた事は感謝している。死なないように洗脳し、自分を使って吾輩が生きる未来を選ぶよう誘導した。それは感謝している。事実だ」

「だろ? だろ?」

「だがそれとこれとは別だ……!」

「ぁだだだだだだだだだ! 割れる! 頭が潰れた生卵にされる!」

「少し頭蓋の形が変わるだけだ。安心しろ、魔法で治す」

「治せるから痛めつけて良いっていうのは医療関係者的に悪の発言じゃないのか!?」

「お前に対してはただの正義だ」

「くそ、正義に個人差があるせいで身が守れん!」



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