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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
悪霊退治
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おれのせい



「おお、成功した!」

「これでどうとでもなる!」

「あの国に呪いを撒かせるか?」

「いや、先にこちらの子孫を増やしてもらった方が」

「コレを軸に呪いを撒けば、作らせた子孫も巻き添えを食らうだろう」

「呪いを撒かせて弱らせ、生き残りをこちらで確保すれば国も民も手に入るぞ」

「わざわざ呪わずとも、その手段があるぞ、と脅してやれば良い。その間にこちらの子孫を増やしてもらうのはどうだ」

「ああ、それは良い」

「あの国は随分呑気だからな」


 話し声が聞こえる。ミサは目を開けた。


「…………!」


 目の前には、体を拘束された爺さんが居た。

 すっかり老体となった爺さんが、オウマ国から出たと聞かされていた爺さんが、車椅子に手足を固定する形で拘束されている。その口には布で猿轡をされていて、ただ悲しそうにミサを見ていた。

 何で。

 どうして。

 どうして爺さんがそんな事に。


「しかし、死者の魂を呼び戻すなど……眉唾だったが、成功して良かった」


 わはは、と爺さんの周囲に居るいけ好かない顔と態度の男達が笑う。笑う。

 男達の服装、意匠からオウマ国だとわかった。自分はあそこで確かに、ヨクのお陰で安らかに死んだのは間違いない事も理解した。

 自分のせいで、爺さんが被害に遭った事も察した。

 ミサは頭が良かった。教育らしい教育は受けられず、爺さんに教わった事しか知らなくても、それでも感覚で大体を把握出来るくらいには賢かった。

 そう、賢かったのだ。

 これだけで理解出来てしまう程に。


(……おれのせいか)


 オウマ国が弱体化したとは聞いていた。

 国は衰退、民は違う場所へ移動し、子供の数が減った。ミサの父であるシンコウ・セイジャクが存命の頃はまだしも、ミサが死ぬ二年前に訃報を聞いた。それ以降、国の勝率はガクンと減ったらしい。

 そのせいだろう。

 彼らはミサがシャダイ国で沢山の子を作った事を知った。ミサを取り戻そうとした。ミサの機嫌を損ねるだけとわかっているからかそんな報告はされなかったが、ミサを返せという文書が届いたりしていたのかもしれない。

 そして、ミサが死んだ。

 大きくなった子供達が既に優秀な成績を収めているのを知っている彼らは、死んだ魂を呼び戻し、ミサの子をこちらでも増やそうとしたのだろう。

 死んだ魂を伝って、ミサと血の繋がりがあるシャダイ国の子達を呪い殺そうとしたのだろう。


(……おれのせいだ)


 死んだ魂を呼ぶには、器と触媒が要る。

 あちら側に定着している魂をこちら側に呼び、尚且つ呼んでいる間うっかり向こうに連れ戻されない為の器。

 器として用いられたのは、オウマ国で何度も優秀な成績を収め、それなのにミサ・セイジャクだけを表彰しないのはおかしいという市民からの訴えが多かった為にようやく手に入れる事が出来たトロフィー。

 向こうからすれば渋々でも、苦々しくても、確かに手に入れた評価の証。

 自分が成し遂げた証拠として爺さんに預けたはずなのに、大事にされていたとわかる輝きを放っているトロフィーは今やミサの魂を縛り付ける器でしかなかった。


(おれの)


 爺さんは、触媒として捕まったんだろう。

 呼びたい魂と縁の深い者。呼びたい魂に慕われていた者。

 父のシンコウ・セイジャクが死に、母のカナウ・ネガイは他国へ出た。ミサとの関わりも深く無い。

 対して爺さんは、ミサが幼い頃から大事に育ててくれた。ミサが慕う唯一の人だった。爺さんの生活の為にミサは身売りした。

 だからこいつらはミサの魂を呼ぶ触媒として、老体である爺さんを捕まえ、拘束した。


「しかし、ミサ・セイジャクといえばかなり気性が荒いと聞いているぞ。呼んだは良いが、暴走したらどうする」

「この爺が居る限り問題はあるまい。例え荒くれ者でも、恩人を見捨てはすまいよ」

「はは、それもそうだ!」

「人質が居るなら逆らえるはずもないか」


 男達は笑う。笑う。笑う。

 悲し気な顔の爺さんには目もくれず、笑う。


(違うんだ、爺さん。おれはあんたにそんな顔をさせたいんじゃないんだ)


 爺さんは、悲し気な顔だった。申し訳なさそうな顔だった。

 自分のせいで、と告げるような顔だった。

 違う。おれのせいだ。おれのせいで爺さんは苦しんでいる。こんな事に巻き込まれている。


(おれの)


 おれの、せいで。


『あ』


 ぐるんと腹の底が回る。脳が捻じれる。いや、そんなものは無いのかもしれない。だって体はもう無くなった。亡くなった。


『あ゛』


 懐かしい感覚。ここ二十年はほぼ感じなかった感覚。

 腹の底から喉に掛けてを焼くような、ヘドロが這い上がってくるような不快感。嫌悪。殺意。狂気。


『ああああああああああああああああ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!』


 どぱんと、何かが弾けた。

 叫ぶ。叫ぶ。叫ぶ。

 どうしてお前達は、おれの心を踏み躙るんだ。





 悪いな、ヨク。

 お前はおれが苦しまないよう死なせてくれたのに、おれは死にきれなかったみたいだ。





 その日オウマ国には、精神汚染が広がった。





「……世話役が残したとされる日記の総集編バージョンを見たからこそ納得したけれど、改めて聞いても酷い話なのだわ」

「折角幸せになれたのにね」

「ええ。でも、他の書物ではわからなかった謎が明らかになったわ。悪霊になる理由はあれど、死に際は壮絶ながら穏やか。満たされた生活なのに何故、それもシャダイ国では無くオウマ国で悪霊化したのかと思えば」

「親友さんとはまた別のベクトルで大事な、しかも掛け替えの無い恩人をそんな危ない目に遭わされたらそうなっちゃうのも仕方ないよ」

「わかったように言うのね、ジンゾウ」

「……ヒメちゃんがそんな目に遭ったら、同じ事をしないなんて言えない。僕はきっと同じ事をする。どころか、もっと酷い事をしちゃうかも」

「失礼ね。私はたかが暴漢程度に捕縛される程やわじゃないのだわ」

「そこ?」

「舐められてはいそうですかとは言えません。向こうも生かして捕らえる気だというのなら、自分の命を人質にする事で相手の隙を作る事も可能。年齢の問題はあれど、本当に死ぬ気で抵抗すればそんな事にはならないのだわ」

「死ぬ気の本気度合いがおかしいよ、ヒメちゃん。万が一があっても絶対そんな事しないで」

「万が一になる前に相手を全て仕留めるだけだ」

「ううん、頼もしいしそれでこそヒメちゃんだけど、何か期待してた反応と違うっていうか……」

「私はいつだって私なのだわ。親しくあれどもその他は他人。私ではないジンゾウが何かを想像したとして、それはジンゾウの中にしか存在しない私。現実の私が全てジンゾウの思い通りに動くなどあり得ない」

「……うん、そうだね」

「アカに限っては全て思い通りになるけれど」

「ヒメちゃん、その補足は要らなかったと思う」


「そういえばヒメちゃん、マンガさんに蛮族メスゴリラとか言われてたけど良いの? 怒るなら僕が代わりに怒ろうか?」

「代わりに怒る意味がわからないのだわ。それにその呼び方と良いとは言わないけれど、評価としては間違ってもいない。ザカの民の他評なんてあんなものでしょう」

「でも、良い意味じゃないし……」

「面と向かって言われるのは確かに不快を覚えるもの。けれど、悪霊との戦闘が出来るとは思えない、例え物理が通るとしても根本的に非力なマンガ。彼からすれば脅威でしかない相手を、何の用意も無く解放した以上、そう言いたくなる蛮行だったというのは認めます。発言に文句を言いたくても、マンガがあの程度の罵倒をしたくなる状況にあったというのは認めざるを得ないのだわ」

「ヒメちゃん、意外とそういうとこ寛容だよね」

「意外とは余計よ。弱い人間からしか出ないような罵倒にいちいち反応する程浅い器じゃないだけ」

「え、でもヒメちゃん、身長の事言われたら゛っ」

「……ジンゾウ、触るなと書いて囲ってある地雷を踏み抜くのは違うでしょう?」



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