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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
悪霊退治
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死に損ない



 ミサの父は人食い鬼と呼ばれていた。

 優れた戦士ではあったもののその戦い方は凶悪。狂暴、という言葉を五年程濃縮してもああはなるまい、と言われる程の人間だった。


「人はクソだ。死ねば良い」


 珍しく口枷を外した父が吐いた言葉は以上だった。

 父は普段、口枷を付けていた。つけられていると言っても良い。戦闘ではかなりの戦果を挙げるもののその戦い方は恐ろしく、加えて敵味方関係無く殲滅する。日常生活でも戦闘中と何が違うのかという態度であり、仲間でも道行く猫でも容赦なく殺しに掛かるようなのが父だった。

 その為、父は普段、口枷以外にも拘束具を付けられていた。

 囚人よりもよっぽど厳重に拘束され、基本は牢獄で過ごしているような人だった。

 味方としては頼もしいけれど、味方としては恐ろし過ぎる人でもあったからこその措置だろう。


「アタシを見ろ! 怯えて死ね!」


 母が戦闘中によく吐く言葉は以上らしい。

 女の戦士として、最早例外とさえ言える戦績を挙げているのが母だった。戦い方のノウハウも無いはずなのに、あり得ないはずの戦績を挙げていく。

 アレは気が違っているから近付かない方が良い、と噂される程には狂暴性が高い人だった。

 そんな二人の間に何故ミサが産まれたのかと言えば、お偉いさんの差し金だった。

 強い部下が欲しかったらしい。

 強い部下と強い部下を掛け合わせて、もっと強い部下を、と。


「何だこの醜いガキは」


 催淫剤を盛って閉じ込めて無理矢理作らせておいて、生まれたミサを見たお偉いさんの反応はこれだった。


「貧相だな」

「育ちそうにない」

「虚弱だ」

「熱を出しているのか?」

「生まれたばかりでこの下痢では助かるまい」

「おかしな足」

「気味が悪い」

「見ていて不快だ」

「母親もどうせ出来の悪い血筋」

「いっそ母子共々捨ててしまえ」

「死ぬ以外で役立つ事があるのかコレは」


 ミサを見た全員がそう言った。全員お偉いさんだった。立場ある者達だった。


「お前はきっと、立派に育つ。私が保証しよう」


 世話役の爺さんはそう言った。爺さんだけはそう言ってくれた。

 爺さんと言うには若かったが、若くから苦労を重ねたらしく歳不相応に老けていた。だからミサは彼を爺さんと呼び、ただの子供のように慕った。





 教会からの帰り、皆が死んだ。

 ミサだけが生き残った。


「どうしてお前だけが生き残った!」

「あんたが死ねば良かったのに!」

「おお神よ、何故彼らを連れて行ってしまったのですか。何故これだけを生かしたのですか!」


 全身に傷を負ったミサに、誰もがそう言った。

 見るも醜い子供だから神も不要として生かしたに違いない、とさえ言われた。


「お前が生きていて良かったよ」


 そう言ってくれるのも、頭を撫でてくれるのも、爺さんだけだった。

 両親とはそもそも会わない。父は独房。母は帰ってくる方が珍しい。親とはそういうものだと思っていたから、特に何も思わなかった。





 戦士になった。強くなった。


「やあミサ! 調子が良さそうだね!」

「……セイトウ……」


 頻繁に声を掛けてくるのは、戦士として誰よりも優秀だとされるセイトウ・ハ・ユウシュウ。

 人が良くて、優秀で、優れていて、嫌味が無くて、文句の付け所が無い男。そう、文句なんて無い。ミサから見てもセイトウは良い人間だった。

 ミサの悪口を言わない。ミサの態度から察して長話をせず去る。孤立しがちなミサに細かく連絡を入れてくれる為、作戦を通達されないといった事も無くなった。

 だが、セイトウの周りはそうじゃない。


「あんなの、目を掛ける価値も無いだろうに」

「セイトウ様に勝ったのだってただのまぐれだろう」

「調子に乗りやがって」

「チビの癖に」

「どうせクスリでもやってドーピングしたんだ」


 聞き慣れた暴言。セイトウが声を掛ける度に聞こえる声。


「……すまない、俺の部下達だ。ああいった事は品を無くすからやめろと言ってあるのに」


 その度にセイトウが申し訳なさそうな顔をする。そして後でまたセイトウは彼らに注意し、注意された彼らはミサを恨む事になるのだろう。

 だから、セイトウが嫌いだ。

 人として真っ当だから。良い奴だから。だから嫌いだ。

 誰に指を差される事も無い、真っ白に輝く、暗いところなんて無い人間。

 だからとびっきりに、大嫌いな相手だった。





 セイトウが死んだ。早い死だった。

 まだ三十にもなっていないのに、薬への拒絶反応で死んだらしい。


「あれがやったに違いない」

「セイトウ様と並び立てる強さだからって」

「一番になる為にやったんだ」


 誰もがそう言った。ミサの耳に届く範囲に居る誰もがそう言って来た。


「……お友達の事でそう言われるのは、悲しいな」


 爺さんが悲しそうに言った言葉の意味はよくわからない。

 セイトウは友達じゃない。ライバルのような存在だった。常に目障りで、常に追い抜け追い越せの関係性。親しく会話する事は無く、他の誰かがミサに告げる事は無い業務連絡が主な会話だった。

 だから、友達じゃない。

 ミサは見舞いにすら行かなかった。薄情だと指を差されても、ミサは見舞いに行く気はさらさら無かった。

 セイトウが死んだのだって、ただ、やけに早く死んだな、としか思わなかった。

 その態度がより一層ミサの悪評を呼び、セイトウの死に悲しみの涙が流された。





 オウマ国の情勢が悪くなった。

 戦士として優れた成績をあげていても、血筋が悪く評判も悪いミサは大した金額も貰えなかった。

 爺さんもそうだ。収入は得ているが、酷く生活が苦しくなっていた。


「お金なら用意出来ます」


 シャダイ国に誘われたのは、その時だった。


「我が国は血が煮詰まり、酷く少子化に悩まされています。そこで求めるのは、強い遺伝子! 優れた男! 要するに種馬になっていただきたい」


 随分明け透けな申し出だった。


「老若問わず相手していただきます。ほぼ毎晩に近いハイペース。妻にしたい相手が居るならこちらも応えますが、基本はただ子種を提供していただければ。生活は保障します。同じ生活空間に、同じく外国から迎え入れた男性もいたりしますが……それでもよろしければ、是非」


 シャダイ国の使いは言う。


「貴方程の優れた人間の遺伝子が、我々の国には必要なんです」


 その目はミサを見ていた。

 確かに、ミサを直視していた。

 誰も彼もがミサを醜いと罵り、生き残った事を罵り、強い事を罵り、やっていない事で罵り続けていたのに。ミサがどれ程の功績を挙げようとも、誰も見ようとはしなかったのに。

 爺さん以外で初めて、ミサを必要とする人間だった。

 ミサがこの世に必要だと言ってくれる人間だった。

 その他大勢と同じに見て偏見無く接するセイトウとはまた違う、強くミサを欲する目。


「いけ好かないと思えばおれは暴れる」

「出来る限り生活圏を他の男達からずらす事で対応しましょう。気に入らない事を少なく出来るよう努めます」

「そこまでするのか。おれに」

「貴方の遺伝子を後に伝え、我が国を繁栄させる為ですから」


 遺伝子目当て。大変結構。

 だってそれはミサを評価しているという事だ。正当に、ミサの実力を、その才能を評価しているからこその発言。

 碌な血筋じゃないと罵られたミサを、ミサの血筋を求められた。

 育ての親であり、唯一ミサの味方で居てくれた爺さんの生活を保障するだけの金も用意出来る。


「いいぜ、乗ってやる」


 主導権を渡すつもりはないと態度で伝えながらそう言ってやれば、相手は勢いよく立ち上がった。


「いよっしゃあああああああ良質遺伝子ゲットじゃあああああああ!」


 ちょっと早まったかなと後悔した。





 ミサの父、シンコウ・セイジャクは幼少期の暴力的虐待により全てを敵と見做す性格に。

 父は上司の奥さんの護衛を完璧にこなした事が伝説扱いされるくらいには常日頃の行動と性格が酷く、母もまた同様そんな感じ。さらに加えて周囲にも恵まれなかった結果がこれ。

 戦闘中ならともかく、普通の時ですら味方陣営に飛び掛かって腹を食い破ろうとしかねない人。その為拘束具を付ける事が義務付けられる。

 当然言う事を聞くわけないので、大暴れの結果毎回甚大な被害を出している。

 我が子との関わりもあまり無い為、我が子を我が子と認識しているかどうかも怪しい。ミサのギョロリとした目付きはこの人譲り。

 かなり長生きしたし、死ぬ直前まで大暴れは健在だった。


 母のカナウ・ネガイは没落した家系。奴隷にまで身を落とした事があるような家系。

 カナウの父によりカナウの母は奴隷から脱したが、母方の家系は皆穏やかというか、食い物にされがちな人間性ばかり。

 だからこそ負けない、と気が狂う程に食らいついたのがカナウ。

 妊娠中だろうと戦場で敵を葬りまくってたやべー女。

 ミサの身売り後しばらくして他国へ渡った。シンコウは嫌いじゃないが隣に居るのは危険だし、別にそこまで好きというわけでもないので単独渡航。


 セイトウ・ハ・ユウシュウは血筋も顔も体格も性格も良い男。お偉いさんからも人気者。

 家の者はミサを下賤な者としてその実力を認めなかったが、セイトウはミサの実力を認めていた。

 自分を負かした相手に悔し紛れの言葉を吐く方が、よっぽど見苦しい行いだから。そも自分に勝った相手を悪く言うのは自分もその低さと認定するも同義なので、それよりは相手の実力をきちんと認め、お互い気持ち良く上を目指せる関係性でありたかった。

 良き友人になりたいと思って声を掛けていたものの、嫌われているのも察していたのでそこまでしつこくはしなかった。

 不慮の事故で怪我をし、その際処方された薬にアレルギー物質が入っていたせいで拒絶反応を起こし死亡。予想外に早い死だった。



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