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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
悪霊退治
54/89

話は早い方が良い



 丁度明日、明後日は休日である事。

 出来るだけ早くクリアしなければ向こうからせっつかれそうな事。

 そういった諸々とアカが大丈夫と言ったならまあ間違いなく大丈夫だろうなという確信により、その日の日暮れ頃、ヒメ達はヤッカイ国にやって来ていた。


「ふう」

「助かったのだわ、ワガミチ」

「いえ、お役に立てたなら」


 疲れた様子で肩を回すのは、ヒメ達を一人ずつ担いで魔法を用いた移動を行ってくれたワガミチだ。

 大半は俵担ぎ、大柄な二人はファイヤーマンズキャリーで運ばれたが、感覚的にはワガミチが二歩目を歩いた瞬間には転移が終了しているので担がれている事による負荷も少ない。


「それに彼に関しては、私達も無関係ではありませんから。ゴオと親戚である私も、彼を先祖とする子孫。国を挙げて慕っている癖に何も対処していない後ろ暗い身として、このくらいは」

「そういえばオウマ国やヤッカイ国の方はともかくとして、ワガミチ達の故郷は何も対処しなかったの?」

「はい」


 ワガミチはライトの問いにそう返した。


「世話役さんの保護を最優先にしたのと、理由が理由だったので落ち着くまで暴れさせてあげよう、となったようです。思ったより本気のお怒りなのか、悪霊化で魔法が暴走しているのか……正気を失ったような状態が続いてますが」

「その悪霊についてなんだけど、魔法の説明ってあるかな? ヒメちゃんが纏めてくれた情報から汚染系というか他人に影響を及ぼす系なのはわかってるんだけど、詳細がわかってないから」

「ジンゾウなら多分見た瞬間に把握出来る気がするんですけど……」


 まあいいか、とワガミチは真顔で頷く。


「自分の影響を相手に与える。それが彼の……悪霊となった私達の先祖、ミサ・セイジャクの魔法です」

「自分の、影響? 随分と感覚的な説明だね」

「そう説明するしかないものなので」


 マッドの言葉にワガミチはそう返した。


「要するに、遺伝に近い魔法なんです。子孫に先祖の要素が残るように、この魔法は他人にミサ・セイジャクの影響を与える事が出来る。そしてミサ・セイジャクは性格に難があるというか、かなりヤバいというか……」

「具体的には」

「ゴオが毒吐き散らしながら金棒振り回して人間に恨みを持ってる状態くらい」

「ヤバいのだわ」

「ヤバいね」

「あー、それはヤバい」


 今年同クラスとなったヒメとジンゾウ、そして学年で知り合いじゃない人間は居ないんじゃないかとまで言われるコミュ強のライトが頷いた。

 頭も良くて運動も出来て天才肌、のヤツがそんな状態に陥っていたら絶望以外の何者でもあるまい。


「まあ、会話に成功さえすれば大丈夫な人だと思うんですけどね。逸話からしても。親友や女性相手には親し気に接する人だったようですし」

「それ以外には?」

「何をそこで突っ立ってんだゴラみたいな態度で暴れようとしたそうです」

「会話に成功の難易度たっか」


 ひえ、とマンガが慄く。

 向こうからしても突然ユニコーン頭被ってるヤツに話しかけられる状態になるのだから、ドン引き加減ではトントンな気もするのだが。


「ではそんなわけで頑張ってください。現在はあの城に粘着魔法で固定されているそうです。私は体調に自身も無いのでこれ以上近付けませんが、帰りの為にこの辺りのカフェでのんびりと待ってますね」


 めちゃくちゃ丸投げしてくるなとは思わないでもないけれど、トクサツを始めとした皆でやるべき事なので仕方あるまい。しかし、


「カフェと言ったって、既に遅い時間だから私達が戻ってくるまでには閉店時間になるかもしれないのだわ」

「その時は夜までやってるお店で待ちます。居酒屋とか。この国、未成年飲酒などにかなり寛容なので注意されたりもしないはずですし」


 流石は美味しい闇鍋、躊躇いが無い。

 実際ヤッカイ国は悪霊の影響かヤンチャ度の高いチンピラが人口の七割とまで言われているので、その辺りはさぞや寛容だろう。というか寛容にならないと店の窓を割られかねないとも言う。





 どうにか目的地である屋敷まで辿り着けたが、中々に厄介だった。

 というのも流石に治安が悪いと有名なだけあって、道中でめちゃくちゃ絡まれたのだ。

 近寄りたくないなと思わせる為にマンガのユニコーン頭をそのままにしていたのだが、それ理由に絡まれる。巨体のジンゾウ、巨体+険しい顔のフリョウで威圧しようにも目が合っただけで喧嘩を売られたと思い絡まれる。ヒメ、マッド、トクサツは女だという理由で絡まれる。ライトは人の好さそうなカモとして絡まれる。

 二歩歩けば絡んでくる勢いのチンピラにいい加減鬱陶しくなり、結果的に全員をヒメの魔法で包み込んで周囲の映像を映し出す事で迷彩とし、姿を隠してここまでやって来た。


「……既に疲れたのだわ」

「お疲れ、ヒメちゃん! 大丈夫?」

「ええ、このくらいなら」

「でも一年の時、舞台ですっごく疲れてたけど……」


 心配そうなライトにヒメは手をひらりと振って平気と返す。


「あれは全角度から違和感を抱かれないよう、背景を維持しつつ自分の身長、そして服装を誤魔化していたせいなのだわ。相手が視線を上下左右に移動させたり、こちらが動いたりする度に微調整を繰り返していたからこその疲労」


 我ながら、服装はともかくとして別に身長の誤魔化しは要らなかったようにも思う。

 でも低身長の兄貴分キャラというだけならともかく、ここまで低身長となると絵面の映え方も色々と問題では、と思ってしまったので仕方ない。


「今回は全体を包み込んだ事で、それぞれの動きに合わせて見え方の調整を入れる必要が無くなったのだわ。加えて調節もかなり手を抜きました。とは言っても違和感を抱けども何が違和感かわからない、くらいのぼやけ方だから、まさかそこに通行人が七人も居るだなんて思われないのだわ」


 これが舞台の上だとその違和感を気にし出して物語に集中出来なくなる、なんていう危険があるし、両親も見ている前で全力を出さずに手を抜くなんて出来なかったので気合いを入れた。

 だが、今はそういうわけではない。この場を喧嘩売られず通り抜ければ良いだけな以上、過剰な負荷が掛かる事無く何とか出来た。一気に全体を覆ったのも負荷が少なくなった理由だろう。

 大きな一枚の布で皆を覆うのと、七人分の布をそれぞれの体型に合わせた服を即席で拵える、なんていうのは明確に負荷が違う。そこを端折れたのは助かった。

 こういった事が出来るようになったのは、咄嗟とはいえ去年かなりの負荷を経験したからこその杵柄と言えよう。どうしたらコスパが良くなるか、を考える良いキッカケになった。

 まあそれでも身長の誤魔化しとか、相当無駄な事したな感は拭えないが。いやしかし舞台は見栄えが重要だし。うーん難しい。


「で、ここがそのお屋敷と。道中の時点で思ってたけど、近付く程に不快感凄い事になってるよね? 何このおどろおどろしさ」

「実際、この屋敷に近付く度に不快指数が上がっている。具体的な理由も無いのに、酷く理不尽に、だ。逆撫でされるような心地とでも言うのかな」


 マンガとマッドの言葉に、フリョウが真っ青になっているジンゾウとトクサツを見た。


「……アカの手紙曰くお前達は影響を受けやすいという話だったが、大丈夫か」

「ちょっとお城に居る時みたいに不安が大きくなってくらくらするし泣きそうな感じはあるけど、ヒメちゃんの近くでヒメちゃんを見てたら大丈夫」

「僕も、うん、マッドの腕を抱きしめていれば平気よ。ちょっと変な感じだし、ママの機嫌を窺っていた時みたいな不安はあるけど……うん、大丈夫」

「大丈夫じゃないな。ライト」

「まっかせてくださいよォ」


 即断でアウト判定を出したフリョウの言葉に、ライトがこの場に居る全員に対して魔法を使用した。

 邪魔を退けて本来の力を出せるようにする祓が全員に効果を発揮し、一瞬にして倦怠感や言葉に出来ない不快感を祓い去る。


「……こういった状態だと、凄さがよくわかるのだわ」

「本当! 凄いよライトさん! さっきまでの思考回路が何だったのかってくらいに落ち着いちゃった!」

「そ? 良かったァ。オレの魔法なんてこういう時くらいしか役立たないけど、原因が外部にあるンならどうにかは出来るから」


 へへへ、とライトは照れ臭そうに表情を崩して頭を掻く。

 コミュニケーション能力といい人脈といいムードメーカーなところといい、そしてこの祓といい他の誰かでは補えないところをかなり補ってくれているのだが、本人としてはあくまでサポート感覚なのか少し自己評価低めなのが気になるところだ。

 とはいえトクサツ程の闇が滲み出ているわけではない為、深い理由があってその認識に、というわけでもなさそうなところはセーフ。強硬手段に出なくても改善出来そうなのが良い。


「さて、それじゃあ行くのだわ。目的の物がある場所を知っている者は」

「はァーい、任せて」


 図書館で得た情報でも詳細な地図情報等は得られなかったのだが、しっかりそれを把握しているらしいライトがパチンとウインクして手を挙げた。


「ヤッカイ国出身の友達がさ、定番の肝試しでここ使うって教えてくれたんだ。と言ってもヤンチャなタイプの若者が試すヤツで、悪霊の封じられてるトロフィーに触れて帰ってくる、っていう肝試し」

「絶対やらない方が良いやつよそれ!」

「うん、お友達の兄世代で流行ったけどチンピラどころじゃなく頭がラリったみたいで絶対やるなって扱いになってるって」


 ドン引きしたトクサツの言葉に、ライトは真面目な顔で頷く。


「でも当時、兄は挑戦しなかったけどその時用意された地図はあった。現在も持ってたらしい。だから連絡を入れてもらって写しを貰った」


 これね、と言ってライトは懐から手描きの地図を取り出した。


「地図としてはあんまり出来が良く無いけど、目的地までのルートはバッチリ載ってる。どう?」

「ナイスなのだわ!」


 手がかりがないならジンゾウに魔法を使って場所を教えてもらうつもりだったが、使わなくて良いならそれに越したことはない。

 これに関しては、コミュ力の高いライトだからこそ出来た事だ。





 というわけで目的地に到着したわけだが、


「ひっどい有り様なのだわ」


 馬に乗った戦士のトロフィー。

 戦士の首は欠け、剣でも持っていたのか掲げられている右腕も途中から折れて無くなっている。乗っている馬も首が折られ、尻尾は欠け、左前脚もバッキリと割れて行方不明になっていた。

 挙句の果てに、上からコールタールでも掛けられたかのような黒ずみ汚れ。

 そんなトロフィーの、戦士の胴体に、交差するように光り輝く鎖が巻き付けられている。中心には鍵が掛かっており、見るからに封印具。

 とはいえかなり寿命のようで、鍵部分は少し触れればすぐに解除出来てしまう程緩んでいた。

 そう、本当に、ただ引っ掛かっているだけと言える程には封印が緩んでいるというわけだ。


「……ライトの祓があるお陰で助かるのだわ」

「…………屋敷に入る前の段階から既に影響を受け始めていたくらいだからな。これだけの近距離となればどれ程の影響を受けていたか」

「そんな褒めたって何も出ないっすよォ!」

「うっ」

「まあでも時間切れとか起こらないようしっかりめに掛けておいたんで安心してください!」

「うっ、ぐっ」


 照れながらはしゃいでいるライトがにっこにこでフリョウの背中をバンバン叩いているが、フリョウはそれなりにダメージを受けているようだがあれは良いんだろうか。単純にこういった強めのスキンシップに慣れていないだけにも見えるので多分大丈夫だろう。よし。


「さて……アカは悪霊にも魂でぶつかれば物理が通ると言ってたわね」

「ヒメが物理に強いのは前にトクサツの件でわたしの魔法を使用して覗き見させてもらったから知ってるけど、今回はまた違くない?」

「でも封印を解かない事には対処のしようも無いのだわ」

「あっちょ、行動が早いこの蛮族メスゴリラ!」

「失礼過ぎるのだわこのユニコーン頭!」


 緩んでいた封印具を引っ張って解除しただけでそんな暴言を吐かれるいわれはない。ターゲットの首が隠れている以上首が取れないのだから、相手の首を目の前に持ってくるのは必要不可欠な事だろうに。

 そう思っていれば、トロフィーが先程までとは比べ物にならない程真っ黒く染め上げられてゆく。

 首などの欠けた断面からは真っ黒い、しかし血を連想させる粘度の液体がごぷりと音を立てて流れ始め、床に触れる。


『あ、あ、あ、あ、あ』


 ずるり、と人が現れた。

 体のところどころが蜃気楼のように揺らぎ、機関車のように煙を吐いている体。それでもしっかり、と言うにはどこか歪に曲がっている二本足で立っている。

 何かを呻いていた男の黒い前髪の隙間から、顔を覆っていた手の隙間から、ギョロリと光る目がこちらを向いた。


『あ、ああああああ゛あ゛あ゛っっっ!』

「あら」


 殺意が向けられた。結構。敵意が向けられた。結構。殴るつもりか掴み掛かるつもりか読み辛い手が向けられた。結構。歯並びの悪い口を開けて迫られた。結構。

 いやまったく、結構な事だ。


「この程度で」


 鼻で笑いそうになるのを堪えながら、伸ばされた手の手首を掴む事で抑え込む。

 続いて伸ばされたもう片方の手も、空いているもう片方の手で手首を掴み完全に両腕を封じた。

 目の前に迫るは大きく開かれた口。


「怯むと思われているのが不快なのだわ」


 ヒメは掴んでいる手首の持ち方を一瞬で変化させる。

 下から掴む形だった手を引き、上から掴む形にした。そのまま相手の腕を軸に使い、逆上がりの要領で胴体を動かさず下半身だけを動かし目の前に迫る顎に膝蹴りを食らわせた。


『っっっっっ!?』


 まさかこの体勢から、幼く見える少女が対応するどころか迎撃までするなんて思わなかったのだろう。その上、悪霊である以上実体はない。それなのに物理が通じる事に動揺したか。

 そんな事はヒメにとってどうでも良い。

 攻撃を仕掛けられ、ただ迎撃しただけで済ませる程タカラザカはぬるくない。

 顎への思いがけぬ一撃で体勢を崩した相手を見逃さず、ヒメは目の前に晒された喉を、手を引く事でぶつかる程引き寄せて、


『ああああああああああっっっっ!?』

「う゛ううううううううううううっ!」


 思いっきり、歯を突き立てて食らいついた。





「ところでワガミチ、未成年飲酒をするつもり?」

「まさか。許されるからといって飲んだりしませんよ。あんまり美味しくありませんし」

「飲んだ事がある発言なのだわ!?」

「それに、こういったところで未成年飲酒をすればカモに見られますからね。他国の若者となれば尚更です。地元のヤツにバラされたくなければ、と言って脅される可能性もある以上、危ない橋を渡る理由はありません」

「未成年だから飲まない、って理由じゃないのが問題な気がするのだわ」

「酒も飲んでないのに常に酔っ払いみたいなテンションのゴオを見ているので、飲んでも飲んでなくても変わらないな、と思いまして。それに果実酒は好きなんですけど、こういうところのお酒って麦酒や度数が高いだけの酒が多くて味は微妙でしょう?」

「飲んだ事無い未成年がそんな事を知ってるはずないのだわ」

「ヒメの場合、こういった治安の悪い酒場でよくある突発乱闘で勝利を収めて周囲から金を巻き上げたりといった行動が取れそうですけどね」

「腕っ節を認められるのは嬉しいけれど、その評価は嬉しくないわ」

「ヒメちゃん、普通は腕っ節についても嬉しくないと思う」

「私は嬉しいから気にしません」

「気にして!?」

「ジンゾウも彼女の腕っ節を褒め称える事が多い癖に何を今更」



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ヒメ・キシさんクロアシネコ様モードになってますね。
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