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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
後始末
53/89

ゴオとワガミチ



 とにかく、情報が少ない。

 期限はそれなりに近いが余裕が皆無というわけでもないし、アカが大丈夫と言っているならそのまま特攻しても大丈夫な気はするが、調べておける事は調べておこう、という事になった。

 そもそもその案が可決される時点でアカの思い通りな気はするが。

 さておきそういうわけでいつものメンバーは一旦解散した。各々好きに調べて情報収集、というわけだ。それぞれの得意分野や読みやすい方向から攻める方が人海戦術的にも合っている。

 ヒメ、そして当然のように同行しているジンゾウは、まず図書館を攻める事にした。


「とにかくジンゾウはその悪霊、または悪霊を持ち込んだ女性に関する資料を片っ端から持ってきてほしいのだわ。ジンゾウならほんの一文しか書かれていない本でもこの膨大な本の山から見つけ出せるわね?」

「勿論!」


 ジンゾウは自信ありげに笑って胸を張る。


「任せて、ヒメちゃん!」

「ええ、任せるのだわ。集めた本はこの机に。私が内容を速読します。速読と言ってもしっかり読むわけでもなく、()()()()()、という情報を得るためだけど」

「あ、そっかヒメちゃんの魔法って一回見聞きさえすればヒメちゃん自身がハッキリとは認識してなくても正確に記録されるんだっけ」

「そういう事」


 大体こんな感じ、という曖昧なイメージから具体的な映像を出現させる事も出来る為、こういう時には役立つ。

 雑多に仕入れた情報からその時々に応じて欲しい情報だけをピックアップして抜き出す事が可能、というのは明確に強い。


「わかった、それじゃあとりあえず持てるだけ持ってくるね!」

「助かるのだわ」


 よし、頑張ろう。





 三時間で膨大な量の蔵書がある学園図書館、そこに詰め込まれたヤッカイ国の悪霊についてを完全に調べ上げ終えた。

 オウマ国時代についても勿論調べ、古い日記等から生前の名前や生い立ちも調べたが、


「……悪霊になる理由も、オウマ国で荒れる理由もわかるけれど……」

「晩年、結構穏やかだよね? 死んだのもオウマ国じゃないみたいだし、ちゃんと手厚く葬られてる」

「悪霊になるには死ぬ瞬間こそが一番大事で、死ぬ間際が穏やかであるなら悪霊になるはずないのだわ。それも死亡が確認されてお墓も作られた国に出るならともかく、そこから距離があるオウマ国に出現してる。何故?」


 魔法で情報を纏められたヤッカイ国の悪霊についてをホログラムで表示しジンゾウと二人で覗き込むが、明らかにおかしい。

 死んだその場所で悪霊として発生、わかる。死に際に恨みを抱いていたので悪霊化、わかる。

 だが死んだ場所でも無ければ、病で酷く苦しみはしたものの死に際は周囲に見守られながらな大変穏やかなものだったとある。


「若い頃の評価は散々だけど、これは書いた人達の主観でしょうね」

「だと思う。残ってる当時の人達の日記、手紙からは好意的な印象があるし。偉い人達や報道陣営に嫌われてた、っていう感じなのかな?」

「おいおいなーに覗き込んでんだよ。面白い?」

「あら、ゴオ」


 隣同士で座ってホログラムを覗き込んでいたら、割り込むようにして後ろからやってきたゴオがヒメとジンゾウの肩を抱くようにして参戦してきた。

 ゴオは二年になってからクラスメイトになった男子生徒であり、フルネームはゴオ・イング・マイ・ウェイ・セイジャクと中々に長い。本人曰く、


「何せゴオちゃん、色んな国のお貴族様の血が流れてるからな! 名前が長いって事はそれだけ偉いって、ア、事よォ!」


 との事。何故歌舞伎調のポーズとリズムで言ったのかよくわからないが、ゴオは基本的に自分が楽しい事をするタイプなので深く気にしてはいけない。

 彼の親友曰くゴオは、連続性と整合性が無いようなあるような言動をする優等生。ダイヤモンドで出来たビックリ箱。

 実際交流してわかったが、その表現が本当にピッタリくるタイプの人間性、という男だった。


「ちょっと色々あって必要だから調べてるのだわ」

「この情報……ミサ・セイジャクか?」

「ええ」


 おや、とヒメは少し違和感を持った。

 確かに悪霊の生前の名も情報としてホログラムに表示されている。すいすいとスワイプして表示されている情報を速読しているゴオならその中にある名前を読み取ったとも言えるが、悪霊の方を知っているならヤッカイ国の悪霊、と言うだろう。わざわざ本名の方で呼ぶまい。

 自然とそちらで呼んだという事は、


「ゴオ、もしかして彼の生前を知ってるの?」

「ま別に詳しくはねーけど、先祖だし。普通に知ってるってか語られてる」


 言われてみれば、確かにファミリーネームが同じだった。

 流石に世代が離れすぎているし、この学園は様々な国の生徒が混在しているので可能性は低いと思っていたが、様々な国の生徒が混在しているからこその一致だったらしい。


「俺様ちゃんみたいに優秀で頑丈なのが生まれるお国になったのはミサ・セイジャクのお陰だーって言って歴史の偉人扱いになってんぜ」


 まー他にも色々子孫は居るんだけど、とゴオは言う。


「うちの家系はセイジャクの血を絶やさない為に男児は積極的に沢山の娘と子を成すよう言われてて、俺様ちゃん今から素敵な女性と色んな夜を過ごせる事にわっくわく」

「ゴオさん! ヒメちゃんの前でそういう破廉恥な事言わないで!」

「うわ勢いつよ。ごめんて」


 瞬時に耳を塞ぎに来たジンゾウの手がすぐ離れたのでヒメは文句を言わない事にした。最早諦めの境地。


「しっかし本当に調べたなー。ほぼ全部の情報あんじゃん。これとか超マイナーどころか分野違いの研究者の論文でちろっと出て来た一文なのに」

「それを知ってる時点でその論文を読了済みな方が驚きなのだわ」

「あー、俺様ちゃん一時期論文読み漁るのに嵌ってた時期あったから。読み飽きたけど。時々見当違い過ぎる意見が数百年支持されてて、大正解な論文が当時の新聞でクソアホボケ論文扱いされてるのとか比較して爆笑したりしたなあ」


 楽しみ方が数段階違う。流石ダイヤモンド製ビックリ箱。


「で、()()、というのは?」

「あ? あー……」

「これが知りえる限り全部ではないと、()()()()()()()()()出る台詞なのだわ」

「んあー…………」


 ゴオは面倒臭そうな顔をしたかと思いきや、そのまま自然にすっとぼけたボケッと面になった。視線を逸らして口を開けて馬鹿の顔をし、


「それで諦める私じゃないのだわ」

「だよな」


 ヒメがその程度で聞くのを諦める人間じゃないと判断してすぐスンッと元の表情に戻る。素で頭が良い為、こういうところの判断は早い。


「えー、でも説明すんのめんどーい……秘蔵の日記じゃ駄目?」

「秘蔵の日記?」

「ミサ・セイジャクの世話役が残した日記。ここの蔵書には無い、ミサ・セイジャクが何故悪霊化したのかという真相までバッチリわかっちゃうお宝だぜい。どうする?」

「是非、読ませてもらいたいのだわ」

「え~~~~? どうしよっかな~~~~?」

「ジンゾウ、武力行使の許可を出します。殺さず要求を通しなさい」

「え、僕!? ええ……じゃあゴオさん、ちょっと手首貸して。手首を掴んでゆっくり力を入れていくから。それでも駄目だったら手の骨はどのくらい分割出来るかでも試そっか」

「即座の判断でする結論じゃねえだろ何考えてんだテメェら!」


 こっわ! とゴオは自身の身を守るように肩を抱いて後ずさった。言動がアレな割りには案外まともなのがこの男。

 仮にそのまま武力行使を通したとしても、ちゃんと治すのに。ジンゾウかフリョウかコワイ先生が。


「ったく、仕方ねえなあ。見てろよ。今すぐにゴオちゃんワープで持ってきてやっから」


 言い、ゴオは魔法を使用しその場から一瞬で姿を消した。

 その情報があればかなり輪郭が見えてくるのでは、とヒメが安堵し、


「でもヒメちゃん、そういえばゴオさんのワープ魔法って行き先ランダムだったよね?」

「あ」


 その言葉と同時、丁度見える位置にあった図書館の窓から、上空より落っこちて真下に居た生徒を巻き込み墜落したゴオが見えた。





 ゴオの親友であり親戚の、そして先程頭上から親友に落下されたワガミチ・ペースが髪に葉っぱを付けたままゴオを引っ張ってヒメ達のところへとやって来た。


「どうも、こんにちは。話は聞きました。何やら事情があって私達の先祖を調べているとか」

「ええ、まあ。それで説明を端折って秘蔵の日記を見せてくれると言い、ランダムワープした結果があの墜落なのだわ」

「聞きました」

「ゴオちゃんワープだってのに!」


 ぷんすか怒っているゴオだが、服を掴まれ引っ張られている事自体には怒っていない辺り流石親友。

 ちなみについ先日、ゴオは喧嘩っ早い一年に服を掴まれた結果、喧嘩を売られる前にキレてぶん殴り吹っ飛ばしたらしい。気に食わないと判断した瞬間反射で潰しに掛かるのがゴオである。


「では一先ず私が故郷に戻ってその日記の貸し出し申請をしてくるので、その間ゴオにそれ以外の現地でしか語られていない話でも聞いていてください」

「ワガミチ!? 俺様ちゃんが行くって言ってんじゃん!?」

「貴方のランダムワープじゃどうなるかわからないでしょう」

「ゴオちゃんワープ! それにやろうとすれば目的地にバビュンッて行くくらい出来るし! マジだし!」

「じゃ、ちょっと行ってきますね」

「あっちょ」


 余談だが、ワガミチも転移系魔法の持ち主である。

 ゴオのランダムワープとは違って目的地に確実に行けるそうだが、何かを抱えた上で走り出す、という工程が必要条件。

 しかし何かというのはぬいぐるみでも良いようで、ワガミチはベルトに着けていたゴオをミニマムにしたようなストラップを手に持ち、力強く一歩を踏み出し、大きくジャンプするように前進して二歩目を踏む、瞬間その姿が掻き消えた。

 残されたのは、止めるのも間に合わずポカンと口を開けたゴオ。


「あ……んの白髪好き! いっつもそうよアイツったらアタシの事なんて気にしてないんだわっ! ワガミチがアタシと仲良くしてるのはきっとアタシが白髪だからよあの白髪フェチ! だってアタシがちょっと別行動して様子見てるとすーぐ白髪の人に視線奪われるんだものあの浮気者は! 最低! ヒメもそう思わない!?」

「急な裏声はやめてほしいのだわ」

「っていうかヒメちゃんに近付き過ぎ」

「何だよボディーガード気取りやがって王子様の癖に」


 むう、とゴオが唇を尖らせる。


「っつーかマジで置いてくとか無しだろワガミチの馬鹿! 俺様ちゃんを置いてくなんて拗ねるぞ! そりゃもう拗ねるからな! ぜってー拗ねてやる! アイツのベッドの上を占領して夜通しナイトフィーバーで大音量で歌って踊ってベッドに大ダメージ入れてやる! 眠れぬ夜を過ごすが良い!」


 拗ねる宣言をしたりワハハと高笑いしたり忙しいが、多分ワガミチはダメージを受けないんじゃないだろうか。

 クラスでの様子を見ている限り、そうなったならワガミチは間違いなく速やかにゴオの部屋に行ってゴオのベッドで快眠し、後日ベッドが壊されていたならゴオのベッドとその日の内に交換するとかをやってみせる。

 ゴオがダイヤモンド製のビックリ箱なら、ワガミチは美味しい闇鍋と言われる男。絶対やる。


「……でも言われた事やんないと怒るからなーアイツ。で、ヒメ達はさっきの表示されてた内容は全部把握済みな感じか?」

「ええ」

「うへー、じゃあマジであの秘蔵日記読めば大体把握出来るだけの情報揃ってんじゃん」


 ワガミチ無茶言うー、とゴオは嫌そうに舌を出した。


「そうなると俺様ちゃんから出せる情報マージで無いんだけど。生まれつき足の関節が変な歪み方してて内股みたいな脚の形してたってのは?」

「書いてあったのだわ」

「だーよなー。まあ内股っぽくてもよく見るとマジで関節部分が変形してたからちょっと印象違ったらしいけど、だから何だって話だし……片っ端からめっちゃ喧嘩売る」

「うん、書いてあったね」

「そんな触れるもの皆傷付けるガラスのナイフなメンタルだけど、身売りした先で老若問わず女好きを発揮して宛がわれた女全部抱いて孕ませてピロートークまでちゃんと出来る男っぷりを発揮した話は?」

「ヒメちゃんの前でそういう話をしないでくれ!」

「痛いしジンゾウの声が喧しいのだわ」


 勢いよく耳を塞がれた事に苦情を言えば、あっごめん、と言ってジンゾウはしょんもりしながら手を離した。まったく。


「これで駄目ならいよいよネタが……あーいや、あれとか? どんな女とでも寝る男だったけど」

「ゴオさん?」

「まあ待て待て。そんな男だったが、心を許して甘えるような動きを見せたり、安心して身を預けたりをしてた対象は同じく身売り仲間の親友だったって話」

「親友が居るのは読んだのだわ」

「身売りに関しても書かれてたけど、そこまで仲が良かったの?」

「らしいぜ。いつもならソイツが居るはずの時間と場所にソイツが居ないだけでキレ散らかして暴れ狂うぐらい」

「……そう……」


 晩年は穏やかだったと書いてあったが、本当にそうだったのか心配になるくらいには結構キレ散らかしているような気がする。

 そうヒメが遠い目になると、走って来たかのように突然飛び込んでくるワガミチが。


「よ、っと」


 ヒメ達のすぐ近くに飛び込んで来たワガミチは驚いた様子も無く、危なげも無くトットットッと小走りするように勢いを殺し、ヒメ達に視線を向けて指先をひらりと振る。


「お待たせしました。ゴオのワガママが起こったからって説明して貸し出し申請に許可貰って来ましたよ」

「早いなって思ったらワガミチてめぇ! あんまワガママ言うじゃありませんとかのお小言お手紙届いちゃうじゃねーか!」

「日頃の行いだと思います」


 ガッと技を掛けにかかるゴオを片手でいなしながら、ワガミチは持っていた本をヒメに差し出した。


「これが、悪霊となった生前のミサ・セイジャクを育て、愛し、慈しんだと言われる世話役の日記です。正確にはミサ・セイジャクに関する部分をピックアップして一冊に纏めた総集編ですが、この方が文字といい内容といい見やすいかと」

「助かるのだわ」

「無視すんなワガミチ!」

「はいはい」


 大人しく技を掛けられ始めたワガミチと技を掛けてぎゃあぎゃあ喚くゴオを横目に、ジンゾウが後ろから覗き込んでくるのを感じながら、ヒメはその日記を開いて読み始める。

 成る程、悪霊になった理由は大体わかった。納得。





「前から気になってたんだけど、ワガミチさんのそのストラップってゴオさんモデルだよね?」

「そうですよ」

「手作り?」

「そのようです」

「だよね、鑑定で視ても製作者、ゴオ・イング・マイ・ウェイ・セイジャクって表示されるし。でも不思議だなあ」

「わざわざ自分モデルで作って私に持たせた事が、ですか?」

「うん」

「私の魔法はご存じの通り、何かを持つ、という動きでも成立します。可能なら人型であると効果が高いというか、正確度や負荷の度合いが変化します」

「ふんふん」

「それを知ったゴオは人形を持てば良いと言ったので、成る程と思いその日の内に町で適当な人形を買ってポケットに入れました」

「うんうん」

「が、何故かゴオがそれを嫌がり、翌朝に」


「見ろワガミチ! 俺様ちゃん手作り、ゴオちゃんストラップだ! ミニマムな俺様ちゃんを連れ歩け!」

「何故」

「ぅルっせーよこの白髪好き! そんな白髪の人形を俺様ちゃんに見せびらかすみたいに持ち歩きやがって浮気者め! 貴方っていつもそうよ白髪なら誰でも良いのね! 俺様ちゃんと一緒に居るってのにそんなもん許すかよと思い俺様ちゃんが一針一針丹精込めて愛とか念とか落語とかを込めて作ったのがゴオちゃんストラップ! 今後これを持ち歩け! これなら常に俺様ちゃんと一緒なので俺様ちゃんは満足だぜ!」

「……落語……?」

「ああ、覚えてる落語を語りながら縫ったから」

「そうですか。…………よくわかりませんが、ありがとうございます」

「んじゃこっちは要らねえな?」

「は?」

「お空の彼方にポォーーーーーーイッ!」

「あー……」


「……というやり取りで前任が遠くの空に殉職してしまい、その後これを持ち歩くように」

「わあ」

「最初は何度かベルトに付けるのを忘れたんですが、気付くと勝手に付いているので便利だなと」

「待ってそれ呪いか何かじゃない!? 鑑定で視ても呪いの反応無いけど呪いの動きだよソレ!」

「まあ……」


「ワガミチ、今日はミニマムな俺様ちゃんは?」

「あ、忘れましたね。すみません。明日は忘れないようにしま……(ベルトを見て付けた覚えのないストラップが付いてるのを視認)……?」

「今日も忘れてないようで良し! 流石は俺様ちゃんお手製!」


「というやり取りが毎回なのでゴオが何か細工をしている気もしますが、結果として助かってはいますし。別の何かで代用可能とはいえ、人型の方が効率的ですからね」

「えっと……ワガミチさん的には明らかにホラー展開でもそれで良いの?」

「私には無害なので、特には」

「……ワガミチさんが美味しい闇鍋って言われている理由、わかる気がするなあ」

「その呼び方、不本意なんですけどねえ」



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