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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
後始末
52/89

アカからの指令



 テキトー先生は椅子に腰かけ、ヒメ達の反応に眉を顰める。


「何だ、驚いてないな。それに納得するような事が、トクサツ奪還時に発生でもしてたか?」

「奪還とは随分荒っぽい言い方なのだわ」

「いや絶対荒っぽい事しただろお前ら。詳細は聞いてないけどそのくらいわかるからな? 今までどんだけ若者導いてはそのケツ拭いてやってると思ってんだ」


 ったく、とお茶を飲み始めたテキトー先生が虹色に光り出した。


「…………おい、何だこりゃ。オレが随分愉快な事になってるんだが」

「ああ、前に作った薬の改良でね。丁度良かったから試させてもらったよ。不快にさせたなら申し訳ありません。ちなみにそれは前回の虹色から改良され、虹色は虹色でもすぐ違う色合いに変化する、という光の反射角度等を含んだ効果になっている。前回はただひたすらに虹色というだけで、動く事で色合いが変化、という事は無かったので」

「マッド、オレはお前さんを受け持った事は無いが、お前さんを受け持った先生方が成績だけは良いし素行も最悪という程では無いんだが厄介で困るという評価を下していた理由がわかったよ」


 こういう事かぁ、とテキトー先生が額を押さえて俯く。

 恐らくテキトー先生が洗脳を使用する程の悪行はしていない為セーフ判定を出され、テキトー先生に内情を報告、というところまではいっていなかったのだろう。


「生徒のヤンチャなんて可愛い範疇だが、これヤンチャかぁ……? いや、虹色はある意味ヤンチャって感じもあるしな。成る程、難しい話だ」

「それでテキトー先生、革命についてなのだけど」

「ああ、そうだったな。ところでヒメ、マッドに聞いてもまともに答えてくれない気がするからお前さんに聞くが、オレのこの現状の解毒薬って」

「私が持ってるはず無いのだわ。少なくとも人命や生活に問題があるわけではないはずです」

「現在進行形でオレとお前達の視力に影響を与えている気がするんだがなあ……」


 テキトー先生は微妙な顔でがっくりと肩を落とした。


「まあ、良いか……最悪後でコワイに頼もう……」

「で、本題の」

「ああ、革命な。国王が一時帰還した二日前に発生して即日革命成功。国王と女王は他国に亡命。革命の先頭に立って旗を振ってたのが国の王子という事で他国は様子見。それで、まあ、その革命した側から王家であるトクサツに対して不平不満を叫んでいるというか、革命の扇動者から連絡が入ってな」

「アカから?」


 ヒメが問えば、何故差出人の名を既に知っているのかとテキトー先生の目が光る。


「お前ら、トクサツ奪還の為に学外で誰と何した?」


 ちょっと城内に潜入して姫を誘拐して女王を脅して要求を呑ませただけだが、ヒメ達は全員顔を逸らして知らんぷりした。後ろ暗い事は別にないが説明が面倒なので。ええ本当です。


「……うん、そこについては突っ込まないでおいてやるか。教師職は踏みつけられるもんなら踏み躙ってやりたい程嫌いな概念だが、可愛い生徒は可愛いもんだし」


 テキトー先生も中々に家庭環境が闇っぽいが、そこに突っ込まずいれば懐から手紙を取り出した。





 まず最初に言う。すまん。回避出来なかった。

 もっとも俺の魔法を知っているお前達からすれば、回避出来ないはずがない、と思うだろう。というのも、俺が視た未来で一番良いのがこの未来だったのでこの未来を選ばせてもらった、が正しい。つまり回避は意図的に拒否した。

 だが言わせてくれ。これが最善の未来だ。

 そして最善に繋がる中でも、お前達の負担が一番低い未来を選んだ。それだけは信じてくれ。

 こうして言葉を重ねる程、文章内でも俺の胡散臭さや信用出来なさは吊り上がる事だろう。まあそれはいつもの事だから気にするな。俺は気にするがな。


 さておき本題だが、革命が成功した。

 先に話していた通り、滞りなく成功した。

 だが一部の王家に不審を強く抱く者達が、自分達の味方であるヒミツはともかくとして、間違いなくヒーロー家所属であるトクサツが依然として王位にあるのはどうなのか、という主張をし始めた。

 これらは王家自体を嫌い、王家を撤廃してしまおう、という一部の運動だ。

 正直言って一部でしかないので票数としては少ない。問題は、こういう奴らの声はデカい。無視すると後々痛手になる。小さいささくれがずっと沁みるみたいなもんだ。初期の対応が肝心なのはわかるだろう。

 俺としては、トクサツにはこのままで居て欲しい。

 俺が視た最善の未来には、トクサツが王位である必要がある。

 王位を撤廃したエンタメ国なんてあっさり呑まれてお仕舞いだからな。羊にはヤギが要る。羊だけじゃ狼の腹の中でお陀仏だ。

 一部の騒いでる奴らを説得し、どうにか取り付けた条件が以下。


 ・ヤッカイ国の悪霊退治。


 エンタメ国の近所なのでエンタメ国ではそれなりに知られた話だが、他の国ではマイナーの可能性もあるので簡潔に説明しよう。


 ・三百年前、オウマ国で死に生前の恨みから悪霊化した男が居た。

 ・その悪霊は感染型とも言える能力を持ち、国内全域が危うく汚染の危機に。

 ・どうにか封じるも、それでも封じきれない汚染により国民が時折汚染由来の精神異常を発生させるようになった。

 ・五十年前、とある女がオウマ国から悪霊が封じられたトロフィーを奪取、ヤッカイ国へ。

 ・その女は婚約者を他の女に寝取られた恨みからの犯行らしい。

 ・その女の魔法は粘着系だった。

 ・どうにか封印を解く前にその女を確保するも、悪霊が封じられたトロフィーはその場に粘着魔法で固定されてしまう。

 ・結果、ヤッカイ国では気性に難がある人間が発生しやすい事態に。


 この悪霊がかなり厄介なヤツでな。ヤッカイ国はそこまで金が出せない為、力の強い者は呼べなかった。結果厄介な人間性のヤツが生まれるようになり、より一層金が減っている。

 初期に辛うじて呼べた浄化系の者は、気が狂っている、とても近付けない、あれは人を食うぞ、俺は死にたくない、と証言したらしい。

 そんなヤツをどうにかしてヤッカイ国を救ってみせるのであれば、今後エンタメ国の王位に就くのも許そう、というのが一部のうるさい奴らのお言葉だ。

 トクサツが王位に就かない場合のバッドエンド率が高いから俺はトクサツをエンタメ国女王にさせるつもりだが、ここで意見を無視すると今後面倒になる。

 まあ、今回のこの案件自体厄介な面倒事ではあるが俺が選んだ未来である以上、難易度はイージーなものだ。安心しろ。攻略方法も書いておく。


 ・主力はヒメ、ジンゾウ、ライト。

 ・汚染は対象の精神、機嫌を酷くグラつかせるもの。

 ・自分をしっかり強く持っていれば影響は受けない。

 ・そのためヒメ、マッド、マンガは素で問題無い。

 ・ライト、フリョウは普通に影響を受ける。

 ・ジンゾウ、トクサツは影響を受け過ぎるから気を付けろ。

 ・だが喧しくしている一部の奴らを納得させる為にトクサツは絶対連れて行け。

 ・トクサツの友人として協力する仲である、と主張する為にも他の部活メンバーも絶対全員行け。

 ・仲間である、と名前を売れるから絶対全員で行け。

 ・対策はライトの魔法を掛ければ良い。

 ・邪魔を祓うあの魔法なら、汚染という邪魔を完全に祓い除ける事が出来る。

 ・汚染さえ対策出来れば怖いものはない。

 ・悪霊は魂だ。魂同士なら物理でイケる。


 以上。後は頑張れ。

 俺はお前達が成功する未来を選んだから、自分の決定に躊躇わずやってくれよ。





 以上が全容だった。


「……これは、確かに面倒事なのだわ……」


 ヒメは思わず額を押さえながら眉を顰めた。まさか革命でこんな面倒事が発生するとは。

 いや、タカラザカのしきたりとて革命みたいなものだし、母は当時の女帝の娘という理由から(決闘も挑まれないという意味で)理不尽に処刑されかかったので、トクサツすらも革命対象になるのはわかるけれど。


「……これ、僕のせいよね」


 顔を俯かせたトクサツに、マッドが素早く反応した。


「トクサツ。わたくし様の目を見て」

「え? う、うん」

「本当に、君のせいと思うかい?」

「それは、だって、そうでしょう?」

「手紙にも書かれていた通りが真実だ。わかるね? アカは嘘を吐かない。ならそれが真実で間違いない。さあ、そんなアカは手紙の中で何と言っていた?」

「僕が王位に就いた方が良いけど、王位を認めない人が居るって……」

「そう、それだよ」


 目を見つめたまま距離を縮めたマッドはトクサツの肩を掴み、ゆっくりと顔を近づけさせる。


「一部の、うるさい奴ら。そう書かれていたね」

「え、ええ……」

「さてもう一度聞くがトクサツ、今回の件、一体()()()()だって?」


 その言葉で、トクサツは靄がかった目に光を戻した。


「……一部の人達?」

「その通り。それはトクサツのせいかい?」

「違う、と思う」

「そう。なら気にする必要は無い。うるさい奴らを黙らせるには現実を叩きつけ、お前達程度が想像する無理難題をこなしてやったぞ、と鼻で笑ってやれば良い。安心したまえ。わたくし様達は協力する」

「…………」


 トクサツが不安そうに視線を向けてきたので、ヒメはこくりと頷いた。

 魂同士なら物理が効くとあったし、転生者であり前世の記憶があるヒメとしては何となくイメージもしやすい。要するにソウルで殴れと、そういう事だ。わざわざ書かれていたという事は殴って良し、寧ろ殴れという意味だろう。アカなら意味の無い言葉や誤解を生む言葉は書かないだろうから間違いあるまい。

 ヒメ以外も当然のように、躊躇い無く頷きを返す。


「まさかあの演劇コースでここまで仲良くなる生徒が出るとはなぁ……先生は驚きだ」


 その様子に虹色に輝いているテキトー先生はほろりと嘘泣きを見せた。


「ほぼ嫌がらせみたいな案だし、部活に入らないヤツの時点で協調性が無かったりで仲が悪くなる事は多かったが」

「それを強制でさせる教師側のメンタルも大概なのだわ」

「嫌なら部活に入っていれば問題は無かったさ。お前達は普通に見れる、どころか中々に上出来の演劇を披露したが、普通はああも上手くいかない。今年は例年通りにぐだぐだの演劇が見れるだろうから楽しみだ」

「最悪の楽しみ方過ぎないかしら……」

「生まれと育ちで心がねじ曲がった大人はこんなもんだよ」


 だから闇をちらつかせるのをやめて欲しい。





「……ところでフリョウ、保健室関係でそれなりに関わりがあるお前に聞きたいんだが、マッドとトクサツの関係性は大丈夫なのか?」

「…………何故俺に」

「理由は言ったろ」

「……受け持っている生徒のヒメとジンゾウでは駄目なのですか」

「別に良いが、ジンゾウをあんまりつっつきたくない。お前も知ってるだろうが、コワイから事情は聞いてるんだよ」

「ああ……成る程」

「で、あれは大丈夫なのか」

「……恐らく」

「やり口完全に洗脳に近い思考の誘導だったぞ」

「……意図的にそうしていると聞きました。これまでの環境がそれと酷似していた為、依存先をマッドにスライドさせ、その上で今までと似た方式を用いつつトクサツの思考改善を試みているそうです」

「ああ、まあ、確かに失敗体験を成功体験に上書きさせてやる事でそのトラウマから脱却する場合もあるか……お前的にも問題無し?」

「……医療行為の一環に限りなく近いので。実際、依存先から切り離されたにしてはトクサツの精神状態はかなり落ち着き、これまでの刷り込みによるフラッシュバックはあるものの安定しています。これまで一番の懸念事項だった母親については、話題に出てもあまり気にしないようになっている為、依存先は完全にスライドしたと見て良いでしょう。母親への強迫観念は消え、スライド先であるマッドに対して強迫観念が出ている様子も無いのでかなり良好と言えます」

「いや長い。コワイ相手ならともかく、オレ相手にそこまでしっかりした報告はしなくて良いぞ」

「…………すみません、つい」

「あー、そうしょげるな。お前は本当にコワイに似て見た目がヒグマみたいなのに性格はわりと砂糖菓子なんだから」

「……ヒグマ……」

「んー、コワイに比べてフリョウは少しシュッとした体格だから違うかもだけどな。何がしっくりくるか……」

「…………ライトには、農耕馬のようだと言われました」

「ああ、納得。デカくてごつくて怖いけどわりと穏やかで力持ち」

(怯えて泣きそうになってる農耕馬みたいと言われた事までは言わないでおこう……)


「…………マッド、テキトー先生からこのように言われたのだが、トクサツの精神安定に関する施術の一環とはいえ、もう少しやり方を自重できなかったのか……?」

「可能なら片方の耳を塞いだうえで反響を利用しつつもう片方の耳に囁き、そうする事で声の印象をより強く与える、という形にしたかったんだけどね。その方が強めに刷り込みも出来る。とはいえ流石に先生の前だから、それはやめておいた」

「……そうか、あれでも自重した状態だったか……」



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