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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
トクサツ誘拐作戦
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選んだ未来



「いやぁお疲れ、上手くやってくれたみたいで嬉しいよ」


 どうしてこの男は言動がやたらと胡散臭くて怪しい感じになるんだろう。

 アカに案内された食事処で中々に美味しい料理に舌包みを打ちつつヒメはそう思った。

 ちなみにこの店は庶民向け、かつ物資が不足しているエンタメ国の店なので材料確保にはかなり苦労しているそうだが、その上でこのクオリティなら万全の物資さえあれば貴族が通っても不思議じゃない美味しさである。


「報告の必要は」

「無い。あり得た未来のお前達から充分に全角度からの話を聞いた。後日改めてヒミツに聞く情報を含めて俺は既に手に入れている」

「そう」


 流石というかなんというか。まあそうだろうなと思っての質問だったけれど。


「マッド、はいあーん♡」

「うん」

「これもあーん♡」

「ああ」


 同じテーブルではトクサツが花畑のような笑顔でひたすらマッドの口に食事を運んでいる。

 わんこそばかと思う勢いで詰め込まれているが、マッドはそれを一切気にせず、手持ちのメモがないからとマンガから貰った白紙のノートに何かを書き込んでいた。間違いなく新薬についての構想か、あるいは特効薬を渡した使用人達に試させた際の反応でも書き留めているんだろう。

 そう思っていればマッドはノートを仕舞い、自分の手で目の前のハンバーグを切り分け、


「はい、トクサツ」

「えっ?」

「わたくし様にばかり食べさせていて食べていないようだからね。ほら、口を開けると良い」

「う、うん……あーん」

「よく出来ました」


 マッドに食べさせてもらったトクサツは嬉しそうにハンバーグを噛み締め、想いを返してもらった喜びからかその瞳を潤ませていた。


「ひ、ヒメちゃん、良かったらヒメちゃんも」

「私は自分で食べられるのだわ」

「だよね」


 隣に座っていたジンゾウがしょんぼりと肩を落としたが、ヒメは別に口に突っ込まれなくても自主的に食事するタイプなので不要なのは事実だ。介護の必要は無い。いちゃつくような関係性でも無いし。


「ヒメちゃん、こういう時僕を甘やかしたりしてくれないなあ」

「甘やかされたいならマッドのように甘やかしてくれる人のところへ行けば良いのだわ」

「僕はヒメちゃんと一緒が良いんだよ」


 ジンゾウは相変わらずよくわからない。


「譲渡発言からスコープ魔法切っちゃってたからわからないんだけど、一体どういう交渉したの?」

「……思い出したくない」

「あァー、スープ美味しいっすねェフリョウ。プレッシャーで圧掛けられてた胃に優しい」

「同感だ、ライト」

「ライトさえ損耗する程の交渉が? え、見たかった。いや素晴らしき闇に満ちた底なし沼みたいな百合畑見れた喜びに大歓喜だから後悔はしてないけど」

「よくわかんないけどマンガは楽しそうで羨ましいよ。こっちは薄氷の上に放置されたまま、目の前でのキャットファイト……いや、ヒメが殆ど一方的に詰めてるのを見せられてたからね」

「……悪夢で見そうだ」

「ドンマイですフリョウ。正直オレも絶対夢に見るなァコレって思ってる」


 マンガたちについては触れない方が良いだろう。

 アカの指示からすればあの方向性で詰めるのが良いんだろうと思って少し強めに脅したが、外野状態で見ていた二人にそこまでダメージを与えていたとは。あの程度で軟弱な。


「トクサツについてだが」


 フォークの尻で机を叩き視線を集め、アカがそう発言した。


「ヒメがさせた契約については俺も把握した。良い案だ。実際あの契約が無ければ、王家の跡継ぎとして必要だから、と主張して取り返そうとする。ヒミツが……長男がああなっているから跡継ぎにはトクサツが必須。だが再びこんな事が起きないように、とその治世への干渉を禁ずるとなればトクサツを引き入れると同時に現王家は政治に関われなくなる。そうなれば、本当に後が無い時以外手出しは出来ない」

「ええ。そうなるよう簡潔な契約にしたのだわ」

「こちらとしても助かった。この国は素直な人間が多い為、率いる誰かが必要となる。羊の中にヤギを混ぜるようにな」


 群れる性質で、自己判断がし辛くて、誰かに従う事を得意としている国民性という事か。成る程、それは確かに率いる誰かが居なければ簡単に散り散りになって獣に食われて終わるだろう。

 ヤギが居れば統率が取れるが、ヤギがおらず羊だけでは統率が取れずバラバラになる。生きる為にヤギを入れるのは大事な事だ。


「あの契約なら、大体を整えて再び統制をとる必要が発生した時に指名可能だ。何かが起こったとしても、致命的なまでに崩壊しなければトクサツに助けを求めようという事にはならない。いや助かった。悪政を改善させたい気持ちはあれど、国を滅ぼしたいわけじゃないからな」

「よく言うのだわ。自分にとってベストな未来を選んで思い通りの未来を引き寄せている癖に」

「ああ。思い通りによく動いてくれた。ありがとう」


 淡々としているのにねっとりした言い方。こういうところが不快感や不信感を与えてくる。

 信用が大事な立場なんだからもう少し爽やかさを身に着けた方が良いのではと言いたくなるが、そこまでお節介を焼いてやる理由もないので言わないでおいた。

 既に長年あちこちで革命をしているようだし、誰かにそういったアドバイスを貰った事くらいはあるだろう。それで改善していないならヒメが言ったところでどうにもなるまい。


「これで俺達は、気兼ねなく赤い旗を振る事が出来る」


 ジンゾウとトクサツは何の事だかわからないという顔。マッドは素知らぬ顔。それが革命の色だと知っているヒメ、ライト、フリョウ、マンガはほんのりと苦い顔になった。

 そんな事をしなくても、と口で言うのは簡単だが、実際に苦しんでいる民からすれば明日はどうなるかもわからない日々。実際にヒーロー家は情勢に苦しんでいる様子もなく裕福だった事から、民の不満を押し留めたりは出来まい。因果応報。全ては巡る。


「……アカ。トクサツの件に関して協力してくれた事は感謝しているのだわ。けれど」

「けれど、俺達に協力は出来ない。そう言いたいんだろう。わかっているさ」


 本当にこの男は知ったような事を言う。

 だが実際に知っているのだろう。無数に広がる未来を全て認識しているなら、聞き飽きる程に聞いているはずだ。


「俺達の活動に対し、直接的な協力。そんなものはお前達に求めていない。彼女を巻き込むと今後この国の旗振り役にヒミツが選ばれかねない事、そしてどちらかと言えば被害者側である彼女を巻き込みたくないという私情」


 アカは言う。


「それらを踏まえた上で、俺が望むハッピーエンドに繋がる最善の道としてお前達を利用したまでのこと」

「こちらからすると、一方的に要求を呑んでもらって目的達成の協力をしてもらった形なのだわ」

「失敗した未来もそうやって動かなかった未来も知らないお前達からすればそうだろう。お前達が動かなかった場合は酷いものだぞ」


 視線を逸らし、アカは言う。


「あの女は容赦も無ければ情も無い」


 本当に、とアカは呟いた。


「抵抗して暴れる輩相手に自分の娘をけしかけ、その魔法で大量の死人を出す未来もあった。引き離す事に失敗すれば殆どのルートでその未来だ」


 確かにヒゲキ女王は反乱を抑える為にと言って命じるだろう。死人が出ても知ったことでは無いという態度を取るだろうし、ヒゲキ女王への強い依存があったトクサツならきっと従う。従い、人を大量に殺し、トラウマを抱き、救いを求めてより一層ヒゲキ女王に依存する状態に陥っただろう。

 もっともヒメがヒゲキ女王と契約を進めている間にマッドが色々とやってくれたようで、今のトクサツは気にした様子も無かったが。

 アカが気遣って具体名を出さないでいてくれたおかげもあるだろうけれど、マッドにパンをあーんされたトクサツはすっかりそっちに意識を持って行かれている。

 本当、ただひたすら素直ないい子なのだ、トクサツは。


「お前達にとってこの一連の流れは俺達にメリットが無いように思うかもしれないが、実のところ、お前達がそうやって動いてくれなかった未来の悲惨さを思えば、目的を成し遂げてくれた事が最大の協力となるんだよ」


 ねっとりとした声。淡々とした喋り。表情があまり動かない顔。陰気な気配。

 素でこういう人なのだと知らなければ、百パーセント裏があると断じたところだ。ジンゾウによって素だと発覚しているから良いが、そうじゃなければマンガのフォローがあっても信じるのは厳しかった。

 実際、彼を本気で信じて指示に従っていたお陰でトクサツ奪取でそこまで苦労せずに済んだわけだが。


「さて、そろそろ遅くなる。食事も終わったようだな。支払いは済ませておくから、早く帰りなさい。たった一日で何もかもがあったんだ。疲れただろう」

「アカに奢られる理由が無いのだわ」

「お前達が動いてくれなきゃバッドエンドの可能性が高かった。お前達が動く未来を俺が選んだとはいえ、その未来を作り出せるお前達の存在に、俺は感謝してるんだぜ」


 それが理由じゃいけねえか、とアカは笑う。貴族にも見える服装に対し、そこらの居酒屋でガハハと笑っている男性のような笑み。


「あとはそうだな、奢りたいんだよ、俺は」


 アカは言う。


「年下のガキに腹いっぱい飯を食わせてやれる。そんな大人になるのが俺の夢だったんだ。俺の夢を叶える手伝い、ってのがお前達から俺への支払いってのはどうだ」

「…………貴方本当、その雰囲気さえ無ければ完璧に良い人なのだわ」

「うるせえ。頑張っても滲み出る胡散臭さはどうにもならなかったんだよ」


 成る程、無駄に終わったようだが一応頑張ってみた事はあるようだ。





 ヒメ達が居たからこそ、というのは本当。


 ヒメ達が来なければ革命が起こった際、民を押さえつける為にとヒゲキ女王に命じられトクサツが目からビームで大半を殲滅。恐怖で支配。

 トクサツは母親に言われたとはいえ、それが正義だったとはいえ、そんな事をしてしまった事から病んで依存が悪化。革命も失敗というバッドエンド。

 ヒメ達は来ないけどトクサツの隔離に成功した状態で革命が起こった場合、それでも王家からの抵抗があるので革命軍側から犠牲がそれなりに出る。革命自体は成功するが、涙を流す誰かは多数居た。

 ヒメ達が来てトクサツの隔離成功+ヒゲキ女王のメンタルにダメージ、の状態で革命が起こった場合、ヒゲキ女王は抵抗する余力も無く夫に泣いて縋って素早く逃亡を選ぶ。

 夫のカメン王も戦うよりは誰かを助けるよう育てられている為、愛する人を守る事を優先し逃亡に回る。結果、争いが起こらず無血開城。傷付かないハッピーエンド。

 アカはハッピーエンドを選べるならハッピーエンドが良い人なので、バッドエンドしかないなら抵抗する人でもあるので、そのハッピーエンドルートの為に頑張って完璧な指示を出しました。大勝利。死んだ誰かも泣いた誰かも居ない未来を勝ち取った。


 何故ハッピーエンドを求めるのかと言えば、選ぶ為に無限大の未来を観測してる時点で、沢山のバッドエンドを見てるから。見飽きた絶望なんて来なくて良い。

 仮にアカが人のバッドエンドを見たがる性質だったとしても、彼はハッピーエンドを選ぶ。バッドエンドを簡単に選べば、そこで打ち止めになるから。ハッピーエンドに繋がる道を選んだ方が、進んだ先にある複数のバッドエンドの可能性を観測出来る。その為にハッピーエンドを選ぶ。

 つまりどの未来を好むアカであっても、必ずハッピーエンドを選ぶということ。

 勿論バッドエンド思考のアカはIF。通常のアカはバッドエンドを吐く程見てノイローゼになる勢いなので、そんなもんを現実の流れでまで見たくない派。

 選べるのなら、掴めるのなら、到達する事が出来るなら、被害が最低限かつ皆が幸せになれるハッピーエンドを。



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― 新着の感想 ―
[気になる点] バッドエンドルートが怖すぎた。 トクサツの動きを封じても、ヒゲキ女王が革命から逃げるではなく、抗うという戦意を持って、トクサツのお父さんのカメンを呼んでしまったら、地獄とかしていたん…
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