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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
トクサツ誘拐作戦
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互いに利有り



 扉の前には脱走防止用の見張りが居るのであまり大声は出さないように、と言われたが、


「そもそもどうして君がわたくし様達に協力するんだい?」


 いの一番にそう聞いたのは、マッドだった。

 いつも通りに淡々とした喋り方、表情だが、どういった理由と思考から協力しているのかがわからないという副音声が聞こえる。


「疑問か?」

「勿論。わたくし様達の目的はトクサツと話し、学園を退学するのは自分の意思かどうかを確認する為」


 はあ、とマッドは天井を見るように顎を上向けて首を傾げ、しかし斜め下へと視線を向けた。


「先程盗み聞いた会話からすれば本心ではないようだけど、それはあくまで本人の口から言ってもらわなければね。そして、トクサツ本人が学園に帰るのを望むなら無理矢理この国のお姫様を攫って行くつもりもある」

「エッ」


 わりと強行突破のつもりはあったけどそこまで強引な選択前提だったの? という顔でライトがビックリしていたが、他はそういうつもりだったので無視した。

 話が出来る相手なら話し合いでの解決もあり得たかもしれないが、あのヒゲキ女王は明らかに会話が通じる相手ではない。強行突破が一番手っ取り早いのは確かだろう。


「だが君はわたくし様達の対象外だ。どれだけこの環境に苦しんでいたとしても、わたくし様達が助けたい、優先したいと思うのはトクサツだけ。トクサツを取りこぼす恐れがある以上、わたくし様はトクサツだけを連れて行く」


 つまり、


「君を助けず見捨てる、という事だ。それでも協力する気があると?」

「ああ」


 ヒミツは表情を動かさないまま頷く。


「僕もそのつもりだったから、助かる」


 その言葉にマッドが眉を一瞬だが確かに顰めた。


「も、というのは?」

「僕は僕の為にアカに協力している。ここから町までの脱走に成功した際、彼と出会い、王家が僕ら(市民)をどれだけ軽視しているかを知った。どうにかしたいと思った。この立場から逃れたいという気持ちと、そして確かに」


 胸の前で拳を握り、目を伏せ、ヒミツは言う。


「確かに、僕の胸には誰かを助けたいという気持ちもあるんだ。だがこれはヒーロー家の息子だと言われているからではなく、ヒーローが誰かを助けるからではなく、ただ困っている誰かを助けたいという至極当然の気持ち」


 そう、


「僕はヒーローになりたいから助けるんじゃなく、助けたいと思ったから助ける事にした」


 その目には、確かな力が籠っている。


「だが僕にも限界がある。国を、民を守り助ける為には、加害者側に居る被害者の彼女を見捨てるしかなかった。僕からすれば妹を名乗る見知らぬ子でしかないが、本来は救うべき……救われるべき子だろう」


 ただ、


「彼女が救う側である事を強制され、救いの手を取れないよう両手を強く捕らえられているせいで、僕にはどうにも出来ない」


 そのはずだった。


「彼女は母親を名乗る女が僕に意識を向けるせいで、僕をあまり好いてはいない。寧ろ嫌悪に近い感情を抱いているだろう。本人は無自覚だろうが、態度と表情からわかる」

「トクサツに嫌われる理由とわかっていながら、脱走を繰り返したのかい?」

「ここに居ると気が狂う。僕の頭の中にある家族と、家族を名乗る彼らは一致しない。それに逃げ切れさえすれば、母を名乗る女が僕を構う事も無くなるだろう」


 どれも上手く行かなかったが、とヒミツは呟く。


「妹だという彼女とは何度か会話を試みたが、まず嫌われているせいでまともに受け答えをしてくれない。そもそも顔を合わそうともしない。脱走して声を掛ければ、母を名乗る女の為にと部屋に連れ戻される」

「まあ、そうなるだろうね」

「それでも連れ戻されるまでの間を狙って問いかけたが、例え民を守る為であっても、母を名乗る女や父を名乗る男が結果的に自国の民を苦しめているのだと伝えても、彼女は聞く耳を持たなかった。最早、巻き添えになっても彼女自身がそれを選んだのだから仕方がない、と見捨てるつもりだった」


 ヒミツの目が、真っ直ぐにマッドを見た。その視線はヒメ、ジンゾウ、ライト、フリョウ、マンガへと次々に向けられる。


「だからアカに君たちの話を聞かされ、嬉しかった。僕は僕の目的達成の為、君たちが僕の妹を名乗るあの子を連れ去るのに協力する」

「仮にも兄だろう。それで良いのかい?」

「仮ですらなく、僕は彼女の兄であった事なんて一度もない」


 ヒミツはキッパリとそう言い切った。


「兄になろうとした事も無い。なりたくはない」


 その目は一片の曇りも無く、誠実に家族を拒絶している。


「それに、彼女は僕と、そしてこの王家と距離を取った方が良い。縛り付けられて目も耳も口も手足も封じられて象徴として掲げられるくらいなら、すぐにここから立ち去るべきだ」

「……そうかい」


 少しの無言を置いて、マッドはため息を零した。


「わたくし様にとって愛とは定義し辛いだけの何かでしかないが、しかし君の母を名乗る女が口にしていた愛というものよりも、遠ざけようとする君の方がよっぽど愛であるように感じるよ」

「こんなものは無情だ。愛があったとしてもな」


 見捨てようとしていたのは事実。なら確かにそれは無情だろう。

 けれど、見捨てずに助ける事が出来たならと思い、その可能性を掴もうとするのは愛じゃないのか。

 少なくともヒゲキ女王がトクサツに言っていた、守る為に遠ざける、という言葉。彼女が言っていたその言葉よりも、よっぽど信じられるものではないか。

 同じ言葉なのに、その重みと中身は全く違う。





 改めて、これからの動きをヒミツから伝えられた。


「最初期はこの環境に耐えられず、理解者も居ない為発狂を繰り返しては脱走を試みて暴れていた。そのせいか現在も扉の前には見張りがつけられているし、僕が脱走したとわかれば使用人総出の勢いで僕を捕まえに来る」

「……一体どういう暴れ方を……」

「気が狂った誘拐犯の本拠地を潰す勢いで、だな」


 少し引いた様子のフリョウにそう答え、ヒミツは続ける。


「そして母を名乗る女がどれ程泣いても騒いでも、僕は強く拒絶した。そのせいか僕が脱走するとあの女は不安定になる」


 母を名乗る女という言い方から察していたが、とうとうあの女呼びになった。ヒミツからすれば好感度が上がる要素は皆無だろうから無理もない。


「使用人はそうならないよう、僕が城内からの脱走を達成しない限りは使用人達だけで捕縛しようと報告無しで追いかけに来る」

「囮ってもしかして、ヒミツが使用人達を引き付けている間にわたし達がヒゲキ女王とトクサツに接触する為の、って意味?」

「そう言われた。薬で懐柔しようと、例え友人であるとわかっていても、一国の姫を攫おうとしていると気付けば使用人は追っ手に回る。そうならないよう、僕が使用人達を引きつけろ、と」

「あのォ……それで良いの?」


 おずおずとライトが手を挙げる。


「トクサツが連れ出されるのはヒミツにとってもメリットがあるっていうのはわかったけど、そこまでしてもらう程の事かがちょっとォ……」

「勿論。そうでなければ、成功しない可能性が高くなるから、だ」


 ヒミツは首を傾け、記憶を思い出すように口を開いた。


「……民の不満はもう止まらない。女王は非力だ。彼女を守る為に国王が寄り添えば、国王は女王を守る事を優先するので民を押さえるよりも逃げる方に動く。だが、そこに僕の妹を名乗る彼女が居れば、彼女が女王を守る。あるいは民を抑え込む」

「成る程」


 ヒメは頷く。


「革命を完遂する為、被害者でしかないトクサツが巻き添えを食らわないようにという気遣いは勿論だけれど……トクサツに邪魔をされては困ると、そういう事ね」

「ああ」


 ヒミツは頷かなかった。けれど、言葉と目は肯定の色。


「……成る程、俺も理解した」


 静かな声で、フリョウがそう言う。


「革命はあくまで現在の政治を改めさせ、市民が暮らしやすい国にする為。王家に恨みがあれど、何が何でも王家の者を処刑したいというわけではない。戻ってこようとしないのなら、逃亡だって許す。そういう事か」

「その通り」


 変化の少ないヒミツの表情が、ふ、と僅かに笑みを作った。


「今の偏りあるやり方を改めてくれたなら、僕達もここまでの手段には出なかった。だが民の声が届かない以上、王座を退いてもらうしかない。でも殺したいわけじゃない」


 となれば、


「速やかにこの国から脱出してもらうよう準備をする必要があった。カメン王とトクサツ姫が居れば、片方が守り、片方が迎撃を出来てしまう。そうなってもらっては困るんだ」


 アカの魔法からするに、未来を好きに確定出来るはず。つまりトクサツが居たとしても革命が成功する未来を得る事は出来るだろう。トクサツを傷つけずに、円満に終わらせる方法だって。

 けれどそれをしないのは、最善ではないから。

 手っ取り早いハッピーエンドがあるとしても、トゥルーのハッピーエンドがあるならそれを諦める必要は無いと手を伸ばす。そういう事だろう。


(ほんの少しの会話しかしていないけれど、そのくらいはわかるのだわ)


 赤点を回避すれば良い。それじゃいけない。平均点を取れば良い。それじゃ足りない。平均点以上を取れた。それで終わらせてはいけない。

 そう、最高点を取って、それでようやく満足なのだ。

 途中で諦めるなんて事はしないだろう。アカとは少し会話をしただけだが、()()()()()()()()()()()性格なのは既にわかっている。

 自分が幸せになるのなんて至極簡単だけれど、諦めなければ手を届かせる事が出来るから、と言って難易度の高い()()()()()幸せになる未来を選ぶとは。

 だが、そうやって諦めずに一番良いものを手にしようという根性は、なかなかにヒメの価値観とも合っていて好印象だ。

 妥協しない、という意外に難しい事をやってのけるとは。


「……でも、今の状態では私達でもどうにもならないのだわ。トクサツは私達を気にしてくれているけれど、ヒゲキ女王が居る限り、トクサツから学園に戻りたいなんて言葉は引き出せない」

「そんな君に伝言がある」


 アカからのだろう。ヒメが促せば、少し微妙な顔をしてヒミツが口を開く。


「あとはお前が好きなようにやれ、女蛮人」

「喧嘩を売っていると見做して良いのね」

「違う。今のはアカからこう言えと言われたんだ。僕の意思じゃない。それだけはわかってくれ」


 見せつけるように拳を握れば、ヒミツは表情こそ乏しいながらも慌てた様子で手を横に振った。


「自分でもう少しマイルドにしたかったが、一字一句違わず言わなければ喧嘩を売ってくれなくなる、と……」

「喧嘩?」

「あとはヒメ・キシに任せておけば、タカラザカ式に奪い、そして暴論を振りかざしてヒゲキ女王の心を折ってくれる……と言われた」


 どういう何を期待されているのかわからないし、一体どんな未来を選んだんだあの革命家。





 少し前の話。


「少し、聞きたい事があるんだが」

「……お兄様。また脱走をしたの?」

「人違いでこんなところに監禁されたら脱走もする。あと、お兄様はやめてくれ。見ず知らずのお姫様にそんな身内の如く扱われるいわれはないんだ」

「それでも僕にはお兄様なので、そう呼びます」

「お互いに僕がこの場に居る事に反対派なんだから、こちらの味方をして僕を逃がそうとしてくれても良いと思うんだが」

「しないわ、そんな事。だってそれは悪だもの」

「王子であると否定し、市民であると主張し、お前達ではない家族の記憶があると叫ぶ僕を監禁する事が正義で、そんな僕を城から出すのが悪だと?」

「ええ。お兄様はご病気だから。病気の人を安静にさせないのは悪だから。外の悪い人に誑かされたら大変だから、きちんと守らないといけないの」

「……それはお前の意思か、妹を名乗るお姫様」

「まぎれもなく妹よ、僕は。どれだけお兄様が否定したってそう」

「質問に答えろ」

「……よくわからないわ。守らないといけないと言われたら、守るのがヒーローの義務なの。それ以外の動きなんてあり得ない」

「義務。言われた。なら誰が言ったそんな事を」

「ママよ。当然じゃない」

「………………だろうな」

「だからほら、早く部屋に戻ってくださいな。お兄様が部屋の外に出ているなんて気付いたら、ママがまたお兄様の部屋に行っちゃう。仕事よりもお兄様を優先して。お兄様を心配して付きっ切りで看病して、まだご病気中のお兄様を見て泣いちゃうわ」

「その状態を僕もお前も嫌っているのに、それでもあの女の肩を持つのか」

「……? だって、ママを泣かせるのは悪い事よ。でもママはお兄様が居ないと駄目って泣くんだもの。じゃあ、脱走なんて悪い事をするお兄様をお部屋に連れ戻さないと」

「…………そうか」


「無理だった」

「やはり駄目か」

「ああ。会話にならない。いや受け答えは出来るんだが話が通じないんだ。どうこね回しても元の形に戻る粘土でも相手にしてるのか僕は」

「まあ確かに草むしりをしてもすぐ草だらけになる庭みたいなところはあるようだが……」

「ところでアカ、お前は未来を認識出来るんだろう。何故僕が説得出来る未来を選ばなかった?」

「お前を犠牲にするからだ」

「…………は?」

「お前が二度と脱走しないと誓い、その代わりに学園へ行って友人に頼み亡命しろ、と言えばどうにかなる。だがお前は逃げられなくなるぞ」

「……それ以外の選択肢は」

「脱走したお前が処刑級の、尚且つもみ消せない勢いで事件を起こすとか。あの子は何も悪い事なんてしていない、という気の狂った訴えをする母親の姿に耐えられず、トクサツは友人に連絡を取る」

「………………」

「無数の未来を確認した上で総括すると、彼女は友人と接触すれば、そしてその友人側に彼女が劣悪な環境にあると伝える事が出来れば、どうにかなる。今は最善のルートにする為の布石として、彼の記憶に残りやすいラブコールをしたためているところだ」

「革命を一緒にしませんかというおかしな誘いをラブコール扱いか……というかそれ、普通に足が付くんじゃないのか。革命を恐れる国々が国際指名手配してるんだろう?」

「そんな密告をする相手にこの手紙を出したりはしないし、俺の魔法があるのにそんなヘマをするとでも?」

「まあそれもそうか……」



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