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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
トクサツ誘拐作戦
43/89

良い子

 それぞれの私服について。

 ヒメ→場合によっては戦闘があるかもしれないのでパンツスタイル。乗馬服みたいな恰好。普段の私服はわりとガーリーな服が多い。見た目に合うので。

 ジンゾウ→シャツ。ズボン。以上。シンプル。

 マンガ→全体的にオーバーサイズ。着てて楽。

 ライト→スポーティ。スカジャン。ジーンズ。スニーカー。

 フリョウ→ハイネック。上着。長ズボン。何となく肌を晒すのに抵抗がある。

 トクサツ→オフショルダー。短パン。人助け用に動きやすさ重視。城では比較的動きやすいワンピースドレス。

 マッド→ミニ丈チューブトップ。分厚い長袖アウター。レザーパンツ。実家では実験するのでシャツとズボンという肌面積少な目スタイル。



 仕事が一段落したら撫でてもらえるかもしれない、と少しの期待を滲ませながらそわそわと待機しているトクサツと、そちらを見ようとは一切せずに書類を捌いていくヒゲキ女王。

 仕事量が多いのは確かなようだが、ここまで意識を向けないものなのか。

 ヒメの母であろうジョテイも、忙しい人ではあった。父はそういった事に向かないからと庭小屋暮らしをして完全ノータッチなのもあって政治は全て母が担っている。そんな母でも、仕事中にやって来たヒメを邪険にはしなかった。


「十分だから……そうだな、あの時計の長針が5のところへ行くまでなら、話をする時間はある。さて、何かあったのか?」


 そう言って少しの間であっても時間を作り、優しく声を掛け、頭を撫で、他愛もない話を聞いてくれた。ヒメから行かずとも時間を作り、様子を見に来てくれたりもした。訓練に付き合って、どうすれば良いかという助言だってくれた。

 だが、今目の前にあるのはヒメが知る母と娘の姿では無かった。

 見て欲しい、愛して欲しいと訴える捨てられた仔犬のようなトクサツと、そんなものは目に入らないといった様子で視線を向けようともしないヒゲキ女王が居るだけだ。


「トクサツ」

「、はい! なあにママ?」


 嬉しさがとろけるように滲み出ているトクサツの笑み。しかし視線を向けていながらその表情の意味を考えてすらいないのか、ヒゲキ女王は冷たい声で言う。


「どうしてまだそこに居るの? 報告は終わったのでしょう?」

「……え、あ、え、っと……でも、ママは……撫でてくれるって…………」

「忙しくしていなければ、と言ったはずよ。お母様が仕事で忙しいのがわからないの?」

「で、でも……」

「トクサツ」


 ヒゲキ女王はため息を吐いた。

 深い深い、失望とわかるようなため息。


「貴女はもう幼い子供ではないわ。そんな事でいちいちわたくしを煩わせないでちょうだい」

「っ……」


 拳を握り、トクサツは泣きそうな顔で下唇を噛む。何かに耐えるようにそのまま顔を伏せ、一度大きく息を吸う。


「……うん、そうね。ママの邪魔になったら悪い子だものね。僕、わがままなんて言わないわ」

「そう、それで良いの。いい子ね、トクサツ」

「うん!」


 いい子。たったそれだけの言葉に、トクサツは嬉しそうな笑顔で頷いた。

 けれど笑みの際に目元から散った光は、零れ損ねた涙だろう。


「あの、でもね、その、ママ」

「どうしたの。早く行きなさい」

「う、うん、でも一つだけ」


 トクサツは扉を開きながら体を半分程ヒゲキ女王へと向け、言った。


「学園に行っちゃ駄目でも、お友達にお手紙を出すのは、駄目かしら……」

「駄目よ!」

「っ!」


 机を叩き、椅子を倒すような勢いで立ち上がりながらの大声にトクサツがビクリと肩を跳ねさせる。

 明らかに怒っているとわかる吊り上がった目のまま、ヒゲキ女王はつかつかとトクサツに近付き、トクサツの両肩を手で掴む。


「あれ程、もう関わり合いになってはいけません、と言ったでしょう」

「で、でも、お友達は、大事にしないと」

「そう、大事にするのよ。大事にする為に手放すの。仲良くなったならその分だけ、徹底的に距離を取るのよ。それが貴女の為なの。わかるでしょう?」

「だ、だけど、何も言わずにさよならなんて」

「それが貴女の為で、貴方のお友達の為。ヒーロー(英雄)とは孤独なもの。悪と戦う時に、お友達がいると相手にわかったら、お友達が怖い目に遭うかもしれないわ。だから距離を取ってあげるのが、お友達を守る事に繋がるの」

「…………でも、でも、」

「トクサツ。わたくしは貴女の為に言っているの。ヒーロー家を背負う貴女の為に」


 目の焦点が揺らいでいるトクサツの顔を覗き込み、視線を合わせるようにヒゲキ女王が囁く。視界をその美貌で埋め尽くすように、自分だけに視線を向けさせて。


「全部、貴女の為なのよ。貴女が悲しむ姿を、わたくしは見たくない」

「それでも、お友達だからこそ、きちんと」

「トクサツ」


 ひやり、と冷たい声。


「どうしてそう聞き分けが無いの」

「ま、ママ、ちが、ごめんなさ」


 泣きそうな声でトクサツが言い切る前に、ヒゲキ女王は甲高い声を上げた。


「何が違うの! どうして言う事を聞かないの! お母様はこれ程貴女の為を想っているのに! 貴女が悲しまないようにと親切に、親心で言ってあげているのに! どうしてそう反抗するの! ワガママばかり言う悪い子になるなんて許しません!」

「ちが、違うの、ママ、僕は悪い子になんてならないわ! でも、ヒーロー(英雄)だからこそ、やるべき事をやらないと」

「貴女のやるべき事はわたくしの言う事を聞き、国の為にその身と心を捧げること」


 再びの、底冷えするような声。先程の迫りくるような、針金が仕掛けられた森のような鋭い恐ろしさとは違う、深い水底のような引きずり込む形の恐怖。


「お友達と仲良くなり過ぎてしまえば、大事な時に判断が出来なくなってしまうわ。この国と学園が危ない事になった時、貴女は学園を優先し、この国を捨ててしまうかもしれない。それがわたくしは恐ろしくて仕方がないの。わかるわね?」

「そんな、僕はこの国を捨てたりなんて」

「それでも、学園に居たらそちらを優先してしまうでしょう? お友達を助けようとするでしょう。わたくしや、この国よりも、学園を優先するのでしょう」


 そう言ってヒゲキ女王は優しく微笑み、指先が触れるか触れないかという距離を保ちながらトクサツの頬を撫でる真似をした。


「でも、貴女がそんな事をする必要はないの」


 それは、染み込むような優しい声。


「学園を守るのは教師の仕事。生徒である貴女がそんな事をする必要はありません。貴女はただ、義務として。役目として。このヒーロー家に生まれた者として、この国を守るのです。わかるわね」

「……はい、ママ」

「いい子ね」

「…………ええ、僕は、いい子だもの」


 そう微笑むトクサツの目は、虚ろだった。

 空っぽの微笑み。泣きそうで、伽藍洞で、夢を否定された子供のような、それでも笑わなければいけない子供のような、そんな笑み。

 見ているだけで心に爪を立てられるような笑み。

 ヒゲキ女王はそんな微笑みを浮かべるトクサツを見てただ満足そうに頷き、再び机へと向き直った。





 アカからの指示書には、ヒゲキ女王が()()机へと向き直ったら移動、とあった。

 なのでヒゲキ女王に見つからないよう速やかに移動したが、


「…………何というか、フリョウがトラウマになった理由がよくわかったのだわ」

「片鱗は感じていたけれど、中々に本気で洗脳を掛けていたね」


 マッドは肩をすくめる。


「勢いよく詰めて、甲高い声で感情的になって相手を責め、低い声でお前が悪いと窘め、貴女の為を想っていると優しい声で言って。あれを物心つく前からやられていたら、そりゃあ根深くもなるだろうさ」


 流石というか人の心が無いのかマッドはそこまで引いていないようだが、それでも相手のヤバさは感じたようでその目にはほんのりと軽蔑の色がある。向けている先は、勿論ヒゲキ女王だろう。


「……辛い…………」

「大丈夫ですってェ、フリョウ。ほーらよしよし」


 この光景にダメージを負ったらしいフリョウが背中を丸め、その背をライトが苦笑のまま撫でて落ち着かせている。


「まァ確かにアレはキッツいやり口だったし、友達が思いっきり被害者状態なのを目撃したダメージはデカいっすけどォ」

「いやあ……怖かったね。あんな怖い事あるんだって感じ」


 うひゃあ、とジンゾウは困ったように笑って腕をさすった。


「拒否権は無い、って高圧的に命令されて拒否したら拷問、あるいは精神的拷問、とかならわかるんだけど」

「わっかんないよそれェ! ジンゾウそれどういう事!?」

「え、ほら、言う事を聞かないなら庭に居る猫を君の目の前で何度も蹴り飛ばす姿を見せてあげる、とか言われるヤツ。罪のない、何ら無関係な誰かを傷つけても良いの? って脅されるから従うしか」

「駄目だジンゾウ結構闇! オレもうフリョウで手一杯なんだけどなァ!」


 ライトに申し訳なかったので、ヒメはジンゾウの腹辺りを叩いて視線を向けさせ、そういう事は言うものじゃないと視線で訴え首を横に振った。


「?」


 ジンゾウはよくわからないという顔で首を傾げたが、オッケー、という笑顔で頷いた。多分何も理解していないが、とりあえずこれで黙ってはくれるだろうから良し。


「何というか、典型的な毒親って感じ。お陰で解像度上がったから今後ああいうタイプの毒親描く時により一層それっぽく描けるだろうけど、あんまり上がって欲しくなかったなぁこの解像度……」


 ぅぐう、とユニコーン頭を被っていないマンガが唸る。マンガでも苦い顔をする辺り、やはりアレは相当に恐ろしいやり口という事だろう。

 ちなみにユニコーン頭だが、不審人物として認識されやすくなるから外しておけ、とアカに没収されていた。正論。

 寧ろエンタメ国まで普通にユニコーン頭と一緒に移動してきたヒメ達の方が異端だった。とんでもないものに慣れてしまった、と自分で自分にちょっと引いた。明らかに慣れてはいけない類のものだ。


「それでジンゾウ、次はどこへ?」

「次は、囮を頼め、としか」

「待っていたぞ」

「っ!?」


 予想外の位置、下の方からの声に視線を向ければ、廊下の壁、下の方が少しずれてそこから男の顔が覗いていた。


「出来れば入って来てくれないか。僕は少々、外に出ると騒がれてしまうんだ」

「…………」

「……」


 ヒメはジンゾウを見た。ジンゾウはそれに頷きを返す。ジンゾウがステータスを見て、あるいは何らかの魔法を使用して、問題無い相手と判断したという事だ。

 先駆けは念の為に戦闘慣れしたヒメが務める事として中に入れば、そこは広い部屋だった。明らかに王族用の部屋。そして、先程声を掛けて来たのはこの部屋に似つかわしくない市民用の服を着ている男。

 そう、ヒメ達より十歳は上、恐らく正確には九つ上だろう男性となれば、答えは一つ。

 一部巨体組が部屋に入るのに少々難儀しつつも無事全員入り、そんなヒメ達に男はおどけたような、それこそ市民がお偉い方の動きを遊び半分で真似たような動きで胸に手を当て頭を下げた。


「初めまして、アカの協力者。僕はヒミツ・ゴレンと言う」


 頭を上げた男、ヒミツは少しぎこちない笑みを浮かべる。


「頭のいかれた奴らに王子と誤解され、監禁されている一般人だ」

「え、いや名前はセンタがふっ」

「?」


 何かを言いかけて腹を押さえて膝をついたジンゾウに、ヒミツはきょとんと目を丸くした。


「うう……ヒメちゃん酷い……」

「大丈夫か?」

「ただの自業自得の持病のようなものだから気にしなくて良いのだわ」


 精神を病む程にそう(王子と)扱われたくない相手とわかっていながら言うなんてデリカシー皆無な行動をさせるわけにはいかなかったので、素早く肘鉄で黙らせただけである。

 他人にやらかしそうな駄犬のリードを引っ張り抑えるのは飼い主の義務であり、役目なのだから。





 ジンゾウがよく知っている拷問例。


・子猫などを目の前に持ってくる。

・子猫に殴る蹴るなどの暴行を与えるぞと脅す。

・それでも拒否するなら実際にやる。

・途中で拒否を撤回しても子猫が死ぬまでやる。

・死んだ後、死体を抱かせる。

・お前のせいで死んだ、お前が殺した、と告げる。

・その後は少し小動物を見せるだけで従うようになる。


勿論これはジンゾウがされたもの。

肉体的苦痛には堪えなかった事と、折角の肉体に万が一があっては困る事と、ジンゾウとの接触を許している世話係を本当に殺したりすればその後本気の抵抗をされる危険がある為。世話係はあくまで人質なので、それを無くすと痛い。

その為人質を害さずに精神的ダメージを与えようと選ばれたのが小動物。時々何も理解出来ていない孤児が連れてこられる事もある。

尚、最初に拒否さえしなければこれらの一連は行われない。



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