は?
さて、どうヤンチャをするかだが、
「そんなものは相手の陣地に乗り込んで本人から聞き出せば良い話じゃないか。自白剤を飲ませた上で、本音ではどうしたいかを問えば良い」
「初手で乗り込みからの薬剤とは、流石マッドなのだわ……」
発想が酷い。
「でも、自白剤を飲ませるという案は有効かもしれないわね」
「それマジで言ってる?」
「本気で言ってるのだわ、ライト。だってトクサツの今までの言動からして、母親を最優先しなければならない、母親の意見を最優先にしなければならない、が植え付けられている。それなら自白剤でも飲ませなければ、本音を話してなんてくれないでしょうね」
「…………本人がそれを本音と認識してしまう程に自我をすり潰されていた場合、それも難しい可能性があるが……」
フリョウの言葉に、確かに、とヒメは唸った。
自我が芽生える前から刷り込まれた場合、それこそが根っこになってしまう。根っこが出来上がってから人工的に曲げられたというならまだ間に合う可能性もあるが、根っこの段階から人工的に曲げられたとなれば厄介。本人が自主的に何かを望む、という事すら出来ない可能性が浮上してきた。
「とりあえずトクサツさんの本音はあると仮定してみて、さっきの作戦で行くとしても、一国のお城に乗り込むなんて出来るのかな?」
「相手が人間の門番だろうがそれ以外だろうが、生き物である以上はどうにでもなる」
ジンゾウの問いにマッドが頼もしい態度で言う。
「そう、相手の弱みに付け込めば良いだけなのだから」
「もうそれ悪役の台詞じゃないかなァ!?」
「なに、わたくし様は別に脅そうっていうわけじゃないよ。正当な等価交換を持ちかけるだけさ。この薬が欲しいならわたくし様達を見逃せ、とね」
「門番が頷くような薬って事は……まさかどんな相手でもメロメロにさせられる惚れ薬!?」
「残念、マンガの発想は似てるが惜しい」
マッドはうっすらとした、底冷えのする笑みを浮かべた。
「薄毛、体臭、勃起不全、不眠、歯周病、腰痛、リュウマチ、水虫、ぎっくり腰、四十肩。他にも生きた人間ならどうしても悩ましい、けれど改善するのは難しい案件など幾らでもある。本人があまり公にしたくない問題もね。あとは悩める彼らに、そんな貴方に良い薬がありますよ、と囁いて唆してやれば良いだけさ」
「毒盛る魔女のやつゥ」
「失礼だな、ライト。わたくし様の薬はきちんと効果があるものだよ。片頭痛だろうが酷い生理痛だろうが収まるし、不妊状態が改善するものだってある」
「いよいよラインナップが魔法使い染みてきたのだわ」
困っている人からすれば喉から手が出る程欲しいし、多少の事をやってでも手に入れたい、と思うだろうラインナップ。そういう辺りが実に魔女。効果はちゃんと出るという辺りも魔女っぽい。
まあ魔女という存在のイメージは効果があるものをくれる代わりに悪い事へ唆す事が多いので、そういった部分も魔女臭さを増長させてるのだとは思う。
「聞く耳持たない者も居るだろうが、その場合はジンゾウの目を借りるだけさ」
「僕!?」
「その人が困っている症状くらい、見れるだろう?」
「…………まあ、ステータスに表示されてるから見れるけど」
「ついでに聞くが、他人の心を読んだりは?」
「出来るけどやらないよ。やれって言われたらそりゃやらないでもないけど、別に聞きたいものじゃないし」
さらりと言っているが、読心魔法も中々にレア。それをあっさりとやれると言えるのがジンゾウだ。
とはいえ洗脳魔法持ちのテキトー先生も、洗脳の応用で相手の記憶を書き換えたりぼかしたりが出来る様子なので、多分テキトー先生も誰かの心を読もうとしたら読めそうな気はする。
「まあ、人の心を積極的に読もうとしないのは良い事なのだわ。公にしていない内心を無断で暴くだなんて、同意無しに相手を裸にするのと同じくらいの暴挙だもの」
「僕そんな破廉恥野郎じゃないよ!」
「知ってるのだわ。だからジンゾウが私の心を読んでいるんじゃないか、なんて警戒はしません」
ジンゾウはそういう事をするタイプでも無い。
そう思って告げれば、顔を真っ赤にして怒ったはずのジンゾウは顔を赤くしたまま硬直していた。怒りがライン越えしてオーバーヒートしたんだろうか。
「ヒメってそういうとこあるよねェ」
「……鮮やかな手口だったな」
「公式が最大手」
「しかしこういった手段を使ってどうにかしたとしても、そしてトクサツ自身の意見として学園に戻りたいという言葉を引き出せたとしても、トクサツ母であるヒゲキ女王が厄介だね」
マッドだけ通常運転でありがたい。というか他三名はなぜ何とも言えない目で見て来るのか。いや、マンガだけはユニコーン頭で何も悟れない目をしているけれど。
「ヒゲキ女王の説得、が出来るのが最高。話が早いのはトクサツの誘拐。しかし強引に事を起こした場合、門番や使用人を一時的な味方につける事が出来ても国として動かれたら困る。エンタメ国はカメン王があちこちで活動している分、実権はほぼ女王が握っているも同然だ。跡継ぎを攫われたから潰せ、と国の力を出されれば負けるよ」
「王族ってのが厄介なんだよなァ……同じ王族なら対抗可能で拮抗出来てやすやすと踏み込めない状態に持ち込めるかもだけど、残ったメンバー唯一の王族であるジンゾウとしては」
「あ、無理」
「即答でェ!?」
先程までの赤面は何だったのかという程の、いつも穏やかに微笑んでいる事が多いジンゾウにしては珍しいくらいの真顔で即答だった。
「ワルノ王国が僕の味方をしてくれる事なんて無いし、僕が何か意見したところで頷いてはくれないと思う。誰だって、虫かごの中の蝶が何かを主張していたところで気にしないでしょ?」
「そ、そんなレベルなの……?」
「うん。寧ろ僕の弱みと認識して、エンタメ国にその情報を売り込んで敵対させて、エンタメ国から守る為っていう名目で皆を確保し僕用の人質として監禁、くらいはすると思う」
「頼れないどころかどこよりも頼っちゃ駄目なヤツ!」
こっわ! とライトが叫んだ。その叫びに全員で頷く。
ヒメとしては学園祭でうっすら聞いていたのでヤバい国だとは察していたが、こういう時に恩を売って裏切れないようにするのではなく、弱みを握ったと判断して即座に確保しようとする辺りがタチの悪い考え方だな、と思った。
「権力がバックにあると強いのはそうだけど、伝手を使っても王族との縁っていうのは難易度が高くない?」
ユニコーン頭のもっともな言葉に、ヒメは唸った。
王家に仕える者のファミリーネームを用いる事で王族ではないと偽装しているが、それを言っても良いものか。そこまで深い理由があるわけではないし、王族関係無く仲良くなれた友人達だし、王族であるとわかっても態度は変わらないだろうとも思う。
が、国対国で対抗するなら王族がもう一人くらいは欲しい。
「そう言うマンガに伝手は?」
「あるけど無い」
「自白剤の出番かな」
「待って今のは誤魔化したとかじゃなくて本当にそうとしか言えないの!」
マッドが取り出した小瓶に拒否を示しながら、慌てた拍子に少しずれたユニコーン頭を直しつつマンガは叫ぶ。
「わたしの父親、革命家で! 革命に成功して! だから縁はあるし王族への伝手もあるけど、王族としての力は無くてほぼ置き物や慕う対象という象徴状態になってるんだよ!」
「そういえばオタク国は、二十年程前に革命が起こったと聞いた覚えがあるのだわ。あまりにも酷い圧政だったから、と」
「そう! 文字も絵も舞台も、そういった表現的なものの名産地……なのにお偉いさん達が王族をバラバラに幽閉してお互いが人質ですよ状態にして傀儡化! 自由な創作は禁じられ、お偉いさん達の好み優先で健全な創作物を尊重という名の不健全作品の焚書に次ぐ焚書!」
そうだ、確かにそんな事を授業でも聞いた覚えがある。
歴史の本でも最近の出来事として書かれていたが、中々に酷い圧政だったらしい。創作系の本拠地とさえ言われる場所で表現の規制とは、蛇に這う事を禁じるようなものだ。
タカラザカも舞台系は評判なものの、華やかさが強いもの。オタク国の舞台系は作品を重要視しており、生身の人間が演じるからこその表現も重視する。
そんな国が表現規制とは、本当に笑えない。
「正直に言って故郷じゃそんな恐ろしい過去よりも今の創作最優先って感じだったからあんまり触れて来なかったんだけど……歴史のお勉強で聞く度、生まれる数年前にそんな状態に陥ってたなんてと思うと涙が出て来る! 表現規制なんて酷い話にも程があるよ!」
本気で泣いているらしくずびずびと水音がする。ライトが無言でそっと鼻紙を差し出していた。それを受け取り、マンガはユニコーン頭の首元から手を突っ込みずびずびと鼻をかむ。
「うう、ありがとうライト。そういうわけでわたしの父は無事に革命を成功させ、幽閉されていた王族を救い出し、創作の自由が許された国にしたんだ」
革命家の子なのに何故王族と縁がある、なんて言ったのか少し不思議だったが、そういう事か。
正直言って縁があると言っても宿敵に近い縁になるんじゃと疑問に思っていたけれど、要するに王族も被害に遭っていたからこそ、革命で王族が救われ、その縁で伝手がある状態らしい。だからこそ、頼れるかもしれない、と言えるわけだ。
「でも革命は革命だし、権力があるせいで怖い思いをしたから、って事で王族は政策を人々の意見で決められるようにと民主主義国家に。王族は王族として存在してるけど、彼らの発言はあくまで個人の意見、くらいの扱い」
「国への対抗は出来そうにないね」
「相手によってはそちらの国に新刊渡しませんよとか、お前をお前んとこの主神と乱交パーリナイな絵にして送りつけてやるからな、とかの喧嘩は売れるんだけどね」
大分本気の国際問題になるヤツ。特に後者。国を燃やされかねないのでその発想はやめた方が良いと思う。
「そう言うマッドはどうなの?」
「わたくし様に伝手なんてものは無いよ。様々な国から協力要請を頼まれる家系ではあるが、国の命令で作る物を決められるなんて御免だ。何一つとして楽しくない。何より、国というものは酷くうるさいからね。この薬を対価にするから協力してくれ、なんてこちらから言い出したりすれば、最悪ジンゾウと同じ状態だ」
「国からすれば喉から手が出る程に欲しい人材過ぎる弊害が大きいのだわ」
有能過ぎるがゆえに人質を取ってでも確保したい、という価値になってしまっている。
「だからどうしても伝手が必要な場合、権力はあるが医療関係が少し弱い国をターゲットにして水源に毒を盛って汚染、その解毒剤を安価で大量生産してやるから権力を少し貸せ、と言うのが手っ取り早いかな。向こうから頼んでくる状態、それも後がない状態に追い込めば、わたくし様に有利な条件で頷かせる事が出来る」
「やろうとしてる事が相手がやるかもしれない懸念事項とまるっと同じだよねそれェ!?」
「しかも友人どころか国全体を人質に取ってる」
「老人や子供、病人に万が一が出る上に周囲の自然環境を汚染しかねない最悪の発想をやめろ!」
ライトが叫び、マンガがドン引き、フリョウがキレるような発言だった。
ヒメとしては諸々を度外視して手っ取り早さとこちらの有利さだけを考えたなら確かにそれがベストだと思ったが、こちらにも矛先が向けられる気がしたので口を噤む。諸々を度外視した前提なので、プラマイとしては総合的にマイナスになりそうな気もするし。
「あァもう、怖過ぎる。オレの地元じゃ絶対やんないでねそれ。オレの地元じゃなくてもやらないで欲しいけど、オレの地元でやられた日には地元に連れ帰ってでも家業手伝わされる状態に陥るじゃん」
「……ライトの実家は確か、医者だったか」
「そ、医者家系です。フリョウ以外には言った事無かった気がするけど」
ああ、とヒメは納得した。
「それで毒を盛られた人の演技が上手だったのね」
「うん、何でか毒を盛られてマジでヤバい状態になってる人とよく会話させられる事多かったし、その杵柄でどういう弱り方をするのかは知ってる。手伝えって言う癖して、施術の準備している間患者と話してろ、みたいな指示が多いんだようちの親父」
チ、とライトは珍しく不機嫌そうに舌打ちを零す。
「そりゃまあ厄介な患者の時程、腕が立つメンバーで準備進めておいて、尚且つ手が空いてて対応の仕方もしってるヤツが患者の容体確認しつつ会話で少し心の重たいのを取り除くのが良いってのはわかるけどさァ」
いつもいつもあれやれこれやれって親父はさァ、とライトが愚痴る。どうやら父親に対しまあまあ不満があるようだ。トクサツの家に比べれば一般家庭レベルの問題だが、基本的に笑顔で明るく根に持たないライトがぐちぐち言うという姿そのものが珍しい。
ユニコーン頭が大興奮状態でその姿をスケッチしている辺りからも、珍しさはお察しだ。
「ええと、ライト? それで実家の方は王族との伝手は」
「ある! けど無理!」
ヤケみたいに拳を突き上げて叫び、ライトはぐてりと机に上半身を横たわらせる。
「だってうち、町の大きなお医者さんって感じだけど王族の主治医もやっててさァ。主治医だからこそ、そういうとこの線引きはキッチリカッチリしないと駄目なわけ。個人的な事で頼るなんていうのは、今まで築き上げた信頼全てを無に帰すも同然。立場を弁えてあくまで主治医として、専属の患者を気にするのは勿論のことだが、身内ではなく他人であるという事を決して忘れるな……って親父が」
「お父様が」
「耳に胼胝ができるくらい、オレが小さい頃から、医者の仕事に夢中になっててオレと顔合わせる頻度も少ない癖に顔合わせる度にそれをドヤ顔で語って聞かせて来てうるせーのなんのってェ……」
言いたい事はわかるけどォ、とうだうだ状態で顔を伏せているライトの頭をフリョウが撫でた。
確かに主治医は親しい存在であると同時に、限りなく他人である存在。王族と関わりがある上に、彼らの健康を一任された立場だから、という理由で権力に頼るようになればお仕舞いである。ライト父の主張はもっともだ。
「となると、ヒメちゃんとフリョウさんしか頼れそうな王族は居ないって事かあ」
「「は?」」
「でも二人が居るからまだ希望は…………え、あれ、なに?」
どうしたの? とジンゾウがきょとんとした顔をしているが、ヒメはそれどころじゃなかった。
何をあっさり暴露しているんだ、という気持ち。またやらかしたなこの駄犬、という気持ち。そして自分と同じタイミングで思わずといった声を出したフリョウが、王族である、という事に困惑する気持ち。
適当を言っている、とは思わない。ジンゾウはそれらを初対面で看破出来る存在だ。つまり間違いなく事実であり、
「……あれ、もしかして僕、またやっちゃ駄目な事した?」
「とても深刻な裏側があるかもしれない以上、本人が明言していない事を勝手に、それも他の人が居る前で暴露するなとあれ程言い聞かせたはずなのだわこの駄犬!」
「ぎゃんっ!?」
ヒメは拳を握り、側面をハンマーのような勢いでジンゾウの脳天へと叩き落とした。
「それにしてもマッドが人の役に立ちそうな物を持ってて、しかもそれを提供するなんて意外だなァ」
「そうかい? ライト」
「そりゃまあ。だってサイエンティスト家ってそういうの嫌うでしょ?」
「人の役に立つ物を作るのが嫌い、というわけじゃない。わたくし様達は作りたい物を作るというだけであって、結果的に人の役に立つ物になる、という事は大いにあるとも」
「あー、そういう」
「だが、そういうものを作ると面倒臭い意見が出るからね。それが嫌であまり作らないかな。作っても絶対公表しない」
「え、何で? オレとしては是非卸して欲しいし、品物を用意出来なくても一般で流通させられるくらいにわかりやすくしてくれたレシピを用意してくれたらなーって思う……あ、こういうのが面倒臭い感じ? でもサイエンティスト家以外でも作れるようなレシピにしてくれないと、そっちの手を煩わせずにこっちだけで、とは出来ないし」
「それだけで済まないから嫌なんだ」
「……というと?」
「これが作れるならこういった問題に対応した薬も作れるんじゃないか」
「あー、言いそォ」
「もう少し服用量少なくは出来ないか」
「言うかも」
「粉薬、錠剤、シロップ、カプセル。現在の形以外にこういった形状には出来ないものか」
「言う~~」
「で、それに耐えたとしても流通経路がどうだの、金の割り振りがどうだのと言われる。こちらはそんな、改良が終了して面白みも無くなったものへの興味は失っているというのに、だ。目の前に新刊があるのに、既に読んだことのある本を永遠に読まされる苦痛が君にわかるかい?」
「あー……それは、うん、提供する側として必要なものではあるんだけどォ……心当たりあり過ぎて何も言えない」
「だから作っても言わないんだよ」
「……それを、あれだけのバラエティに富んだ数、今回の件で出しても良いって?」
「トクサツの為となれば仕方ないかなあ」
「そんなに?」
「勿論。トクサツは良い子だよ。わたくし様の研究を邪魔せず、質問には素直に答え、何度も被検体になってくれる。そんな可愛い子の為となれば、そのくらいは惜しまないさ」
「……マッド、結構トクサツの事気に入ってたんだ」
「健康的な肉体を持ち、素直で従順。気に入らない理由があるかい?」
「そーいう言い方するからわかんなくなるんだよなァ」
「何が」
「マッドが普通はやらないような手段使ってまで取り戻そうとしてるって事は相当な好感度だろうに、完全に素の表情でそういう言い方で言い切るとこ」
「……ライトが何を言いたいのか、よくわからないな。そういった、感情を主軸にした抽象的なものはわたくし様の不得意分野だ。もう少しハッキリ言語化して欲しい」
「ほらこういうとこォ!」




