ヤンチャしよう
ライトはフリョウと共に保健室へとやって来た。
「すみませェん」
「どうした」
視線を向ける為に動いたためか、ギシ、と椅子が鳴る。流石巨体。
とはいえ長い前髪で目元は見えないが、コワイ先生はそのままじっとライト達を見た。
「怪我か」
「いえ、どっちかっていうと質問です。今お時間大丈夫です?」
「問題無い」
どうした、と再びコワイ先生が問う。
「トクサツの件なんですけどォ……病欠とかじゃないですよね?」
「……トクサツが何故長期休暇後も姿を見せないのか、という話か?」
「はい」
別に隠す気は無かったのでライトは頷いた。
「病欠だったら保険医のコワイ先生に連絡入るかなァ、って。でも王族なら回復魔法持ち呼びつけてさっさと治すくらいしそうだから可能性としては低いとも思ってるんですけど、一応」
「…………何か事情があるなら、教えて欲しい」
「そうか」
ライトとフリョウの言葉に、ふぅ、とコワイ先生がため息を吐いた。
「吾輩の口から言うより、お前の口から言った方が良いんじゃないか、テキトー」
「おいおい、気付かれてなかったんだから言うなよコワイ」
シャッと音を立ててベッド周りのカーテンが開いたと思ったらテキトー先生がそこで寝ていた。
けれど、ライトもフリョウも驚かない。だって、
「いやァ、気付いてはなかったけど多分テキトー先生だろうなァって思ってたんで」
「……そもそも教員室ではなく保健室に来たのは、テキトー先生が居るだろうと思っての判断です」
「おい、言われているぞテキトー。いい加減吾輩の縄張りをお前の縄張りにするのはやめろ」
「良いじゃないか、オレに用事ある生徒はここに来れば一発ってわかってるんだし」
くああ、と欠伸を零してテキトー先生が起き上がる。頭を指でバリバリ掻いて、
「で、トクサツの件だっけ?」
目を細め、うっすらと笑った顔でそう言った。
「はい。トクサツが授業再開しても登校してこないなんて不自然だから、何かあったんじゃないかって」
「母親の件で問題があった」
テキトー先生が端的に吐いた言葉に、隣のフリョウがビクッと肩を跳ねさせる。とりあえず背中を撫でて落ち着かせておいた。学園祭以降、フリョウはトクサツの母親にまあまあのトラウマを植え付けられたらしい。一体何があったんだろう。
「問題って?」
「娘は退学させる、とのお達しだ」
「はァ!? 退学!?」
「はいそうですかと言うわけにもいかんから休学扱いにしたが、連絡を取ろうにもなしのつぶてでな。困ってるんだ」
はぁやれやれ、とテキトー先生は困った、というよりは面倒臭いとだるいが入り混じったようなため息を零す。
「退学なんて、何で……」
「それがわからん。聞いても返答無しじゃどうにもならなくてお手上げだ。強引に聞きたくても相手は王族。打つ手無し」
「教師というのは立場もある。学園側という責任がある為、吾輩達自ら相手に踏み込もうという行動は起こせない。最悪、生徒たちを人質に取るような行動に出られる危険性すらあるからな」
「つまり」
コワイ先生の言葉の裏側に気付いたフリョウが、反射的という速さで口を開いた。
「つまり、生徒が自主的に勝手な動きをする分には問題が無いという事ですか」
「吾輩達は何も言わない」
「賛成したら背中を押したとしてオレらの責任になっちまうんでね。ま、大事な友人の為にヤンチャするっていうのは学生らしい青春で、眩しくって良いよなあ。あ、これはオレ個人の意見であって後押しじゃないから」
成る程、と遅れてライトも理解した。
教師側は学園の事がある為、むやみやたらな動きは出来ない。責任能力が云々だとか、生徒の事にあまりにも首を突っ込み過ぎだとか、そういった事を言われると非があるとして扱われる危険があるからだ。最悪、学園の立場自体が悪くなる。
将来が自由にならない生徒が多い、上流階級向けの学園。だからこそ、マナー違反にならない程度なら生徒達が自分の好きな事をしていて良い場所。
その場所が、最悪無くなる。
そんな可能性があるとなると教師側は動けないが、しかし、生徒側が自主的に、勝手にやった場合、教師側がこれからはヤンチャさせ過ぎないよう気を付けますね、という対応をすれば済む可能性が高い。
「……とりあえず退学の件について、友達に話してみます」
「おう、そうしてくれ。ああ、それと一応伝えておいて欲しい事が二つ」
「何でしょう?」
テキトー先生は人差し指をピンと立てる。
「一つ目は、お前達が溜まり場にしてる空き教室はお前達の部室として申請しておいた、という事」
「部室!?」
「お前ら学園祭後も部活に入るとかの申請しなかったろ。普通は演劇で失笑扱いされて、二度とそんな事になって堪るかって事で幽霊部員だとしても部活に入るんだが」
ライトとフリョウに視線を向け、ハァ、とテキトー先生がため息を吐いた。
「お前らはしっかりと上等な演劇をやってのけたし、準備期間に仲良くなったしで嫌な思い出にならなかったからな。でも部活無所属組による演劇ってのは嫌がらせ目的みたいなもんだから、毎年一年生のみで行われる」
「そもそも部活無所属の二年三年が居ない」
「なのにお前達は部活無所属のまま二年生! そういうヤツが居ると、新入生にも同じようなのが出かねない! 部活に所属させといた方が管理楽なのに!」
今、何か教師側の本音が出たような。
「というわけでお前達は無所属部の所属です。これからも集まって仲良くしてれば良し。今年の学園祭は演劇やりたかったら一年の無所属部が演じた後に時間確保しとくし、そうじゃないなら教師の補佐な」
「な、なんかオレ達が知らない間に話が進んでる!」
「……部活無所属が集う無所属部とは、もう何もかもが矛盾していませんか」
「良いだろ別に。部活って扱いにしといた方がオレ達教師の管理が楽だから仕方ない。これが一つ目」
どういうこっちゃという困惑と戸惑いが大きいが、まあいつもの溜まり場が正式に使用許可を得た場所になるという事なので良いとしよう。
「二つ目」
立ったままの人差し指の横に中指が立ち上がり、ピースサインになった。
「特徴からして間違いなくマッドだろう生徒が無断で実験台にして泣かせてトラウマ抱かせたらしい新入生の処置はオレがしました」
「うちの友人がすみません!」
「友人として謝罪する誠に申し訳ない!」
「本気で虫嫌いだったからこそ強めに効果が出たんだろうが、その結果正気に戻った時の反動がえぐい。その辺の記憶をぼかして何も起きてないよって状態にしたけど、そういう系は二度とやらないようにって言っといてくれ」
「吾輩から見ても可哀想なくらい泣いていたぞ」
「メンタルカウンセリングのプロフェッショナルなオレが居なかったら初手からトラウマ学園生活だったぜ、まったく」
メンタルカウンセリングのプロフェッショナルって記憶もぼかせるんだ。
でも確かにトラウマ治療というのは薬などを用いても一時しのぎにしかならないものなので、そういった技術か魔法が使えるというのは強い。魔法の場合は真似出来ないけど、その内どうやってるのか聞けないかなァ、とライトは思った。
「ま、オレからはそういう感じだ。トクサツの件について役立てなくてすまん」
「いえ! こっちでどうにか頑張ってみます!」
ありがとうございました、と言って保健室を出る。
トクサツの退学、溜まり場の部室化、そしてやらかしたマッドへの注意など色々報告しなければならない。そう思っていると、フリョウが保健室の扉を閉める前に止まったのが見えた。
「フリョウ?」
「…………一つ、聞いておきたい」
フリョウはテキトー先生とコワイ先生をじっと見つめ、問う。
「トクサツ本人が退学を望んだわけではないんだな?」
「知らない」
即答。
「それがトクサツの意思なのかという問いにも返答は貰えていない。親が言っているのだからそれ以上詮索するな、という対応だ。実際どうなのか、オレ達にはわからない」
「……そうか。わかりました。ありがとうございます」
ペコリと頭を下げ、フリョウは保健室の扉を閉める。
「フリョウ、何か気になってる事がある感じです?」
「…………」
廊下を歩き出しながら問えば、むぐ、とフリョウが言い難そうに言葉を詰まらせ顔を顰める。
それでもどうにか意思疎通の為の言葉を纏める事が出来たらしく、長い沈黙の後に答えてくれた。
「…………トクサツと、トクサツの母親の関係性は、酷く危ういものに見えた」
学園祭で二人のやり取りを目撃し、それがトラウマとなっているフリョウ。
フリョウの中でトラウマになるような会話、やり取りが繰り広げられたのだろう、とは思っていた。そして実際その通りらしい。
「酷く危うい、って表現が出る程かァ……」
「ああ。しかもトクサツ自身の意見よりも、トクサツ母の意見を最優先、といった様子だった。トクサツ自身がそういった対応をしているのもそうだが、トクサツ母の方も、そうするようにという刷り込みを行っているようにしか……」
「うっへェ」
それ、身も蓋もオブラートも無く言えば傀儡化の洗脳ってヤツじゃないっすかねェ。
名前の由来。
ヒメ→姫騎士。
ジンゾウ→人造。
マンガ→漫画、同人誌、オタク。
ライト→ライトノベル。軽い読み物=コミュ強。
フリョウ→不良。ヤンキー。見た目から誤解される系不良。
トクサツ→特撮ヒーロー。
マッド→マッドサイエンティスト。




