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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
始まり
3/89

ペナルティの恐怖



 ヒメとジンゾウが教室に戻ってくれば、昼寝を済ませたらしいテキトー先生が戻って来ていた。


「おう、お帰り入学生。今年はお前らか」

「今年は?」

「毎年あるんだよなあ、そうやって教室出るレベルで大事な話するヤツ。情報交換が上手く行ってなかったとかで想定外の顔に会ったとかそういうの」

「まあ、似たようなものなのだわ」

「だろうな。とりあえず座ってくれ。面倒だから叱ったりしないし安心してくれて良いぜ」


 そんな適当発言をするテキトー先生に、生徒から幾つか手が上がった。


「先生! こういうのはきちんとすべきだと思います!」

「確かに叱るには二人にも、というかヒメさんにも事情があったのだと思いますけれど!」

「叱る叱らないはさておいて教師たる立場の者が面倒だからといった言い方をするのは如何なものかと思うがね!?」

「うーん、今年も濃いなここの生徒」


 圧がある生真面目系らしきメンバーからの言葉もスルーし、テキトー先生はへらへら笑う。


「ま、叱られたいならそう言ってくれりゃ叱るさ。オレは叱ったりとかあんましたくないからしないだけでな。叱られたくないヤツからすれば良い話だろ? 叱られなくてラッキーと思ったら先生に何か奢ってください。安いの一つで良いぞ。何なら地元の名産品とかだと嬉しい。酒のツマミになる物ならもっと嬉しい」

「適当過ぎませんか!?」

「やりたくない仕事やってるヤツなんてこんなもんよ」


 へらへら笑っているが、この教師自分の職務について生徒に絶対言っちゃ駄目な事言いやがった。


「ま、家庭の事情ってヤツだな。家庭の事情が色々あるってヤツは多い。王族も多い学園だからそりゃそうなんだが。なので相手が嫌がってないなら踏み込んで仲良くなるのも有りだし、相手が嫌がるなら深入り厳禁。そこを気を付けるように。そこさえ気を付けてれば問題は生じないはずなので先生は楽が出来ます」

「最後のは要りません先生!」

「ハッハッハ。さーて授業の説明や部活の説明していくぞー」

「無視ですか先生!」

「生徒の言葉を無視すんなせんせー」

「えー、高等部に入ってからは授業内容もまた変化しますが、入学組にもわかるよう一から説明していくので進学組も一緒に聞いてれば問題無いです。で、高等部からは部活という制度が発生するわけで、それぞれ好きな部活に入りなさい。父兄が学校の様子を見に来る事が出来る学園祭時には部活ごとに出し物をするから、将来はしゃげないヤツはこの機会に全力ではしゃいどけよー」

「はい先生!」

「はいそこのメガネ君、どうした」

「俺メガネ掛けてないです先生!」

「前髪それっぽいからメガネ君で良いだろ。で、どうした」

「王族が沢山在籍しているという事はその父兄も王族だしバリバリ現役だと思うんですけど、生徒同士はともかく険悪状態の親同士で鉢合わせたら国際的な戦争発生しませんか!?」

「あー、まあお行儀良い父兄の方ならこんなとこでやらかす問題じゃないってわかってるから良いけど、行儀悪い父兄はなあ」


 時々ある、とテキトー先生が頷く。


「が、そういう場合は魔法を行使する許可が出ているのでマジもマジにマジな最悪の場合は先生が対処します。基本的には普通に注意して、駄目なら顔が怖い先生が注意して、それでも駄目なら上の立場な先生が注意して、それでもやらかそうとしたら、の最終手段だけど」

「はい! 自分魔法のバラエティ展開について研究してるんですけどテキトー先生の魔法って何ですか!」

「いざという時の切り札だから秘密。聞きたきゃオレを口説き落としな子猫ちゃん」

「自分コネコアイランドの民じゃなくてワンコ山の民です!」

「うーん国際的な生徒が多くてネタが通じないな」


 わははと笑い、テキトー教師が話を締める。


「ま、口頭説明はこんなもんだ。本来は先生が色々説明するところだが、他の諸々については高等部案内を参照してくれ。この後配られるから」


 何とも適当な教師だが、不快感が無い教師なのは良い事だ。





 教室案内も終了し、最後に食堂を紹介された。


「食事はここで取るように。まあ学食だな」


 テキトー先生がそう説明する。


「カウンターで注文すれば提供される。小盛り普通盛り大盛り地獄盛りとあるから自分の食べる量に調節して注文な。各国の料理がメニューにあるから、出身地伝えて料理名言えば食べたい味は出て来るぞ。外国料理でも大体どの辺の料理かを伝えれば出て来る。国や宗教の決まり、またはアレルギーの問題で食べられない物があるヤツは注文前にそれを報告な。塩無し豚無しとか言えば通じる」

「わっしの好物のナマコの酢漬けもありますか!」

「オレは頼んだ事無いから知らない」

「バッサリ!」

「気になるなら自分で頼みな。食堂紹介は色々な面倒を考えて今日はクラスごとに時間をずらしてあるが、明日からは普通に他のクラス、どころか他の学年混じりでの食事になるから気を付けろよ」

「具体的にどの辺りを気を付けるんですの?」

「席が既に埋まってると五人で座れる席が無いからバラバラになる、とかがある。まあ見ての通りテーブル多いし席も多いから早々無いけどな。カウンターも多いから列で手間取ったりも無い。ただし行列に横入りしたり、学食以外でも日常生活であからさまな行儀の悪さを見せたらペナルティ。五段階あるから気を付けろよ」

「どういう五段階ですか!?」


 生徒からの質問に、テキトー先生は面倒臭いという顔をしながら説明をし始める。


「えー、まず一段階目は口頭注意とメンタルセラピー」

「メンタルセラピー?」

「する側な。愚痴を抱えてる教師の愚痴を三時間程聞かされる。愚痴が特に無いなあって状態の時は教師の酒盛りにお酌係で参戦させられるから気を付けろ」

「それ色々とアウトでは!?」

「仕方ないだろ。結構昔に出来た制度で当時の教師や生徒が考えたヤツだし、各国揃ってたせいでセーフアウトのラインがガバガバだったんだ」


 つまり酒をアウト扱いするよりは酒がセーフ扱いされる国民が多かった時期、なのかもしれない。酒がアウト寄りだったならもう少しレベル高めの罰則扱いになっていただろう。


「二段階目はクラスで一番不器用なヤツに爪切りをしてもらう」

「絶妙に怖い!」

「というかクラスで一番不器用な誰かが犠牲になってます先生!」

「最初は髪を切るって案もあったそうだが、不器用の程度によっては罰則度が大変な事になるので爪切りになったらしい。爪切りもヤバそうな不器用が居る時は、その不器用にあーんされる刑となるぞー」

「羞恥心と万が一のドキドキで大変な事になりません!?」

「じゃないと罰則にならないからなあ」


 テキトー先生は笑っているが笑いごとじゃない。二段階目から中々のペナルティだ。


「三段階目は親族や恩人、友人などに感謝の手紙を書いて送る。本心からである必要があるので、そういう相手が居ない寂しいヤツは教師達で勝手に投票して作り上げた架空の友人の設定を渡すので、その相手に手紙を送るというていで書いてもらう」

「どっちにしろ辛い!」

「三段階目のペナルティを受ける身で感謝の手紙も辛いし、後半に至ってはそういう相手が居ないのも辛いし勝手に作られた架空の友人相手にありもしない感謝を伝えるって難易度高いよ先生!」

「罰則とは恐ろしいものなんだ」


 恐ろしいのベクトルが大分おかしい。


「四段階目は一日性格反転魔法を掛けられる。性格悪いヤツは一日完全に善人になるし、その時の記憶もバッチリ残るので公開処刑となる。実質的に最後のペナルティみたいなヤツだからきっついぞ」

「ひえ……」

「四回もペナルティ食らう人と考えるとそれは恐ろしい……」

「外野から見ても怖過ぎる」

「で、五段階目だが」


 テキトー先生はニッコリ笑った。


「翌日からソイツは性格や言動はそのままに、ペナルティを食らうような行動だけは決してしない人間となるだろう」

「…………えっ」

「以上?」

「こわ」

「まあ純度百パーセントの自分自身で居たいなら五段階に到達するなよって話だ。いじくられるのは誰だって嫌だろ? とはいえヤンチャをやらかし過ぎるようならいきなり三段階目のペナルティになる事もあるから、お行儀良くしつつ楽しくエンジョイしてこうぜ、ってな」

「先生! 楽しくエンジョイするには今の説明が怖過ぎます!」

「忘れたかったら忘れさせてやるぞー。他の記憶も一緒に消えても良いか?」

「駄目だもっと怖い発言しか出ねえこの教師!」

「ワッハッハ、まあ王族貴族集まる学園で先生やるならこんくらいアクが強くねえとやってられないさ。それより次が来る前に飯注文して食っとけよー」

「そうじゃんお腹空いてるんだった!」

「何はともあれ飯!」

「家じゃ中々食べられない料理で今の怖い話忘れるぞお前らー!」

「おおー!」


 食べ盛り達はペナルティにならないぞという気持ちを抱えたまま、ペナルティの詳細という怖い話を忘れるようにカウンターへと群がった。





 ヒメは海鮮丼を注文した。

 まさか食べられるとは思っていなかったので軽い気持ちで注文したらメニューに存在していた事、加えてジンゾウに転生者であるとカミングアウトしたからか少し日本が恋しい気持ちになっていたので欲望に勝てなかったのだ。

 一応サバイバル技術を覚えておいた方が良いという両親の方針により生の魚の捌き方や食べ方も知っている、何なら実践もしたわけだが、海鮮丼はまた違う物なのでワクワクする。


「あの、ヒメちゃん。隣に座って良い?」


 トレーを持った巨体の申し出によりヒメのワクワクタイムが一瞬にして終了した。


「……別に私に話しかけずとも、他のクラスメイトと交流を深める時間にするのも有りだと思うのだわ」

「え? うん、だからヒメちゃんと食べたいなって」


 ヒメはジンゾウに犬の耳を幻視した。駄目かな駄目かなと少し不安そうな目でじっと見られては、冷血というわけでもないヒメにも流石に刺さる。


「…………構わないのだわ」

「ありがとう!」


 ジンゾウは満面の笑みでヒメの隣に腰掛けた。


「うわあそこ座高の差えっぐ」

「ヒメっち人形がちょこんとしてるみたいできゃわわだけど隣が可愛くねえ。王族だってわかってるけどゴツい」

「ゴリラかな」

「ゴリラング王国出身の私に何か?」

「ヒエッ筋肉質イケメン女性。何でも無いです」

「改めて個性の見本市かよ」


 後ろが騒がしかったのと人形扱いに一瞬イラついたヒメだったが、すぐに周囲の意識は逸れたようなので良しとした。刺身の鮮度も味も大変良いものなので、海鮮丼分も加算してプラマイプラス。

 しかしこの男が隣だとやはり目立ってしまう、と思いながら横を見て、


「え、それだけ?」

「? うん」


 ジンゾウの前にあった食事に驚愕した。トレーの上には小さい握り飯が二つしか載っていない。ヒメには丁度いいサイズだが、ジンゾウの体格からすれば二口で握り飯一つが消えるだろう。何なら大口を開ければ一口で二つ分が消えるサイズ。


「んっと、俺は代謝とかそういうのが無いっていうか、まあ、そういう感じで。肉体を動かす最低限のエネルギーっていうかカロリー? さえ摂取出来れば動けるから」

「う、動けるって言ってもその体格と筋肉量でどうにかなる食事量じゃないのだわ! 私だってカロリー摂取に気合いを入れないと倒れるのに!」

「え、ヒメちゃんそんなに小さいのに!?」


 むかついたのでギッと睨めば失言に気付いたのかジンゾウはしゅんと背中を丸めた。


「私の場合、根本的に胃が小さいのか量を食べるのが難しいのだわ。でも足のリーチの分だけ移動の際の消費カロリーが違うし、そこに鍛錬も加えると更にカロリー消費が激しくなるのだわ」

「あ、そっか小さい子って凄い小走りするもんね。ちっちゃい犬とかも早足で歩くし……ごめんなさい」

「本、っ当に学習能力が心配になるのだわ……」


 トケトゲした声色でヒメは言った。口を滑らすにも程がある。


「でも一度に食べられる量には限界があるから、頻度自体を上げて摂取カロリーの総量を上げてるのだわ」


 これは母からの教えである。

 運動で消費するエネルギーと食事から得るエネルギー、そこを計算してきちんと摂取しないと、毎日食事をしていても衰弱して倒れてしまう。そう母は言った。

 要するに乾燥の分だけ保湿しなければ保湿が間に合わなくて砂漠肌になるみたいなものだ。

 きちんとした強さを得るには、その分食べてしっかり動く。それが重要。

 ちなみに父からは栄養バランスも大事だが、好物を積極的に食べる方が結果的に量を食べやすいからそうするように、と言われている。栄養が気になるなら添え物で取っとけば良いとも言われた。とにかくヒメの運動量と食事量を合わせる必要があるわけだ。

 まあ競走馬なんかも、飼い葉をあまり食べられない馬の時は厩務員が四苦八苦して飼い葉を食べさせて肉をつけさせるようなのでそういうものという事だろう。胃が小さいなら頻度を上げる。結果的な総量さえ目標に達成していればそれで良い。


「……一度に食べる総量、オーバーしてない?」


 ジンゾウの言葉にヒメはむぐ、と喉を詰まらせて慌てて水を飲んだ。


「…………何でわかったの?」

「食べる速度が落ちてたし、咀嚼回数も増えてたし、飲み込む時の動きとかも途中から変化したな、って。小盛りにしなかったの?」

「したのだわ、ちゃんと。でも学生向けの小盛りは私には少し多い、というか」


 無理に食べる方が体に悪いので、もう残してしまおうか。そう考えるヒメの視界にはジンゾウが居た。大丈夫かと心配そうに、犬耳を幻視する表情でこちらを覗き込んでいる。


「ジンゾウ、これ食べれる?」

「え!? そ、それはまあ、必要が無いから食べないだけで食べる事自体は問題無い、けど……食べちゃって良いの?」

「私はこれ以上食べられないのだわ。海鮮丼だから好みが分かれるとは思うけれど」

「食べる! 食べるよ! 食べたい!」

「そこまで?」


 先程は食事自体に興味無さげだったのに突然の勢い。よくわからないが、海鮮丼の何かが彼の琴線に触れたらしい。


「あ、あの、その代わりにちょっと聞きたい事があって」


 海鮮丼が琴線に触れたというより、質問の対価というつもりだったようだ。

 まあその方がこちらも変に借りを作るような事が無いので気楽だと思いながら、どうぞ、とヒメが返す。


「ヒメちゃんはお姫さ」

「ジンゾウ」

「ごめんなさい! えっと、その事を隠してるのは何でかなって!」

「……危険回避の為とか、私以外は色々と理由があって隠している人も居ると思うのだわ」

「ヒメちゃん以外はって事は、ヒメちゃんはそうじゃないの?」

「安全の為はその通りだけど、お母様の指示でもあるのだわ」


 そう、安全の為にと母はヒメを公の場には出さなかった。護衛見習いの形としてならともかく、娘として他への紹介をする事は無かったのだ。

 それは万が一が無いようにとヒメの安全を確保する為であり、幼い頃に色々あった母なりの気遣いなのだろう。

 そして今回も身分を隠すのは安全の為と思っていたが、学園に向かう前、母は言った。


「『上の立場とわかれば寄ってくる者も居るだろう。だが、そういったものが無い立場の中で親しくなった相手。それこそが一番大事にすべき存在だ』……お母様は、私にそう言ったのだわ」

「……そっか。じゃあ、俺ともお友達に」

「確かに同じ立場(王族)だけど、身分を初っ端から暴いてきた相手と仲良くなる理由なんて無いのだわ」

「ええ!?」

「立場を知らないからこそ、が重要なのに、立場を知った状態で話しかけてきたのはそっちなのだわ」

「そ、それはそう、だけど、でも……そ、そうだ! これからも学食の量が小盛りでも多いなって時に俺が食べるから!」


 ヒメは少し考えた。王族が自分から提示する条件じゃないと思うし、結構酷い態度を取り続けているのに何故こうまで懐かれたのかもサッパリわからない。

 が、学食にはこれからもお世話になり、尚且つこれまでの経験上胃袋はどうしても大きくなってくれなかった事等を思えば、


「話をするクラスメイト、くらいの距離なら構わないのだわ」

「ヤッター!」


 ジンゾウはガタッと大きな音を立てて立ち上がって万歳をし、ニッコニコの笑顔で、巨体に見合う肺活量で声を上げる。


「ヒメちゃんとお友達になれて嬉しいよ! これからよろしくね!」


 ニッコニコのジンゾウ。周囲を窺うヒメ。

 当然ながら周囲はジンゾウの声や立てた音に反応して視線を向けており、


「こ、…………っの、駄犬王子!」


 思わずヒメが怒号を響かせたのは仕方のない事だった。





コネコアイランド

基本的に小柄でのんびり屋が多い島国。自生植物も多く、働かなくても食っていける夢の島。


ワンコ山

大きな山に切り取られた地形の国。真面目な人が多い。


ゴリラング王国

帝国タカラザカとは種類が違う女系の国。タカラザカが美しいアマゾネスなら、こっちはゴリマッチョなアマゾネス。でも戦って奪い取れ思考のタカラザカより平和的な会話が望めるため意外と温和。



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