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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
学園祭
28/89

長期休暇前



 学園祭は華々しい花火と共に終了した。

 その花火は当然魔道具であり、事前に生徒達に願い事は見ないからという説明をした上で自身の望みを書いてもらい、それを一枚ずつ花火の核としてセット。

 そうする事で、願いの内容や純度によって色が変化する花火の出来上がり、となる。

 恨みを持って毒々しい願いを書いたならばどす黒い花火になるし、純度の高い純粋な願いを書いたならば真っ白い花火に。

 そうして、今のは一体誰の願いだろう、と友人達とわいわい話しながら花火を眺めるのが学園祭の醍醐味だった。

 ヒメは当然、『清く正しく美しく、そして強く』と書いた。

 その願いを核にした花火が何色になったかはわからないが、綺麗な色で輝いた花火の一つであれば良いなと思いつつ、学園祭も終わり、


「長期休暇の準備、っていうねェ」


 最早誰も何も言わずとも皆が集まる空き教室。

 そこで背もたれを抱えるようにして椅子に座りながら、ライトが疲れた様子でそう言った。


「いやもう知ってるけどさァ……毎年こうだしィ……」

「……嫌そうだな」

「だァって絶対家業手伝わされるんすよォ!」

「……申請すれば残れるのだから、いっそ申請するという手もあると思うが」

「んんん……どっちにしろ親父がうるさそうだからなァ……」


 でもわりと揺らぐゥ、とライトが唸る。

 そう、長期休暇。学園祭後にある長めの休みであり、一年に一度、生徒が実家に帰る機会でもあった。

 勿論生徒によっては家庭の事情等がある為、申請をすれば学校に居残る事も出来る。

 もっともこの長期休暇中に学園内の点検や卒業について、また入学についてなど色々とやるので教師陣が忙しくなり、居残ったとしても長期休暇中は授業が無い。

 そもそも教師陣に授業の暇がないので作られた長期休暇だとも言えよう。

 その為居残る生徒は強制的に教師のパシリとして使われる事になり、実家の家業手伝いが面倒臭い、という理由で居残ってもあまり意味は無いんだとか。まあ実家に帰ると暗殺の危機がある、といった生徒は嬉々として残るが。


「わたしは実家、というか地元で発売されたであろうここ一年分の新刊を読み漁りたいから世界が世紀末を迎えようとも帰るつもりだけど、マッド達は?」

「わたくし様も帰るよ。実家の方が設備も整っているからね。何より、学園という未成年が居る場ではとても出来ない実験をしやすい」

「実家で何してんだ未成年。参考にします」


 何言ってるんだあのユニコーン頭は。流石にマンガの言動にも慣れたつもりだったが、ヒメは思わず半目になった。


「トクサツはどうするんだい?」

「勿論帰るわ! パパは長期休暇中でも忙しくってお城に居ないだろうけど、ママはきっと僕を待ってくれているから!」

「ぐ……っ」

「うわッ、フリョウ大丈夫ですか? 顔色悪くなってますよ?」

「いや、……いや、大丈夫だ。少し嫌な記憶が……」


 フリョウは何か嫌な後遺症が残っているらしい。トクサツが母親の話題を出す度に顔色を悪くしているので、相当ヤバいものを見たようだ。


「私も当然帰るけれど、ジンゾウとフリョウはどうするの?」

「僕は帰るよ。帰って色々調べられないといけないから」


 調べないといけない、ではなく、調べ()()()()()いけない、なのがとても闇。学園祭以降隠さなくなっているのか、それとも無意識で緩んでいるのかどちらだろう。


「おや、気になるね。調べられないといけない、とはどういう事かな? わたくし様が前に聞いた時、持病などは無いと聞いていたけど」

「マッドさん、それ聞いて問題無いって判断した次の瞬間には薬盛った飲み物出して来たよね」

「鑑定能力なのか、異物混入ドリンクと即座に見破られてしまったのは残念だったよ。それでジンゾウ、どうして君は調べられないといけないんだい? 持病の類では無いのなら、異世界人の能力が扱える、という特異性から健康面に不安が無いかの確認かな?」

「どっちかというと僕の人格があるか、それとも無くなったかの確認かな」


 また闇。


「あ、でもマッドさんの言う通り、健康面の診察もあるよ。色々と無茶してるから寿命もちょっと危ういし、肉体の耐久度チェックや生き物として活動出来ているかどうかの確認とかさせられるんだ」

「既に無茶を? なら今後わたくし様が何か無茶な実験に付き合わせても問題無いという事かな」

「問題あるよ!?」

「既に無茶をしているならそこに少しのヤンチャを足すくらい良いだろう?」

「良くないって! 絶対少しのヤンチャじゃ足りないし!」

「そうかい。残念だな。体内の劣化やら諸々を操作して幼児化または老人化といった効果が発揮される薬の実験台になってもらおうかと思ったのに」

「僕は今の僕しかないんだから無理だよ」

「まあ確かに、今生きている姿しか本来はないものだけどね。そこをどうにか出来たら楽しいのに、となるのがサイエンティスト家だ。法則性なんてものは虚仮にしてなんぼ、と祖母も言っていた」


 マッドの祖母は中々にいかれているらしい。縁が無い事を祈っておこう。


「……フリョウの方は?」

「…………ん、ああ、俺か。叔父だけではオーバーワークな教師陣の回復が間に合わない可能性が高いから、と残るよう言われている。帰っても医療関係の本を読み漁るしかないので、こちらの方が魔法の限界を測れる分有益だ」


 その言葉に、ライトがじっとフリョウを見る。


「前から思ってたんだけど、フリョウの家って医療関係なんです?」

「………………ああ」

「いや溜め長い! そんなに言いたくない感じですか!?」

「……いや、そういうわけでは、ないのだが、どうにも……言い辛く…………」

「ああ、まァ、口外厳禁な事とかありますしねェ。オレも家業についての詳細は最悪命狙われるから言わないようにって言われてるしなァ」

「……そう、なのか」


 それを聞いた上で改めて考えると、やはり上流階級向けの学園なのだな、とヒメは思った。

 普段のテンションからはとても上流階級らしさが見えない生徒も多いが、口外する事は信用に関わる、という事もある。身の危険に繋がる場合もあれば、今後の付き合いで立場等気にせず交流出来る相手を、という場合もある。ヒメの場合は後者と言えよう。


「ま、オレは結局帰るかなァ。残ったら家を手伝いもしないなんてって親父がぐだぐだうるさそうだし」

「となると、やっぱり荷物の纏めに悩まされるのだわ」

「そう! それ! それが毎年面倒臭い!」


 そう、長期休暇となれば当然荷物の問題が出る。

 向こうが本拠地なので持って帰る物は少ないのだが、自衛として貴重品は持ち帰るよう言われているし、生徒によっては土産も多い。

 特に学園からすぐ行ける町は、学園生徒の為にと用意された店ばかり。それぞれの国に合わせた飲食店もあれば、それぞれの分野に特化しまくった本気の店もうじゃっとある。

 虫が大量にわさわさしてるみたいな擬音を使いたくなるくらいには、ある。

 結果地元でも取り扱っていないような専門的な本が定価で確保出来たから、と大量に購入したそれを持ち帰るので荷物が、という生徒も多い。器具だって国によっては輸入費が大変な事になりそうなものも定価の範囲内で売っているのだ。結果荷物が増えて生徒はか細い悲鳴を上げる。


「専門書とかの類は中等部時点で土産にしてるから今年はまだマシだけど、移動が長いのもまた面倒なんだよねェ」

「それを言ったら、学園祭の時だってその長い移動を乗り越えて来てくれた人達ばっかりだったじゃない」

「正論!」


 トクサツに正論をかまされたライトはがっくりと肩を落として白旗を振った。


「長期休暇って言うけど、卒業や入学式もこの期間内に行われるんだっけ?」

「ええ。だから教師陣が忙しくなるのだわ」


 なので親しい先輩がいる場合は長期休暇前に挨拶しておかないと、連絡先も知らなかった場合二度と顔を合わせられない、という事もある。

 まあ教師に聞けば名簿から辿って手紙を出す仲介をしてくれたりはするのだが。


「そうじゃん卒業式! オハナそれまでに告白出来るかな……成功したら是非参考にしたい! いや成功してなくても参考にしたい! よし、今から聞いて来よう」


 マンガが急に騒いだかと思うと立ち上がった。明らかに野次馬根性。


「オハナって誰?」

「創作部の友達!」


 マッドの問いにマンガが生き生きとした目、かは被り物でわからないが生き生きとした声で答える。


「トショとかヨンコマとの縁で時々話すんだけど、創作部文章組のリーダーに恋してるみたいで見てるだけでもキュンキュンするんだよ! 彼女の書く作品も甘々に胸キュンで、これはもう応援するっきゃない! っていうね!」

「へえ」


 マッドがそれに反応を見せた。


「失敗したら教えておくれ。恋が必ず成立する薬を授けてあげるからさ」

「童話の魔女?」

「支払いは実験結果と今後被検体となる事への同意で良いよ」

「違う! 悪質なタイプの魔女だ! しかも実験結果って事は完成品ですら無い!」

「完成品なら媚薬があるよ。恋っていう抽象的なものよりはこっちの方が性欲と方向性定まってる分作りやすくてね」

「おっと自費出版冊子に出て来るタイプの便利なお薬生産魔女になっちゃったな」

「恋の薬は現状全てが未完成だ。色々作ってはみているものの、効果が高かったのは特定の相手を見た、接した時のみ体温上昇脈拍数増加する薬だ。それもかなり希釈しないと命に係わる」

「きょ、興味深いのに危険度がそれなりに高い……!」

「特定の相手にのみ性的興奮を覚える薬も試作したけれど、こちらも駄目だったね。薬の効果が切れてもその対象に性的興奮を覚えはするが、恋に必須とされる恋愛感情と言うよりは性欲優先の様子になってしまう」

「ありがとうネタ出しの魔女。参考になります」


 いまいち理解出来ない会話だが、楽しそうで何よりだ。

 使用用途がよくわからない薬も多々作り、既存の薬にも詳しいマッド。そして何もかもを自身の作品へと昇華するマンガ。二人の相性は意外と良いようで、よくこういった会話をしているのを見かける。

 もっとも、単純にお互い自分の好きなものしか見ていないからこその噛み合う会話という気もするけれど。


「もう! マッドさん! マンガさん! そういう事をヒメちゃんの前で言っちゃ駄目だよ!」


 とりあえず耳を塞ぐのをやめて欲しい。ジンゾウは相変わらず変なところで繊細だった。しかも手が大きいせいか隙間が出来ていて普通に聞こえる。


「そうかい? ヒメは特にこういった会話を聞いたところで気にしやしないだろう」

「エッチワード全然出てないし」

「出てるよ! もう! そういう破廉恥なのはよくない!」


 真っ赤になって湯気を放ちながらジンゾウは叫ぶ。


「こんなに小さいヒメちゃんに悪影響じゃないか!」


 完全なる子供扱いと判断し、ヒメは体を捻って反転し真後ろにあった屈強な鳩尾に拳をねじ込んだ。





 それぞれの花火の内容。


 ヒメ→『清く正しく美しく、そして強く』

 色は目が眩むような白。混ぜ物ゼロの高純度。


 ジンゾウ→『この時間が続きますように』

 色は淡い桃色。温かい気持ちと、籠った気持ちがまだほんのり薄い為。


 マンガ→『これからも溺れる程のネタが欲しい』

 色は灰色。混じりっ気無し高純度の欲望。


 ライト→『演劇大成功!』

 色は爽やかミント。演劇が成功したら良いな、終わった後に皆で笑えたら良いな、という純度高めの楽しさと思いやり。


 フリョウ→『人との交流が増えますように』

 色は濃い目の紺。暗めの気持ち。諦め八割。残り二割は叶えば良いなというほのかな期待。交流が嫌いなわけではないので無所属組としか交流が無い今はちょっと寂しい。


 トクサツ→『ママが幸せでありますように』

 色は中心が黒い白。高純度で本心からそう願ってる。でも、ママの幸せを願うから自分を愛して欲しいという気持ちはどうしてもある。無意識であっても。


 マッド→『サイエンティスト家の敵に滅びを』

 色はうっっすい紫。強く恨んでるわけじゃないから。願いとしては新薬作りだが、自力でやるので願う必要は無い。なので目下面倒臭いのを潰す方向性で。折角だからクーポン使うくらいの気持ちなので色が薄い。



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