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私、実は姫騎士なのだわ  作者:
学園祭
27/89

合流



 目元を袖で拭ったジンゾウが立ち上がる。


「まずはあの人をどうにかしないと」

「周囲に敵意、悪意は感じないのだわ。マップで居場所の把握は?」

「うん、出来るよ。というかさっきからしてる」


 ジンゾウは怪訝そうに眉を顰めた。


「ただ、ちょっと動きが変なんだ。あの人はオート型の魔法持ちで、魔法によって五感が鋭い。だからターゲットを見失う事も無いし、他の人から見ても不審と思われない距離から相手を捕捉。そうして盗聴した内容を書き出して報告する。でも、僕達がここで話す前から急に立ち止まって、見失ったのか逆の方向に移動してるね」

「……それ、もしかして近くに他の人間も居ないかしら。まるで同行者みたいに」

「え? うん、確かにそうかも。近い距離の点だし。誰かなこれ……え、テキトー先生?」


 脳内にあるのだろうマップで同行者が誰かを把握したらしいジンゾウの呟きに、ヒメは納得した。


「そういうことね」

「そういう?」

「考えればすぐにわかるのだわ。不審者は教師によって連れて行かれる。近場、あるいはとびきり厄介な客の場合、対応するのはテキトー先生になるのだわ」

「あ、そっか魔法!」


 その通り。ヒメは頷いた。

 テキトー先生の魔法は洗脳。やらかした客は頭の中をいじくられ、綺麗な精神で帰る事になるだろう。自業自得なので可哀想とは思わない。


「これで先程誰かさんが泣き出す程に追い詰められていた問題については何も心配がなくなったのだわ」

「そ、それは言わないで! 泣くなんて初めてで僕も驚いてるんだから」


 泣くのが初めて。

 大袈裟に言っているとかでは無さそうだと感じ、ヒメは思考を停止させた。深く考えない方が良い気がする。具体的にはジンゾウの出生の闇に触れる気がする。


「で? どうするの? 問題が無くなったようだけど、守る理由が無いなら別行動かしら」

「えっ、嫌だよ! 折角の学園祭だからヒメちゃんと一緒が良い!」


 先程一緒に居る事で危険に晒した云々を忘れたらしい。

 まあ、変に思い悩まれるよりはそちらの方が良いか、とヒメはため息を吐く。うじうじされるよりはマシ。


「……ま、構わないのだわ」

「本当!?」

「ええ。断る理由もないもの」

「そっか、良かった! さっき危険に巻き込んじゃうところだったから、もしかしたら嫌がられるかもって思ってたんだ!」


 思ってたのか。


「でも、僕はヒメちゃんと回りたかったから。嬉しい!」

「ははは。我が子ながら、中々厄介そうな相手に気に入られているようだな」


 その声に視線を向ける。

 先程から何か気配を感じるなとは思っていたが、やはり、


「お母様」

「ああ」


 カツ、とヒールを鳴らしてヒメの母、ジョテイが近付く。


「そちらがジンゾウ・フッカツか。手紙通りの体躯だな」

「初めまして! ジンゾウです!」

「構わん。()()()()、で良い」


 え、とジンゾウが目を丸くする。


「気付いていただろう、貴様」

「……気付かれてたんですか?」

「ヒメの手紙で貴様については知っている。初対面相手ならば反射的にステータスを確認。そういう癖が付いている事も、本名から恐らく親族まで情報開示されているだろう、という事もな」

「そ、その通りです」


 その会話に、ヒメも遅れて内容を理解した。

 要するに演劇の時、母は父と共に観劇していた。ナレーションであるジンゾウをそこで見たわけだ。同じ部活無所属組である事、一緒に演劇をする事、彼はナレーション担当である事等も報告していたので両親側からの把握は早かっただろう。

 そしてジンゾウは恐らく、ヒメの両親とわかった上でステータスを見たのではなく、会場内の人間全員のステータスを見たに違いない。

 そこでヒメの両親が居る事に気付き、顔を把握した、というところか。

 なので会話は無くともジンゾウ側からすれば今の対面は初対面というわけではない。母のジョテイはそれを察し、ああ言ったというわけだ。


「改めて自己紹介だ。わたくしはジョテイ・キシ。帝国タカラザカの女帝である」

「は、はい、存じてます」


 頷き、ジンゾウはヒメの方をじっと見た。


「? 何?」

「いや……ナレーションしてる時に見た時も思ったけど、ヒメちゃんのお母さんって普通に身長あるし、お父さんの方なんてステータス曰く190センチだったから意外だなって。両親共に身長あるのにヒメちゃんだけ小さいんだね」

「ふんっ!」

「あぐっ」


 鳩尾に拳を入れられたジンゾウは腹を押さえて蹲った。


「そ、そんな高身長遺伝子があるのに小さくて可愛いなんて素敵だねって意味なのに……」

「嬉しくないのだわ」


 さっきの言い方でそんな良い意味の解釈をするのは難易度が高いし、そもそも低身長を気にしているとわかっている相手に言うのが間違っている。


「ふふ」


 そのやり取りを見たジョテイが思わずといったように笑った。


「仲が良いな」

「それなりなのだわ」

「そう思っているなら覚悟しておくといい、ヒメ。まあ油断していたからわたくしもお前の父を射止める事に成功したようなものだ。そう考えれば、お前は意外と父親似かもしれないな」

「……何の話かわからないのだわ」

「そうですよ! それにヒメちゃんはこんなにもお人形みたいで可愛らしいのに、高身長筋肉質な男性とはとても似てな」

「ふんっ!」

「あうっ」


 腹が立ったのでヒメはジンゾウに膝カックンをキメた。いいこな忠犬になったと思ったが相変わらず駄犬は駄犬だ。


「そういえば、お父様は?」

「どうせあちこちをふらついては生徒と仲良くやっているだろう」

「お父様らしいのだわ……」


 本人は認めないが、ヒメの父はかなり面倒見のいい性格をしている。すぐに首を突っ込む、と言うべきか。

 そして何より若者の味方といった思想であり、伸ばすべきところを伸ばす為なら嫌われても良いというやり方。理由があるならともかく、理不尽な理由で若者を傷つけようとする老害が居ればそちらに嫌な絡み方をして追い返す、なんて事もある。

 そんな人が若者の為ともいえる学園祭に来たならば、まあそうなるだろうなという感じだった。


「どうせなら三人で回りながら、手紙に書き切れていない近況でもあれば聞いておきたいと思っていたのだが……照れ屋なオウの事だ。今日はもうヒメの前に顔は出せまい」

「想像がつくのだわ」

「え、どうして?」


 きょとんとするジンゾウに、ヒメとジョテイの母子はちらりと目を合わせる。


「ジンゾウなら見ていたと思うけれど、私がメイユウ役として舞台を下りて観客席を走った時、観客席から伸ばされた手とハイタッチしたりしてたでしょう?」

「うん。一番最初に手を伸ばしたの、ヒメちゃんのお父さんだったよね」

「はは、流石。よく見ている」


 ジョテイが笑っている理由がわからず、ジンゾウはきょとんとしたまま疑問符を撒き散らした。


「……それが?」

「私がそういうのに応えるのを苦としない。観客席側としては好印象になるだけの動き。そういう、他の観客に対する気遣いもあったんでしょうけど、こういうのも有りだと示す為にはいの一番に手を出して対応してもらう必要があるのだわ」

「呼び水、という事だな。年のせいもあって杖をついているから端に座っただけだが、そこまでの条件が揃えば、必要以上にお節介な面を覗かせがちなあいつはやる。だが照れ屋な面もあるものだから、」

「……多分、娘相手にそういう事したのが恥ずかしくて、私と顔を合わせたりはしようとしないと思うのだわ」

「ああ。絶対にしないだろうな。顔を合わせてもそっぽを向いて顰め面するばかりだろう」


 あの人はそういう人だ、と母子で笑う。


「……仲が良いんだね」


 それを、ジンゾウは眩しいものを見るような目で、羨ましそうな色を声に滲ませそう言った。


「何だ、貴様は親と仲が悪いのか?」

「仲が良い悪い以前の関係なので、そういう感じは無いですね。親という事になってるあの人……というか王様は、僕に人格がある事すら嫌がってるでしょうし」


 唐突に闇をぶちまけないで欲しい。ヒメは渋い顔になった。

 しかし対照的に、ジョテイは不敵な笑みを浮かべる。


「相変わらずのようだな。まあその程度は想定内だ」

「え?」

「気にするな。貴様に関係無いとは言わないが、貴様が知らずとも良い事だ。気にせず我が娘と学園祭を楽しむが良い」

「え、いや、母子水入らずで楽しんだりとか」

「この学園は、貴様のような子が折角子供らしくあれる場だ。大人に要らぬ気遣いは無用」


 安心しろ、とジョテイは笑う。


「貴様を尾けていた男はこちらで足止めし、教師に連行させた。監視は気にせず満喫なさい」


 ああ、そういう事か。

 ジンゾウが言った、監視役の不思議な動き。それは母によるものだったらしい。確かに母ならばそのくらいはやる。


「……、あの!」


 母に対し、ジンゾウが勢いよく頭を下げる。


「監視の事とか、……ヒメちゃんと仲良くしてる事とか! ありがとうございます……!」

「お前の罪では無い。気にするな」


 そう言って、母は背を向け去って行った。





 物陰から出て再び学園祭を見て回りながら、ヒメは問う。


「さっき」

「え?」

「監視の事についてを解決したもらったのは事実。それについてお礼を言うのはわかるのだわ。でも、仲良くしている事についてのお礼は何? どういう意味? 私とお母様が仲良くしている事についての話?」


 主語が無くて、あそこだけ不自然だった。

 母はワルノ王国についてかジンゾウについてかは不明だが事情を多少知っている様子を見せていたし、意図自体は通じているようだったがヒメにはまったくもってサッパリだ。


「……僕がヒメちゃんと仲良くなるのを、否定しないでくれたから」


 何もわからない。


「どうしてお母様が私の交流についてを否定するの?」

「ヒメちゃんのお母さん、僕についてを知ってるみたいだったから」

「だから、それがよくわからないのだわ。お互いに何かを知っているもの同士という感じはするけれど、それとこれとがどう繋がるのかしら」

「今回のように、僕のせいでヒメちゃんに危険が迫る事があるかもしれない。それは紛れも無く僕のせいだ。でも、ヒメちゃんのお母さんはそれをわかった上で、僕と付き合いを持つのはやめた方が良い、なんて言わず、楽しめや満喫しろといった言い方をしてくれた」


 それが、


「それがとても嬉しいんだよ」

「……そう?」

「うん。否定されないのも、受け入れられるのも嬉しい。ヒメちゃんの為を思えば、僕なんかとの交流は絶対止めるはずなのに」

「交流を止めるも何も、最初からジンゾウの方からしつこい程に付き纏ってきたのだわ」

「うっ……そ、それはそうなんだけど!」


 慌てるジンゾウを見て、ヒメは笑う。何を言っても気にせず付き纏って来た癖に、この程度の事で動揺するなんて。

 相も変わらず、変わった男だ。





 ぶらぶらと歩いていたら、他の五人と合流した。


「……様子がおかしいけれど、何かあったのかしら」

「ファンレターとか貰っちゃった! ヒメとジンゾウの分もあるよ!」

「フリョウ達についてはわたくし様達も知らない」

「合流したら急にフリョウがライトの服の裾を掴んで黙り込んじゃったの」

「いやなんか、泣きそうな顔で助けを求めるみたいに裾掴まれたから背中さすった方が良いかなァって」

「………………」

「泣きそうな顔というよりは話しかける者が居たら皆殴り飛ばすとでも言いそうな不機嫌顔に見えたけどね」


 そんなマッドの言葉と、ひたすらライトの服を掴みながら険しい顔で黙り込んでいるフリョウの姿と、苦笑しながらもフリョウの背中を撫でて宥めているライトの姿に大体納得した。


「何かレベルの高い変態にでも遭遇したのかしら」

「僕はフリョウと同行してたけど、ちょっと人助けをしたくらいよ?」

「うん、聞いた」


 こっくりとユニコーン頭が頷く。


「わたしの友人である読書中毒がお世話になったみたいで驚いちゃった。夢中で読みこんでるときはわたしが食べ物口に突っ込んだりしてるけど、ここ数日は最終確認頼んで以降は演劇に集中してたからね……」


 何があったのか何も見えてこないが、マンガの友人が栄養失調か何かで倒れたんだろうというのは察した。


「あ、あと途中でママにも会ったわ! でもママの美しさに見惚れた人の反応とも違うし、その後合流したらもうこの状態になっちゃって……僕が知らないところで怖いものでも見たのかしら」

「……その通りのようなのだわ」


 トクサツの放ったママという単語にフリョウがビクリと反応していた様子から、トクサツのママ関係でとても恐ろしいものを目撃してしまったのだろう。フリョウは体がデカくて顔が怖いだけで真っ当なメンタルの持ち主なので、耐えられないような恐ろしいものを目撃したと思われる。可哀想に。





「あ、そういえば変わった人にも会ったわ! 結果的に助けられたけど、結構強引な助け方だったのよね」

「どういう事かわからないのだわ」

「黒髪で長髪でムキムキの、多分お爺さん。杖をついてたし、お顔もシワがあったから。人助けの時にちょっとトラブルがあって、中の救助対象まで怪我しちゃうし、って困ってたら怪我させる前提で強引に救助対象を助け出して。それにフリョウの魔法についても知ってるみたいで、とっても不思議な人だったわ!」

「……ああ、ええと、それは多分」

「あ、大丈夫よ。悪い人って雰囲気じゃなかったもの!」

「それはそうだと思うのだわ。いえそうじゃなくて」

「その特徴なら多分同じ人だと思うけど、わたし達も出会ったよ。演劇部の舞台を見てもないのに悪口言ってる人が居て、それをあっさり撃退してて感心しちゃった! それにわたし達の演劇も素敵だったって言ってくれて!」

「わたくし様達はすっかり麻痺していたが、マンガのユニコーン頭のせいで感想を言いたい人も言えないんだろう、と看破していたり観察眼に優れているようだったね。まあ、彼のせいで演劇を見たという人々に囲まれたのは困ったが」

「マッド、わたし達を見捨てようとしてたしね」

「見捨てさせなかったのは君たちだろう。お陰でしばらく囲まれた。オイシャの独特な雰囲気が素敵だったと言われたのは嬉しい事だが、ああも囲まれて時間を取られるのは困る」

「……そ、そう。色々と大変そうだったのはよくわかったのだわ」


「…………ヒメちゃん、あの特徴ってヒメちゃんのお父さんだよね? 演劇の会場で見かけたヒメちゃんのお父さんと情報一致してるし」

「言わないで欲しいのだわ」

「何で?」

「本人かは確定していないし、お父様は若者を応援したがる性格の癖に、格好つけたがるのかそういうのを知られたくないって性格なのだわ。他人の振りをしたがるというか、恩人とは決して名乗り出ずに良かったなとだけ他人事として言うみたいな」

「あ、もしかして照れ屋ってそういう事?」

「あと、その人が父だと言って私がお礼を言われるのは違うし、私にお礼を預けられでもしたら娘経由でお礼を渡された事から自分の行いが娘にバレたと察した父が面倒な事になるのだわ。悪ぶりたい……悪い人と思われたいみたいなとこがある人だから」

「ヒメちゃんのお父さんってすごく変わった人?」

「すごく変わった良い人。本人は嫌われてる方が楽で良い、って言って嫌われ役になりたいみたいだけど」

「成る程、変わった人だ」



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